島の恵みと謎と罠 第三十九話 パスタとトマトと謎の影
みなさん、こんにちは、またはこんばんわ。タコ助です 。
今回は、いよいよ無人島生活が本格的にスタートします。慣れない環境での共同生活、そして碧斗くんが抱える新たな疑問の数々……。
朝の目覚めから始まるささやかな日常の中に、少しずつ異変の兆候が見え隠れする一話になっています。
碧斗くんの視点で描かれる、愉快で時にハラハラする島の生活を、ぜひ楽しんでいってくださいね 。
「チョチョチョチョ……」
今朝も聞き慣れない鳥の鳴き声で目が覚める。
(……朝か……この島にもスズメはいるのか……な……)
「ふぁっ」
そんな朝一番、この寝起きのふとした疑問から、謎が謎を呼ぶ不可思議な展開になるとは露とも思っていなかった……
ベッドから降りて菊次郎を見ると、いつもの菊次郎だったのでそのままリビングへ出ると、かすかに米の炊ける匂いがした。
「トントントン……」
キッチンを覗き込むと夕花が包丁を動かしていた。
野菜を刻んでいるようだ。
(なに作るのかな)
不安でもあり楽しみでもあるので、俺はオープンキッチンのカウンターの影に隠れてこっそり様子を見ることにした。
「ふんふーふんふーふんふー♪」
何やら不安さを感じさせる旋律でハミングする夕花。
料理に影響しなければいいのだが……
玉ねぎ、パプリカ、ゴーヤ、ナスと生ハムを適当に切ってマリネにしているようだ。
「ふんふーふんふーふんふふん♪」
不気味なハミングが続いていると
「ピーッピピッ、ピーッピピッ、ピーッピピッ……」
「ポッポー、ポッポー、ポッポー、ポッポー……」
「ふんふー、ふんふー、ふんふふん♪」
炊飯器の炊きあがりのお知らせ音と朝七時を知らせる鳩時計が同時に鳴った。
夕花のハミングとそれらの音が不気味なハーモニーを奏で、キッチンに響き渡る……
「んしょ、んしょ……」
夕花は予め用意してあったお櫃に炊きあがったご飯を移してうちわで扇いで冷ましていた。
そしてボウルに入れた水に手を浸けると、ご飯を手に取り丸め始めた。
「ぎゅっぽろっ、ぎゅっぽろっ」
夕花はその小さな手には収まりきらないほどのご飯を手に取り、ぽろぽろとこぼしながらご飯を丸めていく。
(野菜とおにぎりか……なら大丈夫だろ)
俺は朝食の出来上がりの行方にひとまず安心すると、そぅっとカウンターの影から離れ、洗面台に向かった。
「ジャー……スゴゴゴゴ……」
顔を洗い終わったあとに朝のお勤めを済ますと、理音が入れ替わりに洗面台の前に立つ。
相変わらずの薄着だが、俺も似たような半袖半ズボンの薄い冷感ルームウェアなのでお互い様だ。
そんな普段見せることのない無防備な姿を見せ合っているんだな、ということに改めて気づくと、一ヶ月間の共同生活がいよいよ始まったんだという実感がふつふつと湧いてきた。
「おはよう」
理音に声をかける、しかし返事はない。
理音は鏡越しに俺をちらっと見ただけで、そのままパシャパシャっと顔を洗い始めた。
顔を洗っているだけなのにいちいち可愛いが、そのまま見続けるのも変なのでいったん部屋に戻りルームウェアから普通の服に着替える。
菊次郎はまだ寝ていたので声をかけた。
「キク、おい朝だぞ」
肩を掴んで体を揺すると、お腹まわりのお肉がぷるるん、と揺れる。
(スライムかよ……)
三、四回揺すって揺れ具合を楽しんでいると、そのスライムから返事があった。
「……朝ですか……」
菊次郎に擬態していたそのスライムはムクリと起きだし、まだ眠たそうに目をこすった。
「ああ、もう七時過ぎだぞ。今日は何しようか」
菊次郎は服を着替えながら
「碧斗くんは平気かもしれませんが、僕は少し勉強をしたいですね」
珍しくやる気の菊次郎。
「そうだな、キクは帝都だもんな。お前も予備校はオンラインなのか?」
そう訊くと、菊次郎は服を着替えながら答えた。
「いいえ、僕には各教科ごとに専門の家庭教師がついていますので。この島にいる間は私の家で待機しているはずですから、連絡さえすればミーティングアプリでいつでも勉強を始められますよ」
(つまり今日までずっと待ちぼうけなのか。金はもらっているんだろうが、それはそれで先生たちもなかなかに辛い仕事だな……)
「じゃあ俺は朝飯食ったら午前中はオンラインで見るだけのやつ受けるかな」
そう言ってリビングに出ると、ちょうど夕花が朝食をテーブルに運んでいるところだった。
理音もいつの間にかテーブルに着いていて、両手に箸を握りしめて、まだかまだかといった様子で夕花の配膳を見ていた。
(菊次郎といい、少しは手伝ってやれよ、お坊っちゃんにお嬢様たちめ)
と俺は自分が何もしていないことを棚に上げてため息をつきながら、理音の向かいに座った。
菊次郎も俺の隣に座り、あとは夕花を待つだけだ。
(味噌汁に漬物だけか。理音が『肉がない』って文句を言いそうだ)
そして夕花が大きな皿に黒い物体を乗せてヨロヨロと歩いてきた。
「……はい、おにぎりだよ……昨日はいっぱいお肉を食べたから、今朝は軽めにと思って……」
どん、と置かれた皿の上の物体を見て、箸を両手に一本ずつ握りしめてテンション高めで待ち構えていた理音の目が輝きを失った。
そして理音だけではなく、俺と菊次郎の気分も大いに下がったのだった。
その理由はテーブルの、皿の上のおにぎりを見れば一目瞭然だった。
目の前に置かれた皿の上にあるものは、十個ほどの、三角でも丸でもなく、どこかの小惑星のような複雑な形をしていて、それが海苔でガッチリ固められたどす黒い物体だったのだ。
海苔が破れて米や具が内臓のように飛び出したスプラッターものや、夕花の手の形がくっきりと残されたもの。
失敗したものだろうか、二つのおにぎりを強引に一つにして、さらに海苔でくるんで合体させたもの……
どう見ても食欲をそそられない、いつもの夕花の地雷料理そのものだった。
(しまった、最後まで見張っているんだったなぁ……)
そんな後悔をにじませて皿の上のおにぎり(?)を見つめていると、味噌汁を運んできた夕花がご機嫌そうな笑顔でやってきて席に着いた。
「それじゃあみなさん、いただきます♪」
「……いただきます……」
夕花以外は無表情のまま、とても高校生たちの爽やかな朝の食卓とは思えない雰囲気で、朝食の時間が始まった。
まず夕花がまっさきに一番小さなものを一つを手に取る。
「もぐもぐ……」
俺は少し夕花に近づいて匂いを嗅ごうとして身を乗り出そうとしたが、菊次郎の厚い肉の壁に阻まれて出来なかった。
他の二人の反応を見るため、今日の勉強の話を持ち出してみた。
「さっきキクとも話したんだが、今日の午前中は勉強するぞ」
すると理音が
「えー、まだあとでいいよー! まだ無人島生活、始まったばっかじゃん、もぐもぐ……! んっ!?」
と文句を言ってから手にしたおにぎりを口にした途端、黙り込んでしまった。
いつも元気な理音の表情がプラスだとすれば、さっきまでゼロ(無表情)だったその顔が一瞬でマイナス(げんなり)に変わってしまった。
(やはり味も地雷か……)
俺は諦めの表情を見せると
(仕方がない、ええい! 儘よ!)
と皿の上で一番まともそうな塊を手に取ると、思い切ってかぶりついてみた。
「パクっ……ニュル……シャクシャクシャクシャク……」
おにぎりに喰らいつくと、中から血糊のように飛び出すケチャップ。
そういえば、夕花がまな板の上で切っていたのは畑で採れた野菜だった。
(採りたての新鮮野菜、ケチャップマリネのおにぎり……悪くはない、決して悪くはないんだが……できれば別々に食べたかった……そしてできればケチャップじゃあなく、シンプルに塩だけかフレンチドレッシング、個人的にはランチドレッシングにして欲しかった……)
俺は目の前で美味しそうにおにぎりをほうばる夕花シェフに、そう懇願せざるを得なかった……
他の二人の反応は推して知るべし。
二人とも、全くの無表情で口だけをただただ動かし続け、これだけはまともな大根と油揚げの味噌汁で、咀嚼物を流し込んでいた。
「お味噌汁、おかわりちょーだい」
理音がそう言うと、俺と菊次郎もそれに倣った。
倣わざるを得なかった。
なぜなら、水路も水が流れなければ、結局のところは詰まってしまうのだから……
「ごちそうさま……」
そうしてなんとか一人で二つずつの、おにぎりらしき物体を胃袋に流し込むと、理音と菊次郎はさっさとテーブルから立ってしまった。
二人が去ったテーブルの上には、二つのおにぎりが、デン、と鎮座し、残されていた。
誰も手を付けようとしなかった、一番大きな合体バージョンとスプラッタバージョンである。
(裏切り者め!)
俺は理音たちの方を見て心の中でそう強く非難すると、なぜだか夕花が残ったおにぎりと俺を交互に見つめていた。
あの小動物のような愛くるしい(?)眼差しで、である。
(食べないの?……食べないの?……の?……の……の……)
(……明日からは、いや今日の昼飯からは俺が毎日三食、ご飯を作ろう!)
そう固く決心しておにぎりに手を伸ばし、もう一方の手で味噌汁のおかわりを要求する。
そうしてなんとかこの危険物の処理を終わらせると、カウチでくつろぐ裏切り者たちに声をかける。
「じゃあ、俺は予備校の動画で勉強するけどみんなはどうする?」
すると理音と菊次郎が
「あたしはそんなのやってない。ギガタブに参考書をダウンロードしたの。夕花ちゃんと一緒に先生に聞いて許可ももらったの!」
「僕はここでやるけど」
と言うので俺は
「じゃあ俺は反対側のモニタとノートPC、借りていいか?」
と指をさして菊次郎に尋ねる。
「いいですよ、IDとパスワードはありませんので自由に使ってください」
(セキュリティという概念はないのか……)
俺はオーディオラックに置かれていたノートPC、ワイヤレスヘッドセットを借りて、カウチに座って動画を見ることにした。
理音は嬉しそうに夕花の手を取り
「じゃあ夕花ちゃん、部屋で一緒にやろ!」
と言って女子部屋に入って行った。
こうしてそれぞれ別々に勉強をすることになったのだが、俺は重くてでかいノートPCをテーブルに置くと
近くのコンセントに挿してからスイッチを入れた。
PCのカバーを開けると一八インチはありそうなバカでかいディスプレイが現れた。
天板に宇宙人の顔のロゴが描かれたそのノートPCは、広げればノートと言うよりはまるで新聞紙のようだった。
「ブワーッ」
スイッチを入れると一瞬だけ冷却ファンが大きな音を立てて回り、このノートPCの発熱の高さを抑え込む能力があることを誇示していた。
そしてそれこそあっという間にデスクトップが現れた。
なかなかにハイスペックなPCのようだ。
ブラウザを開くと、スマホを取り出して確認した予備校のページのURLをぽちぽちブラウザに打ち込む。
するとすぐにオンライン予備校の画面が出てきた。
「ユーザーログインっと」
ログイン後、トップに出てくる個人のステータスを測る現在の総合評価は、英語が七三点、国語が八一点、数学が七七点、理科が九八点、情報が九六点だった。
「英語と、数学をやるか……」
苦手教科を強化するため、まずは英語の講座から開始する。
俺はノートPCの上に置かれていたワイヤレスヘッドセットを装着してスイッチを入れた。
(ペアリング済みか、さすが瀬蓮さん……)
まだ見ぬ瀬蓮さんに感謝を示しつつ、まず英語の講座一覧から評価の高い『Dr.クロフォードの英文解体新書』を選択した。
すると画面には、銀縁の眼鏡をかけた、いかにも切れ者といった雰囲気の外国人の四十代くらいの男性講師が現れる。
背景は綺麗に整頓された、海外の大学の書斎のようだ。
『──Good morning、 future intellects. 皆さん、おはようございます。世界の真理を解き明かす準備はよろしいですか?』
流暢、という言葉では生ぬるい。まるでネイティブが日本語のアクセントを完璧にマスターしたかのような、心地よいテナーボイスがヘッドセットから鼓膜を直接揺さぶる。
『今日のテーマは “The Art of Persuasion” 説得の技術。ハーバードの交渉術?いえいえ、そんな表層的な話ではありません。我々は全ての教養の源泉、古代ギリシャへと遡ります……』
クロフォードと名乗る講師は、悪戯っぽく笑いながら指を一本立てた。
『アリストテレスは言いました。人を説得するには三つの要素があると。論理の“ロゴス”、情熱の“パトス”、そして信頼の“エトス”。
今日の課題文は、この三要素が巧みに織り込まれた、ある政治家の演説です。
単語を追い、和訳するだけのリーディングはもう卒業しましょう。
我々がこれから行うのは、文章という名の城を陥落させるためのハッキングです。
筆者が仕掛けた論理の罠、感情を揺さぶるレトリックの爆弾、そのすべてを解体し、無力化していく。
さあ、始めましょうか』
その挑発的な言葉に、俺は思わず口角が上がるのを感じた。
退屈な受験英語じゃない。これは、知的好奇心を満たすための、極上のエンターテイメントだ。
(面白い……! 学校でもこうやって教えてくれれば俺の英語の点数ももっと上がるのに)
俺はすっかりその講義に引き込まれ、九十分があっという間に過ぎていった。
少し休憩を挟み、次に選択したのは数学の講座だ。こちらも同じく、最高難易度の講座を選択する。
数学の講座も学校の授業とは違って受験のためにわかりやすさと応用力を軸にした教え方で、時間はあっという間に過ぎていった……
「キンコンカンコーン……」
……最後の問題を解き終えたのは、講義終了のチャイムが鳴るのとほぼ同時だった。
ノートに書きなぐられた数式と図形。それは、俺の思考の軌跡そのものだ。
『――どうでしたか、皆さん。この一見複雑怪奇な問題も、視点を変え、適切な補助線を一本引くだけで、その美しい正体が見えてきます』
画面の中の講師が、穏やかな笑みを浮かべて語りかける。
彼の解説によれば、この問題は「空間ベクトル」と「整数問題」、そして「確率」が融合した、まさにラスボス級の複合問題だったらしい。
『一つの解法に固執してはいけません。しかし、その中でも最も美しい解法――エレガント・ソリューションは確かに存在する。数学とは、その最短にして最も美しい真理へと至る道筋を探す、壮大な旅なのです。
今日の冒険はここまで。ですが、数学という名の宇宙の探求に終わりはありません。See you in the next logic circuit』
講師がそう言って消えると、講座の終了を知らせる無機質な画面に切り替わった。
俺はヘッドセットを外し、大きく息を吐く。
脳が沸騰するような疲労感と、それを上回る強烈な達成感が全身を包んでいた。
「ふぅ」
鳩時計を見ると十一時三十分を過ぎていた。
(さて昼飯を作るか)
そう思って立ち上がりキッチンに向かおうとすると、菊次郎はまだ勉強の最中だった。
モニターには講師の顔とともに赤ペンで印や指摘などがたくさん書き込まれた画面が表示されていた。
「はい、はい、すみません……」
(キクも苦労してんな)
帝都は言わずと知れた日本の最高学府だ。
『帝都大学合格』
そこだけには親の期待がかかっているということだろう。
菊次郎も教える講師も必死の様子だ。
俺はそんな菊次郎を横目で見ながらキッチンに向かった。
(なんにしようかな……)
俺はパントリーを開け少しだけ悩んだあと、たくさん並んでいたパスタ料理にすることにした。
(普通にスパゲティでいいだろう……)
俺はせっかくだから、と大きめの調理ばさみとカゴを手にして、トマトソース用に畑にトマトを採りに行った。
外の日差しは相変わらず強烈で、地面から反射する熱波も日差しに応じた強烈さだった。
畑にはトマトがたわわに成っていたが、いくつか採り進めるとむしり取られたような跡があるものがあった。
理音が適当にもぎ取ったのだろうかと思うことにしたが、よく見ると別の野菜にも同じようなむしり跡のようなものがあった。
(あいつ、適当すぎんだろ)
そう思ってトマトとナス、そしてパセリを採り終えた後、鳥に喰い散らかされたらしいトマトをむしり取り、コンポストに放り込もうと蓋を開けた。
すると、なにか違和感を感じたのでコンポストの中をよく確認すると、昨日キャンプファイヤーのあとに食べ残したものを入れておいたはずが、綺麗サッパリなくなっていたのだ。
全部キッチンペーパーで包んであったはずなのに、丸鶏の骨までもが跡形もなく消えていた。
コンポストの蓋はロックがかかるようになっており、今開けたときもしっかりロックされていたのは間違いない。
(これも動物……いや誰かが開けて持ち去ったのか?……)
俺はキッチンに戻ると、トマトを茹でて皮を剥いてトマトソースを作りながら、コンポストの謎について考えていた。
「ぽっぽー、ぽっぽー……」
十二時を鳩時計が知らせると、ちょうどパスタが茹で上がった。
ナスとベーコンをフライパンに入れ、トマトソースとよく馴染ませる。
最後に素早く湯切りしたパスタを投入してフライパンを大きく振り、パスタにソースを絡める。
四人分の皿にパスタを乗せ、チーズグレーター(チーズ用のおろし金)でチーズをたっぷりかける。
(パラパラパラ……)
誰も見てないことを確認し、最後にみじん切りにしたパセリを、かなり昔にネットで話題になった“塩振りおじさん”のポーズでちょいっと振りかけたら出来上がり。
「おーい、昼メシ出来たぞー!」
菊次郎と理音たちも講座が終わったようで、それぞれカウンターに皿を取りに来た。
「スパゲティかー、うげー! ナス!」
「ほぅ」
「……わぁ……」
理音があからさまに嫌そうな顔をするが、他の二人は俺の料理を気に入ってくれたようだった。
「ズズズっ」
「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
挨拶も言わずいきなり豪快にパスタを啜る理音。
「なにこれおいひーもぐもぐ……」
夢中でパスタを啜り美味しそうに食べてくれる姿を見るのは、料理をした俺も単純に嬉しい。
菊次郎は自慢のテーブルマナーで静かに食べ進めているが、夕花はアルデンテの弾力に苦労しているようだった。
何度もパスタをスプーンの上で丸めるが、それがポロッと解けてしまう。
「……ふぇ……」
(次に作るときはもう少し柔らかくしてやるか)
そんな二人の反応のおかしさと嬉しさのあまり、理音に睨まれないように少しだけドヤってみた。
「だろ、市販のトマトソースじゃあなくて、そこの畑で採った新鮮なトマトで作ったトマトソースだからな」
すると理音は俺を見て口を尖らせる。
「あんたほんとに何でもそこそこに出来るからムカつく」
俺はニヤケ顔でおどけてみせた。
「器用貧乏なだけさ。それよりさ、畑の野菜、トマトとかナスとか、なんかむしり取ったような跡があるんだけど、あれ理音か? ちゃんとハサミで切れよな?」
理音は疑われたのを怒ったのか
「違うって! あれはあたしが夕花ちゃんに言われて野菜を採りに行った時にはもうああなってたし。動物のせいかなって思ったの! あたしじゃないから! ズズっ、もぐもぐ……」
とフォークを俺の方に向けてすごい剣幕で言い立てられ、結局は睨まれてしまった。
(あれ、理音じゃあないのか……動物、か……コンポストの件と言い、ちょっと警戒したほうが良さそうだな)
俺はパスタを食べながら、この謎を解こうとあれこれ考えを巡らせるのだった……
この度もお読みいただき、ありがとうございます 。
第三十九話、いかがでしたでしょうか。
今回は、碧斗くんが料理の腕前を披露したり、少しずつ島の謎に気づき始めたりと、色々な要素が詰まった回になりましたね。夕花ちゃんの「地雷料理」も健在で、碧斗くんたちの苦労が目に浮かぶようでした(微苦笑) 。




