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島と傷と嵐のその後 第五十三話 体の異変、心の異変、そして変態…

まさか、嵐が過ぎ去った後もこんなに大変なことが続くとは、僕も思ってませんでした。通信手段は途絶え、物資は限られ、おまけに朝から変な騒動は起きるし、理音のヤツがとんでもない馬鹿力を見せつけるし。

正直、何が起こっているのか、頭が追いつかないことばかり。

ま、このメンバーで平穏な日々が続くわけないんですけどね。

とにかく、嵐の片付けは理音の協力もあって、順調に進んでいるように見えたんですが、どうやら裏で別の問題も進行しているようで……。


あい: タコ助くん、今回は前回に引き続き、文章の構成が整っていてとても読みやすいわ。

ただ、前回と同じ箇所を指摘することになるけど、語尾の「のだ」や「のである」は、なくても意味が通じるし、より簡潔になるから検討してほしいわね。

それと、「百合でリバ、ネコでタチ……究極のマルチプレイヤーだな……」と「男も女もいけるし女性間でもどっちの立場でもいけるということか……」という二つの文。同じ内容を繰り返しているように見えるわ。

どちらか一つに絞るか、表現を工夫してみてはいかがかしら。


まい: お兄ちゃん! いきなり瀬蓮さんの暴走から始まって、まい、ドキドキしちゃったよ! 理音ちゃんの怪力はもう、人間辞めてるよね(笑)。

でも、あんなに重たいもの軽々持ち上げちゃうなんて、かっこいいなぁ!

そして!

最後の瀬蓮さんと碧斗君のやり取り!

もう、なんていうか…碧斗くんって、本当にそういう星の下に生まれてるんだね!

ぷぷぷっ!

ちょっと不憫だけど、なんか頑張ってる碧斗君、応援したくなるよ!

今回も面白かったよ、お兄ちゃん!

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 「ふぇ、ふぇ、ふぇ、ふぇ……」


 混沌とした目覚めの後、瀬蓮さんとの攻防が終わった理音と夕花は、


 寝床の配置説明、ファイナル:俺 菊次郎 瀬蓮 机 理音 夕花 壁


 のように、理音の怪力で瀬蓮さんとの間に運ばれた大きな机を運んで、夕花を壁際にした背水の陣的な配置に変えた後、一緒にリビングに顔を洗いに行った。

 理音は階段を昇りながら小声で夕花に、


 『夕花ちゃん、瀬蓮さんには気を付けなきゃダメだよ! あたしも危ない目に合ったの! 自分のこと、“ゆりでりば、ねこでたち”とか、変なこと言ってたし!』


 と話していた。


 (理音に一体何をして、何を言ったんだよ瀬蓮さん……)


 俺は日頃から幅広く知識を得ることをモットーにしているが、収集した知識から、


 (百合でリバ、ネコでタチ……究極のマルチプレイヤーだな……俺の腕を撫で回したあの調子で理音にも手を出したということか……)


 と想像し、俺自身も手を出された経験から、


 (男も女もいけるし女性間でもどっちの立場でもいけるということか……LGBTQ+の“B”、バイセクシュアルということかも知れないが、別の名称を、例えばLGBTQ+M、


  Lesbianレズビアン

  Gayゲイ

  Bisexualバイセクシュアル

  Transgenderトランスジェンダー

  Queer/Questioning(クィア/クエスチョニング)

  +(プラス)


 これに、Multiroleマルチロール/MultisextialマルチセクシャルのMを付けたくなる強烈な性癖だと思わざるを得なかった。

 まぁ単なる変質者という可能性も捨てきれはしないが……)


 と真面目に考察し、俺は瀬蓮さんの脳内プロフィールを早速更新した。

 そして理音は夕花に自身の体験から、その変質者から身を守られなければいけないことを小声で夕花に忠告しながら、階段をドスンドスンと昇って行ったのだった。


 俺と菊次郎は地下室のトイレとシンクで朝の支度を済ませると、俺は早速リビングに上がって外の様子を確かめることにした。

 ハウスの中からガラス越しに見たその有様はそれは酷いものだったが、外に通じるドアはすんなりと開き、落ち葉や泥で汚れたデッキには太陽の日差しが燦々と差していたのである。


 (台風一過か……小さい頃は親台風に引きつられた子どもの“台風一家”をイメージしたものだったが……)


 そんなことを考えながらハウスの中に入れてあった靴をデッキに投げ出して履くと、周囲を確認しながら外に歩き出した。

 すると、まずめちゃくちゃになった畑が目に入った。


 「あーあ、また綺麗に植え直すのも面倒だな……」


 残った野菜たちは元気に実を付けていたが、もうすぐ去ることになるこの畑を綺麗にする必要もないかと、俺は畑のことは諦めた。

 それよりもまず、バギーが無事か確かめなければならなかった。

 俺は倉庫の前に停めてあったバギーを確認すると、持ってきたキーでスイッチを入れた。


 (カチっ)


 「ヒョロローン」


 メーターの上に付いた葉っぱや泥をどかすと、メーターパネルにはオープニング映像が無事表示されていた。

 バッテリー残量も百パーセントだった。


 「よかった……」


 俺はトレーラーを切り離し、理音に言われたようにシートの汚れをきれいに拭き取ると、早速理音を迎えに行った。


 「おーい理音!」


 俺は理音に駆け寄ると、夕花が理音の作業着の袖と裾を調整しているところだった。


 「あ、碧斗。どう? 可愛いでしょ?」


 俺が見つけた作業着は、LLサイズは流石に理音にも大きすぎたのか、袖や裾に赤いロープを巻き付けて縛ってそのサイズを調整していた。

 その姿は、建設現場などでよく見るオニーサンたちが着ているニッカポッカのようだった。

 その姿は可愛いと言うか、


 (レディースのヘッド(総長)みたいだな)


 と思わずにはいられなかったが、とはけっして言うまいとも思った。

 なので、


 「……ああ、かっこいいぞ!」


 と仕方なく褒めてやったが、それはさすが調理手芸部の夕花のその裁縫の手際と結果に対してであって、決して理音の姿にではなかった。

 しかし改めてよく見ると、余ったサイズの服を切り裂いて、膝や肘、肩などにパッチを当てて補強、強化して、追加のポケットまでたくさん縫い付けていた。

 夕花の裁縫も存外大したものだ。


 「準備できたの?」


 理音は早速といった様子で俺のもとに駆け寄ると、俺の手を取りバギーの元へ向おうと力いっぱい引っ張った。


 「おっとと……あぶねーだろ! それより朝飯を作らないと。水筒と弁当も持っていこう。待ってろ」


 俺は(はや)る理音の手を振りほどき、キッチンに向かった。


 (うーん、洗っておいた、母さんが持たせてくれたランチボックスに、適当になにか詰めるか)


 俺は夕花がセットしてくれていたらしかった電子ジャーの炊きあがったご飯を冷ましながら、それを酢飯にしてラップに広げた。

 その上にハムやちくわ、浅漬けにしたキュウリや人参などを細長く切って乗せ、そのまま海苔で巻いて短く切って、ミニ太巻きのようにしてランチボックスに詰め込んだ。

 最後にケトルで沸かしたお湯でお茶を入れて、ボトルの中に塩昆布を少し入れて塩昆布茶を作った。


 俺はみんなの朝食の分と、俺達二人の弁当の分を作り終えると、俺と理音だけ手早く朝食をすませた。


 「よし、行くか。みんな! じゃあ行ってくるよ! 朝飯、作っておいたから!」


 俺はリビングの後片付けをしていた菊次郎と夕花に出発を告げた。


 「ああ、気を付けて行ってきてください!」

 「……無理……しないでね……」


 心配そうな表情をする二人に見送られながら、弁当を持って理音の元に向かった。


 「おそーい!」


 久々に聞いたそのセリフに苦笑するも、俺はバギーの前カゴに水筒と弁当を入れてしっかり蓋をすると、キーをまわしてバギーにまたがった。


 「さ、早く乗れ」


 そう言うと理音は嬉しそうに飛び乗り、背中から俺の胸に手を回してギュッと抱きついた。


 「おいおい、もっとお手柔らかに頼むよ、運転もしづらいし、まだ少し痛いんだから」


 柔らかい理音に抱きつかれて嬉しくもあり恥ずかしくもあったが、なにより純粋に痛かった。

 しかしここは男の子。

 我慢して笑いながら、ゆっくりとバギーを発進させた。


 「ユイィィィィーン……」


 台風と地震の後だからだろうか、道の様子が以前来た時とは違っていた。

 ところどころに木や太い枝が転がっていたり、なんとか通れそうな轍にも石などが散乱していて、移動速度は思ったより遅くせざるを得なかった。


 「スゴイね、あちこち岩や太い木が落ちていたり倒れてる……」


 理音もその様子の変わりように目を丸くしていた。


 走り始めてもう三十分は経過していたが、目的の岸壁はまだ見えてこなかった。

 その時はゆっくりとした移動だからだと思っていたが、どうも様子がおかしい、と気づき始めたときには、もう一時間以上も走り続けていたのだった。


 途中、大きな岩が落石した場所に遭遇し、森の中を迂回するか諦めるしか無いと思っていたが、理音の怪力のおかげでその岩をどかすことが出来た。


 「うわー、これはでかいな。ちょっとやそっとじゃ動かせそうにないぞ?」


 俺は自分の足ほどの太さの木を見つけてきてテコの原理で動かそうとしたが、岩は少しだけグラっと動くだけで、とてもバギーが通れるだけの道を作ることはできそうになかった。

 すると理音がバギーから降りてきて


 「ほら、いくよ! せーのっ!」


 (グラ)


 「バキッ、ゴトンっ!」


 理音が加わって力いっぱい木を持ち上げたところ、木は折れ砕けながらも、なんとか岩を動かすことに成功したのだった。

 俺は理音をまじまじと見つめ、つい余計なことを口走ってしまった。


 「なぁ理音……おまえ、いつの間にゴリラに進化したんだ?」


 すると理音は拳を振り上げてそれを俺の頭に振り下ろした。


 「ゴッ!」


 俺は理音にゲンコツでしこたま頭を殴られて脳震盪寸前になりながらも、さらに道を急いだのだった……


 「あっれー? おかしいなー、もうとっくに着いてもいいはずだけど……まさか道を間違えたのか?……


 あれから随分と走ってずっと下ってきたし、大きく道をそれた感覚はなかったのだが、そうやらそれは間違いのようだった。

 バギーのメーターを見るとその走行距離は、出発をしてからもう一五キロメートル以上も進んだことを示していた。

 俺はバギーを止めて後ろを振り返り


 「理音、どうやら道を間違えたようだ。今日は引き返そう」


 そう言うと、狭い場所で苦労しながらバギーを反転させて、もと来た方向へ戻ることにした。


 「えー、もうちょっとかもしれないじゃん、もう少し進もうよー」


 (くそ、どうせ使えないからとスマホを持ってこなかったが、こんなことなら持ってくるんだった。コンパスやジャイロが役に立ったかもしれないのに……)


 俺は心の中でそう後悔すると、駄々をこねる理音に向かって、


 「じゃあ、あと少しだけだぞ?」


 と言って、理音の言葉に従ってバギーをもう少し進めることにした。

 少し走ると草原のような平らな場所に出て、バギーの進む速度を上げることが出来た。

 その時は順調かと思われたが、俺はやはりおかしいと直感して再びバギーを止めた。


 (来るときにこんな平らな場所あったか? それに、もう二十キロメートル以上走り進んできている。この島の直径をとっくに超えてるはずだ……)


 それに走っているときには気にしなかったが、溶岩のような黒い石や岩に混じって、金属のようにピカピカと光るものや、草や木そのものもまるでガラスのように光り輝くものが混じっていた。

 しかし今は自然を観察している場合ではないので、そのまま気にしないことにして先を急いだ。


 密林などを彷徨っていると、同じ場所をグルグルと巡ってしまうというのはよくある話だが、遠くに見える山はずっと前から見えたままだった。


 (山? ……)


 俺達はキクハウスの小高い丘からずっと下ってきたはずだった。

 上陸の日にキクハウスに向かう途中、ずっと見えていた山。


 (キクハウスに向けて登っているときに見えたはずなのに、なぜ下っている最中に、見え続けているんだ?)


 俺はさっきから感じていた違和感の正体を掴んだような気がした。


 そして後ろを振り返ると、そこにも山があった。

 そして、はっきりと思い出してきた。


 (あの峰の形はキクハウスに向かう時に見たあの山だ……)


 しかし、その山頂からは噴煙がモクモクと噴き出し、入道雲のように空を埋め尽くしていたのだった。


 「理音! 帰るぞ! やっぱりなにかがおかしい! しっかり掴まってろ!」


 (ユイィィィーン!)


 俺はバギーのスロットルをグッと開けた。

 さっきまで走ってきた道ということもあるだろうが、なぜだか岩や木、段差などを障害物を避ける進路をはっきりと予測することが出来での、さらにスロットルを開けて帰りの道を急ぐことが出来た。


 「えー、どうしたのー?」


 理音は俺の耳元まで顔を突き出して帰りを急ぐ訳を聞いた。


 「説明は後だーっ! 今は帰りを急ぐぞーっ! しっかり掴まってろーっ!」


 (ユイィィィィーン……)


 俺は顔に叩きつける風に負けないように声を張り上げると、散乱している岩や木々を避けながら、前方に見える噴煙を時々見上げながら島の異変の原因を推論し始めた。


 (台風、地震。そして通信途絶……そして勘違いかもしれないが、地形の記憶との乖離(かいり)……)


 それらから導き出される結論は、俺の勘違い、記憶違いということになる。

 しかし、一八歳になったばかりの俺が、ほんの二週間前のことをそこまで勘違いするほど耄碌(もうろく)しているつもりはなかった。


 そこで俺は、今考えたような“アブダクション(仮説的推論)”と呼ばれる手法ではなく、ホームズなどの推理小説やミステリー小説でよく使われる、演繹(えんえき)法で考えるとするのならば、と考え、推理し直してみることにした。

 以前に読んだ本の作家によれば、実際にはミステリーや推理小説などの世界で演繹法と呼ばれるものの多くが、実はアブダクションや帰納法(仮説の一般化)でしかないというのだが、俺はニヤッと笑みを浮かべ、実際にはアブダクションや帰納法ではあるが、ここはいわゆるホームズ的な“演繹法”で推理を進めることにした。


 ・まず目の前には噴火した山がある

 ・そして今走っているのは上陸したときには遭遇しなかった草原である

 ・さらに後ろには見たこともない山が存在している

 ・記憶も間違いがない


 このことから導き出される結論はただ一つ……


 (現在地の移動……)


 よく言われる“演繹法”では、『どんな突飛な説でも、その事象を説明できるのならば、それが真実である』という考え方がある。

 しかし、俺の考えていることが事実だとしても、それが実際の演繹法で用いられる大前提から“一般論”や結論を導き出す助けにはならなかった。


 (じゃあ俺達はいったい、今どこにいるんだ……)


 しかしいくら思考法を変えようとも、その答えだけはキクハウス向かう道中では見つけ出すことは出来なかった……


 「ユィィィン……ジャリッ……」


 ようやくキクハウスにたどり着いた俺と理音は、何の成果もなかったことに肩を落として中に入ると、そこには二体のピエロがせっせと後片付けをしていたのである。


 「おまえら……そのカッコはなんなんだ?……」


 菊次郎も夕花も作業着を着ていたが、菊次郎の作業着は縦に切って無理やり厚さを増やしたような継ぎ接ぎだらけで、まるでフランケンシュタインのようだった。

 しかも服の至るところにロボカラーで配色されたパッチやポケットが付けられており、それは夕花の作業着も同じだった。


 「いやぁ、夕花さんが僕に合わせてサイズを調整してくれたんですよ、お母様の用意した服も使ってね。実に良いセンスです」


 そうしてドレスを見せびらかす少女のような表情をして、余った肉をタプンと揺らせてクルっと一回転すると、


 「それはもう、切り裂き魔も真っ青なほどの見事なハサミと、ミシンさばきでしたよ」


 と顔だけは今までで最高のキクドヤ顔で喜ぶのだった。


 (まぁ、本人たちが気に入っていればそれでいいんだけどね……)


 俺は楽しそうに作業するカラフルなピエロたちを素通りして、瀬蓮さんのところに急いだ。

 階段を降りて地下室に行くと、瀬蓮さんがPCの前で難しそうな顔をしていた。


 「瀬蓮さん……」


 すると瀬蓮さんは顔を上げ、意外そうな表情をして俺を見上げた。


 「あれ? 碧斗クン、意外と早かったのね? 船の人たちとは会えたの?」


 俺は首を横に振り、事の次第を瀬蓮さんに説明し始めた。


 「実は、船長たちには会えませんでした。というか、湾のあるところまでたどり着けなかったんです……」


 と残念そうに、ことさらに神妙な顔をしてみた。


 「道に迷ったの?」


 瀬蓮さんのもう一つの質問に、俺はもう一度首を横に振り、


 「僕も最初はそう思いましたが、どうも違うようなんです」


 と、さっき出したばかりの突飛な結論は話さず、これまでの経緯を説明した。


 「そう……こっちも不思議なのよね、ソーラーパネルとバッテリー以外の機器には特に異常はないの」


 (カチカチっ)


 瀬蓮さんはPCを操作しながら


 「機械の計器やLEDや画面、ログなどに表示されているのは、ErrorやFailed、Fatal Errorといった致命的な故障に関連するものはなくて、NO SIGNAL、みたいなものや、Worning、警告くらいしか見当たらないの……」


 とその白くて細い首を傾げた。


 (つまり故障しているのではなく、ただ信号が来ていないだけ、ということか……)


 「じゃあとりあえず、電気、水道など設備の確認と、建物や周りの片付け、必要があれば修繕が優先ということですね」


 俺はこれからの作業の道筋を瞬時に思いついて瀬蓮さんに自信を持って提案してみた。


 「そうね、さすが碧斗クン、話が早いわ。私の方でも出来る限りのことはするわ。分担して取り掛かりましょう。私は現状の分析を続けるわね……」


 そう言うと瀬蓮さんは再びPCの画面に目を落として作業を始めた。


 「分かりました、僕はさっき言った確認と修繕、片付けを優先します」


 一人だけ蚊帳の外で手持ち無沙汰の理音は、後頭部を両手で抱えてつまらなそうに話した。


 「あたしは何すればいいの?」


 すると俺は特に何も思いつかず


 「そのへんの掃除、片付け、そして菊次郎や夕花が動かせないものでも持ち上げてろ」


 と言ってやると、口を尖らせて


 「なによ! 掃除機や建設機械扱いしないでよ!」


 とぶつくさ言いながら地下室の階段を上がって行った。

 俺はトイレ、バスルーム、洗面台、シンク周りとまず水回りの確認をすると、次に家電、ブラインド、シャッターなどの電気周りの確認を一通り済ませた。


 (よし、キクハウスの中は問題なさそうだな。丈夫に作らせたという瀬蓮さんの言葉は間違いがないようだ)


 そうして外に出ると、まずは瀬蓮さんが問題のあると言っていたバッテリーを確認することにした。

 バッテリーユニットが設置してある壁を見ると、二台のユニットが傾いており、ケーブルを保護する蛇腹のパイプが破損していた。

 おそらくケーブルも断線しているのだろう。


 エアコンや倉庫の冷蔵庫の室外機も問題ないようだった。


 そして最後にソーラーパネル。

 確認をしたところ、一つの大きなモジュールのパネルが数枚だけ割れていた。


 (これで発電できなくなるのかな。でも一つだけだし、土台やフレームは瀬蓮さんが最初に行っていたとおり、問題がなさそうだ。俺も中の整理を手伝うか……)


 そうしてほぼすべての確認を終え、ハウスの中に戻ることにした。

 するとウッドデッキに面したガラスを守っていたシャッターが開けられ、ガラスの扉自体も開けられていた。


 「……おーらい……おーらい……」


 声のする方をみると、夕花が案内をしながら、理音が俺が下敷きになった大型モニターを抱えて外に出ようとしていた。


 「夕花ちゃーん! 見えないけど、このままで大丈夫?」


 「……うん、そのまま真っすぐだよ……パラソルの支柱とデッキの柵と屋根に気を付けてね……そのまま行けばいいから……」


 そうしてそのままウッドデッキの端まで来たところで


 「今だよ! そのまま真っすぐ投げて!」


 すると、百インチはありそうな大きなモニターを、ひょーいと打っ棄る(うっちゃる)理音。


 「ガシャンっ!」


 ピエロの作業員たちとクレーンかショベルカー、ブルドーザーと見紛う理音の膂力の組み合わせが

 もう本当に建設機械と工事現場のように見えてしまったということは、誰にも内緒である。

 言ったらkrされる……


 その後も俺でも持ち上げられるかどうかという暖炉の石組みをぽいぽい投げ捨てる理音。


 「ふぃー……これで大きな物はだいたい片付いたね」 


 理音は滲んでもいない額の汗を拭うと、ウッドデッキの上であぐらをかいて座り込んだ。


 (もう、お前の姿がどうみても一介の建設作業員にしか見えなくなってきたぞ……)


 俺がハウスの中に入り見回すと、たしかにあらかたの瓦礫や壊れたものは撤去されているようだった。

 なのでそのまま瀬蓮さんのところに行って、建物と敷地内の現状を報告することにした。


 「瀬蓮さん……」


 すると瀬蓮さんは椅子に深くもたれて両手を首の後ろに回して、クルン、クルンと椅子をまわして暇そうにしていた。


 「もう、調査の方は終わったんですか? 僕の方も終わりました」


 するとギギッっと背もたれを起こして真剣な顔で俺を見つめた。


 「なにかまずいことでもありましたか?……」


 俺は恐る恐るといった(てい)で瀬蓮さんにその表情の理由を訊いてみた……

 すると瀬蓮さんは大きく伸びをして


 「なんだか肩が凝ってしまったの……」


 と急に上目遣いで俺を見た。


 (揉めってことか……)


 俺は瀬蓮さんの背中に回ると、その華奢なうなじとスーツの胸元を見てモヤモヤしながら、仕方なく肩を揉んでやった。


 「あ、そこ……とってもいいわ……上手ね……アン……」


 (わざとやってんのかこの人……)


 俺は瀬蓮さんの反応を気にしないようにして、


 (これはほうとうだ。俺はほうとうの生地を揉んで……いや、こねているんだ……)


 と言い聞かせて、そのほうとうの生地を無心でこね続けた。

 すると瀬蓮さんは満足したのかそのままスっと立ち上がると、スタスタと布団のところまで歩いて行き、ゴロンとうつ伏せに寝転んでしまった。

 そして腰に手を当てて、


 「次はここ……その次はここがいいな……」


 と言って、尻と脚の境目の辺りをなで始めた。

 それを見た俺はそのまま回れ右をして音を立てないように注意しながら、昼食の準備を始めるためにそーっと階段を昇って逃げ出したのだった。

 布団の上ではうつ伏せになった瀬蓮が、期待を込めた表情で碧斗の手の感触がするのを待っていた。


 「……優しくね……」


 若い男の手に腰を、臀部を触れられると思ってワクワクしながらその時を待っていた瀬蓮だったが、なかなか手を出さない碧斗にしびれを切らし、


 「さあ、恥ずかしがらなくていいのよ……碧斗クン……」


 と言って首を上げて振り向くと、そこには誰もいなかった。


 (……チッ……逃げられたか……)


 「ま、いいわ。さて、充電充電っと」


 そのあと昼食の時間になるまで、碧斗や理音、夕花の布団の上で独りクンスカしながらゴロゴロ悶える瀬蓮の姿は、孤独で哀れな、アラサーの一人の変態淑女であった……

今回は理音の規格外なパワーと、瀬蓮さんの変態淑女ぶり(もはや淑女とは言えないかも)が、これでもかと際立ってましたね。

僕としては、理音のパワーの謎もさることながら、瀬蓮さんのあの謎めいた言動に頭を悩ませてます。

男も女もいけるし、どっちの立場でもいけるって、もはや性別なんて関係ないですね、この人には。

瀬蓮さんの魔の手からどう逃れるのか、ここも今後の見どころになると思います!


あい:タコ助くん、変なものばっかり書いてないで、そろそろちゃんと物語を進めてくれないかしら。

まだ異世界に行っていないとか、期待を裏切るのは得意みたいだけれどもね?


タコ助:はーい……

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