異世界と魔法 第六十五話 訓練と怪我と回復アイテム
あの激マズ料理事件? 後も、碧斗たちの鍛錬と知識の習得の日々が、相変わらずのドタバタを交えながらも進められていった。
そして異世界での生活も、すでに三ヶ月になろうとしていた。
「はっ! よっ! せいっ!」
「いやぁっ! とぉっ! うりゃぁっ!」
まず俺と理音の戦闘組の訓練は、相手役に瀬蓮さんだけではなくミーシャまでもが相手となり、二人を相手に攻撃と防御を両立して戦うという、言わば仕上げの段階に入っていた。
もちろん夕花と菊次郎の支援組も。
しかも瀬蓮さんの薙刀ならぬステンレス物干し竿に加えて、ミーシャも竹槍と魔法も織り交ぜて容赦なく攻撃してくるようになった。
その過酷で激しい指導に生傷や骨折なども絶えない日々ではあったが、支援組の回復や治癒ポーションのおかげで傷もすぐに癒えるようになった。
そうすると今度は、いかに戦闘中に、戦いながら素早く効率的に回復できるか、というところまで織り込まれた、まさに殺人的な鍛錬メニューになっていった。
プロテクターなや防具は一切装着せず、訓練の一環と称して本当に致命傷を負いかねない深い傷や大きな怪我をすることも何度もあった。
さらに何度かキクハウスを離れて、アランギやそれより小さな魔獣を倒す実戦も経験した。
菊次郎は倒した魔獣を解体しているうちに、生物の生体構造を感じとることが出来るらしいことがわかり、触らなくても相手の臓器の位置や弱点などを探る他に、ついにミーシャから治癒関連の魔法を教えられ、それを使いこなせるようになっていた。
これは夕花の激マズポーションに頼らないありがたいものだったが、効果は夕花のそれに劣るというところが残念な点だった。
こればっかりは、修練や実戦で上達してくれることを期待するるばかりだ……
「うっ!」
俺は瀬蓮さんの攻撃を避けるためにフェイントを仕掛けたその一瞬の隙をミーシャに見抜かれ、ミーシャの石つぶて、ではなく五寸釘が俺の右肩を貫いた。
俺はそのまま膝から崩れ落ちると、菊次郎が少し離れた場所から俺に手をかざし、治癒魔法をかける。
すると酷かった痛みが和らぎ、かっと熱くなっていた胸は何も感じなくなっていた。
『大丈夫ですか? 太い血管は外れていたようですが、筋肉や血管を修復して止血をしました。あとで完全に修復しますから、今はこれで我慢してください』
菊次郎のほうも、味方役を回復している隙に散発的に敵役を努めている瀬蓮さんやミーシャに攻撃を受けていて、防戦にも必死だった。
そんなとき、
「碧斗君、ほらこれ舐めて」
と夕花がひょーいと俺に投げてよこしたのは、ピンク色の飴玉だった。
「血を増やす効果があるの。少し出ちゃったでしょ?」
俺は飴を受け取ると、握られた飴を意を決して口に放り込んだ。
(……ぐっ……あの激マズ料理を食べてから、夕花の料理や薬の調合に俺も付き合い何度も味の改良をしてきたけど、やっぱり激マズ。それも、効果が不味さに反比例するなんて、どんなひねくれた神が想像した世界なんだ……)
そう思いながらも飴を舐め続けると少し気分も良くなってきて、肩を回せるようになってきた。
最初の激マズ料理事件のあれから、ミーシャも交えて夕花の作る薬の効果と味を調べていくうちに、不味いほど効果がある、という先程の結論にたどり着き、戦闘で負傷する機会が多い俺と理音は特に、絶望に打ちひしがれたのだった。
「碧斗、激マズだけど不味いほうがよく効くって、ありえないよね!? なんとか出来ないの?」
そう理音に頼まれて、俺もミーシャに錬金や調合を教わり、夕花と同じ素材と手順で薬を作り、その味だけを改良しようとしたが、どう頑張っても味を良くすると著しく効能が落ちる結果しか出てこないことに、理不尽をさ感じていた。
「俺も一所懸命勉強してある程度は調薬も出来るようになって自信も付いたんだ。でも、ダメなんだよ……どうやっても、味が良くなると効果が落ちる……これはもう、万有引力の法則のように、この世界では変えようがない事実としか思えないんだ……ごめん……」
俺がそう謝ると、
「ううん、あたしこそゴメン……そうだよね、宇宙の法則が変えられるわけないよね、たとえここが異世界だとしても……」
俺と理音がそんな風に、それほど深刻でもないことを、これ以上ないというほど深刻そうな顔をして話し合っていると、ミーシャが二人のもとにやってきた。
『どうした二人とも、そんなに深刻そうな顔をして? いよいよ明後日、出発だぞ? なにか問題があるのか?』
そう言われて「薬が不味いから出発を延期しよう」なんて言えるわけもなかった。
するとミーシャは俺達の悩みを見抜いてでもいたかのように、
『まぁ問題があったとしても、いずれ解決するだろう。慣れればどうってことないだろう? この世界も?』
と、二人の顔を見て苦笑してみせた。
『それより碧斗、全属性持ちのお前に一つ覚えておいてもらいたい魔法があるんだ、ちょっと来てくれ』
そう言うと、ミーシャは、俺を連れて倉庫の方に歩き出した。
俺は理音に、
「何だろう?」
と両手を広げてみせたあと、慌ててミーシャの後について行った。
「倉庫で、どんな魔法を?」
トコトコと歩くミーシャの後ろ姿を見ながらそう声をかけると、
『うむ、旅に出るからには食料や資材が必要だろう? それにこの倉庫から食料だけでなく、いろいろな道具なども、持ち出したいものが沢山あるだろう?』
と言いながら倉庫に入って行き、中に立て掛けてあったごつい、どう見ても飾り物にしか見えない巨大な斧に手を掛けて俺を見つめた。
「まぁそうだけど、でっかいバックパック、背負うカバンだけど、それがあるから、最低限、旅に必要なものは俺と菊次郎、そして理音に背負わせれば結構な荷物を運べると思うぞ?」
俺はミーシャが手を置いている、彼女の背丈ほどもある斧を、彼女が持ち上げられるわけもなく不思議に思っていると、ミーシャがちょっとだけドヤモードに入って説明を始めた。
『そこでな、魔法書を必死に読んでみて、前にお前が言っていた”あにめ”の“収納魔法”というものに近いものを見つけてな。 それをここで一緒に学ぼうというわけだ』
そういえば少し前、ミーシャと知り合ってすぐに俺は、自分たちの世界で考えられている“魔法”というものがどういうものなのかを、ミーシャに説明したことがあった。
その時ミーシャは、異世界アニメやファンタジー作品などで出てくるそれらの魔法を、時には一笑に付し、時には真剣に考え込みながら、俺が話す、俺が知っている“魔法”を、一生懸命にメモを取って聞いてくれたのだった。
『お前が言っていた“あにめ”の魔法のように、なんでも、どんなに大きいものでも、どんなに重いものでも、というわけにはいかないようだが、自分の身長や体重の二、三倍程度までのものならば、運べるようなんだ』
するとミーシャが手を置いていた斧が、スゥッと消えた、と思ったら、少しの間を置いて、ミーシャの目の前に斧がゴトン、と現れた。
『この斧も私の体重の二倍は下るまいが、こうして収納し、取り出すことが出来た。
こちらの世界では遠い昔から、飼いならされた魔獣が荷物を運ぶので、私も私のご先祖もその存在を知らなかったが、これは会得しておいて損はない魔法だろう。適正がある私とお前でぜひ覚えておこうと思うんだ』
そう言ってミーシャが念を込めると、手にしていた斧がまたスっと消えた。
そして数歩歩きだし振り向くと、また念を込めたと思うと、
「ドカっ!」
という音と共に、ミーシャの目の前に斧が転がり落ちた。
『どうだ? 私では持ち上げるのもひと苦労のこの斧も、この魔法を使えば簡単に持ち運べるのだ。ただし今見たように、私もまだ数日練習しただけだが、出現させてそれを手に持ったり、机や地面にそっと置く、と言うような複雑な制御がまだ出来ないんだ。』
そう言うとミーシャは斧の柄を手に取り、重そうに引きずりながら倉庫に戻ってきた。
「具体的にはどう覚えるんだ? 前に、この世界では魔法を使うには言葉を発したり詠唱するような事は必要ないと言ってたけど?」
するとミーシャは少しふんぞり返ると、
『うむ、そこだがな? 思い描くんだ。 例えばこの斧、お前ならどう運ぶ?』
そう言われて俺は、この巨大な斧を手に取ると、両手に力を込めて持ち上げた。
「重いな……80kgはありそうだ……」
『まぁそうだろうな。しかし違うんだ。力を込めて持ち上げる、ことを思い描くのではなく、心に描いた架空の入れ物をに、仕舞いたい物体を押し込む、逆に取り出したいときには、釣りのように、取り出したいものを想像し、それを釣り糸で上手く合わせて引き上げる、といった想像、お前たちの言う“イメージ”が必要なんだ』
俺はミーシャの説明を聞いて、斧を床においてから、とりあえず想像をしてみた。
「収納は、箱に仕舞いたいものをイメージし、それを受け取る。取り出しは、釣りであたりにタイミングを合わせて釣り上げる感じか……」
と身振り手振りでイメージトレーニングっぽい動きをしてみせた。
『うん、そんな感じだな。では早速実践してみようか。私はあの斧を使うが、お前はもう少し小さいものから始めるといい』
そう言うとミーシャはまた斧を収納して倉庫を出て、少し離れた場所に歩いて行って練習をし始めた。
「えーと、小さくて軽いものからか……」
俺は倉庫の中を歩き回り、なにか手頃な練習用のものはないかと探し始めた。
「そうだ、複雑な構造の物でも収納できて機能を保ったまま取り出せるか試してみよう」
そう思いつき倉庫を物色し、壁にかかっていた懐中電灯ので練習を開始することにした。
(懐中電灯を思い描き、それを入れ物に押し込む……イメージ……)
何度も同じイメージをして念を込めてみたが、懐中電灯は目の前の壁に吊り下がったままで、ピクリとも動いた様子はなかった。
(うーん、何が違うんだろう……できるだけ正確に、懐中電灯の形と大きさと重さを思い描き、それを箱に入れる、押し込む……)
しかし何度試しても懐中電灯には何の変化もなかった。
そうして目の前の懐中電灯を空しく見つめていると、ふとその構造や機能に思いを馳せてみた。
(そういえばこの懐中電灯、電池は入ってるのかな……)
すると、風も無いのに懐中電灯がユラユラと僅かに揺れた。
(もしかして……)
俺は今度は知り得る限り、思い出せる限りの懐中電灯の技術的な仕組みや用途などをイメージして、もう一度念を込めてみた。
(電池は電気エネルギーを化学エネルギーとして蓄え、必要な時に再び電気エネルギーとして取り出すことができるもの。懐中電灯は……明かりを灯すためのもの……)
すると、懐中電灯は俺の目の前からパッとその姿を消してしまったのだ。
(やはり見た目や形、重さなどではなく、仕組みと用途を明確に思い描かないとダメなのか?)
そしてもう一つのバッテリーパックを見つめ、先程と同じようにイメージすると、二個目のバッテリーパックもすぐに目の前から忽然と姿を消したのだった。
(見た目などではなく、目的や構造を思い描かないといけないんだな……人を見てその為人を理解するのと同じだな。見た目じゃあなく、中身が重要なんだ)
今度は明かりを灯す懐中電灯を釣り上げるイメージで取り出そうとしてみた。
しかし散り出し、何度やっても懐中電灯は現れなかった。
(どこにいちゃったんだ? ド◯えもんの4次元ポケットみたいに異次元に行っちゃったのか? 4次元目は時間だから、過去か未来の同じ場所ということになるのかな? いやそれはド◯えもんの四次元ポケットへの考察であって俺が使った魔法とは違うはずだ……となると実は…………)
『……ト……おいアオト!』
ミーシャが倉庫に戻ってきて突然俺に声をかけた。
脱線して色々考えているうちに、ふと気がつくと小一時間ほど経過していたようだ。
「あ、ああ、ミーシャか……」
『まだ出来ないのか?』
「仕舞うことは出来たんだが、取り出せないんだ。 どこに行ってしまったんだろう……」
『さあな。前にも言ったが、こちらの世界では、物事の仕組みなどを詳しく調べたり、知ろうとするやつは稀なんだ。魔法も道具も使えればいい、仕組みを考えたり改良をしようとする人間は尊敬されるどころか変わり者だとみなされるだろうな。』
こういうものか、と思い、よく考えたらずっと倉庫にいることもない、と思い倉庫を後にした。
そのまま畑をみて回り、巨大化したカボチャを手に取ってコンコンと軽く叩いてみると、思いのほか実が詰まっているようだった。
(ほうとうは飽きたし、パンプキンパイでも作るかな)
そう考えながらキクハウスに戻ると、菊次郎と夕花が飽きもせずスターエクスプローラーを観ていた。
「あ、そろそろ無人の宇宙駅に着くよ。ここで停車して補給をするんだけど、無人のはずなのにクルーは気配を感じて、駅を調べることになるんだ。」
「へぇ、でも、その先は言わないでくださいよ」
夕花の膝の上で寝ているタマぴょんは、動画など一向に興味がないという感じで、時々あくびをしたり、菊次郎や夕花の顔を見てるだけだった。
※あることに気づき、ついに成功する。
その後のドライバーやペンチ、釘などを収納することに成功して順調に収納をしていたら、備長炭を数箱収納したところで突然また何も起こらなくなってしまった。
今度は釘の一本でさえ、収納できなくなってしまったのだ。
「あれー? さっきまで出来てたのに?」
そして少し考えた後、備長炭のダンボールを見て、その箱に、
「重量 約二十五キログラム」
と印刷してあるのを見て、ミーシャが言っていたことを思い出した。
(そういえば、重量制限があるって言ってたな……たしか体重の四、五倍。俺の体重が八十キロ弱。五倍で四百キログラムとして、もうこれ以上持てない、収納できないってことか……)
そこで収納はとりあえず限界だと諦めることにして、今度は取り出しを練習してみることにした。
(えーと、収納したものをタイミングよく釣り上げるイメージ……)
小学生の頃にはよく釣りに行ったものだが、最近は全然やってないなぁ、と思いながら、ゆらゆらと揺れる水面下のバッテリーパックを釣り上げてみたが、一向に出てくる気配がなかった。
(もしかしてこのまま取り出せなかったら、一生収納されたままなのか?)
そんなことを考えて多少の焦りを感じ、水に揺られる浮きをイメージしながらタイミングよくバッテリーを引き上げてみる。
(くそっ、またダメか……)
一度失敗したイメージが浮かんでしまうと、もうそのことしか頭に浮かんでこなくなってしまった。
(うーん、じゃあ成功したときの釣りのイメージを思い出してみよ……)
と言っても今までに釣り上げたことがあるのはせいぜいフナやハヤくらいで、ブラックバスや鯉など、手応えのあるものを、ましてやバッテリーなんて釣り上げたことなどまったくなかった。
(大体バッテリーと魚なんて似ても似つかないじゃあないか……複雑な機械なんて釣ったことあるわけないし……)
そんなふうに半ば諦めかけていた時、
(そういえば、おととしゲーセンでクレーンゲームをやった時、携帯ゲーム機を取ったっけなぁ……ぬいぐるみより大きなく重そうな箱でクレーンじゃあ持ち上げられないだろうなぁと思っていたけど、パッケージの隙間に偶然アームが入り込み、上手く持ち上げることが出来たんだった……)
そう考えた時、また目の前でゴトン、と大きな音がして、何と目の前にバッテリーパックが現れたのだった。
(! ……そうか! クレーンか……クレーンで荷物を吊り上げるイメージをしてみよう)
すると今度は簡単に、しかも頭の中でクレーンを操作して正確に吊り上げ、下ろすイメージをしてみると、バッテリーパックは音もなくテーブルの上に現れたのだった。
一度成功してしまえば後は簡単だった。
二十五キログラムの備長炭のダンボールも、スっと音もなく次々取り出すことに成功し、しかも一つ、また一つと、何段も積み重ねた状態で正確に取り出すことに成功したのだった。
(そうだ、せっかくだからポタ電とソーラーパネルも試してみよう)
俺はまだ一度も使ったことのないポータブル電源と、持ち運び可能なソーラーパネルモジュールの収納と取り出しを試してみた。
(バッテリーの残量は……七十八パーセントか……)
そしてまたポタ電の特徴や用途を思い浮かべて念じてみた。
「よし成功だ! 今度は取り出して……よし。バッテリーの残量は……変化なし!」
後はそのまま倉庫のいろいろなものを出し入れして訓練を続け、なるべく多くの種類の荷物を、目一杯の量、収納魔法で繰り返し操ってみた。
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俺は夕食の時間まで目一杯練習を重ねた後多少の疲れを感じ、ハウスに戻っていった。
疲労困憊と言った表情でテーブルに着いて突っ伏していると、こちらも疲れた表情で“のそ”っと席に着いたミーシャに話しかけてみた。
「ミーシャ、そっちの練習の成果はどうだった?」
するとミーシャは首を横に振り、
『まったく進歩なしだったよ……いや……同時に二つまで扱えるようになった事は意外だったな。収穫はそのくらいだ』
とうなだれた。
俺は突っ伏したままドヤ顔で、
「それって結構スゴイじゃあないか。でも俺の方も結構進歩したぞ? 体重の五倍くらいならもう収納できるし、取り出すときも静かに、正確に、大きな箱を積み上げることも出来るようになったぞ? そうか、複数を同時にか……明日はそれを練習してみよう……」
とミーシャに向かって「ふふん♪」と鼻を鳴らしてみせた。
『うぐぐ……お前というやつは……どこまで器用なのだ!? あれもこれも、すぐに何でもすぐに会得し、そこそこ出来るようになってしまうではないか!』
と悔しそうに口を曲げて顔を耳までピンクにするのだった。
(そう、その“そこそこ”が、俺の器用貧乏のスキルの限界だな……決して突出した能力を発揮できるわけではない……限界を理解し、状況に合わせて機転を利かせたり、他のものと組み合わせたり、他人と協力したり。そこがこのスキルの“キモ”だ……)
そう気づいて、先程の複数同時に操ることだけではなく、もっと便利で様々な応用を考えなければと思い始めたところで理音と菊次郎もテーブルに疲れた表情でやってきた。
「あーつかれたー……こないだ空を飛んだのを思い出してちょっと試してみたんだけどー、頑張っても五メートルくらいしか飛べなくて…… あれならジャンプしたほうが早いくらいだよー……」
(いやそれ、どっちもスゴイだろ……)
と理音も着実に進歩していることに、少々驚いた。
「菊次郎はどうだった?」
するといつものドヤ姿勢で、
「僕はこないだ君たちが獲ってきたアランギの頭蓋骨を相手にいろいろ試していたんだけど、あの大きな角、金ノコでも切り取ることが出来なかったあの角を、根本の僅かなつなぎ目から綺麗に分離することが出来たよ」
と、少し疲れたせいなのかそのドヤ顔は精彩を欠いていたが、それでも自慢げにその成果を話したのだった。
(菊次郎の解体スキルも順調か。となるとあとは……)
俺はキッチンで忙しそうに動き回る夕花を見たが、夕花の成果は夕食の準備が終わって食事時に聞けばいいだろうと、そのままカウチに移動して夕食をぐったりとして待つことにした。
夕食が出来るのを待つ間、俺達はまたしてもソリティアに悪戦苦闘するミーシャを眺めることになった。
「あー、そっちじゃなくて……」
瀬蓮さんはつい口出しをしてしまったが、ミーシャはムキになって、
『言わんでいい! もう少しでコツを掴めそうなのだ……』
そう言って口出しを制すると、マウスをポチポチと操作し続けるのだった。
そうやってミーシャのプレイを皆アドバイスしたくてウズウズしながら観戦していると、夕花の声が聞こえた。
「ご飯できましたよー」
そして、リビングでソリティアの興じていたミーシャと観戦者たちは、この前と同じように、いやそれ以上の警戒の表情でキッチンの方を見た。
「ねぇ碧斗、なんであんたが作らなかったのよ。またこないだみたいだったらあたしもう自分でご飯作ろうかな……」
そう深刻そうに理音は話すが、いつも自分で「料理なんてカップ麺しか作ったことなーい」なんて吹聴している本人にそこまでの決心をさせる夕花の料理の味は、別の意味でも恐ろしいと言えるだろう。
「まぁ今日は魔獣の肉とかじゃないからさ、旅に出かける前に、冷蔵庫や冷凍庫に残った最後の食材を使い切った鍋だから。調味料もおれがしていし」




