5.SNS越しの深まり ― 言葉の奥に、あなたが見える
【尚人・深夜0時過ぎ】
布団に入っても、スマホの明かりが消えない。
SNSを開くと、RINA_cosの新しい投稿が上がっていた。
「今日はコメントたくさんありがとう♡
ちょっとずつ自分のことも知ってもらえたらうれしいなぁ…♪
ちなみに、実は昔から××ってアニメが一番好きなんです。
ヒロインのセリフで、今でも覚えてるのが――『大丈夫、君ならできるよ』。
…あの言葉、何度も心の支えになったなぁ☺️」
尚人は、指を止めた。
(…それ、まんま、ことり姉ちゃんが俺に言ってくれた言葉じゃん)
たしか、大学受験に落ちたとき。
部屋にひとりで閉じこもっていたとき、
姉がドアの前にそっとお茶とお菓子を置いてくれて――
「大丈夫、君ならできるよ」
あのときの声は、ただの励ましじゃなくて、
心に深く残る“魔法の言葉”だった。
「…まさか、ね」
もう、偶然では済まされない気がしていた。
でも、それでも心は止まらなかった。
「俺もそのセリフ、好きです。前に姉が言ってくれて、すごく救われたことがあります。
きっと、あなたの優しさも、誰かの支えになってると思いますよ。」
投稿へのコメントとしては、少し踏み込みすぎたかもしれない。
でも――そうせずにはいられなかった。
【ことり・午前0時半】
ベッドに座ってスマホを見ていたことりは、そのコメントを見て固まった。
(…え、これって)
文体。言葉の選び方。
そして、“姉が言ってくれた”というフレーズ。
思い当たるエピソードが――ある。
あのとき、自分が何気なく言ったあのセリフを、覚えてくれていたなんて。
(……尚人、なの?)
でも、それを口に出すには、まだ勇気が足りなかった。
ことりは、スマホを胸に抱きしめて、天井を見上げる。
(このまま、気づかないフリをするのも優しさかもしれない)
(でも――私も、気づいてほしいって思ってる)
だから、ことりは返信を書いた。
「わぁ…そんなエピソード、聞けてうれしいです☺️
“優しさ”って、誰かに言ってもらえるだけで本当に励まされますよね。
あなたの言葉も、すごくあたたかいです。ありがとう♡」
そして、最後に――ほんの一言だけ。
「P.S.:そのお姉さん、きっと素敵な人ですね☺️」
ことりはそっと微笑んだ。
それは、お姉ちゃんとしての“最後のヒント”だった。
【尚人・深夜1時】
通知が鳴った。
「あなたの言葉も、すごくあたたかいです。ありがとう♡
P.S.:そのお姉さん、きっと素敵な人ですね☺️」
(やっぱり……ことり姉ちゃん、かもしれない)
でも、そのときの尚人の表情は、戸惑いではなく、どこか安心しているようだった。
気づいたとて、壊れるわけじゃない。
むしろ――この距離だからこそ、伝えられる想いもある。
尚人はスマホを胸に置いて、そっと目を閉じた。
心のどこかで、もうわかっている。
きっと、彼女も――同じ気持ちで、ここにいる。