プロローグ
数年ぶりに何か書きたくなった……完結は期待するな書きたくなっただけだ、そして俺ももう年だ……若くない。
聖トゥラートサモン帝国。
帝国法第3条、子爵位以上の子息子女は十歳の誕生日にその身に召喚刻印を刻まねばならない。
召喚刻印、それは帝国が強くあるために、将来国を担う貴族達に与える栄光の印、その施術にはその刻印の強力さに比例し甚大な苦痛が伴うとされ、爵位が上になるに連れて強大な刻印が与えられるという。
コンコン。
重苦しい扉を叩く音が長い廊下に響く。
「御当主様、タロスただいま参りました。」
緊張と共に固くこわばった声をなんとか吐き出す
「入りたまえ。」
「失礼します。」
そう重くない扉をそっと音を立てずに開くと中では、血縁上の父である、アースモデス公爵が玉座を思わせるような豪奢な椅子にくつろいでいた、この家は彼の国だといわんばかりであるが実際その通りだ。
「よく来たな、今日はお前に折り入って頼みがあって呼んだのだ。」
「承ります。」
拒否権などない。何せ俺は庶子、望まれていない子であり後ろ盾とする母ももうこの世にはいない。
しかし何か利用価値があるので今まで生かされて来た、恐らく今日の要件がそれだ。
「うむ、帝国法第3条は知っているな? 兼ねてより王家から打診されていた上位印そのうち五つが我が愛しき息子たちに施術されることが決まった。」
上位印、成長すれば家屋をも上回るデカさの召喚獣を召喚できると言われている伝説級の召喚刻印だ、全てで十種類あり代々王家または公爵家に受け継がれてきた刻印でそれぞれ先代は俺たちの世代からすれば曾祖父の代が使用していた物だ。
「五つですか……?」
現在公爵家に居る子息は俺を含めて五人、全員で一つずつか、上級印の半数が来ることもさることながらこの男が俺を愛しき息子に含めたことが、何やらよからぬことを考えているのではと勘繰り、背筋を冷たいものが走るような感覚を受ける。
「そうだ、まったく陛下にも困ったものだ、公爵家は四つ、王家も合わせて一家に二つまでだというのに、今代は男子が五人もいるからなどと言って……娘可愛さに、うちだって息子たちが可愛いのに!」
ちなみにこの可愛い息子たちには俺は含まれない、父からすれば酔った勢いで出来てしまった計算外の息子だからだ。
「それで刻印の一翼を担えばよろしいのですか?」
子煩悩モードに入られては話が長くなると思い強引に話の結論をせっつく。
「いや、そうではない……私はな、兼ねてよりこの制度、さらに言えば上級貴族である公爵家が下級より苦痛を強いられるということに納得がいっていないのだ。そして私は部下に研究をさせついに苦痛を全く伴わず、かつ成長すれば上位印を上回る強さを秘めた新型成長刻印を開発することに成功した。」
「それはおめでとうございます。」
「ああ、ありがとう、そしてこれが本題なのだが……明日、帝国より上位印が来るが可愛い息子たちにそんなもの施術させられん、しかし受けねば我が家は罰せられる、そこで、タロス、お前に栄光ある五つの上位印全てを受けて貰いたい。」
!?バカか!そんなことしたら神経焼き切れて死んでしまうだろーが!
ぐっと喉まで出かけた言葉を飲み込み、ああ、これは死ねと言っているんだなと思う。
そんな気はしていた、可愛い息子の身代わりに俺を使うのか。
「……分かりました。」
「ではよろしく頼むよ。」
そういうとさっさと退室を促された、その後どうやって自分の部屋まで戻ったか定かではないが、気づけば翌朝になっていた。
施術その一。
「お初にお目にかかります、私は宮廷刻印術師、チィキンと申します、これより上級刻印、鳳の印を施術いたします、お好きな部位を指定してください。」
右腕を指定。
「ぐっ……ぎぃぃ……がぁぁぁぁぁ!!」
体中に痛みが駆け巡る、魂が焼き切れるような激しい揺さぶり、こんな痛みは前世の死に際に味わった以来だ……。
死の痛みと比較さえすれば何てことない。そう自分に言い聞かせて施術を終える。
「お疲れ様でした、では私はこれで」
チィキンはそそくさと帰っていった、公爵が王家に掛け合い施術時間をずらしているので次が始まるまで一時の猶予があったのでそのまま気を失うことにした。
施術その二。
「お初にお目にかかります、私は宮廷刻印術師、キャートと申します、これより上級刻印、獅子の印を施術いたします、お好きな部位を指定してください。」
左腕を指定。
「ぐっ……うぅ……あぁぁぁぁ!!!」
先ほどの施術で感覚がマヒしているのか思ったほどではないものの、痛いものは痛い。
施術その三。
「お初にお目にかかります、私は宮廷刻印術師、ドーグと申します、これより上級刻印、狼の印を施術いたします、お好きな部位を指定してください。」
気が付けばもう次の施術が来ていた。各術師にバレないように別の部位を指定せねばならないので右足を指定。足に施術するのはあまり一般的ではないが狼など走るのが早い獣の刻印は願掛けも兼ねて足に施術するのも珍しくないと予め聞かされていたので指定。
「ぐっ……あぁぁぁぁ!!!」
大分感覚が慣れたのか三度目の施術は大したことがなかったこれは予想していなかった、腕より足の方が痛みが少ないのか、これなら次は余裕か。
施術その四。
「お初にお目にかかります、私は宮廷刻印術師、ドンーキと申します、これより上級刻印、一角馬の印を施術いたします、お好きな部位を指定してください。」
左足を指定。
「ぐっ……うぅ……ががあぁぁぁぁ!!!」
三度目など比にならない痛みだった、この時悟った、これ術者の腕前で痛いかどうか当たり外れがあるのではないかと。
施術その五。
最後だ……これを乗り越えられたら俺はまだ生きられるはずだ……。
「ふん、私は宮廷刻印術師、ラゴンという、これから上級刻印、竜の印を施術する、庶子が、光栄に思え。」
とても痛いと有名の上位印を庶子に肩代わりさせる事例というのはよくある話らしいそういう場合この者は庶子を分かるように顔面に施術される、まるで奴隷の印の様だ。
なので指定なしで問答無用に施術が行われる、そしてこの術師は庶子だからと見下した態度ではあるが今までの術者と比べ物にならないほど腕がいい、全然痛くない。
「……。」
「終わったぞ」
「……あ、ありがとうございます。」
正直びっくりした、のでついつい術者の顔をまじまじと見てしまった。
「ふん、私はお前らのような下賤な輩の騒ぐ声が嫌いなのだ、どいつもこいつも伝統だなんだと痛めつけるような施術ばかりするがな、運がよかったな小僧」
四度痛めつけられてるので運がいいと言えるかは定かではないが、ラゴンはそのまま立ち去って行った。
死ぬかと身構えていたが終わってみたらあっけなかった、公爵家もまさか生き残るとは思ってもいなかったようではあったか一応褒美としてその晩は豪華な食事にありつけたのだった。
施術はほぼコピペ誤字あるかも……あと施術師は今後出てこない予定。モブ。




