4.すれ違いのSNS ― 見えそうで、見えない君へ
【弟・尚人の夜】
「…あ、ストーリー上がってる」
布団の中でスマホを見つめながら、尚人はまた“彼女”のストーリーをタップする。
「今日は初めての衣装だったけど、みんな褒めてくれてうれしい…♡」
「次は何着ようかな?オススメのキャラあったら教えてください♪」
柔らかい絵文字と、ちょっとお茶目な口調。
その“文体”が、どこか姉に似ている気がして、尚人はつい眉をひそめた。
(いやいや、考えすぎだって……でも)
写真の中のその人は、ことりとはまるで違う――はずなのに。
ふとした仕草や、目元の印象が、頭から離れない。
「…もう、変な妄想はやめよう」
そう言い聞かせながらも、尚人はRINA_cosに“おすすめキャラ”として、
自分が好きな作品の中から、ことりが昔話していたアニメのキャラをあえてコメントしてみた。
「○○の××とか、似合いそうです」
ちょっとした確認のつもりだった。
もし反応が返ってきたら――それは、もしかして。
【姉・ことりの夜】
(ん?この名前……また、コメントくれてる)
お風呂上がりの髪をドライヤーで乾かしながら、スマホをちらりと覗く。
「○○の××とか、似合いそうです」
ことりは、思わず吹き出した。
(それ、昔わたしがハマってたアニメじゃん……尚人に話したこと、あったかも)
ほんの一瞬、心が跳ねる。
(まさかね……でも)
このアカウント、本当に不思議。
いつも適度な距離感で、でも作品やキャラに詳しくて。
なにより、言葉の選び方が、どこか“近い人”みたいで落ち着く。
ことりは、少し迷ってから返信を打つ。
「その作品、実はずっと前から好きだったの♡ いつか着てみたいなぁ♪」
ほんのり“匂わせる”ような文章。
もしかしたら、気づいてくれるかも……そんな期待が、心のどこかにあった。
でも――
「……なにやってんの、私」
スマホを伏せて、ことりは小さくため息をついた。
“バレたいのか、バレたくないのか、自分でも分からない”
【交わらないまま、すれ違う夜】
尚人は、返信を見て、思わず心臓が跳ねた。
(“ずっと前から好きだった”? それって……)
けれど、すぐに頭を振る。
(いやいや、偶然。たまたま被っただけ。こんなの、決めつけるなんて…)
スマホの画面は、光っては消え、また光っては消える。
ふたりの心は、すぐそこにある“正体”を前にして、
あと一歩――踏み出せないまま。
その夜も、ただ、静かに過ぎていく。