表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで灯す、やさしさのかたち  作者: 流浪の旅人
第1章 それぞれの秘密、それぞれの夜 — 推しが、姉でした。
5/114

5.SNS越しの深まり ― 言葉の奥に、あなたが見える

【尚人・深夜0時過ぎ】


布団に入っても、スマホの明かりが消えない。


SNSを開くと、RINA_cosの新しい投稿が上がっていた。


「今日はコメントたくさんありがとう♡

ちょっとずつ自分のことも知ってもらえたらうれしいなぁ…♪

ちなみに、実は昔から××ってアニメが一番好きなんです。

ヒロインのセリフで、今でも覚えてるのが――『大丈夫、君ならできるよ』。

…あの言葉、何度も心の支えになったなぁ☺️」


尚人は、指を止めた。


(…それ、まんま、ことり姉ちゃんが俺に言ってくれた言葉じゃん)


たしか、大学受験に落ちたとき。

部屋にひとりで閉じこもっていたとき、

姉がドアの前にそっとお茶とお菓子を置いてくれて――


「大丈夫、君ならできるよ」


あのときの声は、ただの励ましじゃなくて、

心に深く残る“魔法の言葉”だった。


「…まさか、ね」


もう、偶然では済まされない気がしていた。

でも、それでも心は止まらなかった。


「俺もそのセリフ、好きです。前に姉が言ってくれて、すごく救われたことがあります。

きっと、あなたの優しさも、誰かの支えになってると思いますよ。」


投稿へのコメントとしては、少し踏み込みすぎたかもしれない。

でも――そうせずにはいられなかった。


【ことり・午前0時半】


ベッドに座ってスマホを見ていたことりは、そのコメントを見て固まった。


(…え、これって)


文体。言葉の選び方。

そして、“姉が言ってくれた”というフレーズ。


思い当たるエピソードが――ある。

あのとき、自分が何気なく言ったあのセリフを、覚えてくれていたなんて。


(……尚人、なの?)


でも、それを口に出すには、まだ勇気が足りなかった。


ことりは、スマホを胸に抱きしめて、天井を見上げる。


(このまま、気づかないフリをするのも優しさかもしれない)

(でも――私も、気づいてほしいって思ってる)


だから、ことりは返信を書いた。


「わぁ…そんなエピソード、聞けてうれしいです☺️

“優しさ”って、誰かに言ってもらえるだけで本当に励まされますよね。

あなたの言葉も、すごくあたたかいです。ありがとう♡」


そして、最後に――ほんの一言だけ。


「P.S.:そのお姉さん、きっと素敵な人ですね☺️」


ことりはそっと微笑んだ。

それは、お姉ちゃんとしての“最後のヒント”だった。


【尚人・深夜1時】


通知が鳴った。


「あなたの言葉も、すごくあたたかいです。ありがとう♡

P.S.:そのお姉さん、きっと素敵な人ですね☺️」


(やっぱり……ことり姉ちゃん、かもしれない)


でも、そのときの尚人の表情は、戸惑いではなく、どこか安心しているようだった。


気づいたとて、壊れるわけじゃない。

むしろ――この距離だからこそ、伝えられる想いもある。


尚人はスマホを胸に置いて、そっと目を閉じた。


心のどこかで、もうわかっている。

きっと、彼女も――同じ気持ちで、ここにいる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ