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二つの宇宙と二人の心 第三十七話 二人だけの観客、二組のダンス

どうも、タコ助です!こんにちばんわ!


前話では、キャンプファイヤーの点火式から始まり、碧斗たち四人の「将来の夢」の発表、そして菊次郎と夕花から驚きの告白が飛び出したところで幕を閉じましたね。まったく、あの子達は本当にサプライズ好きというか、秘密を抱え込みすぎというか……。でも、それもまた、碧斗たち「碧斗と奇妙な仲間たち」の関係性なんだな、って改めて感じた瞬間でした。


特に夕花からは「N.I.T.」への推薦という、とんでもない秘密が明かされて、碧斗の脳は処理落ち寸前でしたね。まさか、あの癒し系の夕花が、そんな世界的な天才だったなんて……本当に驚きの連続です。


さて、今回の第三十七話では、いよいよ理音の「秘密の告白」が明らかになります。今まで溜めに溜めてきた彼女のことだから、どんな爆弾発言が飛び出すのか、皆はドキドキが止まりませんでしょう。まずその前に、みんなでアイルランドダンスを踊ることに。慣れないダンスに四苦八苦しながらも、それぞれのペアで繰り広げられる、ちょっと面白くて、でもどこかロマンチックな一夜を、ぜひ見届けてください。

 理音以外は希少な肉をタップリと堪能して、その余韻に浸っていた。

 すこし腹も落ち着いてきたところで俺は、この余韻をみんなで共有した瞬間を残そうと、スマホをウーロン茶のペットボトルに立てかけて動画撮影を始めた。


 「じゃあ、そろそろダンスで締めくくりたいと思いますが大丈夫でしょうかー!?」


 金属の串は危ないのでペットボトルをマイクに見立てて、殊更(ことさら)に大きな声を張り上げてそう告げると、全員がノソっと重くなった腹と腰を上げた。

 理音と夕花はニッコリ笑いながら目で示し合わせてお互いのドレスをバッと引っ張ると、まるで早変わりのようにドレスがフワっと舞って、部屋で見たあの民族衣装の姿にあっという間に変身してみせた。


 すると、菊次郎がニヤリと笑ってスマホを取り出した。


 「さあ皆さん、食後の運動といきましょう。碧斗くん、夕花さん、理音さん、準備はいいですか?」


 (ポチっ)


 スピーカーから流れ出したのは、軽快でリズミカルなアイルランド音楽。

 俺たちが選んだのは、飛んだり跳ねたりが特徴の見世物に近いアイリッシュダンスではなく、町や村で知人同士が踊るような、日本で言えば盆踊りのような“ソーシャルリールダンス”だった。

 アップテンポなフィドルとバウロンの音色が、否が応でも体を動かしたくなるような楽しげな雰囲気を作り出す。


 「え、あ、そっか踊るのか!」


 オロオロする理音は相変わらずの天然だったが、自然とリズムに乗る体に笑みがこぼれだし、その瞳には隠しきれないダンスへの興味が宿っているように見えた。

 いっぽうの夕花は、すでにワクワクした表情で音楽に合わせてぴょんぴょん跳ねている。


 (うぉ、あの衣装で……無意識無自覚のこの破壊力よ……)


 俺は向きを変えて誰もいない方向に少し膝を折って手を差し出すと


 「さ、さあ、最初のお相手は誰ですか?」


 とキザっぽくパートナーを募ってみた。

 そのとき理音がハッとするも、一瞬、俺の手を取るのをためらったように見えた。

 その一瞬の隙をついて、夕花がすっと俺の前に身を投げ出す。


 (あ、あ、あー……)


 (せん)を越された理音はポカンと口を開けて、俺と夕花が踊り出すのを悔しそうに、しかしそれを隠すかのように


 「キク、ほら! 踊るよ」


 そう言って乱暴に菊次郎の手を取った。


 「ジャーン、ポロンポロン♪……」


 リズムを取りながら、キリ良く小節が始まるのと同時に、菊次郎がリードして理音を踊りの輪に誘い出す、はずが、逆に菊次郎が理音に振り回される格好になり、なんだかぎこちなく踊りが始まった。

 男子同士、女子同士で練習は何回かしてきたが、初めて男女のペアで踊るアイルランドのダンスに、理音も案の定ぎこちない動きだ。

 菊次郎の手を取り強引にステップを踏もうとするものの、足がもつれたり、リズムに乗れなかったり。

 そのたどたどしい姿は、まるで生まれたての小鹿と(たわむ)れる子豚のようで、横目で見ていても思わず笑顔がこぼれてしまう。


 それでもだんだんと、菊次郎が優しくリードしようとするおかげで、少しずつサマになってくるのが面白い。

 そしてたまに生まれる斬新なステップに、俺と夕花が踊りながらその姿を横目で追い、一緒に笑う。

 理音の普段のクールな表情が、時折見せる戸惑いや小さな笑顔のせいで、なんだかすごく可愛く見えるのは気のせいだろうか?


 (普段あんな顔を俺にだって見せてくれたことはないのに……)


 (グイッ)


 そんな嫉妬のような気持ちでモヤモヤしていたら、指先のパートナーの思わぬ動きに気持ちと視線を戻された。

 ふんわり柔らかく小さな手の先にいたのは、いつもの夕花ではなくシャキシャキと動き、リズム感抜群の夕花が、にっこりと笑って俺の手を握っていたのである!


 (こっちを見て)


 そんな風に俺の手をぎゅっと握りしめた夕花は、楽しそうにステップを踏みクルクルと回る。

 その姿は緑色の衣装と相まって、まるで本当に森の妖精のようだった。

 おそらくは理音にバスケ部の後輩のように、ビシバシと熱血指導をされて相当鍛え上げられたのだろう。


 俺はというと、運動神経はそこまで悪くないはずなのに練習相手が菊次郎だったことが災いしてか、その別人のような夕花の機敏なステップと、この独特のリズムについつい翻弄されてしまう。

 俺も理音と菊次郎のように男女が逆転して夕花のリードに合わせて踊ってしまっていたのだが、時折ステップがずれたり、変な方向に体が傾いたりして、夕花を巻き込みそうになる。

 その度に夕花は「あはっ」と楽しそうに笑うのだが、俺としてはちょっと情けない。


 そして夕花の最終兵器が、破壊的な振動数で(ふるんふ)と激しく揺れていて、もはやダンスどころではなくなりそうな様相(ようそう)(てい)してしまっていた。

 それでも必死に夕花の笑顔に集中すると、そんなことはなんだかどうでもよくなってきて、ただただ音楽に合わせて体を一緒に動かしているだけで楽しくなってくるのだった。


 焚き火の光が、二人の影を揺らし、その度に夕花の横顔とあの谷間が照らされて別の影ができ、その両方にドキッとする。

 すると曲の途中で菊次郎が


 「はい、次の小節でペアを交代しましょう!」


 と声を上げた。

 今度は理音と夕花が手を取り合い、俺は菊次郎と向かい合うことになる。


 理音と夕花は、二人とも女の子同士だからか、練習で慣れたペアだからか、さっきよりもリラックスして生き生きとした雰囲気で踊り始めた。

 夕花が明るくステップを踏むのに合わせて、理音も少しずつ動きがスムーズになっていく。


 時折、二人が顔を見合わせてクスクスと笑う姿は、本当に楽しそうで、見ているこっちまで嬉しくなる。

 さすがに一緒に練習していただけのことはある。

 普段は力関係がはっきりしている二人なのに、こうして一緒に踊っている姿を見ると、やっぱり本当に仲の良い姉妹みたいな友達なんだなって改めて思う。


 そして俺と菊次郎のペア。

 ……うん、まあ、一緒に練習はしたんだけど、なかなかにカオスだった。


 まずやっぱり男同士で手を取り合ってくるくると回ったり、ステップを踏んだりするのに、気恥ずかしさが抜けなかった。

 練習の時はおちゃらけて冗談を言ったりしていたが、本番にそれはさすがに出来ない。


 それでも菊次郎は楽しそうに踊っているのだが、動きが予測不能でそれに合わせようとするとかえって俺の動きもぎこちなくなる。

 お互いの足を踏みそうになったり、変な体勢になったりして、笑いを堪えるのに必死だった。

 しかし普段では決して見せることのない菊次郎の必死な、一生懸命な姿は、俺の心に深い印象を残したのは間違いが無かった。


 そんな菊次郎の、一生懸命かつ満面の笑顔を見ていると、なんだかこれでもいいか、って思えてくるから不思議だ。

 男同士で、こんな風に無邪気に踊るのも、間違いなくいい思い出になるのかもしれない、いや、必ずなるだろう……と。


 そして、最後のペアチェンジがやってきた。

 俺は理音、菊次郎は夕花と。


 理音と向かい合った瞬間、さっきまで夕花に見せていた無邪気な微笑みがすっと消え、怒りとも恥じらいとも取れない複雑な顔をして俺の前に立った。

 焚き火の明かりにゆらゆらと揺られる、整った顔に出来るシャープな影。

 俺がそんな風に理音を見つめると、その顔から怒りの成分がさっと消え、照れたように視線を泳がせている。


 音楽は少しスローテンポになり、よりロマンチックな雰囲気を醸し出す。

 お互いの手をそっと取り合い、見つめ合う。

 手を握るとき、びくっと一瞬手を引こうとしてしまう二人。

 ぎこちないながらも、二人でゆっくりとステップを踏み出した。


 理音の少し冷たい手を握る俺の手が、熱く汗ばむ。

 滑りそうになりその細くて柔らかい手をぎゅっ、と強く握ると、またしても理音がビクンと腕を強張らせた。


 そうしながらぎこちなかった二人の動きも、だんだんと息が合ってきてスムーズになる。

 俺のリードに合わせて、俺の呼吸を読むように体を動かす理音。

 その真剣な表情を見ていると、さっきの告白が頭をよぎって、胸がキュン、と締め付けられる。


 そうして今、二人の間にあるのは言葉や駆け引きなどではなく、音楽とリズム、そして触れ合う手の感触だけ。

 今まで時折感じていた“違和感”が、“確信”に変わった、そんな気がした。


 二人の頭上には満天の星が輝き、キャンプファイヤーの炎が二人を優しく照らしている。

 ときおり舞い上がる火の粉は、まるで火の精霊のように二人と一緒にダンスを踊っているようだった。


 小さな二つの宇宙が、誰もいないこの無人島でそっと寄り添い、溶け合っているような瞬間だった……


 そんなロマンチックなひとときに俺はつい気分が大きくなり、理音の細い腰に強引に手を回す。


 (!)


 理音はまたビクンとした後、次のステップを無視してバスケのピボットで片足を軸に体をグルっと半回転させると


 「ガッ」


 と俺の脚を踏みつけた。

 そして顔が近くなった瞬間に他の二人に悟られないように小声で


 「調子にのんな」


 とにっこり笑って俺を牽制(けんせい)し、その後も理音はユーロステップやクロスステップなどバスケの技を駆使して、体を掴もうとする俺の手からスルリと逃れる。

 掴もうとする俺と逃げようとする理音の攻防。

 菊次郎と夕花には、二人がそれはまるで激しくも華麗なダンスを踊っているように見えた──


 俺たちの隣では、菊次郎と夕花も楽しそうに、でもどこか落ち着いた、わかり合ったような雰囲気で踊っている。

 夕花の笑顔は相変わらず眩しく、菊次郎も、俺と違って紳士的な眼差しで夕花を見つめている。

 プローニー同士の談義(だんぎ)で生まれた絆だろうか。

 二人の間にも、温かい、穏やかな空気が流れているのが見える……


 (はぁ、はぁ……ほ、ほ、ほ…)


 そうして曲も終わりが近づき、だんだんアップテンポになってくる。

 俺と理音は、お互いの手を握ったまま、息を切らせ、汗をきらめかせながら踊り続けていた。

 理音が少し疲れたような感じで体の力を抜いたその時


 (いまだ!)


 俺はそんな理音の僅かな隙を突いて、彼女の細い腰をグッと掴むと、そのままグイッと体を引き寄せた。


 「ジャーン!」


 同時に音楽が終わり、四人の、二人のずつの激しい吐息だけが焚き火の明かりに照らされた闇夜に響き渡る。


 俺の下で腰を支えられ上を向く理音の顔は、焚き火のせいか、それとも激しい踊りのせいか、さっきよりも赤く染まっているように見えた。

 そして、小さな声で


 「……ハァ、ハァ、やるじゃん、掴まっちゃった」


 と呟いた。

 その言葉に、俺もそっと答えた。


 「ああ、お前もな」


 そして四人はお互いのペアの踊りを、まるで観客のように拍手で褒め称えあった。


 「ぱちぱちぱち……」


 そうして奇妙な高揚感と一体感の残る中、息を整えた俺は次のかけ声でダンスシーンを締めくくった。


 「じゃあみんな! 万歳でいったん締めるぞ! 動画撮ってるからなー! せーの! 碧斗と奇妙な仲間たち、ばんざーい!!!」


 「ばんざー、い!!!?」


 しばし時が止まったように笑顔で万歳をする四人。

 しかし俺以外の三人の表情がみるみる強張り(こわば)


 「ドカッ」

 「グイ」

 「バシャッ」


 「動画、消しなさいよ?」

 「……!!!……」

 「碧斗くん、不意打ちとは卑怯ですよ」


 理音に殴られ、夕花に毒ジュースをほっぺに押しつけられ、菊次郎にはウーロン茶の紙コップを投げつけられて……

 こうして無人島での最初の夜は、楽しくもあり面白おかしくもあり、でも少しだけロマンチックな雰囲気を振りまいたまま、さらに深く()けていった……


 (チラッ)


 俺はスマホの時計を見ながら、次のイベントの前に用意されたちょっとしたプレゼントを夕花とともにみんなに送ることにした。


 「さあここで夕花さんからのサプライズです! なんとBBQとは別に、あちらの炭のかけらが入った穴には、鉄の鍋、ダッチオーブンに入った鶏料理が二品、皆さんに食べられるのを今か今かと待ちわびております!」


 それを聞いた菊次郎がミトンを手にはめて、囲炉裏から鍋をそぅっと持ち上げると、熱々に焼けた鉄の鍋を慎重にテーブルの上に置いた。

 そのまま蓋を開けると、蒸気と共に、鶏が焼けた匂いがちょうど吹いてきた風に乗せられて、みんなの鼻を刺激する。


 「えー、まだ料理あったのー? もう入んないよー!」


 そう言いながらも、夕花が取り分けた紙皿から鶏肉だけを摘まみ、パクパクと口に運ぶ理音。

 俺たちはまたしても天然理音にほっこりさせられて、最後の秘密告白タイムに突入していった。


 俺はまたしても理音が残した野菜を食べながら、いい頃合いになったところで進行を再開した。


 「さあみなさん、ダンスも終わり、夕花の“まともな”料理を食べてご歓談(かんだん)のところですが、ついに来ました。最後に残ったこのイベントは? そう! 誰も知らない秘密の告白タイムでーす! パチパチパチー!」


 俺以外のみんなは「どーでもいい」といった表情で、地面に敷いたシートの上でだらしなく両手を突いて、体を投げ出していた。

 正直、俺ももう満腹で少し休みたい。

 だがこのキャンプファイヤープログラムの最後の演目を終わらせないことにはいかないのも事実である。


 「ではまたしても僭越(せんえつ)ながら、この(わたくし)こと七河碧斗が先陣を切らせていただきます!」


 「……パチっ……パチっ」


 白けムードのなか、炭の弾ける音だけがむなしく拍手のように響く中、俺は渾身(こんしん)の秘密を用意して、自信に満ちた顔で語り始めた。


 「皆さん、普段裏も表もなく皆さんに接してきた僕ですが、実は、みんなに教えていない秘密が一つだけ、いやもう一つ……結構あります。その中で、これはというものを厳選して紹介したいと思います」


 みんなの方を見ると少しは興味を引けたようで、それぞれが俺の方を見始めた。

 俺は注目を集める中、もったいぶってウロウロと歩き回る。


 「早くしろー 恋バナの続きはなせー」


 さっそく理音が尖り口で茶々(ちゃちゃ)を入れるが、これは丁重に無視をした。

 するとこんどは菊次郎が


 「何も思いつかないんですか? なら僕が代わりに話してあげましょうか? ……実は碧斗くんには小三の時に好きな女の子がいましてね……」


 と暴発を始めたのを見て俺は慌てて口を開いた。


 「じつは、誰にも言っていなかったんですが──!」


 もう一度ここで一呼吸を置く。


 「コツッ」


 もったいぶる俺に理音が小石を投げつける。

 しかしここでもう一呼吸、()めを作ってからついに


 「僕の初恋の相手は!」


 すると菊次郎は口を閉じ、理音と夕花も少し身を乗り出して俺の顔を見た。

 ここまでは計算通り。

 そしてついに秘密を明かすときが来た。


 「なんと! 僕の初恋の相手は、幼稚園の年長さんの時の保母さん、“ななみ先生”なのです! いやー、いま思い出してもあの優しい笑顔、あの豊満な包容力! いまもときどき抱きしめられた感触を思い出しては夢心地になってしまいます!」


 俺は目を閉じ、みんなの驚きとどよめきを期待して反応を待った。


  ・

  ・

  ・


 しばらくして目を開けると、そこに皆の視線は無かった。

 理音はダッチオーブンから残り少ない肉をかき集めだし、夕花は胸から例の小瓶たち(三本見えた)を取り出してハンカチで拭いていた。


 『♪ばばーん! どう?あたしのばばーんは?……』


 菊次郎に至っては、体育座りで地面に置いたスマホを見つめ、そこからへっぽこ大富豪のBGMとAIキャラクターの声が流れ出していた。

 俺は期待した反応と違うことに多少の動揺を見せたが、どうせ誰も見ていない……

 とりあえずこの場を取り繕って、次の挑戦者に席を譲ることにした。


 「さあ! 僕の隠された秘密が暴露(ばくろ)されたことで皆さんはさぞ驚きでしょうが、次の告白者はきっともっとすごい秘密を明かしてくれるはずです! さあ次の挑戦者はぁ~! 辻出菊次郎くんの登場です! 皆さん拍手でお迎えください! パチパチパチパチー!」

 「ハチパチパチ」

 「ハチパチパチ」


 心外だが、俺の時と違って理音と夕花はそれなりに菊次郎の告白に期待をしているようだった。

 のっそりと俺の前まで歩いてくる菊次郎。


 すると、スベることもおどけることも無く、淡々(たんたん)と告白を始めたのだった


 「僕は夕花さんと同じで早生まれなのは皆さん知っていると思います。狩猟免許を取ったのはもう皆さんに話しましたが、実は碧斗くんにだけは普通自動車免許を取得したと打ち明けていました」


 すると理音が


 「いいなー、あたし遅生まれだから何にも取れなくてヤになっちゃう」


 とうらやましそうに口を尖らせて悔しがる。

 原付は十六歳から取得可能だが、校則で禁止だから俺の選択肢にはそもそもなかった。

 菊次郎がクルマの免許を取ったことは俺もさっき教えて貰ったばかりだったし、まぁいいか、と思っていたら菊次郎は続けてしゃべり続けた。


 「狩猟免許にも種類があって、あの小屋を使っていた兄の協力のおかげで、わな猟免許、網猟(あみりょう)免許、二種銃猟(じゅうりょう)免許も取得済みです、あ、銃と言っても空気銃ですがね。散弾銃などの装薬(そうやく)銃は二十歳からです」


 (確かにこれは俺にも全く知らされていない秘密だ。この俺を(あざむ)いて隠していたとは。やるなキク)


 「実はその他にも準中型免許、大型二輪免許、大型特殊免許を持ってまして、今は飛行機の自家用操縦士と一級、二級小型船舶操縦士、もちろん一種|銃猟免許も勉強中です」


 俺は、開いた口が本当に塞がらないという体験を、いま人生で初めてしている最中だった。


 「マジかキク……オマエ、勉強は出来ないくせにいつの間にそんなに免許を……


 (普段の菊次郎なら興味なさそうな船の構造や操縦席を、俺と一緒に熱心に見ていたのはそのせいだったのか……)


 すると菊次郎の鼻の穴が次第に大きく広がり、背筋はその傾斜を高めていき、いよいよドヤモードにトランスフォーメーションを始めた。


 「あ、あと言い忘れていましたが、この島で動物を殺したり、動植物を捕まえて持ち帰ったりするのは固く禁じられていますからね、気をつけてください。この島固有では無い外来種、害獣などはいいはずですが、それでも慎重に」


 ドヤ顔で説明するような内容では無いが


 (そうだったのか、気をつけないと)


 と俺もみんなもコクコクと頷いた。


 「まぁ僕の場合、自宅も含めて私有地でいくらでも練習できますしね、ちなみに大型バイクは瀬蓮のものを借りて練習させて貰いました」


 『くちゅんっ』


 (夕花か? ふっ、可愛いくしゃみだ)


 俺は驚いた表情の理音と夕花の方を見やって、可愛らしい反応に菊次郎の告白のショックから少しだけ立ち直ると、落ち着きを取り戻して進行を続けた。


 「では、菊次郎くんの衝撃的な免許オタクぶりの告白の後は、夕花さん、お願い致します! こちらにどうぞ!」


 (え? え? 私?)


 指名を予期していなかったのか、キョロキョロとそんな表情をしてから夕花がおずおずと立ち上がり、ステージ(潰したウーロン茶の箱)の上に立つ。


 (さっきのくしゃみよりも可愛いらしい、どんな秘密をしゃべり出すのかな?)


 とにやけた顔で期待していた俺の予想は、とんでもない告白で打ち砕かれた。


 「……私、実はN.I.T.の推薦を貰ったんです……」


 “N.I.T.(ニット)、ニューハンプシャー工科大学。

 理系大学ではM.I.T.(マサチューセッツ工科大学)と双璧をなす名門中の名門だ。

 特に情報通信分野では世界に名だたる大学や研究機関を押さえてトップに君臨(くんりん)し続ける巨塔(きょとう)でもある。

 牧歌的な雰囲気の土地が広がるニューハンプシャーの森の中に、秘密基地のような広大なキャンパスがあるという……


 俺はもはや何に反応して良いのかわからず、真顔で夕花を見つめ、俺の脳の情報処理能力を総動員して状況判断を行おうとして、そして完全に棒立ちになっていた。

 すると夕花が続けて


 「昔の……その、お母さんと離婚してアメリカに行ったお父さんがN.I.T.で研究をしていて、教授枠で推薦したいって、急に連絡があって……」


 困ったような表情の夕花。


 「私、小さい頃、お父さんのパソコンとかを使って遊んでいたら、なんかすごい褒められて……」


 嬉しそうな夕花。


 「でも新しい家庭を選んだお父さんには一緒に連れて行ってもらえなくて……」


 悲しそうな夕花。


 「……時々、試作品とか色々送ってくるの。このBlackCherryもそうなの……」


 ポケットから端末を取り出す夕花。

 そこでようやく俺は状況の判断になんとか成功し


 「そうか、色々あったんだな……話してくれてありがとう。みんなも祝福しようぜ!」


 「パチパチパチ……」


 と軽く手を叩く。

 理音だけは全く状況が理解出来ていないようで


 「ニットって、編み物大学に推薦?」


 などと、ぱちり、ぱちりと手を叩きながら菊次郎に聞いていた。


 「違いますよ、アメリカにあるすごい大学です。本当にすごいんですよ……」


 理音はサッパリ理解できていないようだったが違うところで驚いて、喜んでいた。


 「ふーん……よかったね、夕花ちゃん!受験しないで進学できるんだね! いいなぁ!」


 しかし夕花は複雑な顔をしていた。

 俺は夕花がまだ決断を下していないことに気づき、話を逸らすために最後の告白者にバトンを渡した。


 「さあ、夕花さんの驚きの過去と未来が明らかになりました。幼少時からパソコンを使いこなしていたというのですから、どうりでBlackCherryでサクサクとゲームをインストールし、いつも電光石火のごとくすぐにチャットの返信があっという間に返ってくるはずです。お見それいたしました!」


 なるべく父親との確執(かくしつ)や推薦の話から引き離して、夕花から理音へとスムーズにつなげるべく力を尽くした。


 「さあ、では今日一番の注目の告白です! 我が校のスター、法本理音さん! 満を持しての登場です! 学校じゅうの男子、女子、噂では新任の女性教師までをも虜にする驚異のイケメン女子は、一体どんな秘密を持っているのでしょうか! さあどうぞー!」


 意外にも理音がすっと立ち上がる。

 そんなんじゃないわよ!とツッコまれるかと思ったが、その表情は決意に満ちた、自信満々なものだった。


 (どんなボケをかましてくれるやら、まぁ見物(みもの)だな)


 俺はいつもの理音を期待して、満を持してのツッコミをしてやろうと、意地悪く手薬煉(てぐすね)を引いてその瞬間を待ち構えた……

はいはい、タコ助ですよ!


今回の第三十七話、いかがでしたでしょうか?理音と碧斗のダンスシーン、どうでした?普段はツンツンしてる理音が、碧斗にだけ見せるああいう表情とか、可愛かったでしょ? まったく、あの娘は本当に碧斗の心を弄ぶのが得意なんですねぇ。


そして、サプライズのダッチオーブン料理に、満を持しての秘密告白タイム!碧斗の初恋の相手が「ななみ先生」だったなんて、誰も驚いてくれなかったけど、いいんです!碧斗くんの中では永遠のヒロインなのでしょうから!まあ、菊次郎と夕花の秘密の方がインパクトあったのは、碧斗も認めざるを得ないでしょうけど……。特に菊次郎の免許の多さには、もう笑うしかなかったですね。あの子はどこにそんな時間があったんだか。まさか金の力じゃないよね? それとも瀬蓮さんの裏工作とか……夕花も夕花で、とんでもない天才ぶりを発揮して、碧斗たちどころかタコ助でさえ知ってる夕花を飛び越えちゃいましたよ。


さあ、次はいよいよ第三十八話!残る大トリ、理音の秘密の告白です!理音の秘密って一体何なんでしょうね? 彼氏がいます、とか、実は男でした、など、一体どんなすごい秘密が飛び出すのか、今から楽しみで仕方ないです!もちろん、お色気もギャグも満載で、皆さんの期待を裏切らないように頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします!

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