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17話 夜が明けて

 賊たちの襲撃から一日が経った。

 賊たちの総数は約二十人。

 負傷して拘束された者と、モヴーダを含む死体の数から割り出されたが、拘束した賊たちの話と照らし合わせても、その人数で間違いないようだった。

 彼等は、これからカレドニアから送られてくる警備隊(ガルディア)の者に連行されて処理、投獄されるらしい。

 その警備隊と共に、フラムとチュチュリーゼもカレドニアに帰る予定らしく、それまでは事後処理などの手伝いをしてくれるとのことだった。


 

 ――村の広場

 

 崩れた家や、燃えていた家屋からはまだ煙が燻っている。

 正直、最初に想定していたよりも被害は少ない印象だった。

 そして、その様子をディランはダナンと一緒に見渡していた。


「しかし、良かったのか?あのリベルシェイカーってのをチュチュに預けて」


「ん?ああ、俺が持ってるよりも上手く使ってくれると思ってな」


「友人の形見なんじゃないのか?」


 そう、リベルシェイカーはダナンの傭兵時代の友人が使っていたものらしく、それを同じ依頼を受けていたモヴーダが命と共に奪い取ったのだとダナンから聞かされた。


「だからこそ、俺なんかが持ってちゃダメなんだよ……」

 

 空へゆっくりと立ち昇る煙を、遠い目をしながら見つめるダナン。

 友人の形見を取り戻し、その無念を晴らせたことを誰かに語りかけているようだった……


「そうか」


 傭兵なんて仕事をしていると、そんな話は良く耳にするらしい。

 あいつと同じ依頼を受けたやつは戻って来ない……この依頼主の依頼は曰く付きだとか……中には本当に偶然で、何の根拠も無い噂だってある。

 だが、お金のために働く彼等にとって、他人の物を奪ってでも稼ごうと考える輩は少なくない。

 だからこそ、傭兵ギルドでは厳格な処罰を定めている。

 仲間の物を奪った者はギルドから追放され、命を奪ったのならば死罪となる。

 モヴーダのように、事が発覚したと同時に行方を眩まして、盗賊紛いのことをする者もいる。

 そうなると、ギルドから捜索、または討伐依頼がだされ、警備隊からも追われることになるそうだ。


「ちょっと、おっさん二人で何辛気臭い顔してるのよ?サボってないで、瓦礫を運ぶのを手伝いなさいよ!ほら、チュチュを見習いなさい」


 センチな気分に浸っていたところで、フラムが声をかけてくる。言われた通り、チュチュの方を見てみると……


 ダン!ドン、グシャン!ダン、ダン!グシャン!


 テンポ良く瓦礫をハンマーで壊して、砕いていた。それを周りの者が掻き集めて台車に乗せて運んでいる。


「……俺たちも働くか」

「だな、さっさと終わらせるか」

「ほら、さっさと行く!」


 フラムに急かされながら解体作業に参加する。村の皆の動きを近くで見てみると……

 

 (皆、動きに無駄がないな)

 

 そう思ったが、考えてみれば、三ヶ月前に魔獣たちの襲撃を受けた際にも、同じように崩れた家屋を建て直したばかりなのだ。

 そのおかげと言っては不謹慎だが、村人たちも慣れている。

 なんならその時よりも被害は少ないため、作業はすぐに終わっていった。


 

 ――日が暮れ始める頃には、崩れた家の解体も、簡易的な家屋の建設も終え、今日の作業は終了となった。

 そして、今晩は村の広場で宴会という訳ではないが、村人たちで集まって焼肉や鍋で煮込んだスープを食べ、(ブリュー)を飲んで楽しもうと言う、村長の提案で準備を進めていた。


 ディランも机を並べたり、重たい鍋を運ぶのを手伝いながら、一緒に肉体労働に勤しむフラムに声をかける。


「お前さんも、ロザミラさんやシェリーと一緒に料理の準備とかしないのか?」


「え?なによ急に」

 

「いや、せっかく村に帰って来たんなら、お姉さんと一緒に料理とかしながら積もる話もあるんじゃないかと思ってな」


「ないわよ、それに……あたしは料理とか、好きじゃないの」

 そう言いながら視線を泳がせているのを見て、ディランはジトっとした目で問いかける。


「料理、苦手なんだな」


「っ!別に苦手って訳じゃないわ!そう、あたしが作ると、具材がすぐに焦げちゃうだけなんだから」


「それを苦手って言うんじゃないのか?」


「もう、うるさいわね!そう言うあんたはどうなのよ?」


「俺か?俺も得意とは言えんが、具材を焦がしたりすることはないな」


 フラムは「ぐぬぬっ」と言わんばかりの表情で睨みつけてくる。


「っははは、まぁそんな話は置いといて、お前さんに聞きたいことがあるんだ」


「今度は何よ?」


「迷い人の伝承について詳しく知っているか?村長やロザミラさんから、カレドニアのハンターに聞くように勧められたんだが」


 以前、村長の家で聞いた迷い人の話を聞いてみた。

 何だかんだと話を聞けずにいたが、ようやくフラムに確認する事ができた。


「迷い人、ねぇ……残念ながらあたしも姉さん達と同じぐらいのことしか分からないわ。ただ、カレドニアなら詳しく伝記が記されてる可能性はあるわね」


「どっちにしても、カレドニアまで行かないとダメってことか」


「そういう事なら、警備隊が来た時にあたしたちと一緒に行く?なんならギルドの資料も見られるように話もつけてあげられるけど」


「それは、ありがたいな。正直、俺一人で辿り着けるかどうかも不安だったからな」


「そうなの?走車を使えば、一日か二日もあれば着くわよ?」


「そうなのか?いや、どうにも俺がその迷い人らしくてな。そういう移動手段とか、距離も地図もわからないんだ」

 頭を掻きながらそう言いうディランを見つめて、フラムが動きを止める。


「えっ……マジなの?」

「ん?ああ、マジよ」


 フラムは口を開けたまま呆然としてまう。


「おーい、フラムさんやー」


 目の前で手を振ってみると、ようやく反応が返ってきた。


「っ!ええ、聴こえてるわ。その、迷い人のことは皆知ってるの?」


「皆、ってわけじゃないが、ロズとロザミラさん、村長とシェリー、それからゼラルドも知ってる。ダナンには直接言ってはないが、村長かロズから聞いてるかもしれんな」


「そう、それなら、これ以上は口外しない方が良いわよ」


 急に真剣な表情でそう告げるフラムに驚きながらも、その理由を尋ねてみた。


「何か、まずい事があるのか?」


「ええ、そんな伝承に残る人間が目の前に現れたら、良からぬ事を考える者も少なくないでしょうね。もしそういう輩に見つかれば、何処かに監禁されて拷問を受ける可能性もあるでしょうし、人体実験なんかに使われることも無いとは言い切れないわ」


「いやいや、流石にそんな物騒な話は……あるのか?」


「ええ、それに、教国に知られたらどうなるか分かったもんじゃないわ」


 (教国……確か、マナウルス教国だったか?)


「そんなに危険な国なのか?」


「教国って呼ばれてるけど、実態は狂人の集まりみたいなものよ?魔獣こそが世界に適応して進化した生命体だとか、魔獣を信仰してると触れ回りながら、他の生物へ魔獣の臓器を移植させたり、悪評は尽きないわね」


(魔獣の臓器を移植する?考えるだけでもゾッとするな)

 

「わかった、気をつけるよ」


「そうしてちょうだい」


 そんな会話をしながら、最後の食器類をテーブルに運び終える。


「ふぅ、これで全部よね?ちょっと休憩しましょ」


「ああ、これで最後のはずだ。それじゃ俺も、料理が出来るまで工作でもさせてもらおうかね」


「工作って、何か作るの?」


 首を傾げながら聞いてくるフラムに、ゼラルドとレイナとのやり取りを説明する……


「へぇ〜、杖なんか作れるのね」


「まぁ、うまく出来るかはわからんがね」


 そして、村長の家に置いていた材料や道具を取りに行き、広場の隅で作業を始めた。

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