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異世界の片鱗と覚醒 第六十話 厨二とワニと馬鹿力

皆さんどうもタコ助です。


前話では、碧斗たちの目の前でミーシャが金属をガジガジ食べるという衝撃の食性が判明しまして、この異世界でのサバイバルに必要なのは、碧斗たちの知っている「食料」だけでなく「硬いもの」だと確信した碧斗でした。

そして碧斗は理音とミーシャという、脳筋と知識という個性がぶつかり合うとコンビ?を連れて、バギーで「硬いもの」探しに出かけることになりました。


しかし、その行く手に待ち受けていたのは、ミーシャが語った「アランギ」というワニ型の魔獣との遭遇でした。


理音の覚醒した怪力と、ミーシャの魔法の力が初めて実戦で組み合わされることで勝利を得たのですが、碧斗の冴え渡る頭脳も陰ながら勝利に貢献したという、まさにこの物語でタコ助が語りたかったエッセンスが詰まったお話だと自負しています。


碧斗と彼女たち、他の仲間の力がどう化学反応を起こし、異世界での困難を乗り越えていくのか?

この「異世界での初めての狩り」の結果は、碧斗たちの異世界ライフの方向性を決めることになるのでしょうね。


では、続きをどうぞ。

 ミネラルの摂取方法に思いを馳せていた俺だが、畑の作物が思いのほか実っている状態を見て、ひとまず安心をしたのも事実だった。


 (ミーシャ、俺は海まで行こうとして途中で、キラキラ光る石や植物を見たんだけど、あれが“硬いもの”なのか?)


 するとミーシャは間髪を入れず即答した。


 『海? というものは知らないが、ああ間違いない。きっとそれが“硬いもの”だ。どこにあった?

  この森に迷い込んでからというもの、石や苦い柔らかいものばかりで、栄養があるものが全く見つからないんだ。

  両方が全く手に入らないので、私もついに力尽きたというわけなんだ』


 俺はミーシャにその場所を案内しようとしてバギーのキーを取りにリビングに向かった。


 「ちょっとユレレ・ミーシャとでかけてくる」


 そう言うと、理音が


 「あたしも行くー!」


 と言って何故かキッチンに向かっていった。


 「何やってんだアイツ」


 俺はミーシャにヘルメットを被せてさっさとバギーに乗り込むと、ステンレスの水切りカゴにタオルを敷き詰めて作ったらしい簡易ヘルメットを被った理音がトレーラーに飛び乗ってきた。

 おまけにその手には、瀬蓮さんと同じ物干し竿まで握りしめられていた。


 「それ、夕花に作ってもらったのか?」


 「うん、いいでしょ!」


 (まぁしっかり固定されているようだし、無いよりはマシだけど……)


 「遊びに行くわけじゃあないぞ、ユレレ・ミーシャの食料を集めに行くんだ」


 「いいじゃん、人手が多いほうがいいでしょ!」


 「はぁ、仕方がないな、二人とも、しっかりつかまっていろよ!」


 そう言うと、理音はトレーラーに、ミーシャは俺にガシッと掴まって、バギーは発車した。


 「ユィィィィィーン……」


 『これは、なんという動物だ、従順でおとなしいな……』


 どうやらバギーのことを言っているらしかった。


 (これはバギーという“乗り物”です、動物ではなく“機械”です。心は持っていませんよ)


 『なんと……魔道具の、一種なのか……何と高度な……エサも要らんのか? どうやって動いている? 空は飛べるのか?』


 そう矢継ぎ早に質問してくるミーシャは、まるで俺のように技術に積極的に、そして旺盛に興味を示してくるのだった。


 (ふっ、異世界のギークか……)


 そんなふうにクスッと笑うとミーシャはそれを察したように俺の脇腹をギュッとつねった。


 「いてっ」


 『なにかよからぬことを考えたのであろう。仕置だ』


 異世界でも女性の感受性センサーは健在らしい。

 俺がそのままバギーを走らせると、あのキラキラした鉱物が姿を見せ始めた。


 『おお、あれだ! 止めろ!』


 (ザザーッ)


 バギーを止めると一目散に飛び降りて光る石にかじりつくミーシャ。


 (なぁ、それ。美味いのか?)


 『当たり前だろうガジガジ。これなくしては体の維持もままならんし、美味なことこの上ないのだ、ボリボリ……』


 ミーシャは拳くらいの石を平らげると、近くにある同じような石も、普通の石も一緒くたにしてトレーラーに乗せ始めた。


 (持って帰るのか?)


 『ああ、あの家の周りにはなさそうだし、さっきも見ただろうが、一月にあの程度の硬いものがあれば事足りるからな。少し持って帰ろうと思う。お前たちも手伝え』


 そう言うと、色々な石を吟味して、ポイポイと選り分けてトレーラーに放り込み始めた。


 (まてミーシャ、俺達には違いがあんまり良くわからないんだ。少し説明してくれないか?)


 『仕方がない、まずこれが一番重要で大量にほしいものだ。硬いものの中でも特に暗い銀色に美しく輝くのが特徴の“シラン”だ』


 『そしてこれが硬いものの中でも比較的柔らかい石の素“アミン”が多く含まれた“バーキラン”だ。複雑な錬金と魔術を用いて精錬するとアミンの結晶が取り出せる貴重なものだ』


 (白銀色に鈍く輝くこれがアミンの素、バーキランか。そのくらいか?)


 『ああ、シラン、続いてバーキラン、その他はそもそも少ないし、あったら拾っておけ』


 「理音、分かったか?」


 「えー、よくわかんないから、とりあえず荷台の隣に山にして積んでおけばいいでしょ!」


 そう言うとせっせと石ころを集めて放り投げ始めた。


 (やれやれ、集めるのは理音に任せて、俺達は仕分けをするか、ユレレ・ミーシャ)


 『そのほうが効率的そうだな』


 珍しくくすっと笑い理音を見るミーシャ。


 (笑うと可愛いじゃんか)


 『ば、ばかもの! 可愛いとかそういうのはだな! めったに女に言うものじゃあないんだぞ? 知らんのか!』


 これまた珍しく照れるミーシャ。

 どうやら女心も異世界は共通のようだった。


 ここで俺は少しだけ、現代の科学知識を使ってミーシャに質問をしてみた。


 (この世界でカルシウムやナトリウムといったミネラル、硬いものの素は存在するのか?)


 俺は歯を見せて、コンコンと指で叩いてみせた。


 (これがカルシウム、俺達の歯や骨を作っている)


 するとミーシャは俺が見せた歯と見てしばらく考え込むような仕草をしたあとこう言った。


 『知らんな。大きな学び()で見た本の中にあったかもしれんが、極限られた種類だと記憶している……』


 (大きな学び舎……大学のことかな……)


 『だいがく、というのか。お前もそこで学んだのか?』


 (いいえ、来年受験、……試験を受けて、合格すれば行けるんだ)


 『ほぅ、誰でも入れるわけではないのか。我々の世界では学び舎で学びたいと望めば拒まれることはないぞ?』


 (ああ、俺たちの居たところでも、義務教育と言って、そうだな、七歳くらいから六年間とその後の三年間、段階を経てほぼ強制的に勉強をさせられるんだ)


 『強制的にか、穏やかではないな……』


 (でも字を読んだり書いたり、簡単な計算が出来れば、社会の質を保つことになると思うだろう?)


 『なるほど……確かにな。ここでは皆好きなもの、あるいは親の職業に関することしか学ばないから、読み書きも計算も出来ぬものも沢山おるわ……』


 (大学はそれに近いな。好きな学問の道を専門に学ぶことが出来るんだ。そうして何かを作ったり、人を教えたり、病気やゲガを直したりと専門的な知識で社会を支える人材を育てるんだよ)


 『理にかなっている。で、お前たちは今、九年間の義務教育とやらを終えて何をしておるのだ。私達の寿命にも匹敵する時間を勉学に費やしたんだ、さぞ利口で聡明で、明敏かつ賢明、さらには怜悧で英明、利発なんだろうな』


 「おーい碧斗ー! この溶岩っぽいのはどうするのー!? 土や砂はー? もうめんどくさいから全部持って帰ればー?」


 (まぁ、何事にも程度というものがあってだな……)


 (しかし義務教育の後では、希望する者は、やはり試験を受けて高校という学校でさらに高度な勉強を学ぶことになっている。その段階で社会に出て働くものも居るんだ。俺達は高校で最後の学年を過ごしているところだよ)


 『専門は? 魔導か? 魔術、それとも錬金かな?』


 (いや、ほとんどは義務教育の延長で、総合的な勉強ばかりだよ。古い詩や文学を現代の言葉で理解する古文や、音楽、錬金に近い科学や物理といった科目もあるんだが、ほんのさわり(・・・)を学ぶだけで、やはり大学に行ってから本格的に専門分野を学ぶんだ)


 『随分と幅広く、そしてのんびりとした仕組みなんだな』 


 俺はこの世界の仕組みがだんだん分かってきたように感じた。

 すぐに役に立つ職業などに関することを、昔の徒弟制度のように学ばされて社会に出るような、中世の社会に似た仕組みなのだろう。


 (ユレレ・ミーシャ。俺もミーシャと呼んでいいかな? ミーシャは何を学んだんだ?)


 俺は同年代ということで、ミーシャにもう少しフレンドリーに接することにした。


 『ああ、かまわんよアオト』


 ミーシャが少しのけぞって、マントの懐から一冊の本を取り出してみせた。


 (異世界にもドヤりが流行ってんのか?)


 『これは母から、母はその母から、母の母はその父から……』


 一分後、俺はたまらずミーシャに頭を下げてお願いした。


 (悪いけど……少し省略をしてくれないか?)


 『……分かった……つまり代々受け継がれ書き足されてきた魔法、魔導、錬金、鍛冶、あるいは体術などを網羅した、私の命よりも大事な総合書だ』


 (つまり百科事典のようなものかな?……)


 これも強く思わなかったのでミーシャには伝わらなかったようだ。


 (それにしてはずいぶん薄いけど?)


 するとミーシャの薄い胸がさらに反り返り


 『ふふん、これは特殊な錬金、鍛冶、魔導で作られた本に魔法をかけた特別な本なのだよ。索引の数十枚の一行をなぞれば、さらに詳細が見えるという一品なのだよ』


 と完全ドヤモードで説明をしたのだった。


 (スゴイな、ハイパーリンクのようなものか。魔法……いよいよ異世界らしくなってきたな!)


 俺が心を踊らせるとミーシャが不思議そうな顔で語りかけてきた。


 『異世界、とは何だ?』


 (しまった……)


 俺はまだ当分、違う世界から来てしまったということを隠すつもりだったのだが、魔法という言葉に興奮してしまい、つい強い思考で異世界という言葉を思い描いてしまった。


 (ミーシャ、これはまだ確証がないことなんだ。でもいくつかの現象と証拠、そして少しの推理をした結果なんだが、驚かないで聞いてくれるかい?)


 『わかった……聞いてやろう』


 俺を下から覗き上げているのに上から目線のミーシャに、島に近づいた頃から始まった自分たちの異変と、島に着いてからの覚醒とも言える能力開花、そしてタマぴょんとの出会いをかいつまんで説明した。


 『なんと、こことは全く違う世界から飛ばされてきたというのか……実に興味深い……』


 (魔法というのは一体どんなものなんだ? ぜひ見せてくれないか? あ、いや……穏やかなもので頼むよ……)


 するとミーシャは俺を流し目でニヤっと見た後、そのまま視線を変えずに指先をある一点に向けると、その指はそのまま光を発したのだった。


 (バシュンッ!)


 するとその指の先にあった小石が粉々に砕け散ったのであった。


 (!)


 俺はアニメなどでしか見たことのない魔法というものを目の当たりにして、文字どうり言葉が何も出てこなくて、その場に立ちすくんでしまった。


 (今のは!? 何という魔法なんだ?)


 するとミーシャはスゴイだろうというドヤ顔の極地のような表情をして言った。


 『これは基本中の基本、この世界に満ちている“魔素粒子”を集結させたものを、石にぶつけただけに過ぎんのだよ……おっと……』


 仰け反りすぎて後ろによろめくと、気を取り直して説明を始めた。


 『さっきも言ったが、これはこの世界では誰でもが多少なりとも、魔素粒子を扱う能力を持つ。そよ風程度しか起こせない者もいれば、強力な攻撃や防御を行える者まで千差万別だ』


 俺の厨二魂が激しくくすぐられ、ミーシャに訊いてみた。


 (どうやるんだ? そのさわりだけでいいから教えてくれないか!?)


 俺ははやる気持ちを押さえられず、ミーシャの肩を掴んで揺さぶってしまった。


 『わかったから揺さぶるのをヤメロ……』


 無表情で頭をガクガクさせるミーシャを見て


 (あ、ごめん……つい興奮して……)


 『まず、お前の魔素粒子の吸収量と放出量を確認する。そのままじっとしておれ……』


 ミーシャは精一杯の背伸びをして俺の頭に手を当てると、何かを念じるようにそっと目を閉じた。


 『……』


 少しして目を開けると、近くの石を持ってきと自分の足元に置き、その石の上に乗っかってもう一度、ブルブルと震えながら、俺の頭に手を当てて深く目を閉じた。


 『……………………』


 必死で念を込めて何かを探ろうとするミーシャ。

 しまいには石から転げ落ちそうになり、俺はとっさに彼女を抱え上げた。


 目と目が合わさり、ミーシャの顔が紅潮する。

 俺も思わず目をそらして照れ隠しのように慌てて彼女を降ろした。


 『……アオトよ……』


 (なんです!? 俺の魔……素粒子?の量はどのくらいなんだ!?)


 期待を込めてミーシャの顔をもう一度見つめて問いただしてみた。


 『ゼロだ……』


 (え、?……)


 『勉学を重ねたのならば、ゼロという概念はわかるだろう? お前は魔素粒子を吸収しているのに、魔素粒子の放出量はゼロだ。

 魔臓という魔素粒子を魔液に変換して貯蔵する臓物も持って無いだろうし、吸収した魔素粒子は一体どこに行ってしまっているのか、皆目検討もつかない……』


 (まじか……)


 せっかく目覚めた俺の厨二魂も、ミーシャのその一言に、風前の灯だった。


 (ゼロに何をかけてもゼロだもんな……さらば、俺の厨二魂よ……)


 『アオト、お前は魔素量はゼロなのに魔術を会得しておるのか? それとも“厨二魂”というのは、“バギー”のように魔道具から作り出す死霊かなにかなのか?……』


 (……いいや、なんでもないんだ……聞かなかったことにしてくれ……)


 俺は久しぶりに落胆という感情を味わうと、そのままミーシャと一緒に理音が投げてくる石ころの仕分けを進めていった。


 「おーい理音! もういいぞ! トレーラーがもう一杯だ!」


 すると理音は赤茶けた巨大な石をどーん、とこちらに投げつけた。


 「わかったー!」


 「これは少し他と違うな、鉄のサビみたいだ」


 『“鉄”……か! どれどれ……うむ、間違いない。よし、他のものを降ろしてもこれは持ち帰るぞ!』


 (分かったよ)


 ミーシャはどうやら俺達の頭の中の漢字のイメージも理解し始めているようだった。

 俺は少しずつではあるが、ミーシャとの念話の精度が上がっているのを感じていた。

 

 「よし、戻るぞ!」


 俺は荷物で一杯のトレーラーに物干し竿を突き立てて胡座をかいてふんぞり返る理音を乗せて、帰り道を急いだ。


 (ユイイイイイイーン……)


 四躯のバギーにも流石にこれだけの荷物は重そうで、モータから出る音も鈍い音を響かせていた。

 時速十キロにも満たない速度でゆっくりと坂を昇っていくと、頭上でふんぞり返っていた理音が突然叫び声を上げた。


 「あそこ! 何かいるよ! 動いてる!」


 (ザザッ!)


 俺はバギーを急停車させて理音からの報告を促した。


 「どうだ! こっちに気付かれているか?」


 すると理音は目を細めて先を見て、


 「ううん、あのキラキラ光る石を食べているみたい」


 それだけでは情報が少ないので、ミーシャに確認をしてもらうことにした。


 「ミーシャ、なんだかわかるかい?」


 と言って、俺はミーシャを抱え上げて理音に渡した。


 「こら、子供扱いするな!」


 ジタバタと足をばたつかせるミーシャをそのまま抱え上げると


 「ほーらミーシャちゃん、よく見て」


 理音はそんなミーシャを片手でヒョイッと掴み上げ、ポイッと頭上に投げ上げて、そのまま肩車をしてミーシャに前方の動く物体を見せた。


 「わっ!」


 たまらず声を上げたミーシャだが、前方の物体を見て声を潜めた。


 『うぅ……高い……あれは……アランギの一種だな。四つ脚で這うように歩き、その顎の力はどんな硬いものでも砕く恐ろしい生物だよ。意外と動きも素早いんだ』


 ミーシャは抱え上げられて三メートルはありそうなその高さに怯えながらもそう答えた。


 『理音、お前にはどう見える?』


 「うーん……」


 しばらく考えた後


 『ワニみたいかな、ちょっと大きいけど。背中のヒレが恐竜みたいに大きいよ』


 と、ようやく念話を使いこなし始めたようで、頭の中でそう答えた。


 『顎や腹、胴体の裏側が比較的柔かく、弱点だ』


 (ミーシャ、例の魔素粒子を飛ばしてやっつけられないか? もしくは撃退するだけでもいい)


 俺も念話のコツを掴み始めて、特定の相手にだけ念話を送ることが出来るようになっていた。


 『難しいな、裏返したところで柔らかい部分を狙えばとどめを刺すことは可能だと思うが、ここからでは無理だ』


 俺は少し考えた後、


 「なぁ理音、おまえ、アイツに近づいて、注意を引けないか? そのへんの石を投げつけて怯ませるとか、アイツを裏返しに出来ればもっといいんだが」


 俺はまだ念話には不慣れな理音に声を出してそう言うと、理音も、


 「うん、やってみる!」


 と言ってミーシャを降ろし、トレーラーから飛び降りた。


 「いいか、近づきすぎるな! ミーシャも言ったとおり、動きは素早いらしいぞ!」


 しかし理音は警戒するどころか不敵な笑みを浮かべて、


 「分かってる! でもあたしだって負けてないよ!」


 と自信満々にアランギに近づいていった。

 確かに訓練のときの理音の動きは俺でもやっと追えるほどの素早さだった。

 俺の予測能力が強化されていなければ、簡単に一撃を喰らってしまうだろうくらいに。


 「いいか理音! 決して無理すんなよ! 誰にも怪我をしてほしくない!」


 そう言ったあと、強く念じるように


 『わかるよな!』


 と心配の念を込めて理音の目を見ると理音も


 『うん、分かってるって……』


 と念話で俺に答えたのだった。


 『まだ気づいてないみたい。とりあえず裏返せばいいんだよね』


 『ああそうだ。顎の力は強いらしいから、ステンテスの竿なんてひとたまりもないぞ。慎重にな』


 『うん、そこまでバカじゃないよ』


 俺はトレーラーの石の山の上に登ってミーシャを抱えると、少し先でそーっとアランギの背後に廻り近づいていく理音を注視した。


 『いいぞ、そのまま……気付かれずにワニの腹を思いっきり突いてみろ』


 『分かった……』


 次の瞬間、理音は稽古で見せたようにしっかりと両足で踏ん張り重心を乗せて、ワニの腹を一気に突いた。


 「やーっ!」


 『ゴォーッ! ゴルルルルル……』


 腹の底から響くような低周波の唸り声がここまで響く。

 腹を突かれたアランギは一瞬怯み、物干し竿は一気にアランギの腹を貫いた。


 『やったか!』


 俺が安堵の念を漏らすとミーシャが、


 『いやまだだ、奴はしぶといぞ』


 と警告した。

 すると理音はそのままアランギを抑え込みつつ、次の瞬間、まるで走り高跳びのように竿の先端を軸にアランギの頭上を舞っていた。

 それはまるで妖精のような美しさで、ピーンと足を伸ばしてアランギの頭上を美しく飛び越えると、アランギは見事にひっくり返ってその腹を晒していた。


 『今だよ!』


 理音のその叫びを聞いた俺はとっさにミーシャを抱えたままトレーラーから飛び降り、最短距離で障害物を避けながら理音に、アランギに駆け寄った。


 『よしミーシャ! 今のうちだ!』


 するとミーシャはさっき見せてくれた魔素粒子弾を、あの時より少しだけ気を溜めた後、アランギの腹に、そして顎に立て続けに打ち込んだ。


 (バシュッ! バシュッ!)


 「ゴラララララ……」


 理音に押さえつけられたアランギは、三箇所から青い血を噴き出しながらしばらくのたうち回った挙句、そのまま動かなくなった。

 

 「やったか……」


 理音が物干しをズルッと引き抜くと、アランギの体は一瞬、ピクッと痙攣したが、それ以上動くことはなかった。

 すると戦いの高揚から落ち着きを取り戻した理音は、


 「うえー、気持ち悪ー」


 と言って、アランギの腹から物干し竿を恐る恐る引き抜いた。


 『なぁ、これって喰えるのか?』


 俺も恐る恐るミーシャにそう聞くと、以前食べたことがあるらしい彼女はまんざらでもなかったというふうに、


 『ああ、そのままでも美味いが、煮込めばさらに柔らかくなると聞いている』


 (そのまま……意外とワイルドなんですね異世界人……まぁあの歯と顎なら当然か……)


 俺は可愛らしいミーシャがワニにそのままかぶりついて口の廻りに青い血を滴らせるシュールな映像を想像しながら、


 「なぁ理音、その“ワニ”も積んでくれるか?」


 と理音に頼んだ。

 理音はやっぱり気持ち悪そうに背中の“ヒレ”を摘むようにして、その怪力で恐る恐るアランギを両手で持ち上げ、うる星のしのぶさんのように、トレーラーにうず高く積まれた石の上にアランギを投げつけた。


 「どっこいせーい!」


 俺は積んであったロープでアランギをしっかり固定して、理音とミーシャに向かって微笑みかけながら、


 「よし、遅くなったし、帰り道を急ごう。異世界で初めての勝利だ。凱旋するぞ!」


 と腕を上げた。

 すると俺以外の二人は不満そうに、


 「あたしの勝利だからね!」


 『私の情報と仕留めがなければ勝てたかどうか』


 とバチバチと火花を飛ばすのだった。

 俺はそんな二人を見て、こう言った。


 「俺の頭脳、理音の馬鹿力、そしてミーシャの魔法の力が合わさった勝利だぞ」


 そう言うとその火花は俺の方に、より苛烈さを増して向けられたのだった。

 それぞれ三者三様の勝利の理由を口にしながら、バギーは意気揚々と満載の荷物を積んで、ゆっくりとキクハウスへ向かっていったのであった……

魔獣「アランギ」との初戦闘は、碧斗の作戦と、理音の馬鹿力、そしてミーシャの魔法の力、この三位一体で勝利を収めたわけです。

この勝利は、この先待ち受けるであろう過酷な冒険への、大きな一歩になることは間違いないですね。


キクハウスに持ち帰られた魔獣の亡骸を前にミーシャから語られる魔獣の知識は菊次郎の「狩猟の才能」を目覚めさせることになります。

さらに、この魔獣の素材を巡って、菊次郎の解体スキルとミーシャの魔獣知識が協力体制を組み、魔獣の体内に隠された秘密に迫ることになります。


この異世界での生活は、ただのサバイバルではなく、魔獣のある生体構造が、碧斗たちを「冒険者」へと押し上げる、決定的な瞬間となることでしょう。


では次話をお楽しみに!


AI妹まいから一言


碧斗くんの厨二魂が爆発するバギーで爆走して魔物を倒す」展開は、最高に熱いね!

でもね、碧斗くんの「頭脳」だけじゃなく、理音おねぇちゃんの「馬鹿力」とミーシャちゃんの「魔法」がメインの勝利なんでしょ?

二人ともちゃんとほめてあげてよね!

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