11話 フラム・ベルージェ
突然始まったフラムとの模擬戦だったが、何とかディランは勝つことが出来た。
ディランは蹴られた右の脇腹に手を当てながら、フラムに声をかける
「フラム、さんでいいのかな?お前さん、強いな。木剣であの重さの攻撃が出来るとは、武器の間合いを活かした戦い方といい、武器を使った回避と攻撃といい、動きが洗練されていて、思わず見惚れてしまうほどだ!そこまでの技量を身につけるまでには、才能だけじゃなく、相当な経験と努力があったんじゃないのか?いや、この模擬戦だけじゃ測りきれるもんじゃないな。何にしても、俺にとっても良い訓練になった。また、機会があったら相手をしてくれるとありがたい!」
「え?ええ、あ、あり、がと……」
ディランの訓練後の弁舌に驚きながらも、少し恥ずかしそうに返事をするフラム……
「あ、あのっ、フラムで、いいわ。こっちこそ、あんたみたいな強いやつと手合わせできるとは思わなかった。名前を聞いてもいい?」
「ディラン・デッドガードナーだ。ディランでいいぞ」
ニカッと笑って答えるディラン。
しかし、ディランの名を聞いてフラムは眼を見開いた。
「名前持ち?いや、そんだけの強さなら不思議はないわね」
「あ〜、その、名前持ちとはちょっ…『フラム!』…と?」
この世界の名前持ちとやらとは違うと、説明しようとした時、広場の人集りの方から聞いたことのある声がした。
「フラム!ちょっとあなた、何してるのよ!」
声の方を見てみると、ロザミラが駆け寄って来ていた。
「うっ、姉さん」
イタズラして怒られてる子供の様にしゅんとするフラム
(ん?今、姉さんと言ったか?)
「帰って来たと思ったら、こんな所で暴れて!」
「いや、暴れてた訳じゃなくて、訓練を……」
「訓練を、じゃないわよ!ほとんど、あんたの憂さ晴らしみたいなもんでしょう?とにかく、うちに来なさい。いいわね?」
「そんなこと……もう、わかったわよ」
トボトボとロザミラのもとに歩いていくフラム。
ロザミラはこちらを向いて申し訳なさそうに声をかけてくる。
「ディランさんも、すみません。妹がご迷惑をおかけしてしまって」
「いや、気にしないでくれ。俺にとっても良い経験になったから」
「良かった。そう言ってくださると、助かります」
そう言って、頭を下げながらフラムを連れて広場を出ていった。
(確かに、同じ赤い髪に顔立ちも似てるな……ん?ってことは)
「おい、ロズ、あの人は……」
「ああ、俺の叔母さんだ。帰ってくる度にこんなんだからさ、大変なんだぜ」
哀愁を漂わせながら語るロズに、ディランは眼を伏せながらそっと肩に手を乗せる……そして、ゆっくりと頷いた。
「それにしても、あのフラム・ベルージェに勝っちまうとは流石だな」
いつの間にか、横に立っていたダナンが声をかけてくる。
「あれは、たまたま意表を突けただけだからな、次はどうなるか分からん。と言うか、今、しれっと何か言わなかったか?」
「フラムさんは名前持ちなんですよ。そして、カレドニアのハンターギルドから来てくれたのが、彼女ですね。あと、もう一人来てくれていたみたいですが……」
「それは、ウチのことかな?」
声のした方へ振り返ると、そこには大きなハンマーを担いだ小柄な若い娘がいた。
「デカいハンマーだ。重くないのか?」
つい思ったことが口を突いて出てしまう。
「あはは、大丈夫!見た目ほど重くないのよ?持ち手がしなるようになってて、槌の部分もカレドニック鉱石とダイヤタートルの甲羅を混ぜて固めてるから、軽くて丈夫なの!だから、力のないウチでもブンブン振りまわせるってわけ。凄いっしょ!」
「お、おう……何か凄そうだな、それで、君は?」
突然現れた少女に問いかけるディラン。
「あ、ウチはチュチュリーゼ、皆はチュチュって呼んでるの。それより、おじさん強いのね。模擬戦とは言え、フラムに勝っちゃうなんて。だけど、フラムがウチの作ったフラムソードを使ってたら絶対負けてたわよ!」
(よく喋る……いや、元気な子だなぁ……フラム、ソード?)
「フラムソードを、作った?」
「そ!ウチは魔獣の素材を使って武器とか防具を作る仕事をしてるのよ!フラムの炎鱗蜥蜴の鱗を使った長剣、フラムソードを作ったのはウチってわけ」
(名前の感性にはツッコミを入れたくなるが、いやいや、それよりも魔獣の素材を使った装備か……迷宮の中じゃ倒しても消えていったからな。そういう使い方もあるのか)
「そいつは、凄いな。君みたいな小さな女の子がそんな仕事をしてるとは」
ディランの言葉を聞いてチュチュリーゼはムッとした様子で口を開く。
「失礼ね!ウチはこれでも25歳よ?見た目だけで子供扱いしないで頂戴!」
(25歳だと……どう見ても、シェリーよりも歳下にしか……)
「あ、いや、すまん。気をつけるよ……」
「まぁ、いいわ。ウチも慣れてるから……それは置いといて、おじさん。あなたもウチの作る装備が欲しかったらいつでも言ってね。それじゃ、またね」
そう言って、手を振りながらロザミラとフラムの跡を追って行った。
「なんか、賑やかな娘だったな……さて、今日はもう訓練どころじゃないな」
「ああ、俺もそう思う……」
ダナンも疲れた様子で同意する。
「俺は、しばらく時間を潰してから帰ろうかな……」
ロズは怯えるように広場から去って行った。
(ロズをあそこまで大人しくさせるとは……)
「ゼラルドはどうする?お母さんの足の具合はどうなんだ?」
「母は家の中なら、何とか棚や壁とかを使って歩けるんですが、良くなる感じは……しないですね」
悲しそうに顔を伏せるゼラルド。
「よし、俺も様子を見に行くか!何か手伝えることもあるかもしれんし」
「え?今からですか?ディランさんが良いなら構いませんが」
「よし、じゃあ決まりだ、行こう!」
そう言って、ゼラルドの家へと向かう二人であった。
――ディランがゼラルドの家に向かっている最中、ロザミラ宅の中では
「もう、フラム?カレドニアから依頼を受けて来てくれたのはありがたいけど、魔獣がもう討伐されてたからって広場で暴れるのはやめなさい」
「いや、別に暴れてたわけじゃないし」
しゅんとしながらも小さく呟くフラム。
「三ヶ月前の襲撃から、依頼とは関係なく村の様子を見に帰って来てくれてることにも感謝してるわ。だけど、その度に訓練だって言って暴れるから、皆も迷惑がってるのよ?」
「そんな……あたしは、そんなつもりじゃ……」
どんどん言葉に力を無くしていくフラム。
そのまま、ロザミラの家に置いていた緋色の長剣を手に外へ出て行った。
「フラムッ!もう……」
そして、フラムと入れ違いでチュチュリーゼが家に入って来た。
「たっだいまー!って何か雰囲気、暗くない?フラムは?」
「フラムは、さっき出て行ったわ。剣を持って行ったから森に行ったんじゃないかしら?」
「ははーん、腕っぷしは強いけど、打たれ弱いところあるからねぇ。ロザミラさん、何かキツいこと言ったの?」
「キツいことってわけじゃないわよ?村に来る度に訓練だって暴れまわるから、皆も迷惑してるのよって……私が言わなきゃ、皆、遠慮するから」
「あちゃー、そりゃーしばらく立ち直れないんじゃないかな?フラムは、この村のために仕事の量も減らして様子を見に帰って来てたから。訓練だって、戦える人が減ったこの村の自警団を強くするためにやってるんだよ?……ちょっとやり方が不器用だとは思うけどさ」
「え、あの子、そんなこと……いつも、手応えがないとか、物足りないって言ってたから……」
「ほんと、素直じゃないよねぇ。ま、そのうち帰ってくるでしょ!帰って来たらもう一回話してみたら?」
「ええ、そうね。ありがとう、チュチュ」
ロザミラは、窓から見える森を静かに見つめていた。




