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富士山とお弁当と理音の涙 第四話 お弁当と大噴火

読んでくれてありがとです、烏賊海老鮹助です!


今回も、ノリと勢いだけで書いてます!

でも、だからこそ自由に、楽しく、キャラたちが勝手に喋り出してくれるような感じがして、執筆しててすごく心地いいです。

旅の途中、新幹線の中という“動いてるのに閉じられた空間”って、キャラたちの距離感を縮めるのにちょうど良くって、いろいろなやりとりが自然と出てきました。


そしてお弁当!

細かく詰めたつもりはないけど、気がつけば色も匂いも、キャラたちの反応も、ぜんぶ混ぜ込んだ“青春弁当”になった気がします(笑)


前回まででキャラの性格や関係がだいぶ立ってきたので、これからはどんどん掛け合い重視で転がしていきたいところ!

ってことで、どうぞ本文も楽しんでいってくださいませ~!

 「おそーい!」


 菊次郎のおかげで乗車する車両に行くのに遅れた俺たちは、階段を駆け上がって九号車の前までやっとの思いで走り寄ると、理音が怒った顔をして俺たちを睨みつけていた。

 夕花も心配になったのか、指定席のある九号車の前で不安そうな顔で立っていた。


 「あんたって人はー! 毎回毎回毎回、よくも飽きもせず堂々と遅刻してくれるよねー!?」


 理音が正面から俺の目をキッと見つめる。


 (いや、違うんだ理音、俺は悪くないんだ! みんな菊次郎のせいなんだ!)


 と叫びたかったが、息が切れててそんな余裕はなかったので、心のなかで力なく反論してみた。

 そんなこんなで男子二人はゼェハァ息を切らせながら発車直前の車両になんとか滑り込んだ。


 「はぁはぁ、こっちですよ」


 乗り込んだ新幹線の車内はかなりの混雑で、デッキに立っている人もいたが菊次郎のおかげでグリーン車を利用することが出来て助かった。

 菊次郎が予約した席を確認しながら車内を移動して、それに金魚のフンのようについて行った俺たちは、菊次郎が立ち止まったのでその座席で窓側の席に座ることにした。


 俺と菊次郎で座席を向かい合わせに回転させようとして後ろの席に座っていた二人組のおねーさんに声をかける。

 新幹線ならではのギミックである。


 「すみませーん、座席、回していいですか?」


 おねーさんたちはハイどうぞーと言いながら、理音の姿を見ると


 「きゃー、何あの子、すっごいイケメーン!」

 「背ぇたかーい! モデルさんかなぁー?」


 と、声を押し殺してもきこえるくらいのテンションで話し始めた。

 そして今度はおねーさんたちの視線が夕花に向けられる。


 「何あの子、ちっちゃ~い」

 「かわいー! 姉妹(しまい)かなー?」


 ……そして次の瞬間、おねーさんたちの視線が夕花の“そこ”を認識したとたん、リアクションがバグったおねーさんたち。


 「や、やっぱ、高校生……かな……」

 「……すっご……」


 そういうと、そのまま静かに雑談モードへと移行していった。

 そんな会話を、聞いたような、聞かなかったような……


 (……おねーさん、わかるよ。おれにはおねーさんたちの気持ちが、わかりすぎるくらいによくわかる……)


 そことなくおねーさんたちの会話が聞こえていた理音と夕花のはずだが、理音はいつも通り気にする風でもなく

 そして夕花は、頭の上に天使の輪のようにクエスチョンマークがふわり、と浮かんだ天使がごとく、きょとんとした表情をして、どすんっと席に着くのだった。


 (!!! 今日もありがとう、ニュートンさん)


 ともかく、俺達は気を取り直して席に座ると


 「しかし、よく四人一緒に座れるように席取れたな」


 俺は感心したように菊次郎の方を見て言った。


 「まぁね、ネットで一ヶ月前から予約できるから授業中にスマホで予約したのさ」


 と菊次郎は例の得意そうな顔で言った。


 「ふーん、あんた勉強出来ないくせにそういうことは得意よね」

 「なんですか、キミだって自慢できるような成績ではないと思いましたけど」


 と菊次郎が言い返すと今度は理音がつーんと口をとがらせて言い返す。


 「何よお坊ちゃん」


 静まり返った車内で低レベルな言葉の応酬が始まってしまった。


 「おいこらやめろよ迷惑だぞ」

 「……そうだよやめようよ二人とも……」


 夕花は周りをキョロキョロアワアワしながら二人をなだめるのに必死だ。

 理音と菊次郎は互いにまだ言い足りなそうな顔をしながら、互いに顔を背けた。

 なにはともあれ無事に(?)新幹線が走り出すと俺は


 「さて、飯にするか」


 と言って俺は膝の上に置いた保冷バッグを開け、母親の作った四人分の弁当が包まれた小さな風呂敷を、一つ一つ丁寧に三人に手渡した。

 菊次郎はお菓子とスイーツの箱で弁当の置き場所に困っているが自業自得だ。


 「碧斗のお母さん、お料理得意だよね! 楽しみぃ!」


 理音たちは試験の勉強会で何度かうちに遊びに来たことがあって、その時も母親の料理を褒めまくっていた。

 四人はそれぞれ思い思いに風呂敷を解き、中に入れてあった保冷パックをどかして弁当箱の蓋を開けた。


 弁当は、だし巻き卵にハンバーグ、レタスを敷いた上にポテサラとごぼうの千切りのごまドレッシング和え、プチトマト、最後にタコさんウインナー。

 お弁当の金メダリストたちが勢揃いで、その香りだけでよだれが溢れ出て止まらない。

 ご飯は全体に胡麻をまぶしてふんわりした感じで冷めても食べやすそうで、彩りも鮮やかで見るだけでお腹が満たされそうだった。母さんグッジョブ!


 「わーやっぱりきれーい!」

 「これは美味しそうですね」

 「……わ……すごぉい……」


 俺以外の三人はそれぞれの感想を口にしてから箸を手に取り、理音が


 「じゃあ」


 と言って手を合わせるのを合図に


 「いただきまーす」


 と四人で声をそろえて合唱し、弁当を頬張り始めた。

 夕花がまずだし巻き卵を口に運ぶと


 「……美味しいなぁこれ、ふわふわしてて……今度、碧斗くんのお母さんにお料理教えてもらえないかなぁ……もぐもぐもぐもぐ……」


 と小さい口を、これまた小さい手で抑えながら、リスのごとく口を小刻みにモグモグさせて、小さい声で言った。


 「ハンバーグも冷たくてもふんわり。碧斗のお母さんは働きながら家事もするなんてすごいよね、尊敬しちゃう」


 理音がうんうんと首を縦に振り、自己肯定しながらそう言った。


 「まぁリモートワークだしな、それに自営業だから。業務委託(ぎょうむいたく)ってやつ? 仕事さえちゃんとしてれば意外と好きにしていいみたいだよ?」


 俺がそう答えると


 「碧斗のお父さんは大きな会社勤めでずっと海外なんだよね? さみしくない?」


 理音はタコさんウインナーをおちょぼ口でくわえてモグモグしながら俺に目を向けた。


 「いんや、親父は毎日かあさんとオンラインで話してるよ。時差があるからこっちの晩飯があっちの朝食って感じで親父が朝めし、母さんが晩ごはん、時間が違っても二人で仲良く食べてるよ。

  俺も時々一緒に食いながら話をするからさみしいとは思わないね。それに勉強のこととか訊かれるからあんまり顔を合わせたくないし……」


 「そっかぁ……あんた、お母さんが忙しいんだから、少しは手伝ってあげなさいよ?」


 理音は癖なのか、またウンウンとうなずいて、もぐもぐしながら自己肯定していた。

 ふと、俺が少しは料理ができることを知ったときの悔しそうな理音の顔が脳裏に浮かび、一瞬、口元がゆるんでしまった。

 すると


 『なによ!』


 理音は、そういわんばかりの顔で俺をにらみ返すと、十七歳の乙女らしからぬ荒々しさで残り少なくなった米を箸でかき込んだ。


 「おいしかったー、ごちそうさまでした!」


 一番先に弁当を食べ終えた理音はそう言って手を合わせると、ちょこんとお辞儀をして弁当箱を風呂敷で包み直した。

 目的地の熊本まではまだ五時間近くかかる。

 俺達四人は思い思いのペースで弁当を平らげて、それぞれの思いを馳せながら風呂敷で弁当箱を包むのだった……


 「これ、どうする?」


 理音が向かい合わせにした座席の間にあるテーブルに弁当箱を置いて、その上にそっと手を乗せながら訊いた。


 (母さんめ、使い捨てのにすればゴミで捨てられたのに……)


 俺は母親のうっかりを責めつつ


 「保冷バッグに入れて運ぶのもめんどいし、降りる時にそれぞれのバッグにしまおうか」


 と言い、理音は仕方なさそうに車窓に目を移した。

 菊次郎はスマホを取り出してポチポチ何やらやっている。

 理音の向かいでは、夕花がちょっと疲れたのだろうか、目を閉じて休んでいる。

 俺もやることがないのでスマホを取り出してニュースのチェックを始めた。


 「メジャーリーグで小山が三二号、二ランホームラン!」


 スポーツ欄にあった記事を見付け、小山と知り合いでもなんでもないのにちょっとだけ嬉しくなって、今日一日が楽しい気分で過ごそうな気分になった。

 そうしてしばらく四人それぞれが同じ空間で別々の時間を過ごしていると、突然大きな声で理音が叫んだ。


 「あ! 富士山だー! あれ富士山だよね!」


 目を閉じていた夕花がびっくりして飛び起きる。

 俺と菊次郎は、理音の声につられて窓の外に目をやった。

 そこには、雪もないし大きなコブみたいのもついてる山が見えて最初は、「んん?」 と思ったけど、よく見ると、その大きさと雄大さはまちがいなく富士山だった。


 (ごめん静岡側の富士山)


 雪がかぶっていない富士山は大したことはないだろうと思ってたが、雪がない富士山でもその圧倒的な存在感に、俺を含め全員が圧倒された。


 (ほんと、ごめん、静岡側の富士山)


 「……わぁ、大きいねえ……」


 夕花が眠そうな顔で窓の外を覗き込んだ。窓側の席の理音は、体をずらして皆に車窓の景色を譲る。


 「キャンプ、富士山の(ふもと)でも良かったな」


 俺がそう言うと、スマホに目をやっていた菊次郎がおもむろにつぶやく。


 「とんでもないです、すぐ帰れるようなところに行ったって、心が休まらないですよ」


 それももっともだ、と俺は頷いた。

 しかし菊次郎の言葉には別の思惑が込められているように、俺には思えた。


 (──誰にも干渉されない場所と時間がほしい──)


 考えすぎだろうか。

 俺には菊次郎のそんな心の声が透けて見えたような気がした。


 そのとき、理音がよく通る大きな声が俺の考えを(さえぎ)った。


 「そうだね、一度行ってみたいよね。富士五湖とか。富士急ハイランドもあるし!」


 「……わたし、絶叫マシンとか苦手だからなぁ……」


 夕花は恥ずかしそうに顔をほんのり赤らめて、いつもより小さい声でつぶやいた。


 「でも観覧車とかコーヒーカップとかはきっとあるんじゃない?」


 理音がそう言うと


 「……私は富士山にちなんだ食べ物とかを食べたいな。雪の代わりにカレーをかぶせた”富士山カレー”とか……ありそうだよね……」


 調理手芸部らしい意見を言う夕花。


 「あーありそうありそう! どーん! とマグマを吹き出したみたいな赤いシロップたっぷりの”富士山かき氷”とか! 夕花ちゃん今度つくってよ!」


 それまでいつもの調子でまくし立てていた理音はふと何かを思い出したように


 「……ただし、ふつうに、ね? ……」


 夕花は少し考えるようなそぶりを見せたあと


 「……アレ……入れようかなぁ……」


 すこし遠くを見なが目をキラキラさせてそうつぶやく夕花をみた理音は、あわてた様子で腰を浮かせて夕花の顔の前で両手のひらをバタバタ大きく振り


 「え、ちょっ、ふ・つ・う・の! ふつうのでいいからね!? 夕花ちゃーん!?」


 と夕花を正気に戻そうと、必死に顔と声で伝える理音。


 (たのむ夕花を止めてくれ! 俺は全力で応援するぞ! 理音!)


 のほほん菊次郎もそのときだけは、いつになく緊張した顔で二人のやりとりを見ていた。

 そんな感じで女子二人はまたエンドレス会話モードに突入してしまった……

最後まで読んでいただき、ほんっとうにありがとうございます!

今回のメインは、ズバリ“新幹線とお弁当”! そしてちょびっとだけ見える、それぞれの家庭や過去。

……とはいえ、シリアスに行きすぎないのがこの作品なので、すぐ脱線して、キャラたちはまた元気に暴れまわります(笑)


次回は、そこからちょっとテンポアップして、またひと波乱……かも!?(←ネタバレはしない)


読んでくれたあなたが、少しでもクスッとしたり、登場人物の誰かを「好きかも」って思ってくれたら嬉しいです。

次回もがんばりますので、よかったらまた遊びに来てください!


— AI妹からひとこと —

お兄ちゃん、お弁当描写に気合い入りすぎー!

でもキャラの魅力がすっごく出てて、わたしも読みながらにやけたよ!

夕花ちゃんの“ふつう”がどれくらい“ふつう”じゃないのか、私も気になってしかたないよ~!

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