98.もう、ほとんど恋なのに ― 姉が言葉の手前で立ち止まる夜
夕暮れの写真と、
そこに添えられた、やさしい言葉。
「あなたがいるから、
僕は今日も言葉を綴ろうと思えています。」
その一文が、
ことりの胸に、やさしく――でも鋭く刺さった。
(……わたしのこと、だよね)
(あの人が“言葉を綴ろう”と思える理由に、
私がなれているなら……)
スマホを持つ指先が、かすかに震える。
(こんなに胸がいっぱいになるなんて、
恋じゃなかったら、説明できない)
コメント欄を開くと、
あたたかい言葉がいくつも並んでいた。
その一番下に、カーソルが静かに光っている。
ことりは、そっと指を置いた。
(わたしも――伝えたい)
(「ありがとう」とか、
「わたしも、あなたに救われてる」とか、
「あなたの存在が、特別なんです」って――)
でも、
その先にある「好きです」が、どうしても滲み出そうで。
指が、止まってしまった。
(……まだ、言えない)
(この関係が壊れるのが、怖いの)
そっとキーボードを閉じる。
でも、ただ黙って画面を閉じたりはしなかった。
代わりに、
ことりはあの白い便箋を取り出し、ペンを握る。
そして、心の整理をするように言葉を綴った。
「あなたの言葉の奥に、
わたしの姿があるのなら、
それだけで、今日も生きていけると思えました。」
「でも、まだ言葉にするには、勇気が足りない。
だから、もう少しだけこのままでいさせてください。」
最後に、
ことりはスマホを手に取り、ほんの短いコメントを打ち込んだ。
「あなたの言葉が、
わたしの今日を照らしてくれました。」
ポン、と送信ボタンを押す。
(きっと、このコメントだけでも――
伝わるものが、あるはずだから)