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サトイモ令嬢のスローライフ  作者: 海老川ピコ
19/24

第19話:サトイモの冬と村の絆

 ハーレインの冬は、南部特有の冷たい風が畑を固めていた。

 雪は降らないが、冷たい寒さが村を包む。

 ニーナ・ホンヘルは厚手の麻エプロンをまとい、ポニーテールにまとめた栗色の髪を揺らし、藁に覆われたサトイモ畑を点検していた。

 手帳には初級鑑定スキルの記録と図書室の進捗が書き込まれていた。

 サーニルとの取引やカールの訪問を経て、サトイモは村の希望の象徴だった。


「サトイモ、寒さに負けないで。春にはもっとみんなを笑顔にするよ!」


 ニーナは冷たい土を撫で、つぶやいた。

 白い息が朝霧に溶け、子供たちの歌声が響く。

 だが、その朝、突然の豪雨がハーレインを襲った。

 南部では珍しい激しい雨が道を泥濘に変え、隣町ベルリングへの道を寸断。

 ハーレインは孤立した。

 さらに、隣村のロザンが川の氾濫で水没し、避難民が泥だらけでハーレインにたどり着いた。

 ニーナは広場で村長のマリアと顔を合わせ、眉をひそめた。


「マリアさん、こんな雨……。ロザンの人たちが! 食料は足りる?」


 マリアが杖を握り、疲れた顔で答えた。


「ニーナさん、道が復旧するまで耐えるしかない。サトイモの貯蔵があるか?」


 ニーナは頷き、貯蔵庫を指した。


「たっぷりあるよ! 新しい料理で、避難民も村も元気づける!」


 避難民は、ぼろぼろの服に身を包んだ大人と震える子供たち。

 少女のミラが、濡れた髪でニーナに縋った。


「お姉さん……村が水で……食べ物、ないの……」


 ニーナの胸が締め付けられた。

 前世の日本の田舎で、家族と囲んだ温かい食卓を思い出し、決意した。


「ミラ、大丈夫。サトイモスープで温まるよ。ハーレインはみんなの家だ!」


 ニーナは小屋でズイキとサトイモの葉を使った料理を試作。

 ズイキを細かく切り、野草のハーブで炒め、葉を煮込んでスープに。

 薪ストーブの香りが小屋を満たした。

 リリィが試食し、目を輝かせた。


「お嬢様、このズイキ炒め、シャキシャキ! スープは滋養たっぷり!」


 ルークが泥だらけで小屋に入り、言った。


「ニーナ、道がぐちゃぐちゃだ。避難民、増えてるぞ。芋でなんとかなるか?」


 ニーナは笑顔で頷いた。


「ルーク、任せて! サトイモで、みんなを支えるよ!」


 村人たちは広場に避難所を設けた。

 ルークが木材で屋根を組み、リリィが編んだ毛布を配る。

 ニーナは大鍋でサトイモスープを煮込み、ズイキ炒めを盛り付けた。

 避難民がスープを飲み、顔がほころんだ。

 ミラが小さな声で言った。


「こんな美味しいの、初めて……。お姉さん、魔法使い?」


 ニーナは笑い、ミラの頭を撫でた。


「魔法じゃないよ。サトイモの力! もっと食べて、元気になって!」


 トミとサラが避難民の子供たちに「サトイモ姫」の絵本を見せ、歌を教えた。

 ミラが目を輝かせ、物語に耳を傾けた。


「サトイモ姫、洪水の魔王をやっつける? ロザンも救ってくれる?」


 ニーナは頷き、読み聞かせた。


「サトイモ姫は、ホクホクの魔法で洪水を追い払った! みんなで笑顔を取り戻すよ!」


 避難民の子供たちが拍手し、村人たちが笑顔で囲んだ。

 マリアが杖を突き、言った。


「ニーナさん、あんたの芋は村を救う。ロザンの人たちも家族だ」


 豪雨は数日続き、道は依然寸断。

 ニーナは貯蔵庫をチェックし、サトイモが十分あることを確認。

 彼女は新作「サトイモ団子」を試作。

 蒸した芋を潰し、野草の粉で固め、ほのかな甘みを加えた。

 試食会で、ミラが団子を食べ、笑った。


「お姉ちゃん、ふわふわ! サトイモ姫の魔法みたい!」


 トミが叫んだ。


「ニーナ姉ちゃん、団子で洪水の魔王、やっつける!」


 村人たちが笑い、避難民の男性が驚いた。


「こんな貧しい村で、こんなごちそう……。ハーレイン、すごいな」


 ニーナは答えた。


「サトイモのおかげ。みんなで分ければ、どんな冬も乗り越えられる!」


 雨が小降りになった夜、ニーナは焚き火を囲む宴を開いた。

 サトイモケーキを配り、ルークが薪をくべる。

 リリィが毛布を追加で編み、子供たちが歌う。

 避難民の女性が涙ながらに言った。


「ロザンが水に沈んでも、ここで希望が見えた。ありがとう、ニーナさん」


 ルークがぶっきらぼうに言った。


「ニーナ、ったく無茶するな。けど……悪くねえぜ」


 リリィが微笑んだ。


「お嬢様、サトイモは村を超える宝。ロザンの人たちも救いましたね」


 雨が止み、村人たちは避難民と道の復旧作業を始めた。

 ニーナとルークが泥を掻き出し、ミラが小さなシャベルで手伝う。

 彼女はニーナに言った。


「ハーレイン、帰りたい場所になった。お姉ちゃん、ありがとう」


 ニーナはミラを抱きしめた。


「ミラ、いつでもおいで。サトイモ、いつでも待ってるよ!」


 避難民の一部がハーレインに残り、図書室の建設を手伝い始めた。

 ニーナは手帳にメモした――「豪雨乗り越えた! サトイモでロザンの避難民も笑顔! 次は図書室で、もっと絆を!」


 星空の下、畑の藁を撫で、彼女はつぶやいた。


「サトイモ、ありがとう。ロザンもハーレインも、家族になったよ」


 手帳に追記した――「サトイモで、村を超えた絆! 春の畑、もっと大きく!」


 ハーレインの夜は冷たく、だが熱い希望に満ちていた。

 ニーナのサトイモは、隣村の悲しみを癒し、未来を照らし始めていた。



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