15話 賊の襲撃
日が沈み、夜の帷に包まれた頃
森の中、少し開けたところにぞろぞろと集まる者たちがいた。
その内の一人が高い木から降りてきて、奥にいる大男に報告する。
「お頭、村のやつら、入り口に柵なんか設置してるぜ?」
「俺たちの存在に気づいたんだろ。まぁ、いくら小細工を仕掛けたところで関係ねぇよ」
「そうっすね!噂通り、魔獣に襲われて戦えそうな奴らは少ないみてーだし、元傭兵のお頭なら余裕っしょ!」
「そうそう、お頭がいりゃ、あんな村すぐに制圧できるって。くふふ、楽しみだぜー」
「ああ、久々の女と飯だ!かぁ〜!興奮してきたぜー!早くいこうぜ!」
「まぁそう急ぐな、おい、梯子の準備は出来てるか?」
「へい、準備出来てますぁ」
「よし、村の入り口からは少人数で陽動をかけろ。その他の連中は俺に続いて、村の東側から防壁を乗り越えて侵入する」
「わかりやした!」
「「…ぐふふ……いひゃははっ…」」
人気の無い森の中で、下卑た笑い声が響き渡っていった。
――村の中では、自警団が巡回を始めてニ時間ほどが経っていた。
「なぁ、本当に、賊の襲撃なんかあるのか?」
「俺も、昼間に森で怪しい連中を見かけたからな、あれが賊なら、警戒するに越したことはないだろ」
「そうだぜ、三ヶ月前の魔獣どものせいで村の被害も大きいってのに、こんな時に襲われたらたまったもんじゃねぇよ」
入り口の巡回をしてる村人たちが話をしつつ周囲を見渡す……村の灯り以外には光は無く、村の外は闇が広がっている。
その闇の中から巡回中の村人を見つめる瞳に気づく者もおらず、村人の一人が入り口に背を向けた瞬間……
ドシュッ!
右肩に、矢が突き刺さる音とともに悲鳴があがる。
「っ!ぐぁあ!」
「矢か!?くそ!何も見えねぇ!」
「落ち着け!柵の後ろに隠れて警戒しろ!お前は広場まで下がって応援を呼んでこい!」
「ぐ、ぁ……ああ、わかった」
矢を受けた村人が広場へと向かう。
その姿を横目に、班長の男が入り口を睨む……
「敵の数は分からないが、弓を構えろ……いつでも射れるようにしておけ」
「ああ、でも、俺たちだけで、大丈夫なのか?」
「わからん……やばかったら広場まで逃げるぞ」
――しばらくして、広場に負傷した村人が駆け込む。
「だれか!応援を頼む!村の入り口から襲撃があったんだ!」
右肩に矢が刺さり、血を流しながらかけてくる村人にディランたちも駆け寄る。
「大丈夫か!?すぐに手当てを!敵の数はわかるか?」
村人に肩を貸しながら広場の中へ向かう。
「わからない、暗闇の中から急に矢が飛んできたんだ!俺は応援を頼まれてここまで、それから……」
「わかった、とりあえずここで休むんだ。俺たちも行くか……」
「いや、ここはあたしが行くよ」
「フラム、それなら誰か一緒『いらないよ』に」
「あたし一人でいい。その方が動きやすいから。それに、陽動の可能性もある。ディランたちは他のとこを警戒して」
(確かに、その可能性もあるが)
「……ん?」
広場の東側から悲鳴や怒号が響き渡り、火の手が見え始めた。
ちょうど東側から巡回班の一人がかけてきて、大声で叫ぶ。
「敵襲!!防壁を越えて入ってきた!十人以上はいる!すぐに応援を頼む!」
「考えてる暇は無さそうだな。フラム!入り口の方は任せた!手に負えそうになかったらすぐに引いてくれ!」
「バカ言わないで、こんな奴らに引けは取らないわよ!」
そう言って、一目散にかけて行く……
「ったく、ああいうとこはロズにそっくりだな」
「え?そうか?」
「うん、確かにね」
ロズが首を傾げながらキョロキョロしているが、ゼラルドはうんうんと頷いていた。
「さあ、俺たちは東側だ!行くぞ二人とも」
――ディラン達は村の東側へと走る……ちらほらと家屋に火矢が刺さり、燃え始めているが、今は賊達の対処が優先だと走り続ける。
「見えてきたな……ダナン!無事か!」
「お?ディランか!こっちは何とか持ち堪えてる!ってか、広場からの援護が優秀過ぎるぜ!」
「広場から?」
そう言われて、周りを見渡すと、既に四人ほどの賊が地に突っ伏していた。
広場は高台になっていて見晴らしは良いが、ここからはまぁまぁの距離があるはず。振り向いてみると、シェリーとロザミラがかなりの精度で矢を射かけていて、賊達も距離を詰められずにいた。
だが、それ以上に気になるのは……
ヒュン!パスッ!
と、風を切りながら飛んでくる石礫。
どこから飛んで来ているのか目を凝らすと、火の灯りが反射して煌めくハンマーが見えた……
「嘘だろ!ハンマーで石を飛ばしてるのか?!」
「な、やべぇだろ」
パス!パシュ!ガッ!
「ぃっぐぁ!」
ドサッ
その技量に驚いている間にも、石礫は周囲の賊を無力化していく……
「こりゃ、俺たちの出る幕ないんじゃねぇの?」
ロズがそう口にした瞬間……ドォオオン!
と、地響きとともに凄まじい音が聞こえてきた。
「何の音だ?」
「こいつは……やべぇ!避けろ!」
「っな!」
突然、目の前の家屋が吹き飛び、砕けた木片や石が降りそそぐ……
「っち……鬱陶しいな、だがこれで矢も、石っころも飛んでこねぇだろ」
崩れた家屋の陰から、大きなハンマーを担いだ大男が邪魔くさそうに呟きながら現れた。
(なんだ、あのハンマーは?先端が丸い……)
「ありゃ、超振槌か……っつうことは、テメェは……随分落ちぶれたもんだな!モヴーダ!」
ダナンが怒気を孕んだ声音で叫ぶ。
「ああん?誰かと思えば、ダナンじゃなぇか、こんなとこで何やってんだ?あ?お前も傭兵ギルドから追い出されたのか?っははは!」
「テメェなんかと一緒にすんな!味方殺しのクソ野郎が!」
「味方殺し?」
「ああ、アイツは俺と同じ傭兵だったんだが……同じ依頼を受けた仲間を殺して、装備や金品を奪ってやがったんだ。ギルドにその事がバレた途端、行方を眩ましたんだが、こんなとこで会うとはな」
「仲間を殺して、奪うだと……」
(正真正銘のクソ野郎じゃねぇか)
モヴーダと呼ばれた男が武器を振りかぶる。
「ごちゃごちゃと、うるっせーんだよ!」
そのまま地面に叩きつける。
ズドン……ィィイイン……ドン!
ハンマーが叩きつけられた瞬間に甲高い音が響いたと思ったら、爆発音のような音が鳴り地面が抉れる。
その衝撃で吹き飛んだ砂や石が飛びかかる。
「ちぃ!厄介だな!」
盾で破片を交わしながら警戒する。
「ディラン、アイツはおれにやらせてくれるか……ダチの、仇なんだ」
ダナンと出会ってから聞いたことのない、低く、冷たい声だった……
「もちろん……と、言ってやりたいところだが、村の危機にお前の私情を優先できる状況じゃねぇ。それに、あの武器はヤバいだろ?悪いが俺にも協力させてもらうぞ」
(ダナンの気持ちもわかる……だが、一人で戦うには部が悪い相手だろう)
「そう、だな。悪い、手を貸してくれ」
「お、俺たちも戦うぜ!」
「いや、お前達はここから広場に抜けて行く賊どもを頼む。広場の援護が届く範囲から離れるなよ」
「でもよ!おっさん!」
「ロズ、言う通りにするんだ。俺たちがいたら足を引っ張ることになる」
「っ、くそ!二人とも、やられんなよ!」
「ったりめーよ!まかせとけ!」
そして、ロズとゼラルドが下がったのを確認し、ダナンと目で合図すると同時に駆け出す。
「お?仲間はビビって逃げたのか?んじゃあ!お前らの頭を先にカチ割ってやるぜー!はっはぁあ!」
余裕の表情で嘲笑いながらハンマーを振りかぶるモヴーダ……その瞳は狂気に曇っていた。




