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ふたりで灯す、やさしさのかたち  作者: 流浪の旅人
第2章 ふたりで、ゆっくり歩き出す — “やってみたい”が、芽吹いた日
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6.なんでもない会話の、やさしい一言

週末の昼下がり。

ふたりは、いつものようにカフェでお茶をしていた。


注文したパフェが運ばれてきて、尚人がスマホで軽く写真を撮ると、

ことりはクスッと笑った。


「尚人、写真撮るの上手くなったね〜。

さりげなく構図とか考えてるでしょ?」


「……ま、まあ、ちょっとだけね。

なんとなく、最近は“映える”っていうのを意識してるかも」


「ふふっ、いいねいいね。

“映える”って言葉が自然に出てきたあたり、

たぶん尚人のセンスも進化してるよ」


尚人は冗談まじりに笑っていたけれど、

心の中では――ほんの少しだけ、ドキリとしていた。


(……センス、進化してる、か)


しばらく話が続いたあと。

ことりがふと、こんなことを口にした。


「私ね、最初は自分の顔とか体型とか、

全然コスプレ向きじゃないって思ってたんだよ。

でも、“好き”って気持ちが一番大事って、ある人が言ってくれて――

それで始めてみたら、すごく楽しくてね」


「……今じゃ、姉ちゃんの方がめっちゃ自信ありそうだけど」


「それはね、自信があるんじゃなくて――

“好きなものに真っ直ぐでいられる自分”が、好きになれたの」


その言葉に、尚人の手がふと止まる。


(好きなものに、真っ直ぐでいられる自分……)


(……それって、俺に今、いちばん足りないやつじゃん)


カフェを出たあとの帰り道。

尚人はポケットの中でスマホを握りしめていた。


その画面には――

通販サイトのカートに入った、初心者向けのナチュラルウィッグ。


(……買うって決めたわけじゃない。

でも、姉ちゃんのあの言葉、忘れたくない)


その夜、尚人はメモ帳アプリを開いて、そっと書いた。


「“好き”に真っ直ぐでいられるように。

まずは、やってみる。ちょっとだけ、勇気出してみる。」


“何気ない姉の一言”が、

弟の未来を、ひとつあたたかく照らした。

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