1話
施術から五年後。
十五歳になった俺は今日も兄達からサンドバッグにされている。
成長刻印とやらの実験台だ、公爵家が開発した新型刻印……そのテスターとして使われた四人の可愛い息子たち、長男のアレスは俺が受けた鳳の印に似せた不死鳥の印、炎属性を持つ故に炎の鳥を自在に操り俺に軽度の火傷を負わす。
次男ガレスは一角馬の印だが風属性を持つ彼が繰り出すそれは一角の天馬、風属性持ちの召喚獣には翼が追加で生えることが多い。それが天から一直線に俺目掛け突進してくるのだ。何度も吹き飛ばされ擦り傷だらけになる。
三男ソーレスは獅子の印光属性の彼が使えば太陽を思わせるたてがみの獅子が光の速さで身を貫いてくる、幸い、光属性に物理的な威力はないのだが精神を焼くとかいう訳が分からん仕様、どう痛がればいいのか本気でわからん。
激痛施術を超えて痛みにタフになったせいかも知れないが本当に彼の攻撃だけは困る。
四男ネレスは狼の印氷属性を持ち氷の狼は執拗に噛み付いてくるぞ。
ここまで多種多様な属性を持つ兄達がどうして属性が違うのかといえば皆母親が違うのだ。
アレスの母が正室、他は側室、俺の母は生前はメイドだったらしい。
鉄仮面メイドと呼ばれるほど表情が硬く不愛想な女だったとあの男はよく言っていた、そんな母の特徴を継いだのかは定かではないが俺の持つ属性は鋼属性だ、体をちょっと鋼鉄のように硬くできるそれは、兄達の恰好の的になるには十分であった。
ちはみに鋼属性で召喚獣を召喚すると初期は武器として出てくる俺の場合、両手足の印は秘匿せねばならず顔面に宿した竜の印による、鉄槌、竜槌ドラゴンハンマーである。
なんかもっとこう竜剣!とかが良かったのだが、狼が双剣、鳳が弓、一角馬が槍、獅子が盾とバラけており剣は狼が担っているのであまり贅沢は言えない、一度決まってしまったものをこちらから変更を促すと召喚獣が拗ねるので思うところはあるものの現状に甘んじている。
「よぅし、今日はこの辺にしといてやるよ」
満足したのか兄達はさっさと自室に戻っていった、明日から学園に通うのでそれの準備があるそうだ、俺も準備がある、というかこの家いよいよ出ねばならなくなった……というのか学園の好意で寮に入れるようになったのだ。
上位印持ちとはいえ庶子など平民と同じ!みたいな感覚を持たれている俺は家での肩身の狭さもさることながら、その印のせいで上級クラス入りが決まっているので平民の特待生扱いで平民の特待生用の寮に入っていいということになったのだ。
部屋に戻り荷物を整理……するほどは物もないので鞄一つ身一つで家をさっさと出る、この家にわざわざ俺だけを送るような馬車などはないのだ。
「このあたりでいいか……来たれ、白銀の駿馬」
左足を上げ大地を踏み鳴らせば、銀色の馬型の鋼がそこに顕現した。
刻印を受けた翌日より訓練を重ね武器形態の他、騎乗形態、戦闘形態を開放済みだ、公爵家には内緒だぞ。
颯爽と銀馬に跨ると帝都を目指し走らせる、その疾走は慣れたもの、普通の馬では二時間ほどかかる道のりを半時で駆け抜ける。
鋼で出来ているこの世界ではあり得ない機械仕掛けの疲れ知らずの馬なのである。
武器形態のみの頃より召喚獣達と心通わせその流れでフワッとした前世の記憶なんちゃってロボの記憶を読み取られた結果がこれである。
とはいえ生物的な丸みを帯びたフォルムでネジやら歯車などが特別あるわけでもないので見た目にはその辺の馬とは色以外は大差はない。今のところは。
帝都のすぐ横である公爵領から帝都までの道のりは盗賊など居らず安全であるため難なく帝都まで付いた、なお馬は近くの茂みで降りる流石に色が目立つし、盗賊はおらずとも貴族に難癖をつけられるのは目に見えている。
庶子は家名を名乗れない、が公爵家の庶子というのは顔面の竜印を見れば帝都内なら知れ渡っているため帝都の門番は顔パスでスルー。
学園まで一直線で行くと、おろおろしている少女を見かけた。
「特待生か?」
前日乗り込みは特待生の特権である今日この日に居る新入生っぽいのは大体そうである。
「おい、あんた」
声をかけるとびくっとしながら少女が振り返る。
「わ、私ですか?」
「この場には俺かあんたしかいないだろ……」
今年の特待生は俺ともう一人平民と聞いている、女子とは思わなかったが。
「何か、ご用ですか……?」
「あんた特待生だろ?」
「そ、そうです! そうなんです!」
「俺もそうだ、今日は特待生しか来ないからな、前乗りだ」
見れば少女は俺のような荷物一つ身一つだ。
「特待生寮に行くんだったら一緒に行くか?」
平民など十把一絡げ、男女別にはなっていない。特待生は精々個室が与えられるそんなところだ。
「いいんですか! ありがとうございます! あ、私、リーシャっていいます!」
「俺はタロスだ、よろしく」
俺は事前説明やら受けに一度来ているので迷いなく進みリーシャはそのあとをぴょこぴょこついてくる。
他愛ない話を色々振ってくる来るのに適当に相槌を打ってやりながら進んでいくと、黄色い壁の建物が見えてきた。
「あれが特待生寮だ」
建物の前には掃き掃除をしている女性が一人、寮母のミールさんだ。
「あら、タロスくん、早かったわね。そっちはリーシャちゃんね、初めまして、私は寮母のミールよ」
顔合わせは先日済ませてあるのし寮母なので流石にリーシャのことは把握していて、簡単な自己紹介ののち俺たちはそれぞれ自分の部屋に案内された。
明日は入学式だ、荷ほどきもそこそこに今日は早めに就寝した、実家の部屋が物置だったと実感できるほど良質なベッドに身を委ね普段よりしっかりと安眠が出来そうだ。