12.エピローグ ― 優しさの続きは、きっとこれから
春の終わり、少し風の冷たい午後。
ベンチに並んで座ったあの日から、数日が経った。
ことりと尚人は、それぞれの暮らしに戻りながらも、
お互いを少しだけ、以前よりも近くに感じていた。
ことりの投稿には、変わらずコメントが届く。
でも、その中にひとつだけ、名前を知らなくても、心がわかるものがある。
「“好き”を全力でやってる人が、やっぱり一番かっこいいなって思いました。」
ことりは、スマホを見ながら微笑んだ。
(尚人、ちゃんと見てくれてるんだね)
返信は、あえてしない。
でも、心の中でそっと呟く。
(ありがとう。わたしも、ずっと見てるよ)
尚人のスマホの中には、お気に入りフォルダがあった。
そこには、たくさんの風景写真と一緒に、RINA_cosの投稿が並んでいた。
もうそれは、ただの“推し”じゃない。
ひとつひとつの写真に、“ことり”という温度が宿っていた。
(いつか俺も、自分の“好き”を発信できたらいいな)
(姉ちゃんみたいに、自信を持って)
ふたりは今も、“姉と弟”。
でも、同じ空の下で、それぞれの“好き”をまっすぐに生きている。
そして――ふたりだけが知っている“秘密の絆”が、
そっと、背中を支えてくれている。
まだまだ、言えていないこともある。
見せていない顔もある。
でも、きっと。それは急がなくていい。
だって、ふたりはもう――「隠さなくてもいい」と知っているから。
優しさは、終わらない。