13話 不穏な影
ゼラルドの母、レイナの杖を作るための材料を手に入れたディランは、村に戻るために森の中を歩いていた。
「フラムのおかげでクローベアの皮と肉球まで手に入ったし、やっぱりちゃんとお礼はしないとなぁ……あ、迷い人の伝承について聞くのを忘れてたな」
(まあ、何にしてもまずはクラッチを作らないとな…肉球は接地面に…持ち手は……)
杖の形や作り方を考えながら森を進み、街道に出たところで見慣れない人影を見つけた。
数は三人……ヒソヒソと村の方を見ながら街道の隅で話をしていて、いかにも怪しい雰囲気が漂っていた。
(ん〜?村の人間じゃなさそうだが、身なりも整っているとは言えんし……とりあえず声をかけてみるか)
「よう、あんた達、この先の村に用があるのかい?」
声をかけると、ヒソヒソと話していた男達はギロっとこちらを見ながら不快感を隠そうともせず返事をする。
「チッ、アンタは村の人間か?俺たちは……傭兵でな、この辺りで仕事を終えたところで、休むところを探してたんだよ」
(明らかに舌打ちしてたな……それに、傭兵ってのも怪しいもんだが)
「へぇ、そうでしたか。ウチの村には宿が無いんで、休むところを探してるなら村長に相談するが、どうだい?」
そう言うと、男達の一人が面倒くさそうに口を開く。
「いや、そこまでしてもらう必要はない。宿が無いならいいさ。こっちで何とかする、ありがとよ」
そして、三人はそのまま村の反対方向に歩いて去っていった。
(怪しいな……とにかく、村長とダナン辺りに話をしてみるか)
チリチリと胸がざわつき、早足で村の中に戻って行く。
中に入ると、自警団の皆が武装した状態で入り口に集まっていた。
「お、ディランか?村の外に出てたんだな。ちょっと厄介なことになりそうなんだが、手を貸してくれないか?」
その中からダナンがディランを見つけて声をかけてくる。
「もちろんだ。それに、ちょうど良かった……俺も、村の近くで怪しい奴らを見かけたんだが、やっぱり賊の類いか?」
「ああ、おそらくな。数は不明だが、見慣れない連中が村の周りをコソコソと嗅ぎ回ってる。狩に出てた連中からも報告があったところだ。今のところ、被害は出てないみたいだが……」
「そうか、さっき声をかけた奴らは傭兵だと言ってたが?どうにも胡散臭かったしな……村長には?」
「今、報告に行っているところだ。賊だとしたら、今晩にでも襲ってくる可能性が高いだろうし、早く対策を考えないとな」
眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて考えるダナン。そこにディランが口を開く。
「そうだな……誰か、賊の侵入経路はわかるか?防護柵があるなら、そこに固めて、戦えない者は村の中心に近い家か、広場に避難させるんだ。あそこなら高台になっているから安全なはずだ。それから、避難した者たちを守るために自警団を中心に巡回と休憩を取るようにする。必ず三人一組で動いて、異常があればすぐに報告、無理に足止めはせず、報告を優先に動くように……と、他に案はあるか?」
騎士団としての経験から、この状況に対する策を伝えていく。しかし、自警団の面々も初めての襲撃にどうしたらいいか分からず、不安そうに顔を見合わせては黙り込んでいた。
その様子に焦りや不安を感じるディラン……
(まずいな……戦いに慣れてない者ばかりで、士気も低いうえに、恐怖心や不安感に囚われている)
「おいおい、しっかりしろ!こんな時のための自警団だろうが!訓練の成果を活かせてみせろよ!」
その様子を見かねたダナンが声を上げる。
「でもよ、賊なんて」
「怯えてたら助かるのか!俺たちを守るために命を賭けた親父達やジレット、ナッシュやビル達がどんな顔して魔獣の群れに立ち向かってったか思い出せよ!アイツらが助けてくれた命を、村を、賊なんかの好きにさせんなよ!」
かつて、魔獣達の襲撃から命を賭して戦った村の勇士たちの名を思い出し、激励をかけるダナン……その声に他の者たちも闘志を滾らせる。
「そうだ、父さんたちみたいに、村の皆を守るために自警団へ集まったんだ……戦うんだ!」
「ああ、そうだな!賊なんかの好きにさせるか!」
「ダナンの言う通りだ、あいつらの分も俺たちが守らねぇと!」
段々と士気が上がっていく……その様子に、ディランの胸も熱くなる。
(ほう……やるじゃねえか、ダナン)
「よし、村長にさっきのディランの策を伝えて、村の皆の誘導を開始する。各自、武器を携帯して動くように!いくぞ!」
ダナンが皆に指示を出し、全員が動き出す。そして、ダナンがディランに向き直り、声をかける。
「すまねぇな、初めて実戦に出るやつがほとんどなんだ。相手の人数もわからねぇし、正直どうなるかわからん……それでも力を貸してくれるか?」
「……当たり前だろ?世話になってるこの村を見捨てられるか、俺の仕事は皆を護る盾、騎士なんだからよ」
「っはは、そういや、そうだったな!じゃあ、アンタに俺の使ってた盾をやる……傭兵時代に使ってたやつだが、まぁまぁ良い盾だぞ?大事に使えよ」
そう言いながら背中にかけていた銀色の盾をディランに渡す。
形は菱形に近くやや細長い形状をしていて、握りはセンターグリップになっているが、両端にも握りが取り付けられているため、エンアームズとしても装備出来るようになっていた。
「重さもちょうどいいし、使いやすそうだが……本当に良いのか?」
「ああ、俺が使うよりもうまく扱えるだろ?俺はあんまり使わないし、そもそも普通の盾で十分だ」
「そうなのか?それじゃ、ありがたく使わせてもらうか……とりあえず、俺はゼラルドの家に寄って行く。賊のことも伝えないとな」
「わかった、じゃあ、後で広場に来てくれ。さっきのディランの作戦通りに動くことになるだろうから、一緒に確認してくれると助かる。頭を使うのは苦手なんだ」
「はははっ、俺だって得意じゃねぇが、こういう状況は初めてじゃないからな。そんじゃ、また後でな」
二人とも頷き、行動を開始する。
――ディランはゼラルドの家に向かい、入り口で声をかける。
コンコン……
「ゼラルド、帰ったぞー」
家の奥から返事が帰ってくる。
「はい、今出ます!」
ガチャッ
扉が開き、ゼラルドが顔を出す。
既に腰に帯剣し左腕にバックラーを装備した状態だった。
「おかえり、ディランさん。さっき、自警団から伝達があったところで、俺も準備は出来てます。今から母を連れて村長の家に向かおうと思うんですが」
「そうか、それなら俺も一緒に行こう。村長にも状況の確認と、対策を話し合わないとな」
「わかりました……母さん、行くよ!手を貸すから、ゆっくり行こう」
「ええ、わかったわ。ディランさんも、ありがとう。迷惑をおかけします」
「気にしないでくれ、さぁ、俺も手を貸すから足元に気を付けて」
二人を連れて村長の家に向かうと、広場の中には村人達が徐々に集まって来ていた。
その中からロズ親子とチュチュリーゼの姿を見つけると、向こうもディラン達に気付いて声をかける。
「お、おっさんとゼラルド達も来たのか。何だかわかんねーけど、賊が来るんだろ?返り討ちにしてやろうぜ!」
やる気満々のロズの横へ、ナイフを腰に下げ、弓を肩にかけた姿のロザミラが近づく。
「あんたは、またバカなこと言って。相手は略奪に来るんだから、もっと危機感をもちなさい」
「ふふ、ほんとにね。ウチはロザミラさん達と一緒に広場の中から援護するからね。でも、フラムはまだ帰って来ないのかな?」
チュチュリーゼがフラムの心配をしているが……
(あのハンマーで広場から援護するって、いったい)
チュチュリーゼの言ったことを頭の中でどうするのか想像しだしたところで、先ほどフラムと会ったことを思い出す。
「あ、フラムなら森の中で会ったぞ。しばらく一人になりたいと言ってたが、そろそろ戻ってくるんじゃないか?」
「あの子……」
心配そうに森の方を見つめるロザミラ。
「フラムには、訓練の仕方に思うところもあったから、俺なりに助言しておいたが、良かっただろうか?」
ディランの言葉を聞いて、ロザミラが振り返る。
「ディランさん、ありがとう。あの子の気も知らないで、酷いことを言ってしまって」
「やっぱりそうでしたか。訓練の後でロザミラさんと何かあったんだろうとは思ったんですが、戻って来たらもう一度、話してみてください」
「ええ…」
「さあ、俺はこのまま村長のところに行ってくる。これからの対策を考えないとな」
「分かりました。俺たちは他の自警団の皆と合流して来ます」
――それぞれが、賊の襲撃に備えて動きだす。




