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サトイモ令嬢のスローライフ  作者: 海老川ピコ
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第18話:王都からの使者と再会

 ハーレインの冬は、冷たい風が村を包み、畑を静寂に閉ざしていた。

 ニーナ・ホンヘルは厚手の麻エプロンをまとい、ポニーテールにまとめた栗色の髪を揺らし、藁に覆われたサトイモ畑を点検していた。

 手帳には初級鑑定スキルの記録と、図書室建設の進捗が書き込まれていた。

 サーニルとの取引を成功させ、市場でのサトイモ販売が村に資金をもたらし、子供たちの読み書き教室が活気づいていた。

 サトイモは村の希望の象徴だった。


「サトイモ、春まで頑張ってね。図書室ができたら、もっとみんなの夢が広がるよ!」


 ニーナは冷たい土を撫で、つぶやいた。

 白い息が朝霧に溶け、遠くで子供たちの歌声が響く。

 広場の木陰では、トミとサラが「サトイモ姫」の新作物語を語り、村人たちが笑顔で聞き入っていた。

 だが、その穏やかな朝、広場に馬車の音が轟いた。

 ホンヘル家の紋章が刻まれた豪華な馬車が到着し、執事のカールが降り立った。

 灰色の髪をきっちり結い、燕尾服に身を包んだ彼は、威厳と温かさを併せ持つ。

 村人たちがざわめく中、ニーナは目を丸くした。


「カールさん!? なんでハーレインに?」


 カールは穏やかな笑みを浮かべ、丁寧に一礼した。


「ニーナ様、エリザ様のご依頼で参りました。サトイモの評判が王都に届き、取引の提案を」


 ニーナは胸に警戒が走った。

 サーニルの企みを思い出し、王都の動きに不安を感じた。

 ルークがそばで囁いた。


「ニーナ、ホンヘル家が絡むなんて、なんか怪しいぞ。気をつけろ」


 マリアが杖をつき、前に進み出た。


「カール殿、歓迎するが、ニーナさんのサトイモは村の宝だ。何の用だ?」


 カールは書状を取り出し、静かに読み上げた。


「エリザ様曰く、『ニーナのサトイモはホンヘル家の誇り。王都での販売を支援し、名誉を高めたい』と」


 村人たちがざわめき、ニーナは書状に初級鑑定スキルを向けた。

 視界に「真意:和解と支援」「裏意:王都貴族の監視」の文字が浮かび、彼女は息をのんだ。


「姉さん、和解したいって本当? でも、王都の貴族がサトイモを狙ってるんだ……!」


 ニーナはカールを広場の木の下に招き、話を聞いた。

 カールはエリザがニーナの成功を認め、ホンヘル家の名を高めるためサトイモを王都で広めたいと説明。

 だが、王都の商会や貴族がサトイモの利益を独占しようと動いているとも匂わせた。


「ニーナ様、王都は欲に満ちています。サトイモを守るには、慎重な取引が必要です」


 ニーナは頷き、村の自立を優先すると決めた。


「カールさん、姉さんの気持ちは嬉しいけど、サトイモはまずハーレインのためにあるの。王都で売るなら、村が主導する形にしたい」


 カールは感心したように微笑んだ。


「ニーナ様、立派になられました。エリザ様も喜ばれるでしょう」


 その夜、村人たちはカールを歓迎する宴を広場で開いた。

 サトイモチップス、煮物、ケーキが並び、子供たちが「サトイモ姫」の歌を歌う。

 カールがケーキを食べ、目を輝かせた。


「驚くべき味です! 王都の貴族も舌を巻くでしょう」


 リリィが得意げに言った。


「カール様、これがお嬢様のサトイモの魔法ですよ!」


 ルークはぶっきらぼうにスープを差し出した。


「まあ、食ってみな。ニーナの芋は、ただもんじゃねえから」


 宴の後、カールはニーナにエリザからの個人的な手紙を渡した。

 そこには「ニーナ、ごめんね。サトイモ、食べてみたら本当においしかった。あなたを応援するよ」と書かれていた。

 ニーナの胸が熱くなり、涙を堪えた。


「姉さん……ありがとう。サトイモで、もっと繋がれるかな」


 だが、カールは声を潜め、警告した。


「ニーナ様、王都の商会、特にサーニルの一派がサトイモを狙っています。彼らは貴族と結託し、畑を奪う計画です。エリザ様はそれを阻止しようと動いています」


 ニーナは拳を握り、決意を新たにした。


「カールさん、教えてくれてありがとう。サトイモはハーレインの魂。絶対守るよ!」


 翌日、ニーナはルーク、リリィ、マリアと作戦を練った。

 サトイモを王都で売るなら、村が主体となり、商会を牽制する計画だ。

 リリィが提案した。


「お嬢様、ホンヘル家の名を使って、商会に圧力をかけましょう。私、王都の交渉術、少し知ってます」


 ルークが鼻を鳴らした。


「サーニルの野郎、また出てきやがったか。ニーナ、俺も手伝うぜ」


 マリアが杖を突き、笑った。


「ニーナさん、村はあんたを信じてる。サトイモで、王都を驚かせな!」


 ニーナは子供たちを集め、仮設の青空図書室での読み聞かせ会を開いた。

 トミが新しい物語を叫んだ。


「サトイモ姫、王都の悪い貴族をやっつける話! 芋の魔法で、みんな笑顔に!」


 サラが手を叩いた。


「ズイキのムチで、商会を追い払うの! 最高!」


 ニーナは笑い、手帳にメモした――「サトイモ姫、王都へ! 子供たちの物語、もっと広げる!」


 宴の後、村人たちはカールにサトイモの種芋を贈った。

 カールは感動し、言った。


「ニーナ様、この芋はホンヘル家の庭で育てましょう。エリザ様も喜びます」


 ホンヘル家にもともと生えていたサトイモは家を出るときすべて収穫して処分してしまったのだ。

 今回は里帰りとなる。

 カールが馬車で去る日、ニーナは見送りながらつぶやいた。


「姉さん、サトイモでまた会おうね。ハーレインの誇り、王都に届けるよ!」


 その夜、ニーナは小屋で手帳を開き、メモした――「カールさんとの再会、成功! 姉さんと繋がれた! サトイモで王都を変える? でも、まずハーレイン!」


 星空の下、畑の藁を撫で、彼女はつぶやいた。


「サトイモ、ありがとう。あなたのおかげで、姉さんとまた近づけたよ」


 次の朝、ニーナは図書室の建設を再開。

 子供たちが絵本を描き、村人たちが資材を運ぶ。

 サーニルの影はまだ見えたが、ニーナの決意は揺るがなかった。

 彼女は手帳に追記した――「サトイモで村を守り、王都に希望を! 図書室、絶対完成!」

 ハーレインの夜は冷たく、だが熱い希望に満ちていた。

 ニーナのサトイモは、村を超え、遠くの未来を照らし始めていた。



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