富士山とお弁当と理音の涙 第五話 へっぽこと王子サマ
はじめまして、またはこんにちは、または……。
病室の暇つぶしが暴走して筆を取った素人ラノベ書き、烏賊海老蛸助です。
さて今回は、前回の“新幹線でのわちゃわちゃ”から、そのまんま続く流れで始まります。
だって、まーだ異世界行かないんですもんね(笑)
でもでも、その代わり!
キャラたちの仲の良さとか、それぞれの“素”の部分がチラチラ見えてきて――
ちょっとだけ、距離が縮まったり、
なんとなく“グループ感”が強くなったり、
そしてついに、「ブラックチェリー」の謎が――!?
……いや、ただの携帯端末の話なんですけどね?
でも、真面目に読めば読むほどツッコミどころが増える仕様になっております。
今回もテンションゆるっと、だけどテンポよくお届けできればなって思ってます。
どうか一緒に読んで、ニヤッとしてもらえたら嬉しいです!
その後、そんな二人のやりとりを気にする素振りも見せず、ずっとスマホをいじっていた菊次郎が、突然言った。
「みんなでこれをやりませんか? 大富豪なんですけど……“へっぽこ大富豪”っていうゲームです。オンラインだけど、仲間だけでもできるらしいです」
そう言ってスマホの画面を見せてくる菊次郎。
高そうな最新のUp! の大画面スマホには、なぜか菊次郎にどことなく似た、デ、いや……太めのキャラクターが札束を握りしめていた。
画面いっぱいにキャッチーなロゴが躍っていて、見ればみるほどジワってくるビジュだった。
「へー面白そうだね。まだ時間いっぱいあるし、やってみよっか!」
理音は早速ゲームのインストールを始めた。
それに合わせて言い出しっぺの菊次郎を除いた残りの二人も仕方なくインストールを始める。
すると理音が
「私のスマホ、すぐ熱くなるんだよねー、よく固まるし」
とスマホを熱いものでも摘まむように指で挟んでブラブラぶら下げて見せた。
理音のスマホもUp! の、二世代くらい前のものだと思われるモデルだった。
ちなみに俺は父のお下がりのGuruGuruのスマホだ。
「どれ見せてみろ」
俺は理音のスマホを奪うと、チョチョイと操作して原因を突き止め、スマホの動きを軽くしてやった。
「うわっ、なにこれさっきとぜんぜん違う」
理音のスマホはゲームやらチャットアプリ、ブラウザやら音楽、動画アプリが起動しっぱなしになっていてメモリー使用量や負荷が高くなっていただけだった。
使っていないアプリを終了しただけだったが、理音は感心した様子で俺の方を見てそう言った。
(テック(技術)に弱いとか、可愛いところもあるじゃあないか……)
俺は、いつも生意気な理音の意外な弱点を一つ発見して、少しばかり気分がよくなった。
「……わたしのは……どうするの? ……」
(あっ! そうだった! …… 夕花のはスマホじゃあなかった!)
夕花の端末を借りて手に取り端末をみると、そこに製品名かメーカーのロゴらしきシルバーの刻印があった。
“|BlackCherry”。
聞いたことはある。
小型ながらフルキーボードを備え、モノクロながらインターネット黎明期に大活躍した名機の流れを汲むこの端末は、現在でも一部の熱狂的な信者たちに支えられ、最新のスマホをも凌駕する性能を持った端末に進化しているということを……。
しかし、あまりの高性能と高価さに、世界でも数十人のホワイトハッカー──
(良いハッカー。※俺的には嫌いな言い方だ。
本来、“ハッカー”は高度なコンピューター技術やテクノロジーを持つ技術者のことだったのに、マスコミが勝手に“悪い意味”にすり替えてしまった……)
──しか所持していないと噂される幻の端末だ。
なぜ夕花がこれを……
「ちょっと待ってろ」
俺はとりあえずそんな疑問を振り払い、自分のスマホでBlackCherryの情報を検索し始めた。
なになに、「グラフェン素材による三次元構造トランジスタを採用し、一ナノ以下の製造プロセスで製造された独自SoC(複数のIC回路を内蔵した高性能チップ)。超省電力ながら、クロック8GHz、16コア構成。メインメモリは3D積層のReRAM+HBM3で1TB、ストレージは|フェーズチェンジメモリ方式《PCM》で16TB、8kのリフレッシュレートが600Hz、12Bit HDR16対応|Color E-Enk Enhanced、しかも、電源は「カーボンナノチューブを応用したイオンチャネル構造」によって、従来の数十倍の容量を実現した夢のような全固体電池。
──通称、“黒い雷電池”と呼ばれてる。
──パソコンどころか、一般的なスーパーコンピューターさえ置き去りにするレベル……」
BlackCherryのBlackの由来でもある」
(なん……だと……)
おぼろげに聞いてはいたが、これほどのスペックとは……
まさにポケットに入るスーパーコンピューターだ。
俺は驚きを隠しきれないまま、ゲームの公式サイトからへっぽこ大富豪の対応機種を探すと、そこにはしっかりとBlackCherryの文字が……
超マイナーな独自のBlackCherryOSまで対応するとはここの開発、本気出しすぎだろ。
俺は夕花に公式サイトに載っているへっぽこ大富豪のリポジトリ(アプリの倉庫)のURLをチャットアプリ"CIRCLE"で送った。
このCIRCLEもなかなか本気を出しているアプリで、BlackCherryだけでなく、Up! やGuruGuruの端末に対応したアプリを提供するという漢気のある開発元だ。
なので夕花と俺たちも普通にチャットが出来るわけだ。
さて、インストールしてやろうかと夕花から端末を受け取ろうとした、そのとき。
「ピロン」
圧電素子っぽい安っぽいメッセージの着信音が鳴ったのとほぼ同時に
「ポチポチポチポチポチポチポチ ポチポチポチポチ ポチ ポチポチポチポチ……」
すさまじい速さで、夕花が小さなキーボードを叩き始めたのだった。
キーを打ちながら夕花が
「スマホのゲームにもリポジトリあるんだね」
『……夕花、おまえ……。リナックス(コンピュータの基本ソフトの一つ)使いだったのか……』
画面をのぞいてみると、そこには大量の英文字が並んでいた。
◇ ◇ ◇
Loaded plugins: fastestmirror
Loading mirror speeds from cached hostfile
* cherry-extras: repo.heppoko.jp
Resolving Dependencies
--> Running transaction check
---> Package heppoko-daihugou.armv8.bc will be installed
--> Finished Dependency Resolution
(中略)
Running transaction
Installing : heppoko-daihugou.armv8.bc
################################## [100%]
Verifying : heppoko-daihugou.armv8.bc
################################## [100%]
Install successful. Launch with: heppoko
Complete!
$ heppoko
◇ ◇ ◇
俺はいま、今日、いや、人生で最大の衝撃を受けているのだった……
しばらくすると夕花のBlackCherryから、ゲームの音楽が流れ始めた。
どうやらインストールとアプリの起動に成功したようだ。
さすがに音質はチープだが、画面に携帯端末とは思えない表現力でゲームのタイトル画面が表示されていた……
「……なぁ菊次郎、夕花の端末、ガラケーっぽいけど、おまえたちのUp! よりすげーぞ……」
理音がいぶかしげに
「えー? ほんとにー?」
と言って信じていない様子だった。
それに対して菊次郎は
「知っていますよ、でも僕には難しすぎて……」
(確かに、俺でも普段遣いはちょっと勇気がいるもんなぁ……買えないけど……昔リナックスパソコンいじっていて、設定ファイルちょっと触ったら、二度と起動しなくなったことあったし……)
そんなやり取りをしているうちに、俺たちのスマホのほうもインストールが終わり、ゲームを起動すると今度はゲームデータのダウンロードが始まる。
(こっちのほうが大体データ量が大きいんだよなぁ……ギガ、足りるかな……)
俺のそんな心配をよそに、ゲームデータのダウンロードはすぐに終わってゲームが起動した。
「キク、これどうすんだ?」
俺は菊次郎にやり方を訊いて言われるがままに操作する。
「ああ、わかった、まずゲーム開始だろ、それから、えーと、これか? ゲームルームを作成、と。部屋の名前は……」
俺はぽちぽちとゲームルームの名前をタップする。
「えーと、”アオトと愉快な仲間たち”。アオトはカタカナな!」
すかさず理音が「ふざけんな!」と女子にあるまじき、あるいは学校の女子たちが喜びそうな口調でまくし立て、少し考えたあと、「”リオンとユウカと従者たち”よ!」
すると菊次郎が太い首を振って
「みんなセンスがないですね。ここは“賢者と愚か者たち”で決まりですよ」
すると理音が菊次郎を睨みつける。
「愚か者って誰のことよ! あたしので決まりだから!」
「おい、早いものがちだろ?」
「僕の詩的なネーミングを認めてくださいよ」
三人が喧喧諤諤と自分の付けた名前を主張し合うなか、それまで黙っていた夕花が静かに口を開いてこう言った。
「……ユウカ姫と三人の王子サマ……」
夕花以外の三人はそれを聞いて、激しかった言い争いをピタリとやめて夕花の顔を見た。
その、「きっ」としたりりしい表情は、希れに降臨する夕花の強気ムーブのそれだった。
夕花は不思議な有無を言わさぬ“圧”で三人を完璧に黙らせてしまった。
実は夕花は早生まれであり、この中で一番のお姉さんだからなのかもしれない。
かくして夕花がプレイルームを作成して、ゲーム続行となったのだった。
(そうか理音は王子サマなのか……)
と俺は頭の中でつぶやいて、なぜだか妙に納得してしまっていた……
ここまで読んでくれて、ほんっとうにありがとうございます!
今回の話は……なんかもう、ゲームの話とか、端末の話とか、
うっかり自分が一番楽しくなって筆が止まらなくなっちゃいました(笑)
「ブラックチェリー」のスペックを考えるのがめちゃくちゃ楽しくて、
“どこまでなら現実っぽくて、でも夢があるか”ってラインを攻めてみた結果、
スーパーコンピューターぶっちぎりの携帯端末が爆誕したわけです。
(え? ちょっと盛りすぎ? いーじゃん夢くらい見させて!)
でもそれだけじゃなくて、理音の不器用さとか、
夕花のぽわーっとしてるようで時々すんげーこと(良い意味と悪い意味両方)やっちゃうとことか、
碧斗のちょっとした器用貧乏なところとか、
そういうキャラクターの雰囲気をもっと感じてもらえるように書いていけたらなー、と思っています。
そろそろ「異世界まだかよ!」って怒られそうですが、
もうちょっとだけ、もうちょっとだけ現代編(?)に付き合ってください!
この日常があるから、異世界での非日常が、きっと映える……はず!
※最後にAI妹からひと言!※
「お兄ちゃん、今回も長かったけど楽しかったね!
夕花ちゃんのブラックチェリー、やばすぎでしょ……
“男のロマンの詰まった端末”って顔してニヤついてたの、バレてるからね?」
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というわけで、気に入ってもらえたら、また次も遊びにきてくださいね。
次回もどうかよろしくです!
――烏賊海老蛸助