第22話:遠くの町と陳情書
ハーレインの春は、柔らかな陽光がサトイモ畑を温め、新芽が力強く伸びていた。
ハーレインとロザンでサトイモ栽培が広がり、子供たちの指導や料理教室で村は活気づいていた。
サトイモは希望の象徴だった。
「サトイモ、こんなに元気! もっとたくさんの村で、笑顔を増やしたい!」
ニーナは新芽を撫で、つぶやいた。
朝露がキラキラ光り、子供たちの笑い声が響く。
広場では、トミとサラが村人に種芋の植え方を教え、ミラがロザンから手伝いに来ていた。
だが、ある朝、ロザンの使者が馬で駆け込んできた。
息を切らし、泥だらけの彼はニーナに告げた。
「ニーナさん、南部の遠くの町で問題が! サトイモの噂を聞きつけた商会が、貴族と組んで栽培を始めたんだ!」
ニーナは眉をひそめた。
「それ、いいことじゃない? サトイモが広がるなら……」
使者が首を振った。
「契約がひどいんだ。商会と貴族が利益の九割を取って、村には重労働と借金だけ。サーニルの商会も関わってる!」
ニーナは息をのんだ。
初級鑑定スキルで使者の書状を覗くと「不平等契約」「サーニルの指示」の文字が浮かんだ。
彼女はルークとリリィに相談した。
「サーニル、また動いてる。遠くの町の村人たちが搾取されてるなんて、許せない!」
ルークが拳を握った。
「ニーナ、俺も行くぜ。アイツら、芋でボロ儲けする気だ!」
リリィが目を細めた。
「お嬢様、ホンヘル家の領主に訴えましょう。エリザ様も協力してくれるはず!」
ニーナは村人たちを集め、広場で話し合った。
マリアが杖を突き、言った。
「ニーナさん、サトイモは俺たちの魂。他の村を食い物にするなんて、許せん!」
ミラが小さな声で言った。
「ロザンも助けてくれたニーナ姉ちゃんなら、遠くの村も救えるよね?」
ニーナは頷き、決意した。
「みんな、ありがとう。サトイモを守るため、領主に陳情書を送るよ!」
ニーナ、リリィ、子供たちは図書室で陳情書を書き始めた。
トミが興奮して提案。
「サトイモ姫、悪い商会をやっつける話みたいに書こう!」
サラが手を叩いた。
「芋の魔法で、村を救うの! ニーナ姉ちゃん、かっこいい!」
ニーナは前世の記憶を頼りに、簡潔で力強い文を綴った。
ハーレインとロザンのサトイモ栽培の成功、村人の団結、そして商会と貴族の不平等契約の実態を詳細に記した。
リリィがホンヘル家の書式を教え、ミラが絵を添えた。
完成した陳情書は「サトイモの解放」を訴えるものだった。
ニーナは手帳にメモした――「陳情書、完成! サトイモで村々を守る!」
使者が陳情書をホンヘル男爵の屋敷に届けた。
一週間後、馬車がハーレインに到着。
エリザが降り立ち、ニーナを抱きしめた。
「ニーナ、父上が動いたわ。陳情書、すごかった!」
ニーナは目を丸くした。
「姉さん! お父さんが? どうなったの?」
エリザが書状を広げ、読み上げた。
「ホンヘル男爵、激怒。商会と貴族の不平等契約を破棄し、サトイモ栽培の自由を宣言。村主体の公正な取引を命じた」
村人たちが歓声を上げた。
ニーナは胸が熱くなり、複雑な思いが湧いた。
彼女を追放した父が、こんな行動を取るとは。
エリザが微笑んだ。
「父上、ニーナのサトイモに感心してた。『あいつ、ホンヘル家の誇りだ』って」
ニーナは涙を堪え、手帳にメモした――「お父さん、ありがとう。サトイモ、村々を救った!」
その夜、広場で祝宴が開かれた。
サトイモチップス、ズイキ炒め、団子が並び、子供たちが「サトイモ姫」の歌を歌う。
ミラが新しい物語を叫んだ。
「サトイモ姫、遠くの村を救った! 芋の魔法で、みんな笑顔!」
ルークがスープを配り、ぶっきらぼうに言った。
「ニーナ、ったく無茶するな。けど、王都も遠くの村も、やったな!」
リリィが笑った。
「お嬢様、サトイモはホンヘル家の誇り。父上も認めたんですよ!」
宴の後、ニーナは父に謝辞の手紙を書いた。
「お父さん、ありがとう。サトイモで、村々の笑顔を守れた。追放されたけど、あなたの娘でよかった」と綴り、エリザに託した。
エリザが頷いた。
「ニーナ、父上に届けるわ。きっと喜ぶよ」
翌日、ニーナはロザンとハーレインの畑を巡回。
村人たちが新しい種芋を植え、子供たちが指導していた。
ミラが笑った。
「ニーナ姉ちゃん、遠くの村もサトイモで笑顔になるよね?」
ニーナはミラを抱きしめた。
「うん、ミラ。サトイモは、みんなを繋ぐよ!」
手帳に追記した――「サトイモ、村々を解放! お父さんと姉さん、ありがとう!」
星空の下、畑の新芽を撫で、彼女はつぶやいた。
「サトイモ、ありがとう。あなたのおかげで、遠くの村も家族になったよ」
ハーレインの夜は温かく、希望に満ちていた。
ニーナのサトイモは、村々を超え、未来を照らし続けていた。




