表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで灯す、やさしさのかたち  作者: 流浪の旅人
第1章 それぞれの秘密、それぞれの夜 — 推しが、姉でした。
10/114

10.再会のまえに ― 心を整える時間

【尚人の準備】


あの夜、メッセージを送ってから。

ことりの「ちゃんと会おうね」という返信を見た尚人は、

胸の奥で、静かに――何かが決まったのを感じていた。


(姉ちゃんが、“隠さないで”って言ってくれた)


それだけで、どれほど心が軽くなったか。

でも同時に――自分も、もう隠せない。隠れられない。


尚人はノートを開いて、ひとつのメモを書き始めた。

それは、姉へのメッセージでもあり、

ずっと“推し”に伝えたかった気持ちでもあった。


「俺、いつも写真ばっかり見てたけど、

あなたの言葉が、どれだけ支えになってたか……気づくのに時間かかった。」


「それが、姉ちゃんの言葉だったなんて。

…たぶん、もっと前から気づいてた気がする。」


「でも俺、あの世界のあなたも、現実の姉ちゃんも、

どっちも同じくらい大切だったんだ。」


書いているうちに、涙がにじんだ。

でも、それは悲しさじゃない。


ただ、やっと――向き合える気がしたから。


(次に会ったとき、ちゃんと伝えよう)


【ことりの準備】


「ふぅ……」


ことりは、衣装ラックの前で腕を組んでいた。

これまで着たコスチュームの数々が並ぶ中。

ひとつ、あの“軍服”の衣装をハンガーに取り出して、そっと眺める。


(この衣装で、尚人に会うのもアリかもって思ってたけど……)


でも、今は違う。


“コスプレイヤーRINA”じゃなく、

“ことり”として、ちゃんと会いたい。


たとえ化粧もウィッグもなくても。

彼の前で素直に笑えたなら――

それがいちばん、強くてやさしい姿だって思えたから。


クローゼットの奥から、少しだけラフなワンピースを取り出す。

鏡の前に当ててみる。


「うん。これが、いまの私」


鏡の中の自分は、特別な衣装も、魔法のメイクもしていない。

でも――確かに、美しかった。


(尚人、ちゃんと会おうね。

お姉ちゃんじゃなく、“ことり”として)


【ふたりの夜、別々の空の下】


同じ時間。違う場所。

けれど、ふたりは同じ気持ちで空を見上げていた。


(あと数日。

きっと、大丈夫。だって――もう、隠してないから)


心の準備は、もう少しだけ必要かもしれない。

でも、それでも、進むって決めたから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ