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サトイモ令嬢のスローライフ  作者: 海老川ピコ
12/24

第12話:サトイモを巡る恋の噂

 ハーレインの冬が近づくにつれ、冷たい風が村を包み始めた。

 オルティア王国の辺境の村は、ニーナ・ホンヘルのサトイモ畑とその成功で、少しずつ活気を取り戻していた。

 サトイモ祭りの笑顔、「サトイモ姫」の絵本、そして王都のスパイを追い出した団結――これらが、村人たちの心に希望の火を灯していた。


「サトイモ、寒くなってきたけど、負けないでね。来春にはもっと大きな畑にするよ!」


 ニーナはシャベルを手に、土をほぐしながらつぶやいた。

 畑のサトイモは、冬を越すために藁で覆われ、静かに次の季節を待っていた。

 村人たちは、ニーナのサトイモ料理を日常に取り入れ、市場では「ニーナさんの芋」が話題になっていた。

 子供たちは「サトイモ姫」を歌いながら遊び、村に笑顔が広がっていた。

 そんな中、村人たちの間で新たな噂が囁かれ始めた――「サトイモ令嬢とルークの恋物語」。


 ある朝、ニーナが畑で水やりをしていると、トミとサラが子供たちを連れて駆け寄ってきた。

 トミがニヤニヤしながら叫んだ。


「ニーナ姉ちゃん! ルーク兄ちゃんと結婚するって、ほんと?」


 サラが目を輝かせて続ける。


「村のおばちゃんたちが、ニーナ姉ちゃんとルーク、畑でいつも一緒にいるって! 恋だよね!」


 ニーナはシャベルを落としそうになり、顔を赤らめた。


「え、な、なに! ? ルークと? そんなわけないよ! ただのサトイモ仲間だもん!」


 子供たちは笑いながら手を叩き、からかい始めた。


「ニーナ姉ちゃん、照れてる! ルーク兄ちゃん、絶対好きだよね!」


 ニーナは慌てて手を振った。


「もう、トミ、サラ! 変なこと言わないで! 私の心はサトイモに決まってるよ!」


 だが、子供たちの言葉は止まらず、広場に響き渡った。

 その声に引き寄せられ、ルークがぶっきらぼうな足取りで現れた。

 彼はいつものように腕を組み、ニーナをちらりと見た。


「ニーナ、なんだこの騒ぎ? また子供たちを煽ってるのか?」


 ニーナは頬を膨らませ、ルークを指差した。


「ルークのせいだよ! 村のみんなが、なんか変な噂してるんだから!」


 ルークは一瞬きょとんとしたが、子供たちのニヤニヤした顔を見て顔を赤らめた。


「は? 俺が何したってんだ! ただ芋掘ってるだけだろ!」


 トミが笑いながら叫んだ。


「ルーク兄ちゃん、ニーナ姉ちゃんにサトイモのプレゼントしたじゃん! 恋だろ!」


 ニーナとルークは同時に目を丸くした。

 数日前、ルークが畑で手作りの木彫りのサトイモをニーナに渡していたのだ。

 それは、ルークが暇つぶしに彫った小さな置物で、ゴツゴツした形が本物のサトイモそっくりだった。

 ニーナは目を輝かせ、喜んで受け取っていた。


「わ、ルーク、これめっちゃ可愛い! サトイモそっくり! 器用だね!」


 その時のニーナの笑顔が、ルークの胸に小さな波紋を広げていた。

 だが、彼は照れ隠しにぶっきらぼうに言った。


「ただ、暇だったから彫っただけだ。変な意味ねえよ」


 村人たちはその場面を目撃し「サトイモ令嬢とルークの恋物語」を勝手に膨らませていた。

 広場で、老婆たちが市場でひそひそと話す。


「ニーナさんがルークに芋の料理を分けてやるってさ。あれ、絶対恋だよ」

「ルークも、最近畑に毎日行ってる。ニーナさんのためだろ?」


 ニーナはそんな噂を耳にするたび、顔を赤らめて否定した。


「違うよ! ルークはただ、サトイモが好きなんだから!」


 だが、村人たちの冷やかしは止まらず、子供たちは「ニーナ姉ちゃんとルーク、結婚!」と歌まで作り始めた。

 ニーナは手帳にメモを書き込んだ――「村の噂、めっちゃ恥ずかしい! ルークはサトイモ仲間、恋じゃないよ!」。


 ある夕暮れ、ニーナとルークは畑で一緒に作業をしていた。

 冬の準備で、サトイモの株に藁を敷き詰める作業だ。

 ルークはいつものぶっきらぼうな口調で話しかけた。


「ニーナ、村の噂、うるさいな。子供たちが変な歌まで歌ってるぞ」


 ニーナは笑いながら答えた。


「ルークのせいだよ! あの木彫りのサトイモ、かわいすぎたんだから!」


 ルークは顔を赤らめ、そっぽを向いた。


「だから、ただ彫っただけだろ。変に騒ぐなよ」


 だが、ルークの目には、普段のぶっきらぼうさとは違う、ほのかな柔らかさがあった。

 ニーナはそれに気づき、胸が少しドキッとした。

 彼女は恋愛には鈍感だったが、ルークの真剣な表情に、初めて心が揺れた。


「ルーク、ありがとうね。サトイモ仲間、ほんと頼もしいよ」


 ニーナの笑顔に、ルークは照れくさそうに頷いた。


「ああ、まあ……芋のためなら、な」


 その夜、広場で村人たちが焚き火を囲んでいた。

 ニーナはサトイモの煮物を配り、子供たちが「サトイモ姫」の歌を歌う。

 村長のマリアがニーナに笑顔で話しかけた。


「ニーナさん、ルークと仲いいね。村のみんな、応援してるよ」


 ニーナは顔を真っ赤にして手を振った。


「マリアさん、違いますって! サトイモが繋いでくれただけです!」


 マリアはくすっと笑い、焚き火を見つめた。


「サトイモは、ほんと不思議だね。あんたの芋が、村の心を一つにしたよ」


 ニーナは胸が熱くなり、頷いた。


「うん、サトイモは私の宝物。ハーレインの宝物だよ」


 彼女は手帳にメモを書き込んだ――「恋の噂、恥ずかしいけど……ルーク、いいやつ。サトイモで村の絆、もっと強く!」。


 星空の下、ニーナは畑の端でサトイモの葉を撫でた。

 月光に照らされた葉が、静かに揺れる。

 彼女はつぶやいた。


「サトイモ、ありがとう。あなたのおかげで、村が家族みたいになってきたよ」


 彼女の手帳に新たな夢が書き込まれた――「サトイモで、もっと村を強く。ルークと一緒に、未来を作る!」。

 ハーレインの夜は、冷たいが温かかった。

 ニーナのサトイモは、村の絆を深め、希望を育てていた。



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