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サトイモ令嬢のスローライフ  作者: 海老川ピコ
14/24

第14話:リリィの派遣

 ハーレインの冬は、冷たい風と静かな夜で村を包んでいた。

 ニーナ・ホンヘルのサトイモ畑は、寒空の下で静かに春を待ち、村はサトイモ祭りや「サトイモ姫」の絵本、エリザとの和解で希望に満ちていた。

 ニーナは、ポニーテールにまとめた栗色の髪と厚手の麻エプロンで、冷たい土に覆われた畑をチェックしていた。

 手帳には、初級鑑定スキルの記録と、図書室の夢や王都へのサトイモ拡大の願いが書き込まれていた。

 南部だけあって、ぎりぎり雪は降らない地域なので、助かっていた。

 ニーナたち、貴族の令嬢に、ボロ小屋での越冬で雪だったら相当キツいところだった。


「サトイモ、寒空の下でも頑張ってるね。春にはまたホクホクの芋をみんなで食べよう!」


 ニーナは冷たい土の上に敷かれた、藁に守られたサトイモをそっと確認した。

 村は活気を取り戻し、隣町ベルリングの商人からの取引話も増えていた。

 そんな中、ホンヘル家の馬車が村に到着した。

 降り立ったのは、赤毛をきつく結い上げたリリィだった。

 彼女はニーナを見て、いつもの生真面目な表情で言った。


「お嬢様! こんな寒い田舎で何してるんですか! エリザお嬢様の命で、監視と支援に来ました」


 ニーナは目を丸くし、笑顔で迎えた。


「リリィ! やっと会えた! 監視って何? でも、来てくれて嬉しいよ!」


 リリィはホンヘル家がサトイモの評判を利用し、利益を得るために彼女を派遣したと説明した。

 だが、村の粗末な小屋や泥だらけの畑を見て、彼女は眉をひそめた。


「こんなところで芋? お嬢様、貴族の令嬢がこんな泥仕事なんて……」


 ニーナは笑い、シャベルをリリィに渡した。


「リリィ、やってみて! サトイモ、楽しいよ!」


 リリィは戸惑いながらも、ニーナの熱意に押され、畑に足を踏み入れた。

 冷たい冬の土を掘る作業は彼女にとって未知の世界だった。

 最初はぎこちなくシャベルを動かし、泥でドレスを汚すたびに顔をしかめた。


「お嬢様、これ、汚いし寒いし……本当に意味あるんですか?」


 ニーナは笑顔で答えた。


「あるよ! ほら、こうやって土をほぐすと、春に芋が元気に育つんだ!」


 リリィは半信半疑だったが、ニーナの指導でサトイモの世話を学び始めた。

 初級鑑定スキルで土の状態を教わり、藁の敷き方を真似る。

 数日後、彼女は小さなサトイモを掘り出し、驚いた。


「これ、食べられるんですか? ゴツゴツして……」

「ふふ、リリィ、食べてみて!」


 ニーナは小屋でサトイモの煮物を作り、リリィに振る舞った。

 リリィは恐る恐る一口食べ、目を丸くした。


「……美味しい! こんな芋が、こんな味に!?」


 ニーナは得意げに笑った。


「でしょ! サトイモは魔法の芋だよ!」


 リリィはだんだんサトイモに馴染み始めた。

 村人たちは当初、ホンヘル家の侍女を冷ややかに見ていたが、彼女が泥だらけで畑仕事をする姿に心を動かされた。

 ニーナはリリィにサトイモ料理を教え、ズイキ炒めや葉のスープも試作した。

 リリィは特にポタージュに感動し、手帳にレシピを書き込んだ。


「お嬢様、このスープ、王都でも売れますよ!」


 ニーナは笑い、提案した。


「リリィ、村で何か教えてみたら? みんな、喜ぶよ!」


 リリィは思案し、編み物教室を開くことにした。

 村の女性たちに毛糸の扱いや簡単なセーターの編み方を教えると、彼女たちは目を輝かせた。

 マリアが笑顔で言った。


「リリィさん、いい腕だね。サトイモと編み物で、冬が温かくなりそうだ」


 リリィは照れながらも、村に受け入れられつつあるのを感じた。

 子供たちが「リリィ姉ちゃん」と呼び、トミとサラが編み物の真似をする。

 ルークも、ぶっきらぼうにリリィを褒めた。


「ニーナの侍女、意外とやるな。芋も編み物も、悪くない」


 リリィは顔を赤らめ、ニーナに囁いた。


「お嬢様、この村、最初は嫌だったけど……なんか、悪くないです」


 ニーナは笑い、リリィの手を握った。


「でしょ! サトイモとハーレイン、最高だよ!」


 その夜、ニーナは手帳にメモを書き込んだ――「リリィ、サトイモ仲間! 編み物教室、大成功! 次は図書室とサトイモ、もっと広げる!」。

 星空の下、畑の冷たい土に覆われたサトイモを見やり、彼女はつぶやいた。


「サトイモ、ありがとう。リリィも村も、家族になってきたよ」


 ハーレインの夜は、冷たくも温かかった。

 ニーナとリリィのサトイモは、村の未来をさらに明るく照らし始めていた。



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