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7話 村での生活②

 ディランは湯浴みから戻り、部屋のベッドで横になっていた。


 (泊まる所だけじゃなく、食事や風呂にも入れさせてもらえるなんてなぁ、この恩も返さにゃならんが……どうしたもんか。カレドニアって所に行くためにも、お金は必要になってくるだろうし、村長に仕事がないか相談してみるか)


 ようやく、ゆっくり休める時間を手に入れたが、今後の事を考えると問題が山積みだという現実に頭を抱えるディラン。

 ふと、扉の方に人の気配を感じ、思考を止める


 コンコン


「おじ様、夕食の準備ができましたよ」


 シェリーが呼びに来てくれたようだ。


「ああ、ありがとう。すぐに出るよ」


 ベッドから降り、扉を開ける。

 シェリーが笑顔で出迎えてくれる。


「さ、行きましょう。案内しますね……とは言っても、そこまで広くはないので、すぐですけど」


 ふふ、とはにかみながら横を歩くシェリー


「いやいや、案内してくれて助かるよ。勝手にウロウロして迷子になるわけにはいかん」


「さっきまで一人でウロウロしてたのは誰ですか?」


 ジトっとした目でこちらを見つめてくる少女から顔を背けて、前に進むおっさん。


 (クリスにも、よくこんな風に呆れられたり、小言を言われたな。あいつらは、無事だろうか)


 シェリーとのやりとりに、残してきた隊の仲間の事を思い出す。


「もう……はい、ここの部屋ですよ」


 どうやら、目的の部屋に到着したようだ。位置的には、家の中心にあるようで、寝室のあった角部屋から、ぐるっと廊下を進んで来た所である。


 扉を開くと、ふわっと良い匂いが鼻をくすぐってくる。


 (野菜を煮詰めた、ほのかに甘い香りと、香辛料の香ばしい匂いが混じり合って、なんとも美味そうな匂いだ。一気に腹が減ってくるな)

 

「良い匂いだ」


「ふふ、そう言ってもらえて良かったです。おじ様の口に合うと良いんですが」


 奥に進むと、大きめの木の丸テーブルに野菜スープとパンやチーズ等が並べられていた。

 そこへ、村長も部屋に入って来る。


「ほほ、どうぞ座ってくだされ。孫の作った野菜のスープは美味しいですぞ。遠慮せず召し上がってくだされ」


「確かに、これは美味そうですね。お孫さんは良い嫁さんになりますよ」


「ほっほ!あなたもそう思いますか」


 おっさんと爺さんが盛り上がる中……


「もう!そんな話はいいから、冷めないうちに食べてください!」


 ……シェリーは少し恥ずかしそうにしながら、二人を止め、食事を促す。


「いやいや、すまん。では、いただきます」


 ディランはそう言って、両手を合わせて目を閉じる。


「おや、それは?」

「おじ様、何をなさってるんです?」


 シェリーと村長の目には、ディランが何をしているのか分からなかった。


「ん?ああ、これは、食事前の挨拶?みたいなもんで、大地の恵みや、他の生命をいただく事への感謝を表してるんだ。もちろん、作ってくれた人への感謝も込めてな」


 二人とも「ほー」と感心した様な顔で頷く。


「なるほどのぉ」

「いいですね、そういうの」


 そして、ディランがしていた様に両手を合わせて目を閉じ……

 

「「いただきます」じゃ」


 それから三人で食事を進めつつ、ディランは村長に悩んでいた事を相談する。


「村長、改めて、俺をここに泊めてくださり、本当に

ありがとうございます。この恩は必ず返したいと思っているん……ですが、返せるものもなく、お金も持ち合わせが無い現状で」


「ほほ、何も気にされる事はありませんぞ。もとより、孫たちや村の危機を救ってくださったお礼と申しております。じゃが、今後の事を考えると、カレドニアに向かうにしても、そこで宿を取るにしてもお金は必要ですな」


「ええ、どうにかして稼ぐ方法も考えないと」


「ほっほ、そこは安心なされよ。ディラン殿が倒した魔獣、その討伐報酬をあなたに支払うことになるでしょうからな。ただ、村に来てくれるハンター殿にも事の経緯を説明してからになりますが」


 (そう言えば、ハンターギルドに依頼してると言ってたな。成り行きで魔獣を討伐しちまったが)


「その、村に来るハンターとは揉めたりすることには?」


「うむ、それは大丈夫じゃろう。傭兵たちと違って、ハンター達は狭量の広い者が多いでの」


「なるほど……ん?傭兵と言うのは?」


「ん〜、そうじゃの。ハンターは魔獣を専門にしておるんじゃが、傭兵は、賊の討伐や魔獣討伐など、金になるなら何でもする者たちと言ったもんかの」


 村長は眉間に皺寄せながら、言葉を続ける。


「じゃが、お金にがめつい一面もあっての。報酬で揉める事も多いんじゃ」


「それは、困りものですね。命懸けの仕事なら仕方ない部分はあるでしょうが」


「まったくじゃ。とは言っても、ディラン殿も腕に覚えがあるのなら、カレドニアのギルドに登録されると良い。仕事を探すよりも依頼を探す方が早いじゃろう」


「ギルドですか?そうですね。カレドニアに行けたら、見に行ってみます」


「さあ、二人とも、話してばかりいないで早く食べてください」


 キリの良いところで、シェリーがジト目でこちらを見つめながら告げる。


「おっと、すまん。すぐに食べるよ」

「ほほ、怒られてしもうたわい」


 それから、シェリーの作ってくれた美味しいご飯を食べ、洗い物を済ませてから部屋へ向かう。


「洗い物まで手伝ってもらわなくても良かったんですよ?」


 廊下を歩きながらシェリーが話し掛ける。

 

「ん?ああ、村長にもお前さんにも、お世話になりっぱなしだからな、何かしないと申し訳なくてな」


「気にしないでくださいって何回も言ってるじゃないですか」


「そうなんだが、気になるんだよ」


 苦笑いを浮かべながら答える。


「それに、明日から戦い方の訓練をしてくださるんでしょう?こちらの方がお礼をしないといけない立場なんですから、気にせず休んでくださいね」


「ああ、ありがとう」


 そして、部屋の前に到着し、軽く挨拶を交わす。


「それじゃ、おじ様、おやすみなさい」


「おう、おやすみ」


 そのまま部屋のベッドに横になり、天井を見上げる。

 部屋の中は、外からの星の明かりで淡く照らされていて、その見慣れない天井を見つめていると、色々な思考が巡り始める。


 (なんか、凄い一日だったな。いきなり知らない所に飛ばされて、魔獣相手に戦って、身体強化の魔法も使えなくて焦ったが……ん?魔法が、使えない?)


「あの時は、マナと魔力を馴染ませるのに失敗したのかと思ったが……すぅ……っ!」


 試しに身体強化をするために、マナを取り込もうと深く息を吸い、魔力を循環させる……が、洞穴の時と同様に身体中に刺すような痛みを感じた。


 (やっぱり、ダメか。村に魔道具の類も無かったし、この世界じゃマナ自体がほとんど存在してないってことか)


「マナウルス……マナと、魔獣を信仰する国。確か、ロズがそう言っていたか?はぁ、わからんことばっかりじゃねぇか」


 悩みの種が尽きない現実に、もはや諦めたように呟く。


「もういい、とにかく、寝る」


 そのまま目を閉じると、沈むように眠りに落ちていった。

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