101.届いたやさしさに、そっと微笑んで ― 弟が返す“気づいたよ”の合図
尚人は、スマホを手に、コメント欄をゆっくりとスクロールしていた。
目を止めたのは、@RINA_cos のコメント。
その最後に添えられた、ある一文が――
彼の胸に、ふわりとやさしく灯った。
「今日の写真、
夕暮れの空に“まるで木漏れ日”みたいな、やわらかさを感じました。」
その瞬間、尚人の目元がふっと緩んだ。
(……気づいてくれたんだ)
(しかも、“木漏れ日”なんて……
なんてあたたかくて、やさしい返しなんだよ、もう)
手にしたスマホを、そっと胸に引き寄せたくなるような気持ち。
うれしくて、くすぐったくて――
ちょっとだけ、泣きそうになるほどだった。
(これは……俺だけに向けた言葉だ)
“木漏れ日”は、彼にとって愛しさのサイン。
確信できるほど、まっすぐに伝わってきた。
尚人は、返信を打ち始める。
でも、「気づいたよ」とは書かない。
あくまでも、ふたりだけがわかる**“静かな会話”**にしたかった。
「“木漏れ日”って、いい言葉ですね。」
「強すぎない光なのに、ちゃんと温かくて、
木々の間をすり抜けながら、
静かに地面を照らしてくれる――あの感じ。」
「実は僕、ああいう光に、ずっと憧れてました。」
投稿を終えたあと、
尚人は静かにスマホを見つめながら、ふっと微笑む。
(言葉にしなくても、きっと通じてる)
たしかに名前は明かせていない。
でも、心の中では確かに**“あなた”**を呼んでいる。
(……ありがとう、姉ちゃん)
ふたりのあいだに交わされたのは、
声ではなく、心でつながる会話だった。