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ふたりで灯す、やさしさのかたち  作者: 流浪の旅人
第2章 ふたりで、ゆっくり歩き出す — “やってみたい”が、芽吹いた日
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4.静かな目覚め ― 鏡の前の小さな変化

夕暮れどき。

アパートの部屋に、橙色の光が差し込んでいた。


尚人は、休日の片付けの途中でふと、紙袋の中に入っていた姉からのおすそ分けを思い出した。


先日、ことりが撮影後にくれたもの。


「これ、余った小物なんだけど、興味あったらどうぞ〜ってやつ。

使わなくてもいいから、なんとなく♪」


――そんな、軽い感じで手渡された袋の中。


そこには、小さなリボン付きのチョーカーと、

綺麗に梳かれたシルバーのロングウィッグが入っていた。


(あのキャラの……)


尚人はウィッグをそっと手に取る。

指先に感じる、柔らかな繊維。

顔に少しあててみると、姉が言っていたとおり――

確かに中性的な雰囲気になりそうな、そんな気がした。


(似合いそう……って言ってたっけ、姉ちゃん)


冗談半分のような、でも、ちゃんと見ていてくれた声。


尚人は、ためらいながらも、鏡の前に立った。


机の上に置いてあった黒いパーカーを脱ぎ、

代わりにシンプルな白シャツを羽織って、

首元にチョーカーをそっと結ぶ。


髪はウィッグを完全には被らず、ただ軽く乗せるだけ。

でも、それだけで――鏡の中の自分は、

“いつもの尚人”じゃなかった。


(あれ……これ、思ってたより……)


照れくささよりも、不思議と“落ち着く感覚”があった。

まるで、“もうひとりの自分”と対面しているような、そんな感覚。


尚人は、ウィッグの毛先を少し整えながら、

思わず小さく呟いた。


「……こんな俺でも、やってみたら、アリなのかな」


その瞬間。

心の奥に、ぽっと灯がともる。


(姉ちゃんは、きっと笑ってくれる気がする。

“うん、似合ってるじゃん”って)


その夜、尚人はことりにLINEを送らなかった。

まだ、伝えるには勇気が足りなかったから。


でも――


ベッドサイドの小物棚には、

さっきのチョーカーが、そっと飾られていた。


それは、きっと。

小さな“はじまり”の証だった。

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