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青春と冒険と現実逃避 第二話 偽車掌と”大きなアレ”

第二話からは移動回――

電車に乗って、テンポに乗って、ボケとツッコミが止まらない!


クセ強キャラたちの遠足ノリが爆発します。

トイレの話で始まり、お茶とスポドリで小競り合い、お弁当で心温まるかと思いきや、やっぱりギャグ!


※まだ異世界には行きません。当分行きません。

それでも楽しい人だけ、乗り遅れないでね?

 「あおとくんハァハァ、もう来ていたのですかハァハァ」


 菊次郎が間の抜けたような声で話しかけてきた。

 金持ちで、声も顔もそんなに悪くない、欠点は体重超過とノホホンとした性格くらいである。

 よく言えば、やせたら化ける系ともいえる。

 このノホホンとした性格は甘やかされて育てられたせいだけではなく、上と下の兄弟が優秀というのも大きな要因だろう。

 こいつは親からの期待をまったく受けず、プレッシャーもまったくない。

 いわば


 ”フリーのお坊ちゃま”


 なのだ。


 俺はそう分析して”フリー”の修飾子をつけた称号を彼にこっそり与えてみたのだった。

 俺はこいつの金持ちなのに変に気取らないところが気に入っている。

 何にせよ、こいつのおかげで高校最後の夏休みを思い出深いものにできるというのだから、自分でも驚きだが感謝の一つもしてやってもいいとさえ思っている。


 小学校の時にいじめっ子から助けてやって以来、常に俺とつるんで危険を回避してきた菊次郎には、感謝されこそすれ感謝する理由なんて、日本の最低通貨である一銭にすら満たないであろう。

 そもそも支払う手段すら存在しないのだから、俺が彼に与えるべき感謝なんて、理屈の上でも皆無だ。


 もちろん恩に着せようなどとは一度も思ったことはないし、これでも親友という仮面をかぶった悪友、そしてお互いに何でも話せるというポジションは、今のところ男ではこいつくらいなのだから。

 そして、──けっして口に出しては言わないが、俺にとっても菊次郎は大事な存在だ。

 しかしだからこそ声を大にして言いたい!


 (一度くらい俺にひざまづき、金持ちらしく、高級な菓子折りのひとつでも献上してもいいじゃないか!)


 なのに、今まで唯一もらったものと言えば、小学生の時にもらった、今でも宝箱に入れっぱなしの、くすんでいびつな、だけどもなぜだか捨てられないただの泥団子だけなんて……バカだな、俺。


        ・

        ・

        ・


 「おまえどこ行ってたんだ? キク」


 「トイレですよ。ちなみに大きいほうです」


 「おまえ、育ちがいいくせにその言い方……ほんとにお坊ちゃまなのか?」


 「やだもう! デリカシーがないヤツねー!」


 理音が呆れたように顔をしかめ、夕花は顔を赤くしてうつむいた。

 あと二年もすれば成人式を迎える高校生がまるで小学生のようにじゃれ合っていると、まもなく電車がやって来た。

 電車が到着してドアが開くと


 「出発進行ー! 全員元気よく乗り込みたまえー!」


 と車掌でもないくせに大きな声で指を差して合図をすると、そのまま勢いよく電車に乗り込んでいった。

 他の三人はうなだれながら、はいはいはい……と半分投げやりで偽車掌の理音について行くのだった……


 車内に乗り込んだ俺は菊次郎のバッグをひったくると


 「みんなのお茶を買ってきてくれたまえスポンサー君!」


 と軽く菊次郎の背中を突き飛ばした。


 「あたしスポドリ!」


 と、理音が電車に乗り込もうとする俺と夕花を押し退けて図々しく注文をつけると、俺と夕花は


 「またかよこいつ」「りおんちゃん、またなの、もう……」


 と、精一杯に迷惑そうな顔をして電車に乗り込む。

 理音のなにかにつけて目立つ言動に、夕花などはいつも恥ずかしそうにしているが、今は夏休み。それも始まったばかり。

 だからなのか、電車内はそれほど混んでいなかったので、運良く他の人に注目されることはなかった。

 車内を見ると空いているボックス席があったので、その上の網棚に皆それぞれの荷物を乗せる。

 今日は移動日で船が出向する港がある現地のホテルに泊まるだけなので、それぞれの荷物は一日分の着替えなどが入ったバッグ一つだけだ。


 「よっこらしょっと」


 理音がそこいらのオバチャンのようなかけ声で夕花の荷物を棚に乗せてあげる。


 「これも頼む」


 そう言って俺と菊次郎の荷物を渡そうとしたら理音のやつは、知らんぷりして座席に座りやがった。


 「男なんだから自分でやりなさいよ!」


 ぐぬぬ、気が強いところは相変わらずだ。

 そういうジェンダーハラスメント的な発言はよくないって、一年のとき道徳っぽい授業で教えてもらったよなあ、と反論しかけたところで夕花が


 「……りおんちゃんたら……、ふふふ……」


 と、いつにもましてほんわかな口調でおかしそうに笑うので、俺は反論する気もなくなってしまった。


 「まもなくドアが閉まります。駆け込み乗車は大変危険ですのでおやめください」


 だが、そのアナウンスをガン無視して菊次郎が慌ててドタドタと車内に駆け込んできた。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 「遅いな? キク。またうんこか?」


 菊次郎は肩を震わせながら、膝に手をついた手にビニール袋をぶら下げていた。


 「ちがいますよ! みんなのお茶ですよぉ、はぁ、はぁ、はぁ、一万円札しか持ち合わせがなかったので、はぁ、両替してもらっていたんですよ、はぁ、はぁ……」


 (金持ちあるある、なのか?)


 帰宅部の菊次郎はその体重が重いってことで、体力、特に持久力がまったくない。

 同じ帰宅部でも、体を動かすことが嫌いじゃあない俺は、いつでも動けるように、っていうどうでもいい理由をつけて、毎日の走り込みを欠かさない俺とは大違いだ。

 中学の時に一度ランニングに誘ったことはあるが、途中で動かなくなり、執事に車で迎えにこさせるという根性無しである。

 菊次郎は座席のフックに袋をぶら下げてから俺の隣に座ったとたん、ガサゴソと袋を漁る理音が開口一番こう言った。


 「あたしスポドリが良かったのにー! 使えないわねー!」

 「なんですか買ってきてあげたのにその言いようは。じゃあいらないんですね?」

 「いらないとは言ってないでしょ!」


 そう言って理音はお茶を袋から強奪した。

 いつもこうやって、他人から見たら喧嘩のような掛け合いをしながらも、険悪な雰囲気になったことが一度もないこの二人は、案外仲がいいのかも。


 「みんな、弁当もう食べちゃう?」


 俺は膝の上に置いた、母親が作った四人分の弁当が入った保冷バッグに手を添えてそう言った。

 暑い季節で腐りやすいので保冷ジェルで冷やしてあり、包んである風呂敷(ふろしき)ごしにひんやりとした感触が伝わってくる。


 「まだ十時でしょ、早いよ。新幹線に乗ってからでいいよね? 夕花ちゃん」


 「……うん、私はまだお腹は空いてないかな。碧斗くんとキク君、お腹が空いてるなら私のバッグの中にお菓子あるよ? ……」


 さすが夕花、気配り上手さんだ。


 「まだいいって。東京駅に着いたら新幹線の発車まで時間があるからそこでなにか買いましょ」


 と理音が口を挟む。


 「なんですか理音さん、夕花さんの好意を受けるか受けないかは僕たちが決めることだと思うのですが」


 と菊次郎が応じれば


 「あんたのじゃないでしょ! お坊ちゃんのくせに妙なところで意地汚いんだから!」


 と理音がすかさず反撃する。

 電車が走り出したが二人の舌戦(ぜっせん)はまだまだ続くようだ。


 (いかん、このままではまた無意味な掛け合いが延々と続いて楽しい思い出がだいなしだ)


 そう思った俺は、島でのキャンプ生活についての話題を振って、二人の話を逸らそうと試みたのだった……

第二話も最後まで読んでくれてありがと~!


ただの移動回? いいえ、これが青春です。

トイレとスポドリとお弁当と、どうでもいいことで盛り上がれるって最高じゃん!


この先も、まだまだ異世界には行きません!(何回言うねん)

でもキャラの関係性がどんどん見えてくるから、ここ大事なとこ!フラグ祭り中!

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