9話 模擬戦
ゼラルドの合図で二人は間合いを詰める。
ダナンは左手に盾を構えるディランの右側に向かい、木剣を横に薙ぎ払う。
その動きを目で追っていたディランも、盾で剣を受け流す。
そして、体勢を低くし、回転しながらダナンの脚を払うように蹴りを繰り出す。
それを後ろに跳んで避けるダナン、すぐに体勢を整えて連撃を仕掛けてくる。
「オラ、オラッ、オラオラオラァ!」
ゴン、タン、カッカッタンッ
連撃を全て受け流すディラン。
(傭兵をやっていただけあって、動きに
無駄が少ないな。だが……)
タン、タン、カッカッ……トン
ダナンの連撃を弾きつつ意図的に半歩下がって盾で受けた。
「っな!くそっ」
連撃のタイミングをずらされ、足にかけた重心もずれるダナン……その隙に間合いを一気に詰めるディラン。
「ほいっと、一本だ」
そう言って、盾の縁をダナンの首に当てる。
「あ、一本!ディランさんの勝ちです」
ゼラルドが勝負ありと告げる。しかし、ダナンはそれを認められずに剣を振りかぶる。
「っるせぇ!」
ビュン!
「おっと!」
身体を反らせてその攻撃を躱すディラン
「おいおい、流石にそれはないんでないかい?」
少し怒りを滲ませた声音でダナンに声をかけたが、頭に血が昇っているのか聴く耳を持たない。
続けて剣を振り続けるダナン。
「そんな!盾で!一本、だと!ふざけんな!」
ゴン、タン、ゴン、コッ、カッ
(力任せで重心がブレ過ぎだな、やれやれ……)
内心呆れながら、攻撃を受けつつ左からの斬り払いを待つ……(ここだな)
ブン!
勢いよく薙ぎ払われる剣を、盾で受けずに躱し、腕を振り切ったダナンに詰め寄る。
そして、盾の縁で側頭部に一撃を当てた。
ゴッ
と鈍い音を立て、ダナンは崩れ落ちた。
「ディ、ディランさん!」
「おいおい、大丈夫かよおっさん、ダナンは?」
慌てて駆け寄るゼラルドと、ロズ。
「ちょっとした脳震盪だ、すぐに目が覚めるだろうから心配いらんよ」
「そ、そうですか」
「いや、やっぱすげ〜な!おっさん」
「しかし、こいつはいつもこんな感じなのか?」
ディランの問いに困ったような表情でゼラルドが答える。
「いえ、口調は荒っぽいですが、いつもは村の皆に剣の持ち方から基礎的な動きを教えてくれるんです。ただ、ダナンさんより強い人もいませんでしたから……」
「そうそう、悔しかったんじゃねーの。ポンと現れたおっさんが、訓練を仕切るって聞いて、オマケに魔獣まで倒したってんだから」
(なるほど、村一番の強者の自分より強いやつが現れ、誇りや自尊心が傷つけられたってところか?)
「ふぅ、何にしても、迷惑な話だな。村のためを思うなら、もっと……いや、村のことを思ったが故か?」
「ん?どういうことだよ?」
ロズが首を傾げながら問う。
「どこの誰とも分からないおっさんが、急に現れて村の人達の訓練をするって言って、納得できるか?」
「いや、おっさんは十分強えし、俺たちだって助けてもらってるから……」
「そう、それはロズやゼラルド達は知ってるからそう言えるだけで、ダナンや他の村の人にはわからんだろ?」
「確かに、ディランさんの言う通りかもしれませんね。現に、今日は俺たちとダナンさんしか参加していませんし」
三人で話をする中、ダナンが少しずつ意識を取り戻す。
「っぐ、ってぇ」
左側の頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がる。そして、ディランの方を見て罰の悪そうな顔をする。
「あんた、本当に強いんだな。頭に血が昇っちまってよ、悪かった」
そう言いながら頭を下げるダナン。
「いや、俺の方こそ手荒な真似をして悪かったな。しかし、一本取ったのに攻撃してくるのは無いだろ?」
「それは、すまない……よそ者が、この村に何の用かと思ってな。ましてや、今のこの村には女子供ばかりだ、そいつらを守れるやつもほとんどいない。どうしても警戒しちまってな」
目を逸らしながら言いにくそうに言葉を続ける。
「それに、盾だけの相手に負けるとは、認めたくなくてな」
「盾だけって言ってもなぁ、俺は盾騎士として戦ってきたから、盾でしかまともに戦えんのよ」
頭を掻きながらそう言うディランに、ロズが声をかけてくる。
「へぇ、おっさんはどうして盾だけでそんなに強いんだ?」
「ん?俺が強いかどうかはわからんが、盾は十分強い武器だぞ?攻撃は受けれる、流せる、殴れる、刺せる、そして、仲間を守れる」
「え、どうやって刺すんだ?」
ロズが真剣な顔で悩み始める。
「盾の形状にもよるんだろう。先の尖った盾なら可能だろうし、刃を付ければ切り裂くことも可能なんじゃないか?」
「おお、なるほど!じゃあ、盾の素材とかに……」
ゼラルドとロズが盾について話始めたところで、ダナンの方へ向かうディラン。
「まあ、要するに盾だって立派な武器ってことよ」
「そう、だな……現に気絶させられちまってるしな」
「そう言うこった。ま、それは置いといて、ダナンの動きだが、剣の運びや身体の動かし方にはほとんど無駄が無い様に感じた。連撃も相手に攻撃させる隙が無いぐらいだったが、俺にされたみたいに攻撃の力点をずらされたら体勢を崩しやすい。それを上回る程の打点で防御を崩すか、今以上に体幹を鍛えて重心の切り替えをするか……」
早口で先程の模擬戦について語り始めるディランに、目を丸くして呆然とするダナン。
「ま、待ってくれ!すまん、ゆっくり、もう少しゆっくり教えてくれ」
「お?ああ、悪い。模擬戦とかの後にはつい、こうなっちまうんだ。騎士団の訓練の時からの癖でな」
「そう、なのか」
「とりあえず、せっかく四人いるんだ。もう一回、模擬戦をしよう。次は、ロズとダナンで……ダナンはもう動けるか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
「え?おっさんが相手してくれるんじゃないの?」
「おう、俺はゼラルドに特別訓練を行う」
「特別、ですか?」
「そう、特別だ。ダナン、ロズの方の訓練は任せる」
「何が任せるだ!ったく、こっち来い、ロズ」
「えーー、おっさんと戦いたかったのによー」
「うるせー!お前じゃあいつの足元にも及ばねーわ」
「な!俺だって魔獣とだな……『はいはい、何回も聞いたわ』」
やいのやいのと言い合いながら模擬戦に向かう二人を眺めながら、やれやれと言った感じで両肩を上下させるゼラルドとディラン。
「さて、特別訓練とは言ったが、やることは単純だ。その前にまず、使う武器を選べ。洞窟じゃ斧だったが、使い慣れてるのか?」
「いえ、得意な武器はないんです。斧を使ったのは、単純に強そうだったからで」
「なるほど、一撃の強さで考えればそうなるか。ん〜」
顎に手を当てて考え始める。
「ディランさん?」
「ん〜、とりあえず今の状態で使えるのは剣と短剣ぐらいか。どっちがいい?」
「それなら、剣の方が……何度か訓練で使ったこともありますし」
「よし、じゃあ木剣を持てい!好きに打ち込んできな」
「え?は、はい」
木剣を手に構え、打ち込みを始める。
ディランはそれを受けながら、身体の動かし方や重心の乗せ方、陽動や牽制の使い方を指導していく。
ロズもダナンから剣の指導を受けるが……
「だから、力任せに振るんじゃねぇよ!重心を大事にしろ!無駄な力が入り過ぎだ!」
「んなこと言われてもわかんねーよ!」
なかなか苦労しそうだった。




