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サトイモ令嬢のスローライフ  作者: 海老川ピコ
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最終話:スローライフの未来

 ハーレインの春は、陽光がサトイモ畑を温め、緑の葉が村を彩っていた。

 数年が経ち、ニーナ・ホンヘルはハーレインの中心地近くの空き家を改装し、料理屋「サトイモの家」を開いた。

 粗末だった小屋は、木と藁で補強され、暖かなランタンの光が窓から漏れる。

 看板には、ミラが描いた「サトイモ姫」の絵が微笑み、村人や旅人の心を掴んでいた。


「ニーナさん、今日もサトイモスープ最高だよ!」


 カウンターでルークが笑い、木のスプーンを手にスープをすする。

 彼はニーナの右腕として、畑仕事と運搬を担っていた。

 日に焼けた顔に汗が光り、ぶっきらぼうな口調にも温かさが滲む。

 ニーナは麻エプロンを締め直し、ポニーテールの栗色の髪を揺らして答えた。


「ふふ、ありがと! 次はサトイモパイ、試してみようかな!」


 厨房には、煮っころがし、チップス、ポタージュ、プリン、団子、そして新作のサトイモパイが並ぶ。

 ニーナの創造力は止まらず、前世の日本の田舎料理とオルティアのハーブやハニソスを組み合わせ、村人や旅人を驚かせていた。

 リリィが厨房を手伝い、赤毛をきつく結いながら笑った。


「お嬢様、パイの香り、王都の貴族も嫉妬しますよ!」


 店内は村人やロザンの住民で賑わい、子供たちが「サトイモ姫」の歌を歌いながら走り回る。

 トミとサラが客に団子を配り、ミラが新しい絵本を手に語った。


「サトイモ姫、遠くの村を全部笑顔にした! ニーナ姉ちゃんみたい!」


 ニーナは笑い、手帳にメモした――「サトイモパイ、大好評! サトイモの家、みんなの笑顔でいっぱい!」


 ハーレインは数年前の貧しさから一変していた。

 サトイモ畑は村のあちこちに広がり、ロザンや遠くの町でも栽培が根付いた。

 ホンヘル男爵の宣言で不平等な契約が改訂され、村主体の交易が確立。

 サーニルは改心し、ニーナのサトイモは村々の誇りとなっていた。

 広場の近くには、ニーナの夢だった図書室が建っていた。

 木と藁の素朴な建物だが、子供たちの笑い声と物語が響き合う。

 ニーナは毎週、読み聞かせ会を開き「サトイモ姫」の新作を披露。

 子供たちは絵本を手に、目を輝かせた。

 サラが叫んだ。


「ニーナ姉ちゃん、次はサトイモ姫が海を渡る話!」


 トミが頷いた。


「悪い海賊を、芋の魔法でやっつけるんだ!」


 ミラが絵を描きながら笑った。


「ロザンにも図書室作るよ! ニーナ姉ちゃんのサトイモ、全部の村に届ける!」


 ニーナは子供たちの想像力に心を動かされ、読み聞かせを続けた。


「サトイモ姫は、ホクホクの魔法でみんなの心を温めた。村も町も、笑顔で繋がったよ!」


 村人たちが拍手し、老婆がニーナに言った。


「ニーナさん、この村、こんなに明るくなったよ。あんたのサトイモのおかげだ」


 ある日、エリザが馬車で訪れた。

 深紅のドレスで微笑む彼女は、ホンヘル家の名を高めたサトイモを誇りに思うと言った。


「ニーナ、父上も認めたわ。あなたはホンヘル家の宝よ」


 ニーナは胸が熱くなり、エリザを抱きしめた。


「姉さん、ありがとう。サトイモで、家族も繋がったよ」


 宴が開かれ、サトイモパイとスープが並んだ。

 ルークがスープを配り、ぶっきらぼうに言った。


「ニーナ、ったく忙しいな。けど、悪くねえぜ」


 リリィが笑い、毛布を編みながら言った。


「お嬢様、サトイモの家、王都にも負けませんね!」


 マリアが杖を突き、微笑んだ。


「ニーナさん、サトイモは私たちの魂。あんたが村を変えた」


 祭りの夜、子供たちが叫んだ。


「サトイモ令嬢、万歳!」


 ニーナは照れ笑いを浮かべ、手帳にメモした――「サトイモの家、大成功! 子供たちの未来、もっと輝く!」


 星空の下、畑の葉を撫で、彼女はつぶやいた。


「サトイモ、ありがとう。あなたのおかげで、私の居場所ができたよ」


 ハーレインの夜は温かく、希望に満ちていた。

 ニーナのサトイモは、村を超え、子供たちの未来を照らし続けた。


(終わり)


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