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ふたりで灯す、やさしさのかたち  作者: 流浪の旅人
第2章 ふたりで、ゆっくり歩き出す — “やってみたい”が、芽吹いた日
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3.きっかけの予感 ― 姉の、何気ないひとこと

ある土曜日の午後。

姉のことりの家に遊びに来た尚人は、のんびりソファでお茶を飲んでいた。


部屋の隅には、撮影用にまとめられた衣装ケースと、ウィッグスタンド。

ふわりと揺れるシルバーのロングウィッグが、陽の光を反射して綺麗に輝いていた。


「これ……この前の撮影で使ったやつ?」


尚人が何気なく聞くと、ことりはにっこり笑って頷いた。


「そうそう。新しい衣装のキャラでね。ちょっとクセある性格なんだけど、

そのぶん演じるのが楽しかったよ〜♪」


尚人は、興味を隠せないままウィッグをちらっと見ていた。

すると、ことりがふと、何気ない口調で言った。


「……実はね、そのキャラ、性別的には“男の娘”設定なんだよ」


「え、そうなんだ…!」


「うん。細身で中性的な雰囲気で、ちょっとだけ人をからかうのが得意。

……なんかね、尚人に似合いそうだな〜って思ったんだ。ちょっとだけね?」


尚人は、その言葉に思わず顔を赤らめた。


「え、な、なにそれ……冗談だろ?」


「ふふっ、半分冗談、半分本気。

でもね、尚人って顔立ちもキレイだし、

なんていうか――“雰囲気をまとえるタイプ”だと思うんだよね」


ウィッグにそっと触れながら、ことりは優しく微笑む。

強くすすめたり、押しつけたりはしない。

でも、明らかに“きっかけ”を手渡すような、やわらかい眼差しだった。


尚人は照れたように目を逸らしながらも、

心の奥に、確かに“なにか”が残っていた。


(似合う……って、言われた)


それは――はじめて、自分が“やる側”として名前を呼ばれた瞬間だった。


帰り道、尚人はスマホのメモに、ひとことだけ残した。


「男の娘 キャラ コスプレ 衣装 難易度」


(……検索するだけなら、いいよな)


それがどれほど大きな一歩か。

まだ本人は知らなかったけど――


お姉ちゃんは、静かに笑っていた。

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