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サトイモ令嬢のスローライフ  作者: 海老川ピコ
9/24

第9話:サトイモ祭りの準備と開催

 ハーレインの秋は、澄んだ空気と色づく木々の葉で彩られていた。

 オルティア王国の辺境の村は、依然として貧しさの中にあったが、ニーナ・ホンヘルのサトイモ畑がもたらした希望が、村人たちの心に小さな火を灯していた。

 広場での大収穫の宴から数週間、ニーナは新たな夢を胸に抱いていた――「サトイモ祭り」。

 村人全員でサトイモを祝い、笑顔を分かち合うイベントだ。

 彼女は、ふわっとした栗色の髪をポニーテールにまとめ、麻のエプロンに袖を通し、畑の片隅で手帳に計画を書き込んでいた。


「サトイモの煮物、ポタージュ、チップス……それに、新しいレシピも試したいな!」


 ニーナは初級鑑定スキルで畑のサトイモをチェックし、順調な成長に目を細めた。

 彼女の提案したサトイモ祭りは、最初は村人たちを驚かせたが、子供たちの熱意と収穫の成功が背中を押し、村全体が準備に乗り気になっていた。

 広場には木のテーブルが並び、子供たちがサトイモの形をした紙製ランタンをせっせと作っていた。


「ニーナ姉ちゃん、ほら! サトイモのランタン、できたよ!」


 トミが泥だらけの手で、丸い紙の飾りを見せた。

 サラが隣で頷き、目を輝かせる。


「めっちゃ可愛いよね! 広場にいっぱい飾ろう!」


 ニーナは笑顔で子供たちを褒めた。


「わ、最高! これ、夜になったらめっちゃ映えるよ! みんな、ありがとう!」


 村人たちも、それぞれの得意分野で準備を進めていた。

 村長のマリアは、広場の清掃を指揮し、ルークは木材を運んで屋台の骨組みを作った。

 ニーナは市場で手に入るわずかな食材をチェックし、サトイモ料理のレシピを試作していた。

 だが、祭りを特別なものにするため、村人たちが驚くような提案が持ち上がった。


「ニーナさん、せっかくの祭りだ。フローズン・リザードを振る舞おうと思うんだ」


 マリアが広場の片隅で、ニーナに話しかけた。

 フローズン・リザードは、ハーレイン近くの凍てついた山脈に棲む希少な魔獣で、その肉は硬いが滋養に富むとされていた。

 村人総出で仕留めた一頭があり、祭りの目玉として振る舞う計画だった。

 ニーナは目を丸くした。


「フローズン・リザード! すごい! サトイモと合わせたら、絶対豪華なごちそうになるよ!」


 彼女は手帳に新しいアイデアを書き込んだ――「フローズン・リザードとサトイモの煮込み、試作予定。ハーブで臭みを消して!」。

 ニーナはサトイモの新たな可能性を追求し、畑で気づいたことに挑戦することにした。

 サトイモの茎――ズイキ――を料理に使うアイデアだ。

 前世の日本で、祖母がズイキを酢の物や煮物にしていた記憶が蘇る。

 彼女は畑でサトイモの茎を慎重に切り、初級鑑定スキルで確認した。

 視界に浮かぶ文字が「食用可、ほのかな酸味とシャキシャキ食感」と告げる。


「よし、ズイキ料理、披露しちゃおう!」


 ニーナは小屋の台で、ズイキを細かく切り、塩とハーブで軽く炒めた。

 試食してみると、シャキシャキとした食感とほのかな酸味が新鮮だった。

 彼女はさらに、サトイモの葉も食べられることに気づいた。

 鑑定スキルで確認すると、葉は「加熱で柔らかく、栄養豊富」と表示される。

 ニーナは目を輝かせ、手帳にメモした――「ズイキ炒め、葉のスープ、祭りで出す! 村人、驚くかな?」。


 祭りの前日、ニーナは村の野草を活用するアイデアを思いついた。

 ハーレインの周辺には、食用になる野草が豊富だった。

 彼女は初級鑑定スキルを使い、野草を一つ一つ調べた。

 クローバー風の草は「ハーブとして風味良し」、小さな白い花は「スープに彩り」。

 これらをサトイモ料理に組み合わせれば、食材の乏しい村でも豪華な食卓になる。

 彼女は野草を摘み、乾燥ハーブと混ぜて調味料を作った。


 祭りの日、ハーレインの広場はこれまでにない賑わいを見せていた。

 紙製のサトイモランタンが木々の間に吊るされ、夕陽に照らされて温かな光を放つ。

 屋台には、ニーナのサトイモ料理が並んだ。

 煮物、ポタージュ、チップス、そして新作のズイキ炒めと葉のスープ。

 フローズン・リザードの煮込みは、大きな鍋でグツグツと煮え、野草のハーブが香りを引き立てていた。


「ニーナさん、この茎、ほんとに食べられるのかい?」


 中年女性が、ズイキ炒めを怪訝そうに眺めた。

 ニーナは笑顔で答えた。


「うん、ズイキ、シャキシャキで美味しいよ! 試してみて!」


 女性が恐る恐る一口食べ、目を丸くした。


「なんだこれ……! こんな食感、初めてだ! 芋の茎なのに、こんなうまいなんて!」


 別の村人が、葉のスープを飲んで驚いた。


「葉っぱまで食べられるのか! お嬢さん、こりゃびっくりだよ!」


 ニーナは得意げに笑った。


「ふふ、サトイモは全部使えるんだよ! 葉も茎も、栄養たっぷり!」


 村人たちは、野草のハーブ料理にも関心を寄せた。

 ある老婆が、スープの香りを嗅ぎながら言った。


「この草、いつも踏んでたやつだろ? これで嵩増しできるなら、食卓が楽になるね」


 ニーナは頷き、手帳にメモした――「野草ハーブ、大好評。もっとレシピ増やす! 村の食材、活用!」。

 ルークが即興で作った「サトイモの歌」が広場に響き、子供たちが笑いながら踊った。

 トミとサラがランタンを持って走り回り、村人たちが手を叩く。

 フローズン・リザードの煮込みは、特に大人たちに大人気だった。

 硬い肉がサトイモのホクホク感と野草のハーブで柔らかくなり、滋養に満ちた味に仕上がっていた。


「ニーナさん、こりゃ王都の貴族の料理よりうまいよ!」


 男性が笑いながら言うと、ニーナは照れ笑いを浮かべた。


「ふふ、ありがとう! サトイモとリザード、最高のコンビでしょ!」


 祭りの途中、隣町ベルリングの商人がサトイモの評判を聞きつけ、馬車でやってきた。

 彼は屋台の料理を眺め、ニーナに話しかけた。


「お嬢さん、この芋、うちの商会で扱いたい。いくらでも買い取るよ!」


 ニーナは少し考え、笑顔で答えた。


「ありがとう。でも、まずはハーレインのみんなが食べられるようにしたい。取引は、その後でいい?」


 商人は感心したように頷いた。


「立派な心がけだ。ハーレインのサトイモ、楽しみに待ってるよ」


 夜、祭りは最高潮に達した。

 ランタンの光が広場を照らし、村人たちの笑顔が輝く。

 ニーナは星空を見上げ、思う。


「王都のパーティーも華やかだったけど……ここには、みんなの笑顔がある。やっぱり、こっちが私の居場所」


 彼女は手帳に最後のメモを書き込んだ――「サトイモ祭り、大成功! ズイキと葉、村人びっくり! 次はもっと大きな祭り!」。

 ハーレインの夜は、笑顔とサトイモの香りで満たされていた。

 ニーナの小さな一歩が、村の未来に大きな希望を蒔いていた。



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