11.ただの雑談、でも心に残る魔法のひとこと
ある平日の夜。
ことりと尚人は、たまたま同じ時間にオンラインで通話していた。
お互いに顔は出さず、音声だけで繋がった、ちょっとした近況報告タイム。
「ねぇ尚人、そういえば最近、あのアニメの新作観た?」
「ああ、観たよ。例の中性的なあの子、相変わらず魅せてくるよな〜。
なんかこう……強さも可愛さもあってさ」
「わかる! 私もああいう“雰囲気系”キャラ、ほんと好き〜」
少し会話が途切れたあと、
ことりがぽつりと呟いた。
「……そういう子ってさ、ちゃんと自分を知ってて、
『どう見られたいか』も分かってるから、魅力的に見えるんだよね」
尚人は、その言葉にドキッとした。
(どう見られたいか……)
「尚人もさ、写真撮るとき、
“こう見せたい”って意識してるときあるでしょ?」
「……あ、うん、あるかも。
風景とかでも、構図とか光とか気にするし」
「それそれ。そういうのって、コスプレでも同じでさ。
“こう見せたい”って思った瞬間から、
もうその人の中には、キャラの気配があるって私は思ってる」
尚人は、ことりが何気なく言ったその一言に、
心がふわっと軽くなるのを感じた。
(“こう見せたい”って思った瞬間から、もうキャラの気配がある……か)
それって――
もう俺の中にも、そのキャラが“生まれ始めてる”ってこと?
何も言わずに聞いていたけれど、
ことりの言葉は、尚人の中に小さな自信を灯していた。
通話を終えたあと、尚人は鏡の前に立ってみた。
ウィッグを被るわけでもなく、
衣装を着るわけでもない、ただの自分。
でも、ふと目元を引き締めて、
推しキャラの決めセリフを、心の中で口にしてみた。
その瞬間――
鏡の中に、少しだけ“キャラの気配”が宿った気がした。




