第21話:サトイモの広がり
ハーレインの春は、柔らかな陽光が村を包み、サトイモ畑に新芽が力強く顔を出していた。
ニーナ・ホンヘルは麻エプロンをまとい、ポニーテールにまとめた栗色の髪を揺らし、畑を点検していた。
手帳には初級鑑定スキルの記録、図書室の完成、そしてサトイモで村を超えた絆を築く決意が書き込まれていた。
王都での勝利を収め、サーニルの企みを退けたハーレインは、サトイモを希望の象徴として活気づいていた。
「サトイモ、こんなに元気! ハーレイン中、もっと広げちゃおう!」
ニーナは新芽を撫で、つぶやいた。
朝露がキラキラ光り、子供たちの笑い声が響く。
村のあちこちで、サトイモ畑が広がっていた。
あのハート形の緑が目にまぶしい。
村人たちが自宅の裏庭や空き地に種芋を植え、緑の葉が村を彩った。
隣村のロザンでも、避難民だったミラの家族が試験的に畑を始め、ニーナは監修に奔走していた。
彼女は馬車でロザンへ向かい、ミラの父に土の状態を教えた。
「ミラのお父さん、土はふわっとほぐして、水はけを良くしてね!」
ミラが小さなシャベルを手に、笑った。
「ニーナ姉ちゃん、うちのサトイモ、絶対美味しいよ!」
ロザンからの帰り道、ニーナはハーレインの畑で子供たちと合流。
トミとサラが村人に植え方を教える姿に、彼女は目を細めた。
トミが大声で叫んだ。
「こうやって、芋をそっと土に入れるんだ! サトイモ姫みたいに、優しくね!」
サラが水をかけて笑った。
「水、たっぷり! そしたら、ホクホクのサトイモになるよ!」
村人たちが笑い、子供たちの指導に耳を傾けた。
ニーナの弟子として、子供たちは畑仕事を手伝い、村に活気をもたらした。
ある老婆がニーナに言った。
「ニーナさん、子供たちがこんな元気で、畑まで教えてくれるなんて。サトイモ、ほんとすごいね」
ニーナは笑顔で頷いた。
「おばあちゃん、ありがとう! サトイモはみんなのものだよ!」
村ではサトイモ料理教室が頻繁に開かれ、ニーナのレシピが「村のサトイモ」として広がった。
広場に木のテーブルを並べ、ニーナがズイキ炒めや葉のスープ、団子を教えた。
リリィがハーブの使い方を指導し、ルークが薪を運ぶ。
ミラが団子を丸めながら叫んだ。
「ニーナ姉ちゃん、この団子、ふわふわ! ロザンでも作りたい!」
村人たちが試食し、歓声を上げた。
男性が驚いた。
「こんな芋で、こんな料理! ニーナさん、王都のシェフよりすごいよ!」
料理教室の後、ニーナは図書室で子供たちに読み聞かせ。
新しい「サトイモ姫」は、村々を旅してサトイモを広める物語だった。
トミが絵本を手に叫んだ。
「サトイモ姫、いろんな村を笑顔にする! ニーナ姉ちゃんみたい!」
サラが頷いた。
「ズイキのムチで、悪い天気をやっつけるんだ!」
ニーナは笑い、手帳にメモした――「サトイモ姫、村々へ! 子供たちの物語、最高!」
だが、平和な日々に影が差した。
ロザンからの使者が、サーニルの商会がサトイモ畑を買い占めようとしていると警告。
ニーナはルークとリリィに相談した。
「サーニル、また動いてる。サトイモを独占させないよ!」
ルークが鼻を鳴らした。
「ニーナ、俺も行くぜ。商会なんかに負けねえ!」
リリィが提案した。
「お嬢様、ロザンと協力して、商会に対抗しましょう。サトイモは村々の絆です!」
ニーナは村人たちを集め、計画を立てた。
ハーレインとロザンの畑を共同管理し、サトイモを村主体で交易。
マリアが杖を突き、言った。
「ニーナさん、サトイモは私たちの魂。ロザンと一緒に、商会を追い払うよ!」
次の料理教室では、ロザンの避難民も参加。
ミラがズイキ炒めを村人に教え、笑顔が広がった。
ニーナは手帳にメモした――「サトイモ、村を超えた! ロザンと絆、もっと強く!」
星空の下、畑の新芽を撫で、彼女はつぶやいた。
「サトイモ、ありがとう。ハーレインもロザンも、家族になったよ」
ハーレインの夜は温かく、希望に満ちていた。
ニーナのサトイモは、村々を繋ぎ、未来を照らし始めていた。




