第14話:リリィの派遣
ハーレインの冬は、冷たい風と静かな夜で村を包んでいた。
ニーナ・ホンヘルのサトイモ畑は、寒空の下で静かに春を待ち、村はサトイモ祭りや「サトイモ姫」の絵本、エリザとの和解で希望に満ちていた。
ニーナは、ポニーテールにまとめた栗色の髪と厚手の麻エプロンで、冷たい土に覆われた畑をチェックしていた。
手帳には、初級鑑定スキルの記録と、図書室の夢や王都へのサトイモ拡大の願いが書き込まれていた。
南部だけあって、ぎりぎり雪は降らない地域なので、助かっていた。
ニーナたち、貴族の令嬢に、ボロ小屋での越冬で雪だったら相当キツいところだった。
「サトイモ、寒空の下でも頑張ってるね。春にはまたホクホクの芋をみんなで食べよう!」
ニーナは冷たい土の上に敷かれた、藁に守られたサトイモをそっと確認した。
村は活気を取り戻し、隣町ベルリングの商人からの取引話も増えていた。
そんな中、ホンヘル家の馬車が村に到着した。
降り立ったのは、赤毛をきつく結い上げたリリィだった。
彼女はニーナを見て、いつもの生真面目な表情で言った。
「お嬢様! こんな寒い田舎で何してるんですか! エリザお嬢様の命で、監視と支援に来ました」
ニーナは目を丸くし、笑顔で迎えた。
「リリィ! やっと会えた! 監視って何? でも、来てくれて嬉しいよ!」
リリィはホンヘル家がサトイモの評判を利用し、利益を得るために彼女を派遣したと説明した。
だが、村の粗末な小屋や泥だらけの畑を見て、彼女は眉をひそめた。
「こんなところで芋? お嬢様、貴族の令嬢がこんな泥仕事なんて……」
ニーナは笑い、シャベルをリリィに渡した。
「リリィ、やってみて! サトイモ、楽しいよ!」
リリィは戸惑いながらも、ニーナの熱意に押され、畑に足を踏み入れた。
冷たい冬の土を掘る作業は彼女にとって未知の世界だった。
最初はぎこちなくシャベルを動かし、泥でドレスを汚すたびに顔をしかめた。
「お嬢様、これ、汚いし寒いし……本当に意味あるんですか?」
ニーナは笑顔で答えた。
「あるよ! ほら、こうやって土をほぐすと、春に芋が元気に育つんだ!」
リリィは半信半疑だったが、ニーナの指導でサトイモの世話を学び始めた。
初級鑑定スキルで土の状態を教わり、藁の敷き方を真似る。
数日後、彼女は小さなサトイモを掘り出し、驚いた。
「これ、食べられるんですか? ゴツゴツして……」
「ふふ、リリィ、食べてみて!」
ニーナは小屋でサトイモの煮物を作り、リリィに振る舞った。
リリィは恐る恐る一口食べ、目を丸くした。
「……美味しい! こんな芋が、こんな味に!?」
ニーナは得意げに笑った。
「でしょ! サトイモは魔法の芋だよ!」
リリィはだんだんサトイモに馴染み始めた。
村人たちは当初、ホンヘル家の侍女を冷ややかに見ていたが、彼女が泥だらけで畑仕事をする姿に心を動かされた。
ニーナはリリィにサトイモ料理を教え、ズイキ炒めや葉のスープも試作した。
リリィは特にポタージュに感動し、手帳にレシピを書き込んだ。
「お嬢様、このスープ、王都でも売れますよ!」
ニーナは笑い、提案した。
「リリィ、村で何か教えてみたら? みんな、喜ぶよ!」
リリィは思案し、編み物教室を開くことにした。
村の女性たちに毛糸の扱いや簡単なセーターの編み方を教えると、彼女たちは目を輝かせた。
マリアが笑顔で言った。
「リリィさん、いい腕だね。サトイモと編み物で、冬が温かくなりそうだ」
リリィは照れながらも、村に受け入れられつつあるのを感じた。
子供たちが「リリィ姉ちゃん」と呼び、トミとサラが編み物の真似をする。
ルークも、ぶっきらぼうにリリィを褒めた。
「ニーナの侍女、意外とやるな。芋も編み物も、悪くない」
リリィは顔を赤らめ、ニーナに囁いた。
「お嬢様、この村、最初は嫌だったけど……なんか、悪くないです」
ニーナは笑い、リリィの手を握った。
「でしょ! サトイモとハーレイン、最高だよ!」
その夜、ニーナは手帳にメモを書き込んだ――「リリィ、サトイモ仲間! 編み物教室、大成功! 次は図書室とサトイモ、もっと広げる!」。
星空の下、畑の冷たい土に覆われたサトイモを見やり、彼女はつぶやいた。
「サトイモ、ありがとう。リリィも村も、家族になってきたよ」
ハーレインの夜は、冷たくも温かかった。
ニーナとリリィのサトイモは、村の未来をさらに明るく照らし始めていた。




