第17話:図書室の第一歩と子供たちの夢
ハーレインの冬は、冷たい風が村を包み、畑を静寂に閉ざしていた。
ニーナ・ホンヘルは厚手の麻エプロンをまとい、ポニーテールにまとめた栗色の髪を揺らし、藁に覆われたサトイモ畑を点検していた。
手帳には初級鑑定スキルの記録と、村をさらに強くする決意が書き込まれていた。
サーニルとの取引を成功させ、サトイモは村の希望の象徴となっていた。
市場での売上は、ニーナの夢――図書室の建設資金に充てられていた。
「サトイモ、春まで頑張ってね。図書室ができたら、子供たちにたくさんの物語を届けたい!」
ニーナは冷たい土を撫で、つぶやいた。
白い息が朝霧に溶け、遠くで子供の笑い声が響く。
サトイモ祭りの成功、「サトイモ姫」の絵本、エリザとの和解、リリィの編み物教室、そして商会との交渉勝利――これらが村に活気をもたらしていた。
ニーナは、子供たちに読み書きを教える小さな図書室を作る夢を膨らませていた。
ある朝、ニーナは村の広場に村人たちを集めた。
粗末な木のテーブルにサトイモチップスの売上金を並べ、彼女は笑顔で宣言した。
「みんな、市場の売上で、図書室の資材を買えるよ! 子供たちが物語を読める場所、作ろう!」
トミとサラが目を輝かせ、叫んだ。
「ニーナ姉ちゃん、図書室って、絵本がいっぱいのとこ? サトイモ姫、もっと作りたい!」
村人たちが拍手し、マリアが杖を突きながら頷いた。
「ニーナさん、いい考えだ。子供たちに字を教えたら、村の未来が明るくなる」
だが、資材はまだ不足していた。
ハーレインの貧しさでは、木材や紙が高価で、図書室の建設は遅れがちだった。
ニーナはめげず、リリィとルークに相談した。
「リリィ、ルーク、もっとサトイモを売って資金を集めよう。隣町の市場で、チップスと新作料理を売るの!」
リリィが目を輝かせた。
「お嬢様、ポタージュも加えましょう! 王都でも売れる味ですよ!」
ルークはぶっきらぼうに言った。
「ったく、また忙しくなるな。まあ、芋のためなら手伝うぜ」
ニーナは村外れの空き地を選び、図書室の基礎工事を始めた。
子供たちが泥だらけで木材を運び、トミが小さなシャベルで土を掘る。
サラが笑いながら水をかけた。
「サトイモ姫の城、できるかな!」
ニーナは笑顔で子供たちを指導した。
「ふふ、城じゃないけど、物語の家だよ! こうやって、土を平らにね」
村人たちも加わり、老人が木材を削り、女性たちが壁に使う藁を編んだ。
だが、資材不足は深刻で、ニーナは隣町ベルリングでの販売を増やすことにした。
彼女は小屋で新作料理を試作。サトイモを蒸し、野草のハーブと混ぜた「サトイモ新サラダ」を開発。
試食したリリィが驚いた。
「お嬢様、これ、シャキシャキで美味しい! 市場で人気出ます!」
翌週、ニーナ、ルーク、リリィは馬車で隣町の市場へ向かった。
屋台にはチップス、煮物、サラダが並び、子供たちが「サトイモ姫」の歌を歌って客を惹きつける。
客がサラダを食べ、感嘆の声を上げた。
「この芋、こんな味になるのか! ハーレイン、すごいな!」
売上は順調に伸び、木材と紙を購入。
ニーナは手帳にメモした――「サトイモ新サラダ、大成功! 図書室の資材、半分確保!」だが、市場でサーニルの姿を見かけた。
彼は別の商人と話し、ニーナの屋台を遠くから観察していた。
初級鑑定スキルで書状を覗くと「サトイモの市場掌握計画」の文字。
ニーナはルークに囁いた。
「サーニル、まだ諦めてない。サトイモを王都で独占する気だよ」
ルークが拳を握った。
「またアイツか。ニーナ、俺たちで負けねえようにするぜ」
帰村後、ニーナは子供たちと「サトイモ姫」の続編作りを始めた。
広場の木陰で、トミが興奮して提案した。
「サトイモ姫、悪い商人をやっつける話! 芋の魔法で、村を守るんだ!」
サラが手を叩いた。
「ズイキのムチで、商人を追い払うの! 葉のスープで、みんな元気に!」
ニーナは笑い、手帳にメモした――「サトイモ姫の新冒険、子供たちと創作! 商人をやっつける物語!」
子供たちは粗末な紙に絵を描き、ニーナが簡単な文字を添えた。
識字率の低いハーレインでは、字を読めない子供も多かったが、物語を口で語り、絵で表現することに夢中になった。
ニーナは前世の記憶を頼りに、物語を通じて読み書きを教えた。
サラが初めて「サトイモ」と書けた時、目を輝かせた。
「ニーナ姉ちゃん、字、書けた! サトイモ姫、もっと作りたい!」
トミも叫んだ。
「次は、サトイモ姫が王都に行く話! 悪い奴ら、全部やっつける!」
ニーナは子供たちの想像力に心を動かされ、読み聞かせ会を開いた。
ランタンの光の下、彼女は大きな声で物語を読み上げた。
「サトイモ姫は、ホクホクの魔法で悪い商人を追い払った! 村は笑顔でいっぱいに!」
子供たちが歓声を上げ、村人たちが拍手した。
老婆がニーナに笑顔で言った。
「ニーナさん、子供たちがこんな楽しそうに話すの、初めてだよ。この芋、ほんとすごいね」
リリィは編み物教室と並行して、子供たちに簡単な文字を教え始めた。
村の女性たちも参加し、識字率が少しずつ上がった。
ルークがぶっきらぼうに言った。
「ニーナ、子供たちがうるさいぞ。けど、なんか楽しそうだな」
ニーナは笑い、ルークの肩を叩いた。
「ルークも絵本、読んでみる? サトイモ姫、ルークみたいに強いよ!」
ルークは顔を赤らめ、そっぽを向いた。
「バカ言うな。俺は芋掘るだけでいい」
だが、彼はこっそり絵本を手に取り、子供たちと読み始めた。
ニーナは手帳に追記した――「ルーク、実は子供好き? サトイモ姫、仲間入り!」。
ある夜、ニーナは図書室の基礎を見に空き地へ行った。
月光に照らされた土台が、未来の希望に見えた。
彼女はつぶやいた。
「サトイモ、ありがとう。あなたのおかげで、子供たちの夢が育ってるよ」
だが、資材不足はまだ解消せず、ニーナはさらなる販売計画を立てた。
彼女はサトイモケーキを試作。
甘みを活かし、野草のハーブで風味を加えた。
試食会で、トミが目を輝かせた。
「ニーナ姉ちゃん、これ、めっちゃ甘い! 王都のお菓子みたい!」
マリアが頷いた。
「ニーナさん、このケーキ、市場で売ったら図書室がすぐできるよ」
ニーナは手帳にメモした――「サトイモケーキ、大好評! 図書室、絶対完成させる! サーニルに負けない!」
星空の下、彼女は畑の藁を撫で、つぶやいた。
「サトイモ、子供たちの未来も守ってね。図書室で、もっと笑顔を増やすよ!」
次の日、ニーナは市場でケーキを売り、資金を増やした。
子供たちが歌い、村人たちが屋台を盛り上げる。
サーニルの影はまだ見えたが、ニーナの決意は揺るがなかった。
彼女は手帳に追記した――「図書室の第一歩、成功! サトイモで子供たちの夢を! 王都の商会、絶対負けない!」
ハーレインの夜は冷たく、だが熱い希望に満ちていた。
ニーナのサトイモは、子供たちの未来を照らし、村を強くしていた。