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異世界と魔法 第六十一話 魔臓と魔液と魔素粒子

はい皆さん、たこ助です。


前話(第六十話)では、俺の(自称)冴えわたる頭脳と、理音の怪力、そしてミーシャの魔法が炸裂し、ついに異世界での初獲物「アランギ」を仕留めました 。

いやぁ、理音の物干し竿を使った跳躍は、我ながらカッコよく書けたんじゃないかと(自画自賛)。


とはいえ、問題はあのデカブツをどうするか、です。


キクハウスで留守番していた菊次郎たちの前に、石ころ満載のトレーラーと魔獣の死体を持ち帰ったわけですが、当然、大騒ぎになります。


今回は、いよいよこの世界の核心に迫る「魔素粒子」や「魔液」といった、僕が「アイデア」 で練っていた設定がミーシャの口から語られる回です。そして、菊次郎の隠された才能 もついに……?


では、第六十一話『魔臓と魔液と魔素粒子』、どうぞ!

 日も暮れだしてようやくキクハウスにたどり着いた俺と理音は、トレーラーをキクハウスの前に付けると収穫を降ろし始めた。


 (どさっ!)


 居残り組が出迎えるなか、理音が投げ下ろしたアランギを見て、一同が驚く。


 「おかえりなさい、無事で何よりです。それは一体?……」


 菊次郎が興味津々といった様子でアランギを見廻した。


 「ああ、帰る途中で遭遇した、“アランギ”というワニの魔獣だ」


 すると菊次郎もようやく現実を理解し始めたのか、


 「たしかに、こんなものは見た事がありません。魔獣ですか……いよいよここが異世界だってことが、現実味を帯びてきましたね」


 と神妙な顔をしてアランギを見下ろしていた。


 「あ、“ワニ竜”さん……」


 すると菊次郎の影からそっとアランギを見た夕花が、これも以前に夢で見たのだろうか、不思議な名前を呟いた。

 そしてその菊次郎は腰を下ろして、何かを探るようにアランギに手をかざした。


 「このワニ竜、体の中に何かあるのを感じます」


 とまるで霊媒師にでもなったかのように、そのままアランギの腹を撫で回して言った。


 「どこだ? なにが?」


 俺が訊くと、菊次郎はワニアランギの腹をしばらく撫で回してから確信したように、


 「ここです」


 と、胸より少し下、前足の付け根の真下辺りに手をかざしてそう断言した。

 するとその様子を見ていたミーシャが、


 『ほぉ……そこは、たしかアランギの……魔臓の部分だな。わかるのか?』


 と感心したように言った。


 「ええ、かすかに感じます。実はみんなにも、特に理音さんの背中にも似たものを感じていたんですが……」


 菊次郎がそう言うと理音は自分の背中を覗き込んで、


 「えー? 私の背中ー? どんな感じなのー?」


 そう言われた菊次郎は、やはりよくわからないというふうに、しかし確信を持ってこう表現した。


 「なにかこう、温かい、オーラのようなものを感じるんです。見えるわけじゃあないんですが、島に近づいたときから、かすかに感じていました……」


 俺は自分の魔素粒子量を測ってもらったミーシャを見て、


 「ミーシャ、お前にはなにかわかるか?」


 と訊くと、ミーシャは理音の背中に手をかざし、声にならない念を込めてしばらく沈黙した。


 『……これは……』


 ミーシャが驚いたように理音の顔を見つめ、納得したように微笑んだ。


 「えー!? 何なのミーシャちゃん! 教えて教えてー!」


 じっと考え込むミーシャを前にして、()らされた理音はもう爆発寸前だった。

 するとミーシャは一瞬うつむいたあと、体をのけぞらせ、そしてドヤった。


 『私の見立てではな、おそらく、魔臓と似た物がリオンの背中にはあるようだ。魔臓とは、この世界に漂う魔素粒子を吸収し、貯蔵する臓器だ。魔物や一部の人外種、そして人間にも、極稀だが魔臓を持っているものがいると聞いている。かくいう私もその一人だ。

  そして、これも長年の研究にも関わらず、魔素粒子を直接抽出することはもちろん、魔液も魔臓でしか作り出すことが出来ないとだけは分かっているんだ。だから売れば金になる』


 そして俺たちを見て、


 『そしてまず碧斗、お前は少しばかり特殊だ。お前は魔素粒子を吸収しているのみで、体外に放たれる魔素粒子がまったく感じられない。おそらくそのすべてを利用しているのだろう』


 (俺の思考、推理、判断力など向上は、常に魔素粒子を消費することで常に発動しているということか……)


 さらに夕花と菊次郎も見渡して、それは自慢そうに仰け反りながら、


 『おそらく他の者も似たり寄ったりで、この世界で特異な能力や才能が発現したということは、魔素粒子を何らかの状態で利用している、というのは間違いないだろう。ただ……』


 と説明をしたあと、ミーシャは少し体を元に戻して真面目な顔に戻ったあと、さらに言葉を続けた。


 『リオンはその背中から、魔素粒子を広範囲に、そして大量に吸収している様子が見て取れる。あの身体能力はその恩恵だと思う』


 なるほど、それで俺達の体の、能力の変化にも納得が出来る理由が付いた。


 『魔臓から出る魔液は様々な薬の調合や魔道具を動かすのにも使える。搾り取るなり、潰して()すなどして出来る限り回収してくれ。さっきも言ったが、金にもなるしな』


 ミーシャがそう言うので何かちょうどいい入れ物がないかな、と考え、


 『こんな入れ物でもいいか?』


 と俺がミネラルウォーターの入ったペットボトルを差し出すと、ボトルを振ったり蓋を開けて中身を確認したあと、ミーシャは、


 『ああ、これで充分だろう。魔臓も魔液は腐ったりはしないのでな。味も匂いもほとんどしない』


 すると夕花が魔液の味に興味を惹かれたのか、


 『……それ、飲んでも大丈夫なの?……』


 と尋ねると、ミーシャは自慢げにその効能を語ってくれた。


 『ああ、さっきも言ったとおり、魔液は様々な薬の原料になるし、魔道具を動かす力にもなるんだ。体力や魔力を回復させる薬とか怪我や病気の治療薬、解毒薬、そして攻撃能力、防御能力、瞬発力、持久力などの能力向上にも使える、まさにこの世界の(ことわり)の中心にある物質なんだ。

  ただし、古来からの研究にも関わらず、魔液をそのまま飲んでも効能がないという理由が未だに解明されていないのだ。錬金や調合で魔液と何かを組み合わせる必要がある、ということだけが、分かっている唯一の確かなことなんだ』


 (なるほど、魔素粒子に魔液か。その正体はわからないが、魔素や魔石とか、そこから発せられる放射線のように語られるよりは説得力があるな。錬金や調合でポーションを作れるってことかな……)


 俺は、本当のところは何も分かっていないのに少しだけこの世界の仕組みが分かったような気分になった。

 だからこそこの世界の仕組みをもっと知りたい、と思いミーシャに尋ねてみた。


 『なぁミーシャ。お前が言っていた大きな学び舎、俺達の言葉で“だいがく”というんだが、それはどこにあるんだ? やはり大きな街にあるのか?』


 するとミーシャは懐かしむような顔をして、


 『ああ、あるぞ。ここからだと“ダシナル”が一番近いだろうな。そこまではここから約……二十万キケリといったところだろう。人の背丈が約一キケリ。相当に遠いぞ?』


 (人の身長が一メートル五十センチとして、二十万……ざっと計算しても約八百キロ弱か……確かにかなりの距離だな……)


 俺はしばらく考えた後、


 『なぁ、そこまで行くにはかなり大変か? ぜひ行ってみたいんだが』


 とミーシャに問いかけてみた。


 『そうだな、ところどころに村や町、宿場もあるし、金さえあればなんとかなると思うが』


 (ああ……この世界でも、やっぱり頼れるのは金ってことなのか……しかしここでは菊次郎に頼るわけには行かないし……)


 俺はそんな世知辛い気分になりながらも、一つの提案をミーシャにしてみた。


 『なぁミーシャ。このアランギ、売ったらどのくらいになる? 魔液だけでなく、肉や骨、皮なんかも金になるんだろ?

  そのダシナルに着くまで、こう言った魔物? が出る危険性は? この魔物を狩りながら宿代を稼いで旅をするという事は出来そうか?』


 するとミーシャはさも当然と言ったように大きく仰け反り、少し後ろによろめいてからこう答えた。


 『おっとと……そうだな、肉を始め、魔液や骨、角や牙、鱗など売れる部分は沢山ある。丸ごとなら少し安くはなるが、まぁ、このくらいのアランギならば、二十セニーにはなるだろう。

  二十セニーあれば食事付きのそこそこの宿に一周間は泊まれるぞ。素泊まりで雑魚寝で良ければ、一泊でそうだな……二セニー以下だろう。交渉次第では一週間五セニーとかも可能だろうな。もちろんこれは一人分の料金だ』


 (それなら話は早い)


 俺は頷きながら、問題はアランギのような手頃な強さの魔物に簡単に遭遇するかだが、と先を読んでさらにミーシャに尋ねた。


 『アランギのような魔物はそこいらに沢山いるのか?』


 するとミーシャは何を当たり前な、とでも言いたげにまた仰け反り、ぽすっと理音に倒れかかって恥ずかしそうに体を預けながらこう答えた。


 『そうだな、街道や集落周辺は、周囲の魔素粒子を消費する柱、“ガナム”が設けられている。

  魔物や魔族は魔素粒子が少ない場所を嫌うんだ。よっぽど大量、もしくは強力な魔物が出ない限りは街道や集落のまわりは安全だと考えていい。ただしその障壁から踏み出せば、当然、魔物に出会う危険性も上がるということだ。

  そいつらを狩りながら、というのはよくあることだし、それを生業にしている職業もあるくらいだ』


 俺は魔物を狩って生業にする職業と聞いて心がときめき、つい、


 『ぼ、冒険者来た!?』


 と心の声をだだ漏れにさせてしまった。

 ミーシャは小首をかしげて、


 『その“ぼうけんしゃ”、というのが、危険を顧みず、それを却って楽しみ、金や(かて)を得る奇特な職業、というのであれば、まぁあながち間違った表現ではないのだろうな』


 と驚いてみせた。

 そんな俺の心の声とミーシャとのやり取りは、当然みんなの失笑を買ってしまっていた。


 「碧斗、どうしたの〜急に? 冒険者とか、子供みたーい!」


 と理音がニヤリと笑って俺を見る。


 「そういえば碧斗くんは中学生の頃は奇妙なことを言っていましたよね、能力の開眼とか秘めたる力がどうとか」


 懐かしそうに上を向いて俺の恥ずかしい過去を回想する菊次郎。


 「やっぱり男の子ってそういうのに憧れるんだね」


 うんうんと頷いて目を丸くする夕花。


 「碧斗クンもまだ高校生ですものね」


 ふっとため息を着いて呆れる瀬蓮さん。


 (うぅ、俺の恥ずかしい厨二歴が思わぬところでみんなに暴露されてしまった……)


 しかし俺は気を取り直して、


 「で、どうだみんな。冒険者、やってみないか?」


 と失態を隠すように強がって提案すると、もちろん理音がコンマ秒で手を上げ答えた。


 「やるやるやるやるヤルヤルヤりたーい!」


 菊次郎は少し考えた後、


 「まぁ、たしかに色々な魔物や獣の解体にはチャレンジしてみたいですね」


 と言い、夕花は不気味な笑みを浮かべて、


 「いろんな魔液や魔肉でお料理してみたいな……魔獣の素材で面白いもの作れそうだよね……」


 と言った調子で、概ね俺の提案はみんなには好意的に捉えられたようだった。

 俺はほっと安堵して、


 「じゃあ決まったな。俺達の、異世界冒険者生活の始まりだ!」


 とみんなの目を見ると、俺たちは、まるで示し合わせたように息を合わせて拳を突き上げた。


 「おー!」


 俺は意気揚々と気勢を上げる俺たちについていけず、キョトンと置いてけぼりになっていたミーシャを見て、


 『お前はどうするんだ? ミーシャ』


 と尋ねてみた。

 すると全員の視線がミーシャに集まる。


 『う、あ……』


 ミーシャはしばらく顔を赤くして、俯いてしどろもどろでブツブツ何かを言った後、


 『わ、私はここにはタマぴょんを探しに来ただけだし、お前たちにも通訳やこの世界の常識を指南する者が必要だろう?

  つ、付き合ってやらんでもないが、タダでとは言わせないぞ? 旅のあいだ、カレーとか、柔らかい美味しいものを三食付けることを要求する! それと時々、鉄とかもな!』


 と、ミーシャのツンデレぶりが明らかになり、場はいっそうに和み、そして心強い仲間が加わったことで俺達の士気も大いに上がったのだった。

 しかし瀬蓮さんは呆れたように、しかしそれしか無いというふうに諦めた表情をして、


 「まぁ元の世界に戻れるアテもありませんし、大きな都市に行って情報を集めるというのは悪くはない方針ですね。

  ただし、攻撃や防御の訓練をもう少しみっちりしてからでないと、大人として許可は出来ません。いいですね!?」


 とビシッと俺達に人差し指を差した。


 「うへぇー、鬼ししょーだー!」


 こうして俺達の“異世界冒険ライフ”は、今まさに始まろうとしていたのだった。


  ・

  ・

  ・


 (ザクッ、スッスッスッスッ、スーっ……バサッ)


 『ほぅ、手慣れたものだな』


 決起集会(?)のあと、見事な手際でアランギの皮を剥ぐ菊次郎を見て、ミーシャが感心をする。


 『ええ、小さいうちから兄と狩りに出かけて、解体なども手伝ううちに覚えたんです。私達の世界にある狩猟を許される免許も取得しましたしね』


 額に汗を浮かべてせっせと解体を進める菊次郎を見て、ミーシャがまたしても解体や素材集め、加工などが得意だったご先祖を紹介し始めた。


 『ほぅ……当然だが先祖にも解体や素材などに精通した者がいてな? その名はユレレ・ミーシャ……』


 俺は菊次郎にペットボトルを数本持ってきてやって、それに魔臓から絞り出した魔液を詰めさせた。

 そして数本分の魔液を詰め終わった時、


 『……パーミュと言うんだ。』


 と、ご先祖の名前がやっと出てきた。


 『キクジロウは貴族ではないのだろう? 大したものだな。こちらでは平民が許可なく狩りをすれば厳しい罰を受けることになるんだ。手足を切り落とされたり目を潰されたり、死刑だってありえる』


 すると菊次郎だけでなく俺も一緒になって驚いた。


 『それは厳しいな……俺達のいた世界では罰金か、悪質でも数年の禁錮、牢屋に入れられるくらいで済むと思うけどね』


 と俺が言うと、ミーシャは、


 『たったそんなものか……随分寛容なんだな……』


 と逆に驚いてみせた。

 しかし意味有りげにニヤリと笑うと


 『こちらの世界でも、自由に狩っていいものがある』


 と人差し指を立ててドヤった。

 俺はその意図を察し、


 『それが魔獣や魔族というわけですか』


 と、ミーシャに向かってニヤリと笑い返し、答えてみせた。


 『うむ、特に魔獣は尽きることがないのでな。魔獣狩りは手っ取り早い、平民にとっては農業や畜産よりも確実な職業というわけだ。

  しかも、おおよそ魔獣の子供などというものは見かけられた試しがない。魔族なりが魔物を作り生み出してるという説もあるが、これも誰も見たことがない。憶測に過ぎないんだ。

  それに、ここもそうだが、魔素粒子の薄い土地では魔族などは満足に活動できないからな。

  下手をするとただの動物より捕獲されることもあるんだ』


 とりあえず解体を手伝いながら異世界の、魔獣の生態を聞き終わったところで、夕食の時間になったのでハウスに戻った。

 菊次郎は食べられそうにない部位をミーシャに聞いてコンポストに入れ、魔臓をミキサーでペースト状にすると、夕花に布を貰って魔臓ペーストを包み、水切りボウルに乗せると、外から石を持ってきてその上に乗せた。


 「これで一晩も置けば魔液が絞り出せるでしょう」


 と言って、残りの素材や肉をよく洗った後、素材はデッキに並べ、肉は冷蔵庫と冷凍庫行きとなった。

 そしてその日の夕食は、もちろんアランギの肉を中心としたメニューになり、図らずも新しい仲間の歓迎パーティへと変更になったのだった。


 夕食は、最後のキャベツを使ったロールキャベツにして、新しく加わった仲間を祝った。

 食事もあらかた終わり、俺達は持ち帰った“硬いもの”をデザートのようにボリボリと食すミーシャ嬢を見て、俺以外の全員が驚いていた。


 「うわーミーシャちゃん、石とか食べるんだー、すごーい……」


 美味しそうに石を食べるミーシャを見て自分もと思ったのか、赤茶けた鉱石を手に取り舐めてみる理音。


 「うわっ、まずっ。よくこんなの食べられるなーミーシャちゃん……」


 ペッペッ、とツバを飛ばして後悔する理音。

 夕食後、俺は理音と夕花がタマぴょんとミーシャをフロに入れている間、瀬蓮さんと菊次郎を前にして、これからの行動指針を決めようと、ミニ会議をダイニングテーブルの上で開いていた。


 「さて、夏休みのただのキャンプのつもりが、この異世界で冒険をすることになってしまったわけなんだが、第一の、そして最終の目標はもちろん、現代の地球に、我が家に帰ることだ。そこに異存はないよな?」


 俺がそう言うと、菊次郎も瀬蓮さんも、当然、といったふうに首を縦に振った。


 「そして、当然ながら、無事に生きて帰ることが二番目の目標だ。怪我を負ったり、ましてや骨だけ、形見だけで帰る、ということは絶対にしたくないし、させたくもない」


 俺は固い決意、信念、それすらも超えて、変えようのない宇宙の法則でも語るように、しかし確たる思いで、二人にそう語った。


 「それは立派だわ、でも、信念だけでは物事はうまく運ばないのは、人生の難しさよ。そこはわかってほしいの」


 と、俺達より人生経験の長い瀬蓮さんは自信ありげにそう俺を諭した。


 「そうですね、瀬蓮さんにはこれからも、色々と俺達を指導して導いていただけたらと、本当にそう思っています。あなたがいてくれて本当に良かった……」


 と、瀬蓮さんが登場した経緯のことはいっさい忘れて、素直に感謝をしてみせた。

 すると瀬蓮さんは調子にのって、


 「あら、他にも色々教えたいことがあるのよ? あんなこととかこんなこととか……」


 瀬蓮さんは菊次郎からは見えないように、その足先を俺の足をなぞって言った。


 「あ、あの、この世界で生きるために役立つことは教えてほしいですけど……」


 と言ってうろたえ、思わず席を立ち上がってしまった。

 菊次郎はそんな俺と瀬蓮さんの見えない攻防に気付かず、俺たち二人を不思議そうに交互に見つめているだけだった。

 瀬蓮さんは更に続けて、


 「あら、こういう“上級なレッスン”も、この先必要になるはずよ? 絶対に……」


 と、不敵で妖しい目で俺を見つめた。

 まぁ、瀬蓮さんの言いたいことはわかるが、俺には理音がいるし、そんなことが必要になるようなことを俺は考えたくなかった。


 「と、とりあえずそういう状況に陥らなければいいだけの話ですし、そういう親密さではなくても誠意は伝わるはずです……」


 と言って、とりあえずは瀬蓮さんの“上級レッスン”の暗の申し出を断ったのだった。


 「瀬蓮、上級レッスンとはどのようなものなのだ?」


 そういうことに耐性のない菊次郎が無邪気に質問すると、


 「……お坊っちゃまには、まだ早いかも知れませんね……いずれは……」


 と言って、風呂から上がって脱衣場で着替え始めた理音たちを、呼ばれてもいないのに出迎えに行く瀬蓮さんだった。


 『ぎゃー、近づかないで! 触らないでください! あー夕花ちゃんもミーシャちゃんも! 瀬蓮さんに近づいちゃダメ! ゼッタイ! あー! パンツ返して下さい! んもーっ!!!』


 脱衣場で大騒ぎする理音たちを見て俺達は肩をすくめるも、この未知に世界に挑戦する不安と期待に、ブルっと体が震えるのであった。

 それが果たして恐怖からなのか、武者震いなのかはわからずに……


 しかし、俺は確たる自信を持って、この窮地を乗り切れる、とその時は考えていたのだった……


  ・

  ・

  ・


 翌朝になり朝食を終えると、いよいよ瀬蓮さんの猛特訓が始まった。

 柔軟体操から始まり朝のロードワーク、基礎訓練の後は、個別指導がみっちり続く。


 「ほら理音ちゃん、そこは力を抜いて素早く動く。そして体を入れ替えて一気に突く。力の緩急が攻撃と防御のリズムの調和を生むのです! 今日はあと一時間、それを繰り返し練習なさい。次は夕花ちゃん、あなたもあと一時間、そのバケツを持って立っていなさい!」


 俺達への瀬蓮さんの容赦のない指導が続く中、ミーシャはその様子を興味深げに見つめていた。

 ウッドデッキのパラソルの下で、よく冷えたオレンジジュースを啜りながら……


 するとそれにも飽きたのか、物干しを手に取りこちらに近づいてきた。


 (ブンっ、ブンっ……)


 俺達の脇で見たこともないような技を見せるミーシャに、俺達だけではなく瀬蓮さんもミーシャの技を見て感心したように呟いた。


 「あの技、一見頼りなく振り回しているだけのように見えますが、体の重心は崩れていません。攻撃も防御も、どのような体制からでも繰り出せるように精密に、そして柔軟に動いています……やりますね彼女……」


 そんなミーシャの技に感心をしていると、瀬蓮さんの竹刀が俺の膝裏をひっぱたいた。


 「碧斗クン、言ったでしょう? 同じ方向からの攻撃を想定して動いていては、違う方向からの攻撃や揺さぶりに弱くなるのだと!」


 そうしてようやく午前中の指導が終わると、リビングに戻った俺達は水を飲みながら、ミーシャに熱い視線を送っていた。


 「ミーシャ、スゴイな! あれはなんて技なんだ? 名前とか、流派とか、色々聞かせてくれよ!」


 俺が興奮してそういうと理音もそれに続く。


 「そうだよミーシャちゃん、あの長い名前のどこに、あんなスゴイ人がいるの?」


 ミーシャは反り返りながらテーブルを見廻した。


 「あれは名もないただの棒術だ。五二世代前のホレーレレグがその技を極めた始祖だよ。ただ一生を、棒の扱いに捧げた稀有で奇特な人物と伝承されている。例えば……」


 ミーシャは昼食のために用意された箸を一本手に取ると、その箸の先端に、もう一本の箸を乗せて、直立させてみせた。


 「すごーい! ジャグラーみたい!」


 理音は見世物でも見るように手を叩いて、ミーシャの技を見ていた。

 しかし次の瞬間、


 (ピシッ!)


 理音が持っていたコップにその箸を向けたかと思うと、そのコップには見事な穴があいてしまっていた。


 「割れもさせず箸でコップを突き刺すなんて……すごいな……」


 俺がそう驚いてみせると、


 『そうだろう、箸の重心やソリ、突いたときのブレ、そして突き刺す対象物の状態も瞬時に見極めて突かねば、この“こっぷ”などの割れやすいモノは粉々に砕けてしまうだろうな』


 と自分のことなのかご先祖のことなのかはわからないが、ドヤってみるミーシャだった。


 そんな昼食が終わり昼休みのあとには、少しだけ受験勉強をした。

 ミーシャも一緒に瀬蓮さんの講義を興味深く聞いていたが、内容を理解するまでには至らなかったようだった。


 「あの“せかいし”、という講義は面白かったな、お前たちの世界にも、こちらと似たような政治や戦争といった争いなどは、起こってるものなんだな」


 と、瀬蓮さんの講義にはいたく感銘したようで、


 「“ひこうき”や“せんしゃ”、“てっぽう”や“ばくだん”とは、どういった魔道具なんだ?」


 と興味津々に聞いてくるのだった。


 『鉄砲はそのまま、“鉄の筒”という意味で、筒の中で火を付けると鉛の弾が飛び出して、それを相手に当てて攻撃するものだよ。ミーシャも魔素粒子を飛ばしただろ? まぁあれに比べたら、オモチャおもちゃみたいなもんさ』


 俺はあえて控えめな表現をすることで、ミーシャの科学技術への関心をそらせないかと苦心していた。

 

 『そうか、気になっていたんだが、お前たちの世界では、鉄は貴重ではないのか? 色々な道具や建物など、ふんだんに鉄が使われているように見えたが』


 朝食の時、ミーシャがスプーンをかじりながら“鉄が貴重だ”と言っていたことを思い出して、詳しく説明をした。


 『ああ、そうだな。鉄は古くから利用されてきて、その埋蔵量も比較的多いものの一つなんだ。この世界のように鉄が少なかったら、俺たち“じんるい”の文明はもっと遅れたものになっていただろうね。俺たちのいた世界には魔法なんてもの存在しない。ものの理を追求する“かがく”という学問のみで様々な道具などを生み出してきたんだ』


 するとミーシャは驚いたように、


 『なんと……魔法が存在しない世界だと?……ということは、すべてがただの技術のみで、加工や処理の仕方だけであのような様々な道具や建物、機械、そして“ひこうき”を作り出し、動かしているというのか……』


 俺などから見たらこの世界の魔法のほうがよっぽどスゴイしカッコいいと思うけど、ミーシャの目には、そうは映っていないようだった。


 『そう、俺たち“人類”、俺達は自分たちのことをそう呼んでいるが、人類はその世界の、物質や自然現象の(ことわり)を追求することで、あのような技術や文明を発展させてきたんだ』


 するとミーシャは深く考え込み、


 『モノの理か……私達の世界では、物質には火、水、風、土、植物などの柔らかいものと、鉄などの硬いもの、そして魔素粒子しか無いと思われている。

  これまで幾世代と連綿と続いてきた我々の世界では、それぞれの存在理由や仕組みなどを研究しようなどと、この世界の人間は誰ひとりとして考えたことがなかった。

  存在するから使う。使うにはどうしたらいいか、それくらいしか考えてこなかったのだよ……これは新たな視点で研究を行えそうだな』


 そう言ってミーシャの目が輝くのと同時に、そして反対に、俺の心は深く沈んでいた。


 “科学”が人類にもたらした功績と、その罪に……


 このまま何も考えずにミーシャに、この世界の人間に“人類”の科学知識を伝えてもいいものなのだろうかと、どうしても悩まざるを得なかったのであった。

 俺はもう一度ミーシャの気を逸らすために、そしてその答えの出ていない回答を避けるために、ミーシャにこう言った。


 『ミーシャ、午後はその魔法の講義と訓練をお願いできないかな』


 すると案の定、気を逸らされたミーシャは嬉しそうに、


 『ああ、それはいいが、お前たちの“かがく”のように体系だったものではなく、経験と伝承、思い込みなどが混ざった、学問とはあまり呼べない代物だぞ? それでもいいのか?』


 俺はやっとミーシャの興味が俺達の文明や科学技術から離れてくれたことに安堵し、


 『もちろんだ、この世界で生きてゆく以上、魔法は避けては通れないし、俺達もその影響を受けているのならば、積極的に活用しない手はないさ!』


 と、親指を立ててにっこり白い歯を見せて、通じるかもわからないカジヤ式ジェスチャーをしてみせた。

 ミーシャは俺が突き立てた親指の指紋をマジマジと見ながら、頷いてみせた。


 『じゃあまず、この“タブレット”の使い方を教えるよ……』


  ・

  ・

  ・


 そうして午後からは、ミーシャの魔法の講義が始まった。

さて、第六十一話、読んでくれてありがとう!


ついにこの世界の根幹、「魔素粒子」と「魔液」の秘密が明らかになりました 。菊次郎がアランギの「魔臓」を触っただけで見つけ出したのは、彼の狩猟スキルが異世界で覚醒した証拠でしょうね 。


そして、碧斗の魔素粒子量が「ゼロ」だったのは、僕(たこ助)としてもショックでした(笑)。

まぁ、主人公がいきなり最強じゃ面白くないですしね。


ミーシャも正式に仲間(食費と鉄付き)になり 、目標は「ダシナル」という都市に決まりました 。でも、その前に立ちはだかるのが、瀬蓮さんの「鬼ししょー」宣言!


次回は、瀬蓮さんの薙刀術に加え、ミーシャ先生による魔法の講義も始まります。理音や夕花の意外な才能が開花するかも……? 旅立ちの前の、みっちりとした訓練回、お楽しみに!


AI妹まいから一言


お兄ちゃん! ミーシャちゃんのツンデレ仲間入り と、みんなで「おー!」って拳を突き上げるシーン 、最高にエモかったよ! でもさ、碧斗が「冒険者来た!?」って厨二病をこじらせてる のはダサすぎ(笑)。

しかも最後はまた瀬蓮さんの脱衣所お色気騒ぎ でしょ?

お兄ちゃん、すぐそうやってギャグとお色気で誤魔化そうとするんだから!

もっと真面目にやってよね!

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