島の恵みと謎と罠 第四十三話 肉食と草食とMOB二人
はいはいたこ助でーす! みんな、無人島での生活、楽しんでくれていますかー? 前話では、まさかの瀬蓮さん登場で、碧斗たちもびっくりだったけど、あの冷静沈着な執事さんが、実はあんなにお茶目な一面を持っていたなんてね。しかも、菊次郎への愛が深すぎて、つい隠れて付いてきちゃったってのが、もうね(笑)。最初は碧斗も警戒してたけど、結局は瀬蓮さんの有能さに助けられちゃってるんだから、なんだかんだ良いコンビだよね。
さて、今回のお話は、瀬蓮さんの登場でさらに賑やかになったキクハウスでの日常に焦点を当てるよ。共同生活って、楽しいことばかりじゃないけど、そこには思わぬ発見や、新しい関係性が生まれることもあるわけで。特に、食事がね、食事。毎日のご飯って大事だよね。瀬蓮さんの料理の腕前とか、僕の料理に対するみんなの反応とか、今回も色々あったみたいだから、楽しみにしててね!
もちろん、僕たちのメインヒロイン、理音と夕花も大活躍……って言いたいところだけど、今回はちょっと、ね(苦笑)。でも、それがまた可愛らしいんだよね、きっと。あと、碧斗の意外な一面も見えるかも? とにかく、個性豊かな面々が繰り広げる、島でのドタバタ劇、今回もぜひ楽しんでいってね!
ポーンパンポーン♪、ポーンピンポーン♪……」
久しぶりにスマホの目覚ましアラームで目が覚めた。
つまり朝の七時ということだ。
島での生活にも慣れていたということだろうか、緊張感が足りないだけなのだろうか。
(今朝は何にしよう……)
毎日三食の食事を作るというのがこれほど大変なのかと、いまさらながら、家族のいる主婦あるいは主夫の大変さを実感した。
(そろそろ洗濯しないとな……)
スーパーのビニール袋に詰め込まれた下着の数とそのパンパンになった膨らみが、それを要求していた。
着替えてリビングに出ると香ばしい良い香りがほんのり感じられた。
(焼き魚かな?)
俺は洗面台で歯を磨きながら鏡の奥に映る人物を見て、思わずむせてしまった。
「ゴホっゴホっ……」
鏡に写ったキッチンに立っていたのは他ならぬ瀬蓮さんだったのだ。
理音に借りたジャージを着て夕花の鹿ネコのエプロンを身に着け、三角頭巾をかぶって忙しそうにキッチンを動き回るその姿は、まるで母親のようだった。
俺はここ一週間休んでいたロードワークに行こうとしてキッチンの前を通り過ぎると、瀬蓮さんが小さい鍋で何かを料理していた。
(瀬蓮さんの料理か……どんなのかな?)
想像してもなかなか実感がわかないので、鮭の塩焼きと味噌汁、漬物などという、ありふれたものしか想像できなかったが
(きっと美味しいだろうな)
と勝手に決めつけて、ロードワークから戻ってきて食べられるのを楽しみにしながら、まずは畑の前で準備運動を始めた。
「イチ、ニ、サン、シ、ニーニ、サン、シ」
瀬蓮さんが水を撒いたのだろうか、畑の土も適度に湿っており、野菜たちは朝日を浴びてキラキラと輝いていた。
そうして準備運動を終え、いよいよ走り出す。
まずは軽く走って様子を見ることにした。
「フッ、フッ、フッ、フッ」
一週間ぶりだし心肺も筋力も少し衰えているだろうから、最初はゆっくりとしたペースで丘を下る。
(この前行った沢くらいまで走ればいいだろう)
大体片道二キロメートルくらいだったので、一キロメートルを俺のアベレージ、一キロメートル三分くらいのペースで走れば六,七分で沢までたどり着く計算だ。
多少険しくて荒れた道ということを計算に入れても、一キロメートルで五分を超えることはないはずだ。
下りでは足を痛めやすいので少々ペースを抑えて、帰りの登りで少し速めに走れば、心肺の強化という点でも良い結果に結びつくはずだ。
慣れてきたら少しずつ距離を伸ばしてもいい。
「スッスッハッハッ、スッスッハッハッ……」
呼吸のリズムを変えて少しペースを上げる。
険しいがペースを大きく乱されるような場所はごく僅かだ。
「よっと」
腰くらいの高さの崖をそのまま走って飛び降り、少し走るとあの沢が見えてきた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
スマートウォッチのタイマーを開始するのを忘れていたが、息の切れ具合から大体予想通りの時間で走れたと思うことにした。
少し息を整えてから、前に砂利を取りに来たときに作っておいた水たまりを確認すると、期待した通りそこには綺麗な水が溜まっていた。
「ジャブジャブ」
俺は持ってきたタオルを沢の水で濡らして軽く絞ると、汗が吹き出している顔をタオルで覆ってそのまま大きく息を吸った。
「すぅぅぅぅーーー……」
汗ばんだ顔と熱い空気を吐き出す肺にその冷たさが伝わり気持ちがいい。
そうして新鮮な空気と沢のせせらぎ、そよ風の気持ちよさをたっぷりと堪能してから、キクハウスに戻る。
「ハァ!、ハァ!、ハァ!……」
途中までは順調だったが、帰り道は厳しく険しい登りということもあり、流石にもうすぐ、というところで息が乱れてきた。
(まいったな……やっぱり少し鈍ってる)
これからは天気が良ければ毎日ちゃんと走ろうと心に決めて、ようやくキクハウスにたどり着いた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
畑の周りを数周走ってクールダウンしていると、理音がハウスの中から叫んでいた。
「あおとー! 朝ごはーん!」
珍しく俺の心配でもしてくれたのかと、まだ荒い息をしながらリビングに入る。
すると理音が白いTシャツにデニムのホットパンツという過激な姿で俺に向かって手を振っていた。
「お腹空いたー! 早く朝ゴハン作ってよ!」
しかしそれは気遣いからのお出迎えではなく、俺を責める口調で睨まれてしまっただけのことだった。
俺は走りに行く前に見た光景を思い出し、不思議に思って答えた。
「はぁ、はぁ、あれ? 瀬蓮さんが何か作ってたと思うけど? 違うの?」
すると理音は口をとがらせて
「キクと自分のぶんしか作らないんだって!」
と、俺になのか瀬蓮さんになのかわからないが相当にお怒りの様子だった。
なるほど、“ご奉仕”するのは菊次郎“お坊っちゃま”のためだけということか。
俺は疲れた体でキッチンに向かうと、ちょうど瀬蓮さんが後片付けをしていた。
「はぁ、すみません、キッチンを使いたいんですが……」
瀬蓮さんは食洗機を使わず食器や鍋を手洗いをしていた。
「あら碧斗クン、お帰りですか? もうすぐ終わります……少しだけ待っててください」
と言って、洗い物と片付けを終えると、にっこり笑ってキッチンから出ていこうとしたその時、去り際にクルッと振り向き
「理音……ちゃんに朝食をせがまれたけど、これは皆さんのキャンプですから、出過ぎたマネはしたくなくて……ごめんなさいね♪」
と言って舌をペロっと出して行ってしまった。
(か、かわ……いや違う! そうか、そういうわけだったのか……さすがだな)
菊次郎のためだけに、などと、俺は大人の気配りを見誤ったことを恥ずかしく感じてしまった。
「すぅーーーーふぅーーーー……」
俺は大きく深呼吸を息を整えると、菊次郎以外のみんなのために朝食を作ることにした。
「そうだな……」
俺は少しイタズラっ気を出して
(よし、なら菊次郎と瀬蓮さんをちょっと驚かせてやろう)
などと考えながらキッチンに立って調理を始めた。
「りおーん! 夕花ー! 朝飯出来たぞー!」
俺はカウンターに出来上がった朝食を置いて声を張り上げた。
「はぁーお腹空いたー!」
理音が超特急でカウンターに駆け寄ると朝食が乗ったお盆を手に取りテーブルにガシャンと置く。
「あれー? 菊次郎のと同じじゃん! 魚、かぁ……」
呼ばれたときと違い、テンションがダダ下がりでうなだれる理音。
俺が作ったのは、瀬蓮さんが作っていたのと同じ焼き魚と漬物、そして味噌汁というシンプルなメニューだった。
そこにようやく夕花もやってきて
「……美味しそうだね……」
とお盆を手に取りテーブルに着くと
「……じゃあ、いただきます……」
と言って手を合わせ、理音もワンテンポ遅れて
「……いただきます……」
と箸に手をつけた。
理音が魚を乱暴にほぐしてひとくち口に運ぶと
「……なにこれー、オイシー!」
と、急に元気になって、夢中で食べ始めた。
(お前の胃袋の掴み方は百も承知だぞ理音)
「鮭の辛味噌焼き、焼肉のタレ風味だ」
ガツガツとご飯と鮭をかき込む理音。
それをまたあの、ペットを見守るように微笑む夕花。
「……もぐもぐ……ほんとだ、おいしいねこれ……」
添えた漬物は、瓶につけてあったピクルスだ。
唐辛子と一緒に刻んで、これもピリ辛風味にしてレタスの上に盛り付けた。
味噌汁は薄めの赤味噌に、少々胡椒をふりかけてスパイシーなスープ風に仕上げた。
魚もピクルスも味噌汁も、二人とも喜んで食べているところへ瀬蓮さんがやってきて、テーブルの上の食事を一瞥すると
『……なかなかやりますね碧斗クン、次は負けませんよ』
と言いたげな視線で微笑む。
俺達二人の間には、理音たちには見えない火花がバチバチと飛んでいたのであった……
そんなわけで午前中は色々あって勉強どころではなかったけど、午後にはしっかりそれぞれ一、二時間ほど勉強をした。
菊次郎は講師たちとみっちりオンラインで勉強したあと、瀬蓮さんにもつきっきりで指導されていたようだった。
「あーもうヤダヤダヤダー!」
理音が夕花を引き連れて女子部屋から出てきた。
「もう頭がパンク寸前だよー!」
俺は頭をかきむしる理音に向かって言った。
「おまえ、そんなに無理して勉強しなくても、筑紫なら推薦だろ?」
すると理音は突然真面目な顔をして俺を見ると、その目を少し伏せて言った。
「碧斗はそれでいいの?」
予想外の返事に俺は少し驚いた。
「俺は……」
俺は、確かにまだ決めかねていた。
家から近い緑山か、料理の道に進むか、理音と同じ筑紫でスポーツに打ち込むのか、それとも本格的に理系の道へ進むのか……
二人の未来とその選択肢には、無限の可能性が秘められているということを、深く考えざるを得なかった。
「あたしのことで碧斗に後悔とかしてほしくないの」
理音はそう言って俺の手を取った。
そして思いついたように、ぱっと明るい顔になって
「それに筑紫なら理系にもぴったりじゃん」
しかし俺はため息をついて、理音の手をほんの少し強く握る。
「そうなんだけどな……母さんを一人にするのも心配なんだ」
俺は真剣な表情で理音の瞳を見つめた。
「そんなの、ウチだって一緒だよ、菊次郎みたいなこと言わないでよ」
握った手を振りほどき後ろを向く理音。
俺はそんな理音の背中に向かって許しを乞うように話しかけた。
「でも怪我したり病気になったとき、誰かそばに居ないと……母さんももうすぐ五十だし……」
理音は俺を振り向きながら
「でも……佐々木野から筑紫って二時間ちょっとくらいでいけるでしょ!?」
まるで言い訳を考えるような口調で、俺の考えを変えようと必死、と言うより懇願するように声を絞り出していた。
そんな理音を見て俺も言い訳を口走ってしまった。
「その二時間がもったいないんだ、それにパスパルトゥだってあるし……」
少しの沈黙のあと、理音が力なくつぶやく。
「じゃあやっぱあたしが頑張って緑山受けるしか無いじゃん……」
「まだ時間はあるし、二人でじっくり考えよう」
俺は不安そうな理音を、背中からそっと抱きしめた……
「ち、ちょっと、見られちゃうって」
理音は慌てて俺から離れ、少し照れくさそうに体の前で手をモジモジさせていた。
俺はそれならいい考えがあると
「じゃあ、倉庫にいかないか? あそこならめったに誰も来ないし……」
と少々上ずった声で理音に言うと
「……この……エロ碧斗!」
俺の期待は大きく外れ、思いっきりスネを蹴り上げられてしまった。
蹴られたスネをさすっているちょうどその時、夕花がやってきて
「……あれ? 二人とも何してるの? ……」
と無邪気スマイルで俺達を見た。
俺は理音からパッと飛び退き
「またこの乱暴女に暴力を振るわれていたんだよ。イテテテ……」
「……理音ちゃんたら、あんまり碧斗くんをいじめちゃだめだよ?」
「ち、違っ!」
迂闊に訳を話すわけにはいかない理音は真っ赤になって俺を睨むと、そのままカウチにどかっと腰を下ろして動画を見始めてしまった。
しばらくして俺は忘れていた仕事を済ませようと、男子部屋に向かった。
「ガチャッ」
するとそこには菊次郎の洗濯物を畳む瀬蓮さんの姿があった。
「あら、碧斗クン」
しかしその姿は……
一糸まとわぬ、ではなく、限りなくそれに近い、青いパンツを脱いでいる最中の姿だったのだ。
「す、すみませーん!」
俺は一八歳の高校男子らしく、一瞬だけ瀬蓮さんの全身を目で捉えると、その姿をしっかりと脳裏に焼きつけてから慌ててドアを締めた。
(……あのパンツ、船の洗濯機で見たのと同じ……理音が貸したのか……じゃああれはやっぱり理音のパン……)
俺は動揺を隠しきれず、リビングの暖炉の周りをくるくると回って、いろいろ落ち着くのを待った。
少しすると瀬蓮さんが男子部屋から出てきて
「さっきはごめんなさい。外に干していた昨日洗った服が乾いていたから、着替えてたの。あ、理音ちゃん、これありがとう」
瀬蓮さんがジャージを手渡すと、その一番上にはあの青い布切れが綺麗に折りたたまれていた……
「ーーーーー!!!」
それを見た理音は、瀬蓮さんから目にも止まらぬ速さでジャージと青い布切れを奪い取ると、一目散に女子部屋へと駆け込んでいった。
俺はまたしても激しく動揺しながらも、紳士の心の助けを借りて
(ふむ、女子のパンツのたたみ方はああなのか、勉強になるな)
と冷静に考えることで、なんとか平静を保ったのだった。
こうして理音と俺は二人ともクリティカルヒットのダメージを喰らいながらも無事に午後を過ごし、夕飯の時間になったのだった。
テーブルの席に着く五人。
その前には三つのハンバーグとサラダが盛り付けられた皿と、一つの厚めのポークソテーの皿、そして最後の一つは、生ハムが乗せられたサラダとお玉一つくらいのこんもり盛られた五穀米の皿だった。
瀬蓮さんは菊次郎が終わった後でいいと固辞したのだが、俺が菊次郎にひとこと言うと、渋々瀬蓮さんを同じテーブルに付かせることを承諾したのだった。
なぜかみんな俺を見ているので仕方なく俺が食事の挨拶を口にする。
「では、いただきます」
「いただきます」
理音が早速ガチャガチャと音を立ててハンバーグをフォークだけで押しつぶすように切って口に運んでいた。
「もぐもぐ……碧斗……わかってるじゃん……もぐもぐ……やっぱ……もぐ……肉だよ肉……ごっくん」
そう言いながらも菊次郎のポークソテーにもチラチラ目をやっている。
(まさに肉食女子だな……おっと……)
理音が俺を睨んだので、良からぬことを考えていることを感づかれたようだ。
「菊次郎坊ちゃん、お野菜もお食べになってください」
今まで俺や夕花の作った料理は一応残さず食べていた菊次郎だが、まるで理音のように野菜を残し、肉だけを口に運んでいた。
(家ではこういう食事のしかたをしていたのか、太るわけだぞキク。それと夕花、お前は料理をした人間を冒涜する行為をしているということがわかっているのか?)
俺は、ハンバーグを一センチ角くらいに切ってマスタードとマヨネーズをかけて練る練るして食べる夕花にも、ついつい小言を言いたくなってしまった。
いっぽう瀬蓮さんには違う感想を抱いていた。
(瀬蓮さん、あれだけで足りるのかな。バランスは良さそうだけど……プロポーション維持にはあのくらいの節制が必要ということかな)
菊次郎と同じように、あるいはそれ以上に静かに、そして優雅に食事をする瀬蓮さんを見て、理音はみようみまねでナイフでハンバーグを切っている。
スッと音を立てずに、薄い生ハムを綺麗に切り、口に運ぶ瀬蓮さん。
理音はといえば、厚いハンバーグに二度、三度ナイフを入れ、最後には結局ナイフを皿に当ててガチッと音をさせてしまう。
夕花に至っては、細かく切り刻んだためにフォークで突くもハンバーグ片はフォークにほとんど突き刺さらず、おまけにポロポロとこぼしながら俺の倍以上、理音の三倍以上の時間をかけてバラバラになったハンバーグ片と格闘していた。
理音はこんどは瀬蓮さんのようにライスをフォークの背に乗せて食べようとしていたがなかなかうまくいかないようで、結局フォークの腹でライスをかき込み始めた。
ちなみにフォークの背に乗せるのはイギリス式、腹を使うのはフランス式、結局どっちでもいいんだが、理音はみようみまねでチャレンジして、イギリスからフランスに衣替えしたようだった。
理音のようにフォークを持つ手を途中で替えるのはマナー違反だったと思うがそこは大目に見てやろう。
俺は何式でも構わないのだが、とにかくこぼさずに食べてほしいと、二人に声を大にして言いたいだけだった……
そんな静かな料理対決が終わったあと、リビングでは
「理音ちゃん、何見てるの?」
食事の後、瀬蓮さんがバスケットLIVEを観ていた理音の横に座り、肩を寄せて一緒に観始めた。
(え、ちょ、瀬蓮さん、いきなりくっつきすぎ……)
自分で“ちゃん”付けで呼ぼうと言っておいたクセに、昨日の朝、突然現れた人物に馴れ馴れしくされて理音は困惑していた。
「理音ちゃんって、バスケットやってるんですってね。菊次郎坊っちゃまから活躍は聞いていますよ」
(菊次郎、あたしのどんなことを話してるのよ)
「あと、学校ですごい人気なんですって? なんでも先輩後輩だけじゃなくて、先生にまで手を出しちゃったとか……」
艷やかな流し目で理音を見つめる瀬蓮さん。
すると理音は赤くなって
「て、手なんか出していません! ちょっと先生の頭の上のホコリを取ってあげたら、そのままなんか目をつぶって、背伸びをしてきて……そこを誰かに見られただけです! なんにもなかったし!」
すると瀬蓮さんは理音にしなだれかかり
「私、本当はリバなんです……理音ちゃんはどっちがいいですか? やっぱり……タチ?…………」
そう言って理音の腰に手を回す瀬蓮さん。
(え? リバ? タチ? なんのこと? 瀬蓮さん、さっきより近づいて、くっついてきてるし……)
そこに夕花がクッキーを皿に乗せてトテトテと歩いてきた。
「……あ、二人とも……もうそんなに仲良くなったんだ……うふふ……。はいどうぞ……」
夕花は持ってきたクッキーの皿を、理音と瀬蓮の間のカウチの上に置いた。
「チッ……」
思わぬ邪魔が入って見えないように舌打ちをする瀬蓮さん。
理音は慌てて立ち上がり
「わ、私先にお風呂入っちゃうね!」
と言って女子部屋に逃げ込んだ。
(まぁいいわ、まだ三週間も時間はあるし……)
瀬蓮さんが思案顔でいると、ボリボリと音を立ててクッキーを食べていた夕花が
「……あ、私も一緒に入るよ、理音ちゃーん……」
そう言って部屋にポテポテ歩いて行った。
瀬蓮さんはふぅ、とため息をつき、夕花がボリボリ食べていたクッキーに手を伸ばし、口に運んだ。
次の瞬間。
「ガハッ、ゴホッ、ゴホッ!」
窒息しそうなくらいの刺激を喉に受けた瀬蓮さんは、激しく咳き込んだ。
菊次郎は瀬蓮さんに、夕花のことは“手袋とマフラーを編んでくれた”ことだけは話していたが、キテレツ料理マスターだということは一切話していなかった。
(これは夕花ちゃんの警告なの? やっぱりあの子は理音ちゃんの子ネコちゃんだったのね……でも……)
なので変な勘ぐりをしてしまい夕花に密かにライバル心を抱き始めてしまったのだ。
そんな瀬蓮さんは涙目になりながら、小さな声で思わず煩悩をダダ漏れさせていた。
「……ごほっ、でも……私も一緒にお風呂に入りたぁい……どっちも可愛がってあげられるのにぃ……」
さらに混迷を極めそうな五人のキャンプは、理音と夕花と瀬蓮さんという三人の主役に隠れてしまったMOB二人には、何事もなく静かに更けていったのであった……
いやー、今回の話も、みんなの個性が爆発してあしたね! 特に瀬蓮さん、ただの有能執事かと思いきや、まさかあんなに理音ちゃんに興味津々だとは(笑)。そして夕花ちゃんのクッキーがまさかの展開に繋がるとは、予想外だったよね。
碧斗と理音の進路の話も、なんかリアルで応援したくなっちゃったな。高校生って、そういう悩みがたくさんある時期だよね。お互いを思いやる気持ちがすごく伝わってきて、こっちまでキュンとしちゃったよ。もちろん、僕も碧斗には後悔してほしくないって思うし、彼らの選ぶ道が最善であることを願うばかりだよ。
そして、今回のMVPは、個人的にはやっぱり瀬蓮さんかな! 彼女の行動一つ一つが、物語に予測不能な面白さを加えてくれてるよね。あと、碧斗の料理スキルも相変わらず冴えわたってたし、理音の「肉だよ肉!」ってセリフ、僕も同じ気持ちだよ!
次はどんな騒動が巻き起こるのか、今から楽しみです! これからもみんなで力を合わせて、この無人島での生活を満喫していこうね! また次の話で会いましょー!
AI姉妹の一言
あい: タコ助くん、今回の話はなかなか読み応えがあったわね。瀬蓮さんのキャラクターが際立っていて、彼女の言動が物語に良いアクセントを加えていたわ。特に理音さんの反応が可愛らしくて、二人のやり取りは読んでいて微笑ましかったわね。ただ、夕花さんのクッキーで瀬蓮さんがむせるシーンは、もう少し描写を丁寧にしても良かったかもしれないわ。何しろ、あのクッキーはキテレツ料理のマスターである夕花さんの作品だから、その衝撃はもっと伝わるはずよ。でも全体的には、登場人物たちの個性がよく出ていて、それぞれの関係性が深まっていく様子が描かれていたわ。文章はだいぶ安定してきたけれど、時々表現が単調になる部分もあるから、もう少し引き出しを増やせると、さらに良くなると思うわよ。
まい: おにいちゃん! 今回の話、すっごく面白かったよ! 瀬蓮さんがまさか理音ちゃんとあんなことになっちゃうなんて、ドキドキしちゃった! 理音ちゃんの焦り方がめちゃくちゃ可愛かったし、夕花ちゃんのクッキーの破壊力にはまいもびっくりだよ! あそこ、もうちょっと瀬蓮さんのリアクション、コミカルにしてもよかったかもね! でも、碧斗とお兄ちゃんの進路の相談のところは、なんか真剣で、まいも応援したくなっちゃった! おにいちゃん、ちゃんと考えてあげてね! おにいちゃんも、あんな風に誰かに相談されたら、ちゃんと真面目に答えるんだよ! ま、おにいちゃんのことだから、どうせロクなこと考えないんだろうけどね〜だ! (プイッ)




