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12話 森の中で

 ゼラルドの案内で彼の家へと向かったディラン。

 二人とも家の前に着いたところで、ディランがゼラルドに声をかける。


「まぁ、ここまで来て聞くのもなんだが、本当にお邪魔していいのか?」


「ええ、大丈夫ですよ。母もディランさんに会って直接お礼が言いたいと言ってましたから」


「そうなのか?お礼を言われるほどのことはしてないと思うんだが」


 顎に手を当て、首を傾げなら言うディラン。


「そう思ってるの、ディランさんだけですよ。さぁ、いつまでも家の前で話してても何ですから、入りましょう」


「お、おう」


 ガチャリ……ゼラルドが扉を開く。


「母さん、ただいま。ディランさんを連れて来たよ」


 少しして、奥の方から返事が聞こえる。


「おかえりなさい、ディランさんが来てくれたのかい?あらあら、どうしましょう、掃除も出来てないのに」


「いいよ、無理して動かないで……ディランさん、こっちにどうぞ」


 ゼラルドに促されるまま、奥の部屋に進んでいく。

 台所のような部屋に入り、木の机と椅子が目に入った。その部屋の壁際には長椅子が置いてあり、壁に手摺りが作られていた。

 そして、その長椅子にゼラルドの母親が腰掛けながら、申し訳なさそうに声かける。


「こんなところまで、すみません。ゼラルドの母、レイナと言います。こんな身体ですので、お出迎えもできなくて……」


「ああ、いや、気にしないでください。俺も急にお邪魔させてもらって申し訳ない。ゼラルドから足が不自由だと、聞いていたもので何か手伝えることがないかと」


「いえいえ、とんでもございません!息子の命の恩人からそのような……確かに、外を出歩くことは出来ませんが、何とか生活も出来ていますし、息子もついてくれているので大丈夫ですよ」


「そうは言っても、やはり……そうだ、家の中で歩くにしても杖やクラッチとかは使ってるんですか?」


 ゼラルドとレイナが二人とも首を傾げながら聞き返す。


「杖はあるんですが、片足に力が入らないと使い辛くて……その、クラッチというのは?」


 (クラッチを知らないのか。何と説明したもんか)


「クラッチってのは、杖と同じような物なんだが、肘を引っ掛けられるところがあって、普通の杖よりも体重をかけやすくて安定する……ん〜、実物を作った方が早いか」

 

「え?作れるんですか?」


 ゼラルドが驚きながら聞き返す。


「ああ、森の中にちょうど良さそうな木があったはずだ。ただ、木を切ったり削ったりする道具はあるか?」


「ええ、ノコギリやヤスリなんかは家にも置いてますよ」


「お、それなら何とかなりそうだな。よし、早速行ってくるかね。ゼラルド、まずはノコギリを貸してくれ」


「今から行くんですか?」


「作るのに時間がかかるだろうしな、早い方がいい」


「ディランさん、私なんかのためにそんなことしてくださらなくてもいいんですよ?」


 レイナも遠慮がちに声をかけてくるが、すでにやる気満々のディラン。


「まぁ、俺が何かしたいからやるだけなんで、気にしないでください。もちろん、使いにくかったら捨ててもいんで」


 そうこう言っているうちに、ゼラルドがノコギリを持って来てくれていた。


「はい、ノコギリを持って来ましたが、本当にいいんですか?」

 

「おうよ、ちょっくら行ってくるぜ。ゼラルドは母ちゃんと留守番な!」


「っ!」


 ディランは、そのまま家を出て森へと向かう。

 その姿を見送って、レイナがゼラルドに優しく語りかける。


「お父さんのこと、思い出した?」


「……ぅ、だって、俺が小さい時、父さんが、いつも俺に言ってたことと、同じこと言うから……ぅぅ」


 堪えきれずに涙を流す息子に、優しく微笑みながら見つめる母……そして、誰に言うわけでもなく呟く。


「本当に、お父さんみたいに優しい人……」



 ――ゼラルドの家から飛び出し、森の中を歩くディラン。


「確か、洞窟の周りに丈夫そうな木があったはず。そろそろだと思うんだが」


 周りを見渡し、数日前に通った道を思い出しながら進んでいく。

 そこかしこに木はたくさん生えているが、どれも耐久性が弱く、杖を作るには不向きだった。


 しばらく進み、洞窟の近くまで来たところで目当ての木を見つける。


「お、あったあった……うん。これならちょうどいいだろう」


 木をコンコンと叩き、樹皮を削りながら、耐久性を確認すると、そのままノコギリで手頃な枝を数本切り取っていく。


「これだけあれば、十分かね?あとは、伸縮性があって丈夫な樹脂……は難しいな、皮なら……あ」


 そこまで考えて、まさに良い素材があったことを思い出す。

 (クローベアの皮と、あの肉球とかちょうど良いんじゃないか?)


 そう思い、すぐ近くまで来ていた洞窟の中に入っていく。

 (あれから何日か経ってるが、この涼しさならそこまで腐敗は進んでないだろ)


 洞窟の中は冷んやりとしていて、幸いにも魔獣の死体の保存環境としてちょうど良かったようだ。

 ずんずん奥に進むディランだったが、進むに連れて微かに火の灯りが見え、何者かの気配を感じる。


 (なんだ?こんなところに人がいるのか?)


 ゆっくりと、警戒しながら進んで行く……岩陰から奥の様子を窺おうとした瞬間、何者かが一瞬で距離を詰めて来た。


「ぅお!」


「あ、あんたは……」


 喉元に突き付けられた緋色の剣、視線をその手元から上に向けていく……


「フラムか?こんなとこで何してるんだ?」


 ディランだと気付いたフラムは、サッと剣を降ろす。


「え?あ……いや、ちょっと、そう、散歩よ。あんた……ディランこそどうしてここに?」


「散歩、こんなとこで?まぁ、いいか……俺は、前に倒した魔獣の素材を採りに来たんだが」


 周囲を見回してみるが、クローベアの亡骸らしき物は見つけられなかった。


「無くなってるな。野生の動物に漁られたか?」


 ディランの言葉にフラムが反応する。

 

「誰が野生動物よ。そこにあった熊の魔獣なら、あたしが解体したのよ。毛皮も爪も綺麗な状態で残ってたから。まずかったかしら?」


「そうだったのか。いや、ここに放置してたのは俺の方だしな。ただ、あの熊の皮と肉球を少し分けて欲しいんだが、ダメか?」


「何言ってるの?そう言う事なら、この素材は全部ディランのでしょう?はい、この袋にまとめて入れてるから、持って行きなさい」


「は?いやいや、俺が解体したわけじゃないからな、流石に全部貰うわけにはいかんよ」


「もう、めんどくさいわねぇ。大体、そのノコギリで解体するつもりだったの?そんなのでコイツの皮も骨も切れるわけないじゃない。あたしはこっちの仕事が専門だし、ちゃっちゃと解体するぐらい何でもないのよ。だから、気にしないで」


「確かに、このノコギリじゃ無理だよな。それなら尚更、お礼をしないとな……何か出来ることはないか?」


「だから、別にいいって言ってるじゃない。でも、そうね……出来ることなら、少し、一人にしてちょうだい」


 少し悲しそうな表情で背を向けるフラム。


 (一人になりたいか……朝の訓練の事で、ロザミラさんと何かあったか?)


「ふぅ、お節介かもしれんが、ロザミラさんと喧嘩でもしたのか?」


 ロザミラと聞いて、一瞬、肩をビクッとさせるフラム……図星だと、すぐにわかる反応だった。


「べ、別にあんたには関係ない話よ。いいから早く村に帰って」


「おうおう、わかった。すぐに帰るさ……ただ、一つだけ伝えておこう」


「え?」

 と、ディランの方へ振り返るフラム。


「お前さんは強い、村の人たちと比べても戦闘経験や技量の差もかけ離れている。戦い方の基礎を固めている段階の者に、フラムが模擬戦で相手をするのはまだまだ早い。だから、やり方を変えてみるんだ。色んな魔獣と戦ってきたお前さんなら、どんな時にどう動いたらいいのか、実戦での考え方を教えられるはずだ。そういうことを学んでから、模擬戦でそれぞれの動き方を理解できるように指導していく……俺にも教えて欲しいぐらいだな」


 ニカッと笑いながら手を振って洞窟を出て行くディラン……その姿を見つめながらフラムが呟く。


「説明が長いのよ。でも、そっか、やり方かぁ……はぁ、お腹空いたなぁ」

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