7.触れてしまった正体 ― 優しさの仮面の向こう
あの日のごはんのあと、
尚人は、いつものようにSNSを開いた。
新しい投稿が上がっていた。
「今日は私にとって、とても大切な人と会ってきました。
顔は似てないけど、性格がどこか似ていて…
ずっと秘密にしてきたけど、たぶん…気づかれてる、って思った日。
その人が教えてくれた“軍服、似合うかもよ”って言葉が、ずっと耳に残ってる。」
(……ッ)
尚人は、一気に血の気が引いた。
これは――自分に向けて書かれた文章だ。
あのとき、誰にも言っていない“軍服”という単語。
思いつきの一言だった。
でも、それをここに書かれているということは――
(もう…隠す気、ないんだ)
スマホを持つ手が震えた。
でも、同時に、心の奥がほんのりあたたかくなる。
“知ってくれてよかった”
そんなことりの気持ちが、文章の裏側から伝わってくる気がした。
ことりは、スマホをそっと伏せて、深く息を吐いた。
(これで、尚人は確信するよね。
でももう、嘘をつくの……ちょっと疲れちゃった)
仮面の裏で“誰にも知られたくない”と思っていたのに、
今は、たったひとりにだけなら――知ってほしいって、思えていた。
そして――通知が鳴った。
@nao_cam_photo:
「…たぶん、僕も“あの人”に似てるって言われたことあるよ。
“頑張ってる姿を見ると、自分も頑張ろうって思える”って。
もし、その人と会った日が今日なら――ありがとう。俺も、大事な日になったよ。」
スマホの画面に、ふたりの言葉が並ぶ。
直接、名前も顔も出さない。
でも、それだけで――もう、心が通じてしまっていた。
尚人は、目を閉じた。
この数ヶ月、名前も知らない“推し”に恋していたこと。
そして、その人が“ことり”だったという事実に。
ふしぎと、後悔はなかった。
むしろ、すこしだけ、誇らしかった。
(姉ちゃんは、誰よりもかっこいい人だ)
そして、その夜。
ことりから、LINEが届いた。
「ねぇ、今度の展示会…一緒に行く予定だったでしょ?」
「うん、覚えてるよ」
「もし、会場に“ちょっと変わった格好”してる人がいたら、引かないでね?」
「……そのときは、“似合ってるよ”って言うよ。
…また、あのときみたいに。」
すべてが、やさしく、ほどけていく夜だった。