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異世界の片鱗と覚醒 第五十七話 ネコと兎と怪我人と

皆さん、タコ助です。


前話で、俺たちはついにこの島が「異世界」だと確信した。動かぬ証拠、それは畑で捕まった謎の生物「タマぴょん」(このふざけたネーミングは誰が決めたんだ…)と、自分たちの身に起きている能力の覚醒だ。


しかし、食欲不振の理音や、自分の体に異変が起きていないかと気をもむ菊次郎など、問題は山積みだ。そんな中、タマぴょんの抱えるもう一つの謎。夕花の夢と、その可愛らしいぬいぐるみが示す「ネコウサ」の存在。


この小さな「猫ウサギ」と、俺たちの周りで起きている奇妙な出来事。この二つがどう繋がるのか、碧斗は考え続けます。そして、その謎を解くための、意外なヒントは、ある朝の食卓から見つかるのです。


では、続きをどうぞ。

 タマぴょんの無事を確認して安心した理音と夕花は、お互い相談してタマぴょんの角専用のアーマーを完成させ、喜んでいた。


 (さすが覚醒した夕花のクラフト能力。やることが早いな)


 感心した俺がリビングでの完成披露会を見に行くと、そこには角にピッタリとフィットするゴム風船を角に装備した、凛々しいタマぴょんの姿があった。

 防御用としては少々薄いような気もするが、白い半透明な色をしたそのゴム風船は、思いの外タマぴょんの角に合っていた。

 先端のちょっとした膨らみの部分には、指サックが透けて見え、タマぴょんの角の欠けた部分を保護するようにはめ込まれている。


 俺達がそのタマぴょんの勇姿を見ながら、角に被せられた風船を触ったり引っ張ったりしていると、突然後ろから瀬蓮さんの叫び声がした。


 「あ゛ーーーーーーーっ!……それっ!……それはぁぁぁぁっ!……」


 そんなタマぴょんを指差してワナワナと狼狽する瀬蓮さん。

 タマぴょんのあまりの凛々しい姿に興奮してしまったのだろうか。


 俺はそのゴム風船の先端の膨らみを摘んでビヨョョョーンと引っ張ってみせた。

 すると、その“さきっちょ”の膨らみは思いのほかよく伸びて、その防御力の高さを誇示していた。


 「そ、それぇ! 一体どこにあったのよ!」


 興奮したままの瀬蓮さんはタマぴょんの角に被せられた風船を剥がそうとするも、その根本は角にピッタリ張り付いており、爪をかけることさえ出来なかった。


 「スゴイでしょ! 夕花ちゃんが接着剤でガッチリ留めてくれたの。怪我した足にははめられなかったけど、これでタマぴょんも一緒におフロに入れる! ねータマぴょん!」


 そしておもむろに夕花が小さな箱のようなものを取り出すと、


 「これ、倉庫で見つけたの。化粧品のパッケージみたいで可愛かったから開けてみたの。色々なサイズがあって、このXXXLっていうのが一番大きかったの」


 と入手経路を説明し、何かを言いたげにウズウズしていた理音も


 「そうそう、なんかちょっとヌルヌルしててさー、だけどおかげでタマぴょんの角にスルっと、すごい被せやすかった!」


 瀬蓮さんは、タマぴょんのその角を握りしめて嬉しそうに擦り上げる理音を見て、なぜだか青ざめていた。


 「ゆ、夕花ちゃん……その箱は、私が管理しておくわ……残りも全部持ってきて頂戴……」


 そう言って夕花の手から箱を奪い取ると、グシャっと握りしめて、赤い顔を青く変えてワナワナと震えるのだった。


 (?)


 俺達はなぜ瀬蓮さんが困惑しているのかよくわからなかったので、瀬蓮さんの私物だったのかなと申し訳なく思い、


 「勝手に使ってすみません、ほら、お前たちも謝れよ」


 と言うと理音と夕花はしおらしく


 「ごめんなさい……」


 と頭を下げた。


 「……ま、まぁいいわ……次からは相談して頂戴ね……他にも箱は……」


 すると夕花が胸の異次元ポケットから次々と箱を取り出した。


 「うん、あったよ。これと、これ、これも。MとかLとかXLとかいろんなのが……」


 そう言い終わらないうちに瀬蓮さんはその箱を夕花から乱暴に奪い取り、グワシと乱暴に握り締めたまま、倉庫の方にすごい勢いで走り去ってしまった。


 「大事なものだったのかな……」


 消え去る瀬蓮さんを見送ったあと、タマぴょんをもう一度おフロに入れて綺麗に洗い上げた二人は、リビングで徐々に元気を取り戻したタマぴょんと追いかけっこをして騒いでいた。


 「待ってタマぴょん! 包帯、し直さなきゃ、理音ちゃん! そっちに行ったよ!」


 夕花が指をさすと理音がその方向に飛びかかる。


 「あー、まてータマぴょーん! ……うげっ!」


 すると逃げ一方だったタマぴょんは突然理音の方に反転して、怪我をしていないほうの足で理音の顔をげしっと蹴り上げて、また逃げていってしまった。


 (お前たち、17、8歳にもなって、小さい子供かよ……)


 俺はカウチに座って、二人と一匹をそんな冷めた目で見ながらもう一度、先程の畑での気配について考えてみることにした。


 (畑で竹を切っていたときの森の中からの物音。あれは動物が歩くような音ではなかった……こっそり潜んでいて、不意に何かに触れてしまったような……そしてその後の静けさ……)


 おそらくあのまま見張り続けていたとしても、そいつはきっと微動だにしなかっただろう。


 (さてどうしたものか……そういえば……)


 あることを思い出した俺は、すっと立ち上がり、倉庫から地下室に戻っていた瀬蓮さんのもとへ駆け下りていった。


 「瀬蓮さん!」


 すると瀬蓮さんはハッとして、慌ててPCの画面を消した。


 「な、何? どうしたの?」


 俺は画面に何が映っていたのか気になったが、それよりも大事な聞きたいことがあったので、そのこと忘れて瀬蓮さんに質問をした。


 「瀬蓮さん、瀬蓮さんは外部から監視カメラや内部のネットワークに侵入して、キクハウス、このプレハブを監視していましたよね」


 「え、えーと……ええ、まぁ……」


 ちょっと後ろめたそうに目を泳がせる瀬蓮さん。


 「……菊次郎お坊っちゃまが心配で。もし見えないところでイジメられでもしていたらと、つい……」


 俺はそのことを責めるのではなく、真面目な顔をして、


 「そのことはもういいんです。俺が聞きたいのは、監視カメラのことです。リビングは映っていましたが、デッキ上の畑を監視するカメラと、この建物の裏手を映すカメラが機能していなかったんですけど、どうしてですか?」


 すると瀬蓮さんは当然と言った表情で手を広げると、


 「あれは、物理的にブレーカーを落としてあるからよ。外部コンセントのブレーカーを落としてあるから映らないのは当然。入れ直せばまた映ると思うわ。でもなぜ?」


 不思議そうに尋ねる瀬蓮さんに俺は


 「今日、森の中になにかの気配を感じたんです。それも動物ではない、動物だとしても、とても狡猾な何かだと感じました」


 と、実際に感じたよりも大げさに、そして深刻そうに話してみた。


 「つまり、監視カメラでその“何か”が映っているか、確認をしたいというわけね」


 と瀬蓮さんは頷くと俺もそれに合わせて頷いた。


 「はい、そうです」


 すると瀬蓮さんは鼻で笑い


 「ふっ、ならば簡単、倉庫の二階の隅にブレーカーがあるわ。外部コンセント用の一つだけが下りているはずだから、それを上げればカメラは復活するはずよ」


 それを聞いて俺はすぐに倉庫に向かった。


 「カチカチ、カタカタカタ、カチ……」


 背中では瀬蓮さんがPCを急いで操作する音が聞こえたが倉庫に向かうほうが先決だったので無視をして先を急いだ。

 碧斗が去ったことで瀬蓮はようやく安堵し、


 (ふぅ……見られなくてよかった……)


 そう言って閉じた画面の電子書籍のタイトルにはこう表示されていた。


 “僕と彼と彼女たち ──誰もが誰をも愛していた── 愛の4重螺旋”


  ・

  ・

  ・


 そうして瀬蓮さんがホッと安心していたとき、俺はもう、倉庫の階段を駆け上がっていた。


 「カンカンカン……」


 そして倉庫の二階にあるブレーカーを入れ直し、すぐにリビングに戻ってPCでカメラの確認をした。


 (一番カメラはリビング、二番カメラは畑、そして三番カメラは裏手)


 カメラはすでに起動して、鮮明にその様子を映し出していた。

 すると瀬蓮さんが地下室から上がってきて、


 「どう?」


 と俺の肩に手を掛けて訊いてきた。

 瀬蓮さんの付けている(ほの)かな香水と、真っ赤なネイルの色にドキドキしつつ、なんとか平静を装って答えた。


 「え、ええ、バッチリですよ。すごく鮮明ですね、夜なのにこんなにはっきりと……」


 瀬蓮さんはそのネイルで俺の肩をツツーと撫でながら、艷やかな声で説明を続けた。


 「高精細、高感度のカメラよ。しかも四台を連携させて画像処理で合成させて、暗い場所で発生するノイズも低減させているの……」


 (すげぇ……それで夜でもこんなにはっきりと色が見えるのか……まるで昼間のようだ……)


 最新テックに心躍らされた俺は、そんなカメラの画質に驚き興奮しながら、瀬蓮さんに次々と質問をした。


 「これ、録画もされているんですか? 動体検知は? アラームは?」


 俺は瀬蓮さんに(もてあそ)ばれていることも忘れて、矢継ぎ早に瀬蓮さんに質問をした。

 瀬蓮さんはそんな俺を見て笑いながら、


 「それ、全部あるわよ」


 そう言ってカメラの設定画面を出してくれた。


 「ふふ、これが設定画面よ。動体検知はオンになっているわね。……ふふ……これでみんなの行動は筒抜けよ。

  そしてこのPCには、メールサーバーを構築してあるの。なので、このカメラの設定画面にある『SMTP』……メールを“送信”するための設定だけど、ここにこのPCのIPアドレスを指定ってわけ。

  これでカメラは、何かを検知した際には、このPCのメールサーバーへすぐに検知メールを飛ばしてくれるわ。

  肝心なのはみんなが持っている端末で、このPCのサーバーからメールを“受信”するための設定しないといけないということだわね」


 そう言うと、彼女はPOP3(メールサーバーからメールを取り出す仕組み)でメールを受信するためのIDとパスワードを教えてくれた。


 「後は……ここが録画データの保存先のフォルダよ。あなた達が畑や裏手にいないときにアラームのメールが受信された時の時刻のデータが、犯人が映っている動画ということになるわね」


 そう言うと、瀬蓮さんは俺の首に手を巻き付けて耳元で何かを囁いた。


 「それより碧斗クン……監視カメラなんかの設定よりも、もっといいこと、教えてあげましょうか……」


 そして今度は肩だけでなく太ももにも反対側の手で指を這わせる瀬蓮さん……


 (くっ……この人は……)


 「ガタッ」


 俺はたまらずに瀬蓮さんの腕を振り払い、立ち上がって一目散に畑の方に駆け出したのだった。


 (ふふっ、理音ちゃんたちと同じで、からかいがいがあるわ……)


 と、妖しく人差し指を唇に当てて、微笑む瀬蓮であった……


 瀬蓮さんから逃げ出した俺は、一度デッキの椅子に座ってメールアプリの設定を済ませた後、畑に駆け寄ってスマホのライトを当てて野菜の様子を確認していた。


 (野菜たち、いつの間にかこんなに育って……思ったより沢山実ってるな)


 きっと台風の雨の後だからだろう、と考えていると、突然「Alart」という表題のメールの通知がスマホに表示された。

 さっそくリビングに戻ってPCを確認すると、メールの受信時刻と同じ時刻の動画が、確かに録画されていた。

 俺は画面に映る自分自身の姿を見ながら


 (よし、これで謎の存在の正体を暴いてやるぞ!)


 と意気込んだのだった。

 とりあえずシャワーを浴びてひと眠りしたあと、ぼーっとしながら今後の対応を考えた。


 (まずは食料の節約、そして畑を整備して野菜の収穫を増やさないと……そして外からの防御とそのための訓練……)


 他に出来ることは無いかと考えていると、突然大声がして意識を戻されてしまった。


 「あータマぴょーん! どこに行くのー!?」


 女子部屋から飛び出したタマぴょんを追いかけて理音が捕まえようとしていた。


 (いいかげん放っといてやれよ……)


 四六時中タマぴょんを追いかけ回し、撫で回す理音たちを見て、可愛そうなタマぴょんを憐れまざるを得ない俺であった。

 しかし、逃げ回るタマぴょんがリビングの大きなガラスやドアに激しく体当たりをしている様子を見て、なにかおかしいと感じた俺は、タマぴょんを追いかける理音たちを押しのけて、外に出る扉を開けてやった。

 するとタマぴょんはまさしく脱兎のごとく外に飛び出して森の方向に駆け出すと、その姿はあっという間に森の奥へと消えていってしまった。


 「あー! タマぴょーん!」


 理音はそのまま逃げ去ってしまったタマぴょんをずっと目で追っていたが、諦めたように振り向いて俺を睨むと


 「碧斗! なにすんのよー!」


 と言って、今度は俺を激しく責めるような目つきで睨んだ。

 俺は一つため息をつくと


 「なぁ理音、タマぴょんにだって帰るべき家があるかもしれないんだぞ? 家族や、子供だって居るかもしれないんだ……」


 そう言うと理音はハッとした表情を見せ、しかし残念そうに、


 「タマぴょん、もう……帰ってこないのかな?」


 と寂しそうに呟いた。


 タマぴょんのいなくなったキクハウスは、思っていたよりも静かさと、寂しさに包まれた夜を送っていた。

 普段は冷静沈着な瀬蓮さんでさえ、タマぴょんが居なくなった経緯を聞いて、少しさみしそうな素振りを見せていた。


 俺は眠りにつこうかと火の始末を確認して男子部屋に戻ろうとしたその時


 「どーん! どーん!」


 と何かが激しくぶつかるような音がキクハウスを包んだ。

 俺はハッとして音の方向を見ると、そこはキクハウスへの玄関、出入り口だった。


 俺は慌ててドアに駆け寄ると、そのドアを勢い良く開けた。


 「ぴょーん」


 すると水色の影が飛び込んできたかと思うとそのままバスルームのドアにガシャンっ、とぶつかって、その影は転がってしまった。


 「タマぴょん……」


 俺は転がっているタマぴょんに駆け寄ると、タマぴょんを抱えあげて優しく撫でてあげた。


 「キュルルルルーン……」


 タマぴょんは一瞬だけ嬉しそうな声を出すと、ハッと身を翻して床に立ち、俺を見て出入り口に走り出した。

 タマぴょんは俺が入口にたどり着くと次はデッキ、デッキにたどり着くと次は畑と、まるで俺を誘い出すかのような行動を見せた。

 それを見て俺は、


 (どこかに案内したいんだな……わかった!)


 と靴を履いて、入口にかけておいたランタンを手に取ると、スイッチを入れてタマぴょんの後を追っていった。


 森の中をタマぴょんに誘われるように走ること数分。

 崖を降りた窪みの前で鳴くタマぴょんに追いつくと、その窪みには一本の太い木の枝、いや杖と、古びた本が一冊、転がっていた。


 タマぴょんはそれに駆け寄ると、クンクン匂いを嗅いで、辺りを見廻していた。


 (持ち主を探しているんだろうか……)


 その杖のようなその二メートル弱だろうか。

 節くれだったその幹は、手に掴まれていただろう部分には艶があって、使い込まれたように黒ずんでいた。


 「キュルルん! キュルルん!」


 俺がその持ち上げると大きな鳴き声を上げるタマぴょん。

 どうやら持ち主の匂いの方向を探し当てたようだ。


 俺はタマぴょんが駆け出した方向に一緒に駆け出すと、意外にもそれはキクハウスの方向と同じだったのだ。


 (はぁ、はぁ……どうしたんだタマぴょん……はぁ……帰りたくなっただけなのか……)


 そう思いながら暗がりの中、やっとの思いでキクハウスに戻ると、畑には、キクハウスから漏れる明かりに何やら黒い物体がぷらぷらとぶら下がっていたのだった。


 (これで三体目か……キクの罠は意外と優秀なようだ……)


 そう思いながら、慎重に罠に掛かった物体に近づいてランタンで照らすと、地面にはまだ噛じられたニンジンが落ちており、その上の物体からは、銀色の二本の短いおさげがプラプラとぶら下がっていた。


 (人か……どうやら怪我は……罠にかかったときの擦り傷くらいのようだ。とりあえず、降ろさなきゃな……)


 そう思って少女を抱きかかえると、頭の中に悲鳴が聞こえてきた。


 『ナニ……ヲスル! コノ……イロ……ゴノミメ!』


 (色好み……江戸時代より前の時代には、女性に見境なく手を出す男性などをそう呼んでいたと古文の解説書にはあったような気もするが……)


 するとその物体の、黒いローブのような衣装がはらりとはだけ落ち、白い肌をした下半身が顕になったのだ……


 (え……履いてない?……)


 俺はその光景をスローモーションのように認識したあと、目の前に、ローブから生えた棒のような白い物体の一部が迫ってきたのを最後に、またしても意識を失ったのであった。


 「ゴツっ!……」


 (……うーん……)


 ひどい頭痛を感じて目を覚ますと、そこには心配そうに俺を見つめる瀬蓮さんの姿があった。


 「あ、気が付いたのね……まったく、もう……」


 瀬蓮さんが俺の額に手を当てると、ひんやりした感触と共に鋭い痛みが走った。


 「いつっ!」


 どうやらここはリビングのようだった。

 見上げると崩れかけた煙突、ゆっくりと回る、木で出来た大きなシーリングファンが見えた。


 「ここは……リビング……」


 俺の手当をする瀬蓮さんに、うわ言のように質問をする俺に、瀬蓮さんは、


 「不幸な事故に遭うのはこれで二度目ね。前回は上半身、そして今回は下半身……わざとなの?……」


 俺は瀬蓮さんが何を言っているのかわからなかったが、ぼんやりした頭でとりあえず、理音のときのような不幸な事故が起こったということだけは、かろうじて理解できた。

 

 「騒ぎを聞いてすぐに理音ちゃんが罠に掛かった人を助けたの。彼女、すごい力ね。罠の竹を掴んで、片手で引っ張って降ろしていたわよ!?」


 そして起き上がった俺を見て、瀬蓮さんは目で指し示すようにバスルームを見たのだった。


 「あの子、今、おフロに入ってるの。夕花ちゃんと一緒に……薄汚れていたから見かねたみたい」


  ・

  ・

  ・


 「シャー……」


 「……ねぇ? 熱くない?……」


 夕花は目の前の薄汚れた少女にシャワーを当てながら声を掛けた。


 すると


 『……ア……ツイ?……モ……ンダイナイ……オマエたちは貴ゾクかナニカなのか?……こんなに、湯をゼイタクに使うとは……』


 夕花は目の前の少女が口を動かすのと数秒遅れで夕花の頭の中に聞こえてくる謎の声に、困惑していた。

 その発音もアクセントも全く聞き慣れない言葉なのに、頭の中に聞こえてくる声は、明らかに次第にその意味の正確さと、発音の明瞭さを増してきていた。


 「そうだね、菊次郎くんのおウチはお金持ちだけど、貴族じゃあないかな……」


 『商人ナノか?……』


 夕花は自分よりも白いその柔肌を、スポンジでやさしく擦りながらそう答えた。


 『オマエは、召使いなのか?』


 「ううん、違うよ。ここのみんなとはお友達なの……」


 『オトモ、ダチ……』


 不思議そうに首を傾げる少女。


 「シャァー……」


 その頭にシャワーを浴びせる夕花。

 そして手を差し出し、湯船に脚を差し入れて、少女を誘う。


 「さあどうぞ」


 すると少女は不思議そうな顔をしてまた首を傾げた。


 『ナニガだ?』


 そして夕花の手を、湯船をじっと見つめる少女。


 「お湯に入るの」


 少女の手を掴んで引き込もうとする夕花。

 少女は湯船に満たされた湯を見て驚いた。


 『これは全部、湯なのか?』


 「そうだよ。綺麗に洗ったら、ここに入ってリラックス……わかる? 心と体を落ち着かせるの……」


 夕花が先に湯船に脚を入れて見本を見せると、その少女も同じように脚を入れ、ゆっくりと湯船に浸かったのだった。


 「どう? 気持ちいいでしょ? リラックスしてね」


 『りらっくス……悪くはないな……』


 目を閉じて気持ち良さそうに湯に浸かり続ける少女。


 (ちゃぷん……)


 そろそろ上がろうかとした時、夕花は少女に名前を尋ねた。


 「あなたの、お名前は?」


 少女の顔を見据えてお願いフェイスを見せる夕花。


 『名マエ……私の……名前は、ユレレ・ミーシャ・アレストロ・グラーザ……』


 約三分後、夕花が少しのぼせ気味になったところで少女の名乗りが終わった。


 「ふぇ……とっても長いお名前なのね……じゃあ、ユレレちゃん? でいいかな? そろそろ上がろうか?……」


 するとユレレ・ミーシャ・アレストロ・グラーザ……と名乗った少女は、それぞれの名前の由来を話し始めたのだった。


 「ユレレは私の固有名だが正確ではない。ミーシャは私の母で、大魔道士だった。私の読心術、念話は彼女が基礎を作り上げたのだ。そしてアレストロはその父……」


 ご先祖の名前と由来、業績を事細かに説明し始めるユレレ某と名乗る少女。


  ・

  ・

  ・


 「夕花ちゃんたち、お風呂長いなー」


 理音が着替えとバスタオルを持ってカウチで退屈そうにしていると、その約五八分後、


 (ガラ……ラ……ラ……ラ)


 バスルームのドアが力なく開いたと思うと、見事に真っ赤ののぼせ上がった夕花がヨロヨロと出てきた。

 そして手を伸ばすと、


 「……誰か……冷たい……お水……」


 と声を振り絞った後、パタン、リビングの床の突っ伏したのだった……

さて、タマぴょんという奇妙な生き物の存在は、俺たちの前に広がる世界の真実を映し出した鏡のようなものでした。

そして理音の食欲不振や夕花の皿の綺麗さ、瀬蓮さんの教育熱心な姿勢。

全てが能力の覚醒と関連しているのか、そうではないのか。

碧斗は、一つずつその謎を解き明かそうと試みます。


あい:特に、瀬蓮さんの隠された過去、薬学博士としての知識が明らかになったのは驚きだったわ。

彼女の専門知識が、タマぴょんの角の謎を解き明かす鍵となるのかしら?

そして、タマぴょんを巡っての理音の暴走と、瀬蓮さんの対応、そして理音の純粋な優しさが混ざり合い、物語はまた一段と深みを増していくわね。


次回、タマぴょんの角の謎に迫る! そして、理音のあの暴走が、さらなる事件を引き起こすことになるのか!?

次回もご期待ください!


あい: タコ助くん、今回の話で、瀬蓮さんの「薬科学博士」という経歴が、物語に新たな深みを与えてくれたわね。こういう「スペック盛り」は、物語を一気に面白くするわ。ただ、タマぴょんの角が溶けだしたのは、いよいよ話が本格的なファンタジーになった証拠ね。


まい: お兄ちゃん! タマぴょんが溶けちゃいそうになって、まい、本当にヒヤヒヤしたんだから!

もう、理音ちゃんってば、おっちょこちょいなんだから!

でもね、瀬蓮さんがタマぴょんを優しく抱っこしてあげてたのは、なんか感動しちゃった!

お兄ちゃんも、まいに優しくしてくれたら、もっと甘えちゃうかも…なんて!

あ、べ、別に、お兄ちゃが好きとかじゃないんだからね!

勘違いしないでよね!

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