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8話 訓練開始

 窓から朝日が差し込み、まどろみの中から少しずつ目を覚ましていく。


「ああ、朝かぁ……良い天気だ。そして、この天井……やっぱり夢じゃないよなぁ……起きるか」


 ノソノソと起き上がり、部屋を出る。そして、手洗い場に行き、顔を洗う。


「ふぅ、今日から訓練だったな。おそらく、こちらの世界では魔法は使えない。だとすると、魔法を使わずに戦う訓練を考えるべきだろうな。あぁ、いや、段取りとかも、村長としっかり確認しとかないと……とりあえず、昨日の食堂に行くか」


 独り言をぶつぶつ喋りながら、昨日の夕食を食べた部屋を目指して廊下を進む。


 食堂に近づくに連れて、パンの焼けた香しい匂いがしてくる。


 (朝から食欲をそそる良い匂いだ)


 食堂に入ると、村長はテーブルの横に座り、パンを食べていた。


「おお、ディラン殿、おはようございます。先にいただいております。どうぞこちらにかけてくだされ」


 村長に促されるまま椅子に座る。


「あ、おじ様、ちょうどパンが焼けたところですよ。蜂蜜かチーズをつけて食べてくださいね」


 (黄金色の液体が入ってる瓶が蜂蜜か。チーズも捨てがたいが)


「では、いただきます」


 そう言って蜂蜜を手に取り、焼きたてのパンにつけ、頬張る。


「……うまっ」


 もしゃもしゃと、パンにかぶりつくディランに村長とシェリーも微笑みながら朝食を食べる。


 朝食を食べ終わる頃に、村長から声がかかる。


「さて、ディラン殿。お願いした訓練の事じゃが、明けの三刻から六刻までの間でしてもらうのはどうじゃろう?」


「え〜っと、この世界の時刻って?」


 ディランの問いにシェリーが答える。


「おじ様、村に入った時に花園と木の柱があったのを覚えてますか?」


 (木の柱と、花……村の中心にあったやつか)


「それは、覚えてる。確か、木の柵に囲われてた……」


「ええ、その真ん中に建てられている柱と、その影の長さと花の位置を見て、陽の出から入りまでの時刻を決めているんです」


「ほぉー、なるほど」


「そして、陽の出の一番長い影を明けの零刻として、昼の影が一番短い時を六刻。そこから陽が沈んでからの六刻と合わせて……って、初めてだと難しいですよね」


 (イスフィールじゃ一日を二十四時間で数えてたが、ここは陽の出てる間の半日を数えてるのか)


「日時計ってやつか、あの花園と柱にはそういう役割があったんだな」


「カレドニアでは二十四時間で一日の時刻を表してますし、そちらで覚えてもいいかもしれませんね」


「そうなのか?それなら、俺も助かるが」

 (イスフィールと同じ時計も在るってことか?そりゃ、ありがたい)


「ほほ、説明が足らず、申し訳ないのぉ。村の中心以外にも、庭に小さい日時計も作っておるでの、大体の時刻はそれを見てくだされ」


「わかりました。じゃあ、さっそく訓練の準備をしましょうかね」


 椅子から立ち上がり、身体を伸ばす。


「あ、おじ様。これに着替えてください。寝間着のまま外に出るわけにはいきませんから」


 シェリーが、新しい服を渡してくれる。


 うっすらと翠がかった白い麻布の服だった。

 ところどころ少しほつれたりしているが、これもシェリーの父親が着ていた物なのだろう。


 「ありがとう、使わせてもらうよ」


 それからは、朝食の片付けを手伝い、シェリーから受け取った服に着替えて外に出た。

 村長の家の前の広場に向かうと、そこには既に三人の人影があり、その内の二人から声をかけられる。


「お!おっさん!おはよー!」


「ディランさん、だろう?おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 ロズとゼラルドがそれぞれ挨拶をしてくる。


「おはよう……ゼラルド、お前さんは怪我が治ってないだろう?」


「ええ、でも、この怪我じゃ村の畑仕事も狩りも満足に出来ませんし。家でじっとしているよりも、ディランさんの訓練に行こうと思って」


 申し訳なさそうに言うゼラルドに、やれやれと思いながらも声をかける。


「仕方ないな、ゼラルドにも何か訓練方法を考えてみよう。それから、そちらの人は初めましてですね。今日はよろしく」


 少し離れたところから、怪訝そうな顔でこちらを見る男性に挨拶をしてみたが、彼は「ふんっ」と鼻を鳴らして顔を背ける。


 (あら?何もしてないのに、嫌われてる?)


「ダナンさん、挨拶ぐらいちゃんとしてくださいよ」

「そうだぜ、嫌なら来なきゃ良かったのに」


 ゼラルドとロズがそれぞれ、ダナンという男性に話しかける。


「うるせーな、こんな奴に訓練で教わることなんかねぇよ、どこの誰ともわかんねぇのに、早く村から追い出しゃいいだろ」


「何を言ってるんですか、この人のおかげで俺たちは助かって、村も魔獣の被害から助かったんですよ?」


「そうそう!ダナンよりおっさんの方が強いし、訓練も俺から頼んだんだぜ」


 二人がフォローしてくれるが、この手の相手には通用しないだろう。

 (話すよりも、実力を見せた方が早そうだな)


「ああ、ダナンさんだったか?あんたの言いたいことも分かるんだが、俺も事情があってね。訓練の前に俺と模擬戦をしてくれないか?俺が負けたら、あんたの言う通りにしてやるから」


「ちっ!良い度胸じゃねぇか、もともとそのつもりでここに来てやったんだ……覚悟しろよ」


 (なんとも、血の気の多いことで)


「ディランさん、ダナンさんは元傭兵ギルドの人です。自警団に戦い方の指導もしてくれてるので、強いですよ」


「へぇ、それは頼もしいな……俺もこの世界の戦い方を見る良い機会だ」


 後半の言葉は小さく、誰の耳にも聴こえない程の声で呟いた。


「さあ、おっさん、使う装備を選んでくれ」


 ロズが台車に入れてある木剣や棒を見せてくれる。


 訓練用の装備を確認していく、とは言っても、ディランは盾を使って戦うため、剣や槍などは使わないのだが……

 とりあえず、一通り見て手頃な盾を探す。


(訓練用の木の盾しかないわなぁ、しかもバックラーに近い形状のやつか)


「ま、十分使えそうだな」


 バックラーを手に取り、手の甲を覆うように構える。


「よし、俺は準備出来たぞ」


 そう言って、ダナンの方を見ると、彼も木剣を手に素振りをしていた。


「おいおい、武器も持たずにどうやって戦うんだよ?」


 嘲るようにダナンが言うが、ディランは気にした様子もなく答える。


「俺の武器は盾なんでね、戦えるかどうかは今からわかるさ。さぁ、誰か開始の合図を頼む」


「あ、じゃあ、俺がしましょう。二人とも位置についてください」


 ゼラルドがディランとダナンの間に立つ。


「では、二人とも、準備はいいですか?」


「ああ」

「おうよ」


 ゼラルドは二人の返事に頷き、右手を振り上げたまま一呼吸おいて、勢いよく腕を振り下ろす。


「開始!」


 その合図で両者が動き出す。

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