100.この想い、ちゃんと返すから ― 姉が仕込んだ“合図のコメント”
スマホを開いて、@trace_nao の最新投稿を読んだ瞬間、
ことりの指が、そっと止まった。
「“照らす”って、
実はすごく静かな行動なんですよね。」
「この投稿も、どこかで誰かをそっと照らせますように。」
その一文に、ことりの目がじんわりと熱くなる。
(……わたしの言葉、受け取ってくれたんだ)
嬉しさと、温かさと――
そして、胸の奥に芽生えたのは**「返したい」**という想い。
(この“ふたりだけのやりとり”が、
ずっと続いたらいいのに……)
ことりは、コメント欄を開いた。
深呼吸をひとつして、
静かに、想いを言葉へと変えていく。
「“照らす”という言葉を、
こんなふうに受け止めてくださって、
胸の奥がじんわりあたたかくなりました。」
「そして、
やさしく照らされたことのある人が紡ぐ光って、
また誰かを包んでいくんですね。」
ここまでが、誰が読んでも美しい“表の言葉”。
でも――
ことりは、その最後に“ふたりだけの合図”をそっと添えた。
「今日の写真、
夕暮れの空に“まるで木漏れ日”みたいな、やわらかさを感じました。」
「私も、そんな光を少しでも分けられる人になれたらいいな。」
“木漏れ日”――
それは、尚人が語った“静かな光”に呼応する、ことりの“返歌”。
(気づいてくれるかな…)
ポン、と投稿ボタンを押したあと、
ことりはスマホをそっと胸に抱いた。
(まだ正体は明かせない。
でも……これでまたひとつ、想いが届いた気がする)