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序章

 ――イスフィール王国辺境の迷宮……最下層にて


「隊長!周辺の敵の掃討が完了しました!」


「ん?ああ、ありがとう、ご苦労さん」


 隊長と呼ばれた男がボロボロになった自分の鎧を外しながら答える。

 そこへ、ニ本の剣を左右の腰鞘に納めながら近付く女が声をかける。


「ディラン隊長、核を破壊する前に装備を外さないでください。危険ですよ」


「クリスか、まぁお前さんの言う通りなんだが、こんなボロボロになった鎧じゃ動き難くてな〜」


「またそんなことを、何かあったらどうするんですか」


 クリスと呼ばれた女性は諦めた様に首を左右に振り、周囲を見渡す。

 負傷した兵を集め、神官たちが治癒術を使う姿や、衛生兵が回復薬を持って駆け回っていた。


「今回の迷宮攻略も、かなり消耗しましたね」


「まぁ、この数百年で迷宮攻略も順調に進められるようにはなったが、相手は化け物ばっかりだからな。何の犠牲も無くとはいかんだろ」


 命を落とした者たちのことを思い、ディランは暗い顔を見せたが、すぐに表情を引き締めて言葉を続ける。


「あとは核を壊して帰るだけだ。クリス、その間に各部隊の損害状況の確認と、撤収の準備を頼む」


「了解しました」


 そう言って、クリスは後方の部隊へ下がっていった。

 ちょうどそこへ、他の兵がディランに声をかける。


「隊長!核の破壊準備、整いました!」


「お、それじゃさっさと仕事を済ませますか!」


 ディランは、至る所が凹み摩耗したニ枚の盾を両腕に着けたまま核のもとへ歩き始める。

 この部屋の中心、そこにこの迷宮の核と呼ばれる黒い球体が浮かび、その周りには四人の神官が核を囲むように立っていた。


 その神官達にディランが声をかける。


「皆もご苦労さん、それじゃいつも通り頼む」


「はっ、それでは核の破壊を開始します」


 神官の一人がそう答え、全員が核に向かって両手をかざす。


「「「「障壁、展開!」」」」

 

 四重の障壁が核を囲む。

 神官たちは障壁を少しずつ圧縮し、核を圧壊する。


 その光景を見ながら、ディランが呟く。


「剣や斧で叩きつけても壊せなかった核を唯一破壊する方法が、これとはなぁ。いったいどうやって出来てるんだか」


 もう少しで破壊できると思った瞬間、神官の一人が戦闘で脆くなった地面に足を取られ、態勢を崩した。


「おい!術式を崩すな!」


「ダメだ!障壁が不安定になってる!もう一度組み直せ!」


 神官達が慌てながら術式の維持を試みるが、不安定になった障壁の隙間から、魔力のような黒い靄が溢れ出す。


「おい、お前たちは下がれ!」

 (まずい……こいつらは、なんとしても守らねぇと)


 ディランもこの状況はまずいと判断し、神官たちを自分の後ろに下げると、両手の盾を構えながらジリジリと後退する。


 その間に、障壁は崩れ、目の前の黒い塊から

 キュィイーーン……ドン!!という音と共に凄まじい衝撃がディランの両腕に伝わる。


「っつうぅぅ!ビビったー!」


 痺れる腕を振りながら、目の前を警戒する。

 迷宮の核はヒビだらけの状態で、そのヒビの隙間からは黒い靄がさらに漏れ出ていた。


「どうなってんだ、こりゃぁ?何にしても早いとこぶっ壊さないとまずそうだな……すぅ」


 ディランは右手の盾を構え、呼吸を整えながら全身に魔力を巡らせる。


 その様子を見て、神官の一人が慌てて声をかける。


「た!隊長!何をされるつもりですか!あの状態の核に近づくのは危険です!」


「んなこたぁわかってる!お前らはもう一度、障壁の準備をしてくれ!」


 そう言ってる間にも黒い靄が広がっていた。


 ディランは意を決し、魔力を通して強化した足に力を入れ踏み込む。


 ズン!!

 と、踏み込んだ勢いで地面が抉れ、ディランが目にも止まらぬ速さで飛び込んだ。


「ダメもとでもやってみるしかねぇってな!……ドゥラァあ!!」


 瞬きする間に10メートル程の距離を一気に詰め、その勢いのまま、右手の盾を刺すように核へ叩きつけた。


 バキィン!

 と大きな音と共に盾が砕けていく。

 それと同時にヒビ割れた核の一部が崩れる。


「お? っしゃー!!って、おいおいおいっ!」


 核を壊すことに成功したと思った瞬間、崩れた核から黒い靄が一気に広がり、ディランの周りを覆っていた。


「た!隊長!」

「これは、一体」


 神官たちが目の前で起きている事に戸惑っていると、後方から異変に気付いたクリスが駆け付ける。


「おい!何があった!隊長は!?」


「はっはい!それが、核の破壊中に障壁の維持に失敗し、破壊しきれなかった核から黒い靄が……そこへ、隊長が飛び込んだのですが」


 神官が状況を説明する最中、ディランを取り込んだ黒い靄は核に吸い込まれるように一瞬で消失した。


 そこには、ディランの姿も、壊れた核も残っていなかった。

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