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サトイモ令嬢のスローライフ  作者: 海老川ピコ
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第23話:ベルリングの決闘とサトイモの勝利

 ハーレインの春は、サトイモ畑の緑が村を彩り、柔らかな陽光が希望を運んでいた。

 ニーナ・ホンヘルの「サトイモの家」は、村人や旅人で賑わい、図書室では子供たちの笑い声が響いていた。

 サトイモはハーレインを超え、ロザンや遠くの町でも根付き、村々の絆を結んでいた。

 だが、ある朝、ロザンの使者が馬で駆け込んできた。

 息を切らし、泥だらけの彼はニーナに告げた。


「ニーナさん、隣町ベルリングで問題が! サーニルの商会がサトイモの偽物を売り、市場を混乱させてる!」


 ニーナは目を丸くした。

 初級鑑定スキルで使者の書状を覗くと「偽サトイモ流通」「サーニルの新計画」の文字が浮かんだ。

 彼女は眉をひそめ、つぶやいた。


「サーニル、まだ諦めてなかったんだ……。ハーレインのサトイモを貶めるなんて、許せない!」


 広場で、ニーナはルークとリリィに相談した。

 ルークが拳を握り、鼻を鳴らした。


「アイツ、また汚ねえ手を使ってやがる。ニーナ、ベルリングに行ってケリつけようぜ!」


 リリィが頷き、赤毛をきつく結いながら提案した。


「お嬢様、話し合いで解決しましょう。ホンヘル家の名を使って、サーニルを牽制できます!」


 ニーナは決意を固め、村人たちに宣言した。


「みんな、サトイモの名誉を守るため、ベルリングに行くよ! 偽物なんて、ハーレインの誇りに傷つける!」


 マリアが杖を突き、笑った。


「ニーナさん、サーニルなんかに負けるな。サトイモは俺たちの魂だ!」


 トミとサラが駆け寄り、叫んだ。


「ニーナ姉ちゃん、サトイモ姫みたいに、悪い商会やっつけて!」


 ミラも小さな手を振った。


「ロザンのサトイモも応援してるよ!」


 翌朝、ニーナ、ルーク、リリィは馬車にサトイモチップスと煮物を積み、ベルリングへ向かった。

 ベルリングの市場は活気に満ち、商人や旅人で賑わっていたが、サーニルの屋台には「本物のサトイモ」と書かれた粗悪な芋が並んでいた。

 ニーナは初級鑑定スキルで確認――「低品質の偽物、食用不適」と表示され、彼女は憤りを抑えきれなかった。


「サーニルさん! この偽物、止めてください! サトイモはハーレインの魂なんです!」


 サーニルはニヤリと笑い、肩をすくめた。


「ニーナ君、商売は競争だ。ハーレインの芋が人気なら、俺も真似するさ。文句あるか?」


 リリィが一歩進み、冷静に反論した。


「サーニル様、偽物を売るのは違法です。ホンヘル家の名で、王都に訴えますよ」


 だが、サーニルは嘲笑し、取り巻きの商人がニーナたちを囲んだ。

 市場の空気が緊迫し、群衆がざわめき始めた。

 ルークが我慢の限界を超え、拳を振り上げた。


「テメェ、ニーナのサトイモを汚しやがって! 話じゃ済まねえ、決闘だ!」


 市場の広場が静まり、群衆が円形に集まった。

 サーニルは目を細め、木刀を手に笑った。


「決闘? いいだろう、田舎者に商人の意地を見せてやる!」


 ニーナが慌てて止めようとしたが、ルークはすでに木刀を構えていた。


「ニーナ、こいつは俺が片付ける。サトイモの名誉、守ってみせるぜ!」


 市場の広場で、ルークとサーニルが木刀を構えた。

 どちらも剣術の訓練を受けた戦士ではなく、動きはぎこちなかった。

 ルークの力強い一撃がサーニルを押し、サーニルの素早い動きがルークを翻弄する。

 木刀がぶつかり合う音が響き、群衆の歓声が上がった。

 ニーナはハラハラしながら見守り、リリィが彼女の手を握った。


「お嬢様、ルークなら大丈夫です!」


 決闘は拮抗したが、ルークの執念が僅かに勝った。

 彼の木刀がサーニルの肩を捉え、サーニルが膝をついた瞬間、市場に歓声が響き渡った。

 ルークが息を切らし、叫んだ。


「ハーレインのサトイモは、テメェなんかに汚されねえ!」


 サーニルは地面に座り込み、苦笑した。


「ハハ……俺の負けだ。潔く引くよ。これからは、まじめに働くとするか。商売から締め出されるくらいなら、従ったほうがましだ」


 群衆がどよめき、ニーナは目を丸くした。

 初級鑑定スキルでサーニルの言葉を覗くと、「本心:改心」「偽物計画:中止」の文字が浮かんだ。

 彼女はほっと息をつき、サーニルに手を差し伸べた。


「サーニルさん、ハーレインのサトイモ、認めてくれるなら、一緒に売ってもいいよ。村々の笑顔のために!」


 サーニルはニーナの手を握り、立ち上がった。


「ニーナ君、いい根性だ。サトイモ、悪くない。ハーレインと取引させてもらうよ」


 その夜、ベルリングの市場で小さな祝宴が開かれた。

 ハーレインのサトイモチップスと煮物が並び、サーニルが試食して目を輝かせた。


「こりゃ、本物だな。ニーナ君、俺も本物の商売、やってみるか!」


 ルークがぶっきらぼうにスープを差し出した。


「サーニル、偽物はもうやめろよ。次は俺の木刀、容赦しねえぞ」


 リリィが笑いながら言った。


「サーニル様、お嬢様のサトイモは魔法ですよ。ハーレインに来て、畑見てみませんか?」


 宴の後、ニーナは手帳にメモした――「ベルリングの決闘、ルーク勝利! サーニル改心! サトイモで新しい仲間!」


 ハーレインに帰ると、村人たちが広場で待っていた。

 トミとサラが駆け寄り、叫んだ。


「ニーナ姉ちゃん、ルークがかっこよかったって! サトイモ姫、勝った!」


 ミラが絵本を手に笑った。


「サトイモ姫、悪い商人を仲間にする話! ニーナ姉ちゃんみたい!」


 マリアが杖を突き、微笑んだ。


「ニーナさん、サトイモでまた村を救ったな。サーニルも仲間か、面白い」


 ニーナは笑い、子供たちに読み聞かせた。


「サトイモ姫は、ホクホクの魔法で悪い商人を仲間にした! 村々はもっと笑顔になったよ!」


 星空の下、ニーナはサトイモ畑の新芽を撫で、つぶやいた。


「サトイモ、ありがとう。あなたのおかげで、敵も仲間になったよ」


 手帳に追記した――「サトイモでベルリングも笑顔! ハーレインの未来、もっと大きく!」


 ハーレインの夜は温かく、希望に満ちていた。

 ニーナのサトイモは、敵を味方に変え、村々の未来を照らし続けていた。



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