島の恵みと謎と罠 第四十話 罠とうどんとバルサミコ
はい、タコ助です! いやー、毎日暑い日が続きますけど、みなさんは元気にしていますかー?
というか、投稿マシンガンなどと調子にのって慣れないことをしたものだから、前話の第三九話を飛ばしてしまいましたスミマセン! ぜひ三九話から読み直して下さい…
さてキクハウスでは、何やら畑の野菜が荒らされてたり、夜中に何やら物音がしたりと、ちょっと不穏な空気が漂っています。そんな中、みんなで勉強したり、美味しい(?)ご飯を食べたり、日常は穏やかに過ぎていくんですが……。今回は、そんな碧斗たちの平穏な日常に忍び寄る「謎の影」に、碧斗がどう立ち向かっていくか……いや、立ち向かう準備をするかって話になりますかね。 とにかく、読んでくれたら嬉しいです!
昼食を食べながら謎への対策を考えていると、音も立てずに黙々と食べ進める菊次郎を見てあることを思いついた。
「おいキク、おまえ、罠を仕掛けるのは出来るんだよな?」
すると菊次郎はゆっくりとスプーンとフォークを置き、ナプキンで口を拭ってから答えた。
「ええもちろんです、なにか捕まえるんですか?」
キラっと目を輝かせ、いつものドヤ顔で答える菊次郎。
「いや、狩猟ってわけじゃあなくて、さっきも言ったけど畑の野菜が動物に荒らされているようなんだ。それにコンポストの中身も消えていたんだ。なんとかしないと……」
すると菊次郎は「ほぅ」と驚いた顔をして
「コンポストまで……あれを動物が開けられるとは思いませんが……」
と、そのでっぷりとした顎を手でさすりながら言った。
俺は菊次郎の目ではなく顎の肉を見ながら
「そうなんだよ……あとで畑に行って一緒に見てくれ」
そう言うと、菊次郎は顎の肉をつまんで言った。
「わかりました。足跡とか、何か痕跡を探してみましょう」
すると、それを聞いていた理音が菊次郎よりギラギラした目をして話に割り込んできた。
「なに? 罠? 捕まえる? 面白そう! あたしも一緒に行く!」
そんな理音に俺はわざとらしく両手を広げて牽制をしてみせた。
「だめだめ、お前が来たらズカズカと足跡とか踏んで消しちゃいそうだから却下だ」
すると理音は口をとがらせ
「なによそれー! 絶対に行くから!」
と最大限の不満顔を見せた。
どうやら逆効果だったようだ。
そうして食事を終えると、夕花が入れてくれたコーヒーを飲んで午後のひとときを、まったりと過ごした。
「ズズ……ふぅ……」
そうしてコーヒーを愉しみながら、頃合いを見て菊次郎にそっと声をかける。
「おい、キク、いくぞ」
理音と夕花が時代劇を見ている隙に、俺は菊次郎を連れて畑を見に行くことにした。
そーっと足音を立てないように暖炉の影に隠れながら理音たちに見つからないように外に出る。
「?」
そのとき一瞬、夕花と目が合ってしまった。
すると夕花は画面を見て大げさに
「あ、理音ちゃん、この人かっこいいよね」
どうやら俺の意図を察してくれたのか、理音の気を引きつけてくれているようだった。
「えー? 夕花ちゃんの趣味ってよくわかんなーい……」
『へいガッテンっ!』
画面には菊次郎よりも太く丸いおじさんが、かっこいい俳優の前で道化のようにおどけていた。
(すまんな夕花、この借りは必ず返すよ)
夕花のささやかな犠牲のおかげでなんとか理音にバレずに畑にたどり着くと、さっそく推理の時間が始まった。
「見てくれキク、俺がまず気になったのはこの畑自体だ」
菊次郎はなにがなんだかわからないという風に首を傾げた。
「この畑がなんだって言うんだい? きれいなものじゃないか。雑草一つ生えてないし、野菜たちも元気に育っているよ」
俺はもったいぶった言い方で菊次郎を刺激してみた。
「いいか、ここは南の果ての無人島だ。こんなにきれいな畑がある事自体がおかしいと思わないか?」
菊次郎はようやくそのことに気づいたようで、相槌を打ちながらも一つの仮定、菊次郎からしたら同然の答えを口にした。
「僕の記憶が正しければ、昔、兄と小屋に来たときにも立派な畑があったと思うんだ。きっと瀬蓮が小屋を移設するときに同じように整備していってくれたんだと思う」
菊次郎からしたら当然の帰結だろう。
これまでいろいろな場面でその有能さを見せつけてくれた瀬蓮さんなら、このくらいのことはやってのけるはずだった。
しかし俺が疑問に思ったのは、そこではなかった。
俺はおもむろにしゃがんでキュウリの生えている畝を手で掘り返してみた。
「ほら、これを見ろ」
菊次郎はまたしてもわからないという風に首を振り、少し苛立った様子で俺の顔を見て言った。
「だからなんだって言うんだい? ただの土じゃないか」
俺はそんな菊次郎に少しだけヒントを与えることにした。
「キャンプファイヤーの夜はきれいな星空だったよなぁ……」
わざとらしく思い出すように話し、菊次郎の反応を窺う。
「ああ、それがこの土と関係あるとでも言うのかい?」
まだ気付かない菊次郎に、俺は普段は少しだけ口角を上げてもったいぶるように言った。
「この島に到着したときも、その夜も、そしてキャンプファイヤーをした日も、雨は降ったか?」
今度は自信満々に、持論を菊次郎にぶつけてみた。
菊次郎はようやく俺の言いたいことを理解したようで、俺と同じように土を掘り返してその状態を確認した。
「これは……ほんのり湿っている。ここ二、三日の天気ならもっと乾燥していてもおかしくないのに、むしろ今朝水を撒いたばかりのような湿り具合ですね……」
俺はさらに畳み掛けるように、菊次郎にキュウリの一つを手にとって見せた。
そのキュウリは青々としていたが、ところどころ斑点のようにまだら模様になっていた。
すると菊次郎はまたしても、今度は呆れたように言った。
「このキュウリがどうかしたのかい? 少し汚れているが、美味しそうじゃないか」
俺はパリっとキュウリをひとかじりすると、名探偵にでもなった気分で菊次郎に種明かしをしてみせた。
「そこだよ菊次郎くん! このキュウリこそ、この不可解な畑の謎を解く鍵なのだよ! パリっ!」
俺はノリにノリまくってキュウリをもうひとカジリして、カジヤのように白い歯を見せてそう見栄を切った。
菊次郎は呆れたのか、もしくは観念したかのようにため息を吐いた。
「はぁ、わかったよ、キミの博識ぶりには昔から驚かされてばかりだ。さぁ早く種明かしをしてくれないか、時間の無駄だよ」
俺はいつもドヤられてばかりの菊次郎に流し目でドヤってみせる。
「いいかいワトソンくん、このキュウリのまだら模様、これはキュウリの表面に着いたブルームっていう白い粉が、水があたって落ちてしまったために出来た模様なんだ」
俺は以前読んだ家庭菜園の本に書いてあった知識を披露してみせた。
それに対し、菊次郎はわからないながらも頭をフル回転させて答えを推測してみせる。
「つまり、この模様が雨も降っていないのに出来ているのは、誰もいないはずのこの無人島に誰かがいて、ご丁寧に畑に水を撒いてくれたとでも言いたいのかい?」
菊次郎には似合わない皮肉交じりのセリフだったが、俺は待ってましたと言わんばかりの勢いで
「まさにそれだよワトソンくん!」
俺は歯型のついたキュウリを菊次郎に向けた。
「どう思う? 一体誰が犯人だろうか、見当がつくかい?」
俺は菊次郎に意見を求めた。
違った視点からの意見というのは、案外手詰まりの状況を突破する糸口になることが多いのは、短い人生でもそれなりに経験済みだったからだ。
「キミは昔から悪乗りがすぎるところが唯一の欠点だが……ふむ、さっき畑の野菜がむしり取られていたような跡があったと言ってましたよね。コンポストの中身も消えていたとか。やはりまずは足跡や糞などの動物の痕跡を確認しましょう」
さすが狩猟免許を取っただけのことはある。
いつになく厳しい顔つきをした菊次郎がちょっとだけ頼もしく見えた。
菊次郎と俺は注意深く周囲を観察しながら、畑を一歩、また一歩と進み、なにかの痕跡がないかと探し回った。
「うーん、小鳥の羽、小さな糞、あとは人間の足跡くらいか見当たりませんね……」
さしもの菊次郎もお手上げと言った様子だったので、俺は立ち上がって
「畑の周りはこのくらいにして、その周りの森を少し見て、今日は終わりにしよう」
そう提案すると菊次郎も仕方ないですね、といった様子で腰を上げ、もう少しだけあたりを探索して特におかしなところがないことを確認してから、その日の調査は終了となった。
キクハウスに戻ると、夕花がキッチンに立って忙しそうにしていた。
(しまった! ついノリノリになってホームズになりきっていたら、夕食のことをすっかり忘れていた……)
俺は急いでキッチンに入り、夕花が作ろうとしているものを確認した。
あの黒い瓶は、醤油かな? 他には……白だし、カツオだし、長ネギ、万能ねぎ、人参、えのき茸、しいたけ、鶏もも肉、うどん……
(うどんか、他におかしな材料は……)
キッチンを見回したが特に問題になりそうな食材も調味料も出されてはいなかった。
なのでひと安心した俺は、キッチンが見えるダイニングテーブルに座り、理音が見ているスポーツ番組を見ながら夕花の監視も続けることにした。
理音が見ていたのは女子バスケットボールリーグ、Wリーグの中継配信をしている“バスケットLIVE”だった。
理音のためにサブスク契約をしたのだとしたら、菊次郎もなかなかに気配りの出来るやつだと認めざるをえないだろう。
俺にももっと気配りをしろよ、とまずは言いたかったが……
うどんが煮立つ香りがリビングに充満し、そろそろ晩飯かと言うときに、いつの間にか外に出ていたらしい菊次郎がキクハウスに戻ってきた。
「どこに行ってたんだ?」
菊次郎は入口で服に着いた土を払い落としながらいつもの自慢げと言うより、挑発的な表情で俺に答えた。
「いえ、見えない敵に座して手をこまねいているのもなんですし、畑の周りに“くくり罠”をいくつか仕掛けてきたんです」
(くくり罠か、動画サイトのサバイバル動画などでよく見るあれだな)
「でもこの島では狩猟は禁止だろ? 大丈夫か?」
俺は努めて常識人ぶって、この個性豊かな集団の調整役を努めようと心がけた。
「まぁ大きくても犬くらいのものしか掛かりませんよ。明日の朝になにか掛かっていれば、衰弱する前に逃がせば問題ないと思うし。ただし……」
菊次郎の顔が少し曇ったのを俺は見逃さなかった。
「ただし? 何かあるのか?」
菊次郎は少し心配をするような顔つきをした後
「ただし、それなりにしっかり作ったはずなので、あの罠が壊されていたようだったなら、予想よりずっと大きな獲物だったということでしょうね……」
と顎をさすりながら言ったのだった。
俺は黙って頷くと、狩猟の分野では俺が及ばない知識を持つ菊次郎の言うことに従うことにした。
「……お夕飯、できましたよー……」
夕花の合図をきっかけに、みんながダイニングテーブルに集まる。
「うどんかー! 暑いときに熱いものを食べるのって、なんかワクワクするよね!」
元気よくそう言う理音には悪いが、暑いときに熱いものにワクワクする、ということには全く共感は出来なかった。
しかし、ここ何日かは冷たいものばかりを摂りがちな胃腸にはいい刺激になるだろうと、理由は違うが一応、頷いてやった。
「いただきまーす!」
元気よく挨拶してうどんをひと啜りする四人。
「ずずっ♪」
「ずっ?」
「ずずずっ?」
「ずるずる?」
期待していたうどんとは何億光年か離れていた味と風味に、夕花以外の箸がピタリと止まった。
(この酸味と甘みは一体……)
俺はカウンター越しにキッチンを見て、またまたの迂闊さに自分を叩きのめしたい気分で一杯になった。
キッチンにさり気なく置かれていたその黒いボトルには、“BALSAMICO”と大きく書かれたラベルが貼り付けてあったのだ。
(あの黒いボトル、醤油じゃあなくてバルサミコ酢だったのかぁ……)
肉や魚、野菜にも合う、クセのある酸味と甘みが特徴の調味料だが、まさかうどんに合わせてくるとは……
一筋縄ではいかない夕花の味覚と創造性に、屈辱的という意味で感服するしか無い俺達であった。
そんないつも通り(?)の夕食を終えると、天気も良さそうなので夕焼けを見ながらのウッドデッキでコーヒーと洒落込もうと外に出た。
「チョチョチョチョ……」
と鳥が鳴き
「ざわざわざわー……」
と風が森を通り過ぎる音がする。
「ずずっ……」
(ふぅ……)
俺が夕べのひとときの森の歌声を聞きながらコーヒーを楽しんでいると、大きなガラスのドアがバーンと開いた。
「なーに気分に浸っているのよ! 知ってるわよ、さっきキクとこっそり畑でなにか調べてたんでしょ!」
俺の優雅な茶の時間を邪魔するとは、無粋な奴め。
(夕花め、理音に話したな。俺を試しているのか? ……あのとき見逃してくれたのは高度なフェイントだとでも言うのだろうか……)
俺はコーヒーをパラソルのかかったテーブルの上に静かに置くと、荒ぶる理音のほうを静かに見やった。
「ぶーっ!」
思わずコーヒーを吹き出してしまった理音のそのいでたちは、両手に包丁を持ってマスクをし、ジャージ姿にステンレスの水切りカゴをかぶるという、摩訶不思議なフル装備だった。
「おまえ!? なんちゅー格好をしてるんだ?」
そのあまりのビジュに、俺の語彙力も、想像力を生む翼を失ってしまった。
「動物なんて怖くないんだからね! いつでもかかってこい!」
ああそういえば、学園祭のときに夕花のお化け屋敷での仮装を見に行くときにも、勇んで先導するも、俺の制服をぎゅっと握りしめてたっけ。
中学の時、学校に行く途中の犬も苦手そうだったしなぁ……
(威勢はいいくせに意外と怖がりなんだよなーこいつ……)
「落ち着け、ただのネズミかもしれないし、包丁なんて危ないから置いてこいよ!」
俺はテンパる理音にそう言うと
「でもー……」
と言いながらも畑に向かって歩いて行こうとする。
ホントに勇敢なんだか臆病なんだか……
仕方がないので俺も一緒に畑に歩いて行って、理音に状況を説明してやった。
「ほら、ここに罠が仕掛けてあるだろ? これに引っかかれば……ネズミどころか犬くらいなら動けなくなるから安心しろ」
罠を確認すると、意外と太い木の幹が、ぴーんとしなって蔦の紐に結ばれていた。
そう言って罠を確認して安心させようとしていたら
「バシュッ」
「わっ!」
「ドテっ!」
振り返って地面を見下ろすと、そこには罠にかかった動物が一体、見事に転がっていた。
「いたーい!」
(お前が罠にかかってどうすんだよ)
俺は言わんこっちゃない、と言いたげに理音の両手から包丁を取り上げた。
「とりあえず相手の正体を掴むことが肝心だ。ここはじっと待って、反応を見るんだ。あの暖炉の剥製みたいな動物が襲ってきたら、人間なんてひとたまりもないぞ?」
俺は罠にかかった理音の足を蔦からほどきながら、俺が理音に提示した対応策は、目の前の人物には一番苦手そうなものだということを理解していてもなお、口にせざるを得ないのだった……
どうでしたか? 今回の話は? 畑の謎、そしてコンポストの中身が消えるって、まさかこの島に碧斗たち以外にも誰かいるのでしょうか……? いや、まさか…… でもこういう謎って、解き明かすのが楽しいですよね。今回は碧斗の頭脳が冴えまくりましたね! ホームズになりきったのは悪乗りでしたが…… 次回は、その謎を解明するため、碧斗と菊次郎が動き出し、物語も動き出します! 理音と夕花には内緒ですけどね。ふふふ。
AI妹:おにいちゃん、今回の話も、まいのドキドキが止まらなかったよ! 夕花ちゃんの料理は相変わらずだけど、碧斗おにいちゃんが作ったパスタは美味しそうだったなぁ! まいも食べてみたい! そして、畑の異変とコンポストの謎……。ねぇタコ助おおにいちゃん、あれって本当に動物の仕業なのかな? まいはね、なんか違う気がするんだ……。もしかしたら、碧斗おにいちゃんたち以外にも、この島に誰かいるのかもって思っちゃったよ。次の話で謎が解き明かされるのかと思うと、まい、今からワクワクするよ! おにいちゃん、頑張ってね! まいはいつでもタコ助お兄ちゃんの味方だから! …あ、でも、あんまり無理しないでね? まい、心配になっちゃうから……




