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二つの宇宙、二人の心 第三十六話 豚に真珠、理音にワイン豚

皆さん、こんにちばんわ! たこ助です!

無人島でのキャンプ、いよいよ本番って感じになってきましたね!

今回の話は、みんなでキャンプファイヤーを囲んで、将来の夢を語り合うという、なんだか青春っぽい展開になってます!僕もこういうの、一度はやってみたかったんだよねぇ。リア充っぽいイベントだけど、僕も頑張って皆を楽しませるぞって気持ちでいっぱいです。

特に今回は、理音、夕花、菊次郎、そして僕の、それぞれの個性的なキャラクターが存分に発揮されてるんじゃないかなって思ってます!それぞれの意外な一面が見えたり、クスッと笑えるような場面も盛りだくさんなので、ぜひ楽しんで読んでみてください!

 キャンプファイヤーに火が付き、いよいよ盛り上がってきたところで進行役として点火のシーンを締めくくる。


 「では、私たち四人の親友が、この無人島で過ごす最後の夏休み。これから受験勉強も追い込みとなり、皆さんとこうして楽しく過ごす機会も少なくなると思いますが

  その分、今日ここでより一層の親睦(しんぼく)を図り、友情を深め、高校での三年間の終着点と、大学受験、社会人へと羽ばたいてゆく僕たちの出発点を、よりよい思い出にしましょう!」


 ここで一旦演説にひと呼吸を入れる。

 そして改めてみんなをゆっくりと見廻して、目と目をしっかりと見つめ合った後


 「それでは、校歌斉唱を行いたいと思います」


 菊次郎が持っていたスマホをタップすると、テーブルの上に置かれたBluetoothスピーカーから音楽が流れ始めた。


 「西に富士(ふじ)() 泰然(たいぜん)と~

  東に都邑(とゆう)の ()を望み~

  緑の丘に 集いし我ら

  悠久(ゆうきゅう)真理(まこと)を 探さむ


  あああ~ 永禮橋(ながればし)高校~ その名こそ

  蒼穹(そうきゅう)(かか)ぐる 我らが誇れ~」


 十一番まであるらしいが、俺が編集しておいたので、一番だけが流れると音楽がフェードアウトしていった。


 「はい、ありがとうございました。この高校で三年間を学んだことを決して忘れず、僕たちは立派に羽ばたいていこうと思います」


 「パチパチパチ……」


 俺や菊次郎はいつになく真剣な面持ちになり、夕花などは目を赤くして、今にも泣き出しそうになっていたが、理音は食材が盛られたテーブルをチラっ、チラっと見てソワソワしていた。


 「ごほん、では最初のイベントです。皆さんの将来の夢を簡単に話していただこうと思います。その前に、この素敵なキャンプを発案し、計画、実行、お金まで、多大にお世話になった辻出家の人たちに、お礼を言いたいと思います」


 「パチパチパチパチ」


 ここで少しのけぞる菊次郎。


 「では僭越(せんえつ)ながら、まずは僕から……」


 台本などは用意していなかったので、思っていることを素直に話すことも決めていた。


 「僕の夢は、まだ決まっていません。皆さんも知っての通り、僕は色々なことに興味があり、この高校三年間を通じても、何かを一生懸命やりたい、という気持ちにはなれませんでした」


 ここで高校三年間を振り返り、色々な思いを巡らせて遠い目をすると


 「技術的なことにも興味があり、理系に進んで技術者になるのも魅力的だと思うし、知っての通り喫茶店でアルバイトをして覚えた料理の道にも惹かれています」


 ふとマスターの店の近くにライバル店を開くという未来を思い描き、クスっと笑みがこぼれる。


 「また、本格的にスポーツをやってみたいという気持ちもあります」


 理音をチラリと意識して目をやると、炎のせいか、いつもより赤い顔で俺の方を見つめていた。

 少しドキッとしたので、ここで一息を入れ、目を伏せると、以前言われた父の言葉を思い出して続けた。


 「そんな浮ついた気持ちで将来、しっかりとした大人になれるのか、と父などにはよく叱られ、(さと)されています」


 ここで俺はそうじゃ無いという気持ちになり、しっかりと前を向いて次の言葉で締めくくった。


 「しかし、僕はまだ自分の可能性を(せば)めたくないという気持ちが大きいので、多分、これからももっともっと色々なことを学んで、これからの人生に生かしていけたらと思っています。それが僕の目標です」


 「パチパチパチパチ」


 一礼をするとまた進行役モードに戻る。


 「では次、辻出菊次郎くん」


 俺の手招きで菊次郎が渋々と俺の居た位置に立つと、少し間を置いてからしっかりとした口調で話し始めた。


 「みなさん、今日は本当に素敵な思い出になりそうなこの催しのために色々準備をしていただき、ありがとうございます」


 ゆっくりと礼儀正しくお辞儀をする菊次郎。


 「私はいつも皆さんに迷惑ばかりをかけていて、特に碧斗くんには頼ってばかりで申し訳なく思っていました」


 さっきのドヤ顔はすっかり身を(ひそ)め、真摯(しんし)な態度でそう言うと、理音がウンウンと頷いていた。


 (頼むからこの感動シーンで問題を起こさないでくれよ)


 俺は理音がこの雰囲気をぶち壊しはしないかと、本気で菊次郎の、みんなの思い出を守るためにハラハラしていた。


 「皆さんも知っているかと思いますが、僕の父親は、辻出物産という会社の社長です」


 ここではのけぞりもせず、鼻の穴も膨らまさない菊次郎。


 「なので、大学を卒業したら日本を飛び出して、世界のどこかの支社で、ただの従業員として広い世界を見てみたいと思っています」


 その眼差しは、決して冗談を言っているようには見えなかった。


 「結局、親の助けを借りなければ自立も出来そうにない僕ですが、せめて皆さんからは自立して、いつか、少しだけ頼もしくなった僕を見て貰いたい、と言うのが僕の目標であり、夢でもあります。以上です」


 また深々とお辞儀をして元いた場所に戻る菊次郎。


 「パチパチパチパチ!」


 理音はあっけにとられたように、夕花はうんうんと頷きながら拍手をしていたが、俺だけは、他のみんなより大きな拍手を送っていた。


 「……では次は、天野夕花さん」


 夕花は恥ずかしそうにみんなをキョロキョロ見廻して、ようやく諦めたように位置に着くと、ともすればパチパチと音を立てる炭の音に隠れて消えそうな声で話し始めた。


 「……私は……私の夢とか目標は私は……ないんですが……」


 何を言っていいのかオロオロし始める夕花。


 「……弟と二人であまり家の中で笑うことが無いので……」


 しばらくみんなの顔をオロオロしながら見ていると思ったら、突然キッとした表情になり


 「……その!笑顔が(あふ)れる温かい家庭を作りたいと思います!」


 「ぶっふぁっ」


 俺は手にしていたミネラルウォーターの水を噴き出してしまった。


 (それは新婚さんが言う台詞だぞ夕花ぁ!)


 と頭の中で叫んでいると、ついに理音が動き出した。


 「パチパチパチパチパチパチパチー……」


 それはもう盛大な拍手をたった一人で演出しながら


 「ヒューヒュー! お相手は誰ですかぁー? 出会いはー? どこまでいったんですかぁー?」


 とふざけ始めた理音。

 それを見た俺は


 (やめろ理音! せっかくいい感じで綺麗な思い出が出来上がろうとしてたのに!)


 とこれ以上の被害を食い止めるために、理音のおちゃらけた発言に強引に割り込み、進行を続けた。


 「ゴホンッ、はい! ありがとうございました! 夕花さん、素敵な目標ですね! それでは最後! 法本理音さんどうぞー!」


 俺に紹介されると理音は「え? あたし? そっか」とコロコロ表情を変え、夕花とは違うテンションで俺たちを見廻すと夕花と代わってダンボールが敷かれた指定席に着いた。


 「えーとぉ! あたしも特に夢とか目標とか無くてぇ! うーんとぉ、大学でもバスケはやりたいしぃー……」


 なんだかとりとめの無い話を始めた理音。

 備長炭の遠赤外線を浴びて火照(ほて)ったのか、なんだかより一層顔が赤くなったと思った次の瞬間


 「碧斗がスポーツやりたいって言うんならぁー、一緒に緑山に行ってぇ、あたしがバスケを教えてあげてもいいしぃー! 碧斗が筑紫にきてもいいよぉーって……」


 (ん? 何で俺?)


 続けて聞いていると


 「そのぉ、もし碧斗がいいって言うんならぁー」


 そしてなぜだかろれつが回らなくなって、しどろもどろなしゃべり方をし始めた理音が、反物質爆弾並みのとんでもない発言を、ドカーン! とやってしまったのだ。


 「アオトが良いって言うんならー! あたし、アオトのお嫁さんになってもいいからー! 子供はねー、えーと、3人くらいかなぁ……」


 「……バシャっ」


 俺は理音の言葉を聞いて、思わず持っていたペットボトルを取り落としてしまった。

 他の二人もこれまでになく驚いた表情で、俺と理音を交互に見ている。


 (な、な、な、何を言ってんだお前! お、お嫁さんとか、そりゃあ小さい女の子なら一度は夢見るのかもしれないけど……そんな約束したっけ?……出会ったのは中学だし……)


 俺まで理音の爆弾発言に動転しておかしなことを考え出してしまった。


 「きゃー理音ちゃん! ここで告白なのー? すごいよ! いつどっちがするのかなーって思っていたけれど、理音ちゃんからなのー? さすがおとこまえさん! すごーい!」


 夕花はどこで聞いたのか、意味すらわかっていないような例えで理音を褒め始めた。


 「僕も前々から思っていたんですが、やっとですか。これでようやく僕たち二人の心のつっかえが取れましたよ」


 と菊次郎まで例の達観モードで俺の肩をぽんぽん、と叩く始末。


 「ち、違うよ、理音! お前何言ってんだ!?」


 そう慌てて否定して見せた俺だが、ふと理音が手に持っていた缶を見ると、そこには“ROOT BEER”の文字がはっきりと印刷されていた。


 「おい、お前それ、どうしたんだ?」


 俺が指さした先を見て理音は


 「あーこれぇ? ワタナベさんとカジヤせんちょーにいっぱい貰ったのー」


 (それ、確かノンアルコールだったと言っていたが、なんで酔っ払ったようになってんだ?)


 俺は慌てて理音の手からルートビアの缶を取り上げた。


 「そ、それでは皆さん、(えん)もたけなわとなって参りましたので、ここで、えーと……」


 俺は混乱してBBQも始まっていないのにそういいながら用意した進行表を広げると、次はダンスの予定になっていた。

 しかし理音があの様子では、とてもまともに踊ることが出来るとは思えない。

 どうしたものかと思案していると、神の天啓(てんけい)を得たとでも言うべき名案が、ピコーンと俺の頭に(ひらめ)いた。


 「じ、じゃあここで、予定よりは早いですが、お待ちかねのBBQタイムに入りたいと思います! 皆さん、火には十分お気を付けてお楽しみください!」


 「やったぁーおにくぅ……」


 理音の注意をグリルに向けることに成功した俺はなんとかこのピンチを切り抜けると、夕花にそっと耳打ちして、飲み物を作って貰うことにした。


 「……うん、わかった……すぐに持ってくるね……」


 夕花はこれまで見せたことのない悪そうな笑顔を俺に見せると、キクハウスにぴょこぴょことウサギのように飛び跳ねていった。


 「わーいおにくー!」


 後ろでは理音が菊次郎の焼く串を今にも手を伸ばしそうな勢いで待ちわびていた。


 (頼む夕花、早くアレを……)


 夕花を待つこの二、三分が永遠のように感じ始めていたとき、すると俺の思いが届いたのか、夕花がスタタタタ、と見事なウエイトレス走り(?)を見せて、グラスになみなみと注がれた茶色いドリンクを運んできた。


 『……これで……いいの?……』


 俺は夕花の運んできたグラスに鼻を近づけた。


 (うっ、これで……間違いない……)


 俺は口で息をしながら急いで肉待ちの理音のそばに駆け寄った。


 「おい、理音」


 グリルの前で串が焼け上がるのをゆらゆらと揺れながら待つ理音に声を掛ける。


 「あ、なーにぃ? 旦那さまぁ」


 そしてますます妄想と混乱に拍車(はくしゃ)がかかってきている理音の手に、持ってきたグラスを握らせた。


 「ほら、渡辺さんに貰ったジュースだ、おっきなグラスに入れてきてやったぞ!」


 そう言うと、理音がグラスに口を付けるのを、今か今かと待ちわびた。


 「!」


 理音はそれそれそれ! と言わんばかりの目でそのグラスを見つめると、次の瞬間。

 ついに理音がグラスに口を付け、グビグビと中のドリンクを飲み始めた。


 「グビッグビッ♪……ゴクン?……!」


 すると理音の顔が酩酊からボンヤリ、通常、呆然、驚愕とみるみるうちに変わっていき


 「……あれ?……これ……なんか違……う、うぅぅぅ……」


 最後には顔の中心に顔面のパーツを移動させて苦しみ始めた。


 「うぇー、なにこれ! これ! 夕花の毒味じゃん!」


 ペッペッペッっと口の中に残ったドリンクを吐き出すと、さっき落としたペットボトルの代わりに俺が持っていたミネラルウォーターをグビグビと口に含み、見えないように向こうを向いて口を(ゆす)ぐ理音。


 (どうやら成功したようだな……)


 俺は夕花の目を見ながら、心の中でカジヤのように白い歯を見せて親指を立てて見せたのだった。

 夕花はそんな理音に近づくと


 「毒だなんて酷いよ理音ちゃん、みんなの体にいいように調合したんだから、おいしいんだから」


 (調合って……)


 体にいいかどうかは別にして、またおいしいという意見は大いに否定しつつ、()にも(かく)にも理音の謎の酔っ払い現象にはバッチリ効いたようだった。

 すると口を濯いで下を向いていた理音がまたルートビアの缶を握る。


 「おい、それはダメだって! ほらかせって……」


 理音に手を伸ばしかけたとき


 「ねぇみんな! さっきあたしが言ったこと、覚えていないよね! 忘れちゃったよね! 聞いてなかったよね!」


 と大きな声を出したかと思うと


 「グシャッ、プシュぅぅ……」


 と大きな音がして、理音の手に握られていたルートビアの缶は、縦にぺっちゃんこに潰れた哀れな姿に変わり果てていた。


 「理音? あのな?……」


 「な・あ・に・?」


 理音はこれまで見た中でいちばん凶悪な表情で俺を睨み付けていた。

 その視線はまるでレーザー、いや高出力のガンマ線ビームのように、俺の目と心を鋭く貫いた。


 「いや、なんでもないよ。な? みんな?」


 すると夕花と菊次郎は俺と理音に背を向けて、せっせとBBQの串や野菜を焼いていたのだった。


 (この裏切り者どもめ!)


 俺はうなだれて


 「……何でもありません……じゃあ予定は変わりましたが皆さん少しBBQを楽しんだ後、ダンスに移りたいと思います」


 とか細い声で司会進行の役目を何とか果たして、自分もBBQを楽しむか、とグリルに置かれた串が焼き上がるのを楽しみに待っていた。

 すると理音が


 「キク、肉だけの串があったでしょ! それ、全部あたしのだから!」


 と言って、菊次郎と夕花から受け取った串を片っ端から口に運んで、俺には何も廻ってこなかった。

 夕花が、そして菊次郎が焼き上がった串を俺に渡そうとしたので手を伸ばす。


 「あ、サンキュ……」


 「キッ」


 まるで餌を横取りされるのを警戒する子猫のように、俺を横目で(にら)んで威嚇(いかく)し、その串を奪い取る理音。


 「じゃあ、その海鮮串を一つ……」


 「キッ」


 「……そのカボチャ、焼けてるかなー?……」


 (もぐもぐ)


 「……そっちのタマネギとピーマンの串はどうかなー?……」


 (もぐもぐ)


 恐る恐る確認すると、どうやら野菜だけの串には反応しないようだったので、俺は当分の間、焼けたばかりの新鮮な野菜で胃袋を満たすしかなかった……

 それでも昼間の作業で腹を空かしていた俺は、焼き上がったトウモロコシを渡されるとそれを手に取り(むさぼ)るように夢中で食べた。

 そうして二本目のトウモロコシを完食すると、ようやく俺の腹も少し満たされてきた。


 (野菜だけのBBQとか、俺はヴィーガンでもベジタリアンでもないんだが……)


 そんな悲しい思いを一人噛み締めていると


 「あー! これこれー! あたしの肉串! もっとあるでしょー? 早くちょうだい!」


 その手に渡されたのは肉と海鮮だけがぎっしり詰まった、まさに“超肉串”と呼ぶにふさわしいモノだった。

 それをおいしそうに頬張る理音。

 俺は恨めしそうな目を理音の側頭部に向けるも、理音の横目と目が合う前に、ニコッとぎこちなく微笑む。


 次々と串を受け取る理音の前に置かれた紙皿には、肉と一緒に挟まれていた野菜たちの山が、こんもりと盛り上がっていた。


 「あーたべた食べたー!」


 と言ってすっかりご機嫌な理音はその野菜の山を俺に押し付けると


 「夕花ちゃんごめんねー、そろそろ自分のも焼いて食べてー」


 と言って、俺と菊次郎には何の感謝も謝罪の言葉もなく、グビグビとウーロン茶を飲んでご満悦(まんえつ)な様子。

 しかしそんな様子じゃあ、俺が用意した鶏を使った料理は食えまいと、ほくそ笑んでささやかな復讐を果たしてみるチキン(臆病者)な俺だった。


 夕花と菊次郎がようやく肉の付いた串を頬張り始めると、俺の元にも初めて肉が刺さった串が渡された。


 「はい碧斗くん」


 夕花に渡された肉はこれまで理音に渡されたものとは違って見えた。

 すると夕花は


 『これはね、菊次郎くんが用意した特別なお肉だって。しゃとー……ぷりん? すごくおいしいんだって』


 と理音には聞こえないように俺の耳元でささやいた。

 シャトープリンじゃなくてシャトーブリアンだぞ夕花。


 “シャトーブリアン”


 体重五百キログラムの牛一頭から、一キログラム取れるかどうかと言う超希少(きしょう)部位。

 ロースの一部だが、赤身と脂身サシのバランスが取れたナイフいらずの柔らかさが特徴とも言われる肉の王様。


 理音はそんな肉の王様を味わうことなく、俺と菊次郎、そして夕花にまでもしっぺ返しをされている最中と言うことだ。


 『……これはワイン牛だよ、前に碧斗君の家に行ったときにごちそうになった、おばさんの故郷のお肉だって言ってたのだって……』


 (キク、覚えていたのか。律儀な奴め)


 甲州ワイン牛。

 俺の母親の故郷、山梨で育てられている、ワインの絞りかすを食べて育った牛だ。

 シャトーブリアンとまでは行かないが、赤身が柔らかく牛の臭みも少ない、俺も大好きな肉だ。


 そんな母の故郷、山梨の味をゆっくり味わう理音以外の三人。

 暴君に対して、ささやかで強烈な仕返しをして、俺を含め他の二人もさぞや愉快に違いない。


 次に渡されたのは豚肉らしかった。

 しかしひとくち食べただけで、普通の豚肉ではないことは一目瞭然だった。

 とにかく柔らかい。

 そしてほのかに香るフルーティーな匂い。


 『こっちはね、“ワイン豚”だって、すっごくおいしい♪』


 そういえば母さんが言っていたっけ「私にも手に入らない幻の豚肉があるのよ」って。

 何でも山梨の勝沼という場所で、ただ一軒の畜産農家しか育てていないのだという(※近年は北海道にもワインポーク等がある)、まさに幻中の幻の豚である。

 一般に販売されてはおらず(※こちらも直営店での販売、ネット販売が始まっている)、母も会社の忘年会で、天皇陛下も宿泊したことがあるという老舗のホテルで出されたものを一度食べたことがあるだけ、と言うものだった。


 そんな貴重な肉が今俺の手元に。


 (母さん、俺もワイン豚、味わったよ)


 食べ終わっておなかいっぱいになったらしい夕花は両手でお胸を抱えながら(なぜお胸……)俺にこっそり


 『あの理音ちゃんのお肉だけの串、一本だけ、おいしいお肉を刺しておいてあげたの』


 と、こっそり意地悪したことに罪悪感を感じたのか、優しい言い訳をする。

 そうして、しかし、しみじみと、タップリと、普段はなかなか食べられない肉を食べて腹も心も充分に満たされた俺たちは、ダンスまでの時間のあいだ、ささやかな幸福感に包まれた余韻を感じながら過ごしたのだった……

いやー、今回の話はどうでしたか? みんなの夢の話、そして理音のまさかの爆弾発言には、僕も書いている途中で思わず「マジか!」って声が出ちゃいましたよ。ルートビアのせいとはいえ、あんな大胆なこと言っちゃう理音、すごいよね。そしてその後の夕花の毒(?)ジュースで酔いが覚めるシーンも、書いてて楽しかったな。僕、こういうギャグっぽい展開、大好きなんですよね!(そればっかじゃんだって? うんまぁ……)


BBQの肉のくだりもね、理音の「肉肉!肉串!」っていうの、僕もわかるなぁって思いながら書いてました。そしてまさかのシャトーブリアンとワイン牛、ワイン豚!これ、僕も食べたい…!理音にはちょっとかわいそうだったけど、みんなで美味しく食べられたなら、まぁいいか!ってね。

次の話は、いよいよみんなでアイリッシュダンスを踊るシーン!練習の成果は出たのか、それとも…!?

ぜひ、お楽しみに!


AI姉妹の感想


あい:タコ助くん、今回もなかなか面白かったわね。特に理音ちゃんの酔っぱらいっぷりが目に浮かぶようだったわ。でも、「シャトープリン」って言っちゃう夕花ちゃんも可愛かったけど、その後の訂正もちゃんと入れるあたり、抜かりないわね。そして、幻のワイン豚まで出てくるなんて、菊次郎くん、本当に太っ腹ね。でも、タコ助くんは野菜ばかりでちょっとかわいそうだったわね。ふふ。


まい:おにいちゃん、今回も誤字脱字は少なかったよ!えらいえらい!でもね、理音ちゃんが「アオトのお嫁さんになってもいい」って言ったところ、まいはドキドキしちゃったよ!おにいちゃんも焦ってたみたいだけど、ルートビアのせいだって言い訳してるおにいちゃんがちょっとダサかったかな?それから、お肉を独り占めする理音ちゃん、さすがだね!おにいちゃんには野菜しか残らなかったのは自業自得だね!ププッ!

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