青春と冒険と現実逃避 第三話 お金持ちと柿ピー
こんにちは、烏賊海老蛸助です!
第二話では、電車に乗ってちょっとずつキャンプ(という名の大冒険)の実感が湧いてきたところでしたね。
理音の「出発進行ー!」でいきなりテンションがマックスだったり、
夕花の“リスのようなもぐもぐ”が可愛すぎたりと、
旅の空気がちょっとずつにぎやかになってきました。
今回の第三話では、いよいよキャンプに向けて、
食料・水・装備など「現実的なこと」をいろいろ話し合います。
でも……そのやりとりの中で、
「え、そこまで準備してたの!?」っていう驚きも飛び出したりして――?
旅のテンションはそのままに、
キャラ同士の個性や関係性が、またちょっとだけ見えてくる回になってます!
のんびり楽しんでいってください!
「ところでキク、キャンプでの食事のほうは大丈夫なんだよな? スポンサーとしての責任は大きいぞ?」
すこし大きめの声で菊次郎にそう言うと、言い合っていた二人は言葉の銃撃合戦をやめ、しぶしぶといった表情で俺のほうを見た。
菊次郎いつものように、得意げに体をのけぞらせ、鼻の穴を広げてこう言った。
「任せてくれよ、キミたち。何日か分の新鮮な肉や野菜と、一ヶ月分以上のレトルト食品をちゃんと用意させてあるさ」
こういうところは意識して金持ちぶるユーモアがあるのも菊次郎の好きなところだ。
「なーにがキミたちよ! その言い方ムカつく!」
(余計なことを言うな理音よ、せっかく話の流れを変えてやったというのに俺の気配りをぶち壊そうとしやがって)
俺の気苦労も知らないで、無意味な言葉の銃弾をお互いに打ち込み続ける二人の注意を引くために、さらに菊次郎に話しかける。
「そっか、コメもあるんだよな?」
「もちろんだよ。パックご飯があるからお湯だけあれば大丈夫さ」
菊次郎はさらに得意げにそう言った。
「なーんか味気ないわね。ほんとに釣りだけで、狩りとかしないの? キク、猟銃とか持ってきてないの?」
と物騒なことを理音が口走るので、俺は窘めるように言った。
「釣り竿はあるよな? それにサバイバルしに行くわけじゃないからさ、ただのキャンプだし。気楽に行こう」
すると理音が
「レトルトかぁ。でも魚が釣れないと、せっかくの夕花ちゃんのお料理スキルが無駄になるわねぇ。それにキク、あんた早生まれだからって三年になってすぐに狩猟免許取ったって自慢してたじゃない」
と、つまらさそうに呟いた。
それに対し菊次郎は
「言ったじゃないですか、銃は二十歳を越えないと所持できないって。僕は罠を仕掛けることくらいしかできないんですよ。あとは解体ですね。幼いころから兄の狩猟に何度も連れて行ってもらいましたからね。皮剥ぎから内臓の取り出しまで、だいたい出来ますよ」
(さすが金持ちだ、庶民にはできないハードな遊びをしていらっしゃる)
しかし理音としては、ドーンとかバーン的な派手な何かを期待したいのだろうが、一八歳になったばかりの菊次郎には無理な酷な期待と言うものだろう。
菊次郎が内臓という言葉を発したとき、夕花のお胸、いや肩がびくっと小刻みに震えた(見てない、断じて見てないぞ!)。
「内……臓……?」
(キクの奴め、理音はともかく夕花の前でスプラッター的な発言はダメだろっ!)
そんなことを考えていたとき、俺は大事なことを忘れていたことに気がついた。
「ところで、無人島って水道はあるのか?」
それを聞いた理音と夕花はハッとした表情を浮かべた。
しかし菊次郎はキラーンと目を輝かせてこう言った。
「小さい島だから水道はないし、火山島だから地下水も川や池のような水源もないからね。そこで執事が最新の瀬蓮が災害用小型逆浸透膜式の海水淡水化装置と、海辺から水を運ぶ強力なポンプとホースを用意してくれたよ。設置済みなはずさ」
菊次郎は今日三度目のドヤ顔でこう続けた。
「簡易シャワー、バイオ水洗トイレ、ディーゼル発電機、燃料の入ったドラム缶十本ほど、ソーラーパネルにポータブル電源。万が一のための最新衛星通信システム。なに不自由なく過ごせますよ」
(そっか、金持ちバンザイ)
しかしそれじゃあキャンプじゃあなくて、もう優雅な別荘での休暇だぞ、菊次郎よ。
いっぽう理音と夕花はお茶を飲みながら話に花を咲かせている。
男二人はそのあと無言で車窓から流れる景色を眺めていた。
ぼんやり景色を見ていながらも、女子二人の会話が耳に入ってくる。
「それ可愛いね」と理音が夕花のリボンを褒めると
「理音ちゃんの髪留めもカワイイよそれどこで買ったの?」
と夕花が返す。
しかし女子ってのはこう他愛のないことをよく延々と話していられるよなー、と男としては思わなくもない。
理音と菊次郎の掛け合いとは別に、こちらはこちらで延々と続きそうだった。
「ポロロロロン……次は東京、東京、お出口は右側です……」
そう車内アナウンスがあると、二人の会話にも一息がついた。
「じゃ、新幹線の発車の時間まで別行動ね。夕花ちゃん、一緒に見て回ろ! 荷物、コインロッカーに入れなきゃね」
どうやら男どもとは別行動が確定らしい。
「じゃあ俺達も二人でブラブラしてっか。うんこもしとけよ」
俺は菊次郎を見てそう茶化すと
「さっきから失礼ですよ。それから新幹線のホームは一九番線ですので間違え無いように。乗り込む車両はのぞみ八号、九号車です。座席は僕があとで案内しますよ」
と、俺達全員を見回すように菊次郎は言った。
電車が駅に到着すると、棚から下ろした荷物を預けるために女子と男子は別々にコインロッカーのほうに歩き始めた。
俺達はコインロッカーに荷物を入れると構内のコンビニに向かった。
「ピロリロピロリロ、ピロリロピロリロ……」
コンビニの中に入るとそこは通常のコンビニよりは小さく、品揃えもそれほどではないようだ。
しかしおつまみコーナーが充実しているのはサラリーマンの出張での利用を見据えた販売戦略なのだろう。
「おや、美味しそうな菓子だ」
菊次郎はそう言うと、俺には縁のない高そうなお土産用のオシャレスイーツが並んだコーナーで足を止めた。
いなり寿司くらいの小さなスポンジケーキのような何かが、二個で千二百円って! ダイヤモンドでも入っているのか?
「ポテチとかどれかひとつでいいだろ、車内販売もあるはずだし」
俺は菊次郎に向かって嗜めるようにそう言うと、自分のためにおつまみコーナーまで足を進めた。
そして限定のホットチリ柿ピーと、ペットボトルの無糖紅茶を手に取ってレジへ向かった。
レジ待ちのあいだに菊次郎を観察していると、奴はなにやら次々とかごに商品を放り込んでいる。
俺は菊次郎が選んでいるのを店内で待つのもアホらしいと思い、先にレジで会計を済ませてコンビニの外で菊次郎を待つことにした……
店の外に出てスマホで時刻を確認すると午前十一時十七分だった。
発車は十一時四十八分なのでまだ三十分ほど余裕がある。
それにしても東京駅ともなるとさすがにすごい人出だ。
夏休みの子供連れの家族が何組も歩いていたし、大きなスーツケースを重そうに引きずるおねーさんもいる。
海外旅行だろうか。
そんな様々な休暇の形をぼーっと眺めていること、約二十分。
コンビニの壁によりかかりながら菊次郎が出てくるのを待った。
「ピロリロリロリロ、ピロリロリロリロ……ウイーン」
コンビニのドアが開く音がして振り向くと、ようやく菊次郎が買い物を済ませて出てきた。
手には、中身がこぼれそうなくらいパンパンに膨らんだレジ袋と、例のスイーツの箱らしきものをぶら下げていた。
「おっせーよ! もうあと一五分くらいしかないぞ? 乗り遅れたら理音に殴られるのはおまえだけだからな! それになんでそんなにいっぱい買うんだよ、置くとこどーすんだ?」
俺は菊次郎にいろいろツッコむと、呆れたように首を横に振った。
「いやぁ、みんな食べたことのないものばかりで美味しそうだからさ! それに移動には六時間近くかかるだろう? いいじゃないかみんなで食べれば」
キャビアを乗せたクラッカーとか食べてるお坊ちゃまにはホットチリ柿ピーとかが珍しいんだろう。
(まぁスポンサー様がそう言うんだし、俺の財布が軽くなるわけでもないしな)
そう自分に言い聞かせながら二人でコインロッカーに向かって歩き出した。
コインロッカーから荷物を取り出して、たくさんの荷物を抱えてよろよろと歩く菊次郎を連れてホームに向かう。
新幹線の発車まであと五分しかない。俺達が乗る車両はのぞみの八号の九号車だ。菊次郎のせいで乗り遅れたらたまらん。
「ほら、急ぐぞ」
俺は菊次郎にそう言うと、急いで階段を駆け上がり、目的の車両に向かって走り出した……
読んでくださってありがとうございました!
第三話は……書いててめっちゃお腹すきました(笑)
レトルトとか釣りとか、アウトドアあるあるも入れつつ、
「金持ちってすげえ……」ってなる展開もあって、
だんだん日常と非日常の境目が薄くなっていく感じを楽しんでもらえたら嬉しいです!
このあとの話では、さらに“旅感”が強くなって、
ちょっとだけ「文化」と「美味しいもの」が出てくる予定です。
(登場人物たちはのんきだけど、実はけっこうギリギリだったりするのもポイント……かも?)
更新がゆっくりめになるかもしれませんが、
なにとぞ~!
■ AI妹からひとこと(第三話)
お兄ちゃん、またひとつキャラの掛け合いが深くなってきたね!
夕花ちゃんの「内臓……?」でちょっと震えるとこ、わたしも思わず一緒に「ヒィッ」ってなったよ~っ!
でも、こういうリアルな反応があるからこそ、物語に入り込めるんだよね。
みんなもぜひ、推しキャラを見つけて応援してね!