9.私の番 ― 姉ではなく、推しとして寄り添う
数日後のある夜。
尚人のスマホに、通知が届いた。
RINA_cos:新しい投稿をアップしました。
何気なく開いたその投稿に、尚人の心は、静かに震えた。
「今日は、大切な人を想って撮影した写真です。
少しでも、その人の背中を押せたらいいなって思って。
“誰かの頑張りは、見てくれてる誰かの希望になる”――
そう、教えてくれた人がいます。
だから今日は、私も、精一杯のエールを贈ります。」
添えられていたのは、どこか懐かしい風景を背景にした、あるコスプレ写真。
尚人の好きなアニメのキャラクター――その中でも、彼が一番好きだと語ったヒロインの衣装。
(これ……俺が前に“好き”って言ったキャラ…)
コメントしたのは、だいぶ前のことだった。
それをちゃんと覚えていてくれたこと。
そして、こうして“自分のために”としか思えない形で届けてくれたことに――
尚人の胸は、熱くなった。
一方、ことりは、投稿の反応を静かに見守っていた。
いいねが少しずつ増え、コメントが並び始める中。
たったひとつの通知を、何よりも待っていた。
@nao_cam_photo:
「…こんな形で、背中を押してもらえるなんて思ってなかった。
“好き”って言ってよかった。
…ありがとう。俺のヒロインは、やっぱり、あなたでした。」
その一文に、ことりはそっと、胸に手を当てた。
そのあたりが、じんとあたたかくなるのを感じた。
(ねぇ、尚人。
わたし、ずっと“お姉ちゃん”でいたかったけど、
でも、それだけじゃ足りなくなったみたい)
声に出せない気持ちを、彼女は画面越しに届ける。
ことりではなく、“RINA_cos”として。
でもそこには、“姉としての愛情”が確かに重なっていた。
その夜、尚人はスマホを手に、ひとつのメッセージを送った。
「ことり姉ちゃん。
今度さ、ちょっと話したいことがあるんだけど…
どこかで、ちゃんと時間とって会えないかな?」
ことりは、それを見てからしばらく、返信をせずにいた。
画面の文字を見つめながら、心の中で、そっとつぶやく。
(やっと……来てくれた)
そして、画面にこう打ち込んだ。
「うん、いいよ。
じゃあ、今度は――“ちゃんと会おうね”。
お互い、隠さずに。」