10話 ハンター襲来
訓練開始二日目。
ゼラルド、ロズ、ダナンの三人以外にも合計十人程の村人が参加していた。
「今日は昨日より多いな……なぁ、ダナン、いつもはどうしてるんだ?」
「考えてねぇのかよ。ったく、最初は走り込みからだ。広場の周りを十周、それから休憩を挟んで、模擬戦と素振りの班に分かれてやってる」
「なるほど……よし、皆。今日はよろしく!まずは走り込みからだ!目標は十周!開始ー!」
走り込みを行い、小休憩を挟み、模擬戦と素振りをする班に分けていく。
「っしゃ!今日はおっさんと戦えるのか!」
テンションを上げるロズ。
今回はダナンの希望もあり、ロズとの模擬戦をディランがすることになった。
他の村人は、年配で剣の扱いに慣れている層の者達で模擬戦を行い、ダナンにも指導に入ってもらうことにした。
若い世代は模擬戦の様子を見学しながら素振りを行ってもらう。
その素振りメンバーにゼラルドも参加し、剣の素振りの仕方についての指導を頼んだ。
ゼラルドの飲み込みが早く、それなりに型も整っていたため、指導役を任せることにしたのだ。
傷の事もあり、そう決めたが、傷の具合的には明日から模擬戦に参加出来そうなほど良くなっていた。
ゼラルドの治療には薬草を使っているらしく、ほとんどの怪我には薬草などで治療するのがこの世界では一般的なのだそうだ。
だが、薬草以外にも不思議な力で傷を癒すことが出来る"聖女"や"治癒師"と呼ばれる存在がいるらしい。
(不思議な力で傷を癒す……か。俺の世界の治癒術と関係がありそうだな。いずれ調べてみることにしよう)
「おっさん!早く始めようぜ!」
戦いたくてウズウズしている、といった様子で呼んでくるロズ。
(しょうがないやつだな、昨日のダナンとの模擬戦でどうなったか見せてもらうか)
「よし、準備はいいか、ロズ?」
「おうよ!いつでもいいぜ!」
審判役の村人の男が腕を振り上げる。
「では……開始!」
開始の合図で真っ先に突っ込むロズ……
ディランの目の前に来たところで、姿勢を低くし、走ってきた勢いのままディランの右側に駆け抜ける。
すれ違いざまに斬りかかってくるが、それを左方向に向かって跳んで躱す。
「まだだぜ!」
ロズは片方の口角を上げながら、更に突っ込んで来る。
(ほう、防御の薄い箇所を執拗に狙ってくるな)
低い姿勢のまま、ディランの盾で防ぎ辛い場所をジグザグに駆け抜ける様に斬りつけてくる。
「まだまだー!オラァ!」
勢いを落とすことなく突っ込んでくるロズ、その攻撃を躱すことに専念していたディランだが、立ち止まり、姿勢を低くした。
「あぁ、まだまだだ」
小さく呟いて、ロズに向かって突進する。
ロズが軌道を変えながら駆けるが、それを読んでいたかの様にロズの正面へ間合いを詰めるディラン。
「っな!」
急に間合いを詰められたことで焦るロズ。
その様子を余所に、ディランは盾で殴りかかる。
コンッ!
それを反射的に剣で受けるロズだが、受けた瞬間に脚を払われ、そのまま視界が宙を舞う。
「おわっ!っつぅ!」
そのまま地面に倒れ、首元にディランの盾を突き付けられていた。
「そこまで!」
審判役の村人が終了の合図をする。
「面白い動きだが、俺には通用せんぞ。って言うかその動き、ダナンの入れ知恵か?」
お尻を摩りながら、不貞腐れたような顔でロズが答える。
「ああ、ダナンがおっさんと戦うならこういう動きが良いって言うからさ……速攻で負けたけど」
「そりゃそうだ、ダナンに指導してもらってるとは言え、まだまだ付け焼き刃だからな。だが、相手の弱点を狙って攻めることは大事だ。戦闘においてもそれは基本的な事でもあるが、そこばかり攻めていると動きを読まれやすくなる。さっきみたいに蛇行しながら攻撃をしかけるのも撹乱には良い手だが、もう少しフェイントや他の攻め手も考えてみろ。それから……『だぁー!』」
「そんないっぺんに言われてもわかんねぇって!」
「おっと、悪い。もう一回最初から説明するぞ。お前の剣の扱い方からだが、まだまだ……『だ、か、ら!』
「わかんねぇって!」
広場の中でロズの悲鳴と皆の笑い声が響いていた。
こんな感じで二日目の訓練も終わった。
――翌日、三日目の訓練を始めるために広場に向かうと、人だかりができ、ざわついていた。
(おいおい、今度はどうしたってんだ?)
恐る恐るディランが広場に入ると、そこにはロズやダナン、他の村人達が何人か地面に倒れ込んでいた。
「おい!どうした!?」
「あ、ディランさん!良いところに……フラムさんが来て、あの、えーと」
慌てて駆け寄るディラン。
ゼラルドが状況を説明しようとするが要領を得ない。
周りを見渡すと、ロズたちの近くに長木剣を肩に担いで退屈そうに立っている女がいた。
彼女もディランに気付いたようで、燃える様に紅く長い髪を翻しながら口を開く……
「あら、まだ戦えそうなやつが残ってるじゃない。あたしが訓練に付き合ってあげるから、さっさと武器を取ってきなさい」
(はっ?訓練?)
「お、おっさん、気をつけろ。フラムさんはマジでヤバい……げふ」
ロズが振り絞るように忠告してくる。
何が何だか分からないが、あの紅髪の女、フラム?だかと模擬戦をしなければならないらしい。
「わけがわからん」
「ほら、早くしてよ。時間が勿体無いじゃない」
(やれやれ、仕方ないか)
渋々装備を取りにいくディラン。長剣が相手なら盾一枚では手に余ると判断し、両手に盾を装着する。
(魔獣がどうのと言っていたが、こいつがカレドニアから来たハンターか?)
「はぁ、いつでもいいぞ」
すでに気疲れを感じながら準備ができたことを伝えるディラン。
「いつでもって、あんた、盾しか着けてないじゃない。やる気あるの?」
少し呆れ気味に聞いてくるフラム。
ディランも少し面倒くさそうに答える。
「ああ、これでいいんだ、さっさと始めよう」
フラムはその態度に少しムッとした様子で動き出す。
「あたし相手に舐めた口聞くじゃない。すぐにのしてあげるわ」
そう言って、長木剣を構えて走り出す。
木剣とは言え、なかなかの重さの筈だが、それを物ともせずに駆けてくるフラム。
間合いに入った瞬間に上段に構え、振り下ろす。
ゴン!
両手を組むよう二枚の盾で受けたが……
「っぐ!」
その攻撃の重さに、声を漏らすディラン。
(初手は受けてみたが、重てぇ!まともに受けるのはヤバいな)
「へぇ、あたしの一撃を受けて倒れないなんて、ちょっとは楽しめそうね」
二人とも距離を取り、構え直す。
(受けに徹したら負けるな。ちぃと気合い入れていくか)
気を引き締めて集中する……二人同時に駆け出し、フラムが長剣を横に一閃する。
「はっ!」
それを右手の盾で受け流し、姿勢を低くして滑り込みながらフラムに近づく。
そのまま、左手の盾で下から打ち上げるが、フラムは手首を捻って剣の柄頭でそれを受ける。
ガン!
そして、後ろに跳びながら長剣の長さを活かして上段から斬り下ろす。
ブンッ!
空を斬る音……ディランは左側に跳んで躱し、右手の盾で裏拳を叩き込む。
「せいっ!」
その動きを目で追っていたフラムは、振り下ろした剣をそのまま地面に立てて、剣を軸に回転し、ディランの攻撃を躱す。その回転の勢いを乗せたまま、蹴りを放つ。
「あまいわっ!」
ガッ
ディランの横腹に蹴りが入り、顔を顰める。
「ゔっ」
その隙に、フラムは追い討ちをかけるように斬りかかる……が
ゴン!
斬り下ろした剣の腹を盾で打ち付けられ、弾かれた。
「なっ!うそ!」
重心をずらされ、よろけるフラム……その隙に背後に回り込み盾を突き付ける。
「勝負あり、だな」
「あのタイミングで反応できるなんて」
自分が負けたことに呆然とするフラムを他所に、村人たちの喝采が広場の中で湧きあがった。




