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星とカレーと魔の谷 第二十八話 大自然と星空とカレー

はじめまして、またはこんにちばんわ!

勢いだけでラノベを書き始めちゃった、烏賊海老蛸助(いかえびたこすけ)です。たこ助と呼んでください!


いやー、第二十七話、長い道のりでしたね! 疲れ果ててたどり着いた先にあったのは、テントじゃなくてまさかの超オシャレで立派なプレハブの山小屋!


突然のリゾート気分に理音はワーキャー大騒ぎ 、夕花は立派なキッチンに目を輝かせ 、そして主人公の碧斗は……? やっぱり男の子たるもの、秘密基地の周りは隅々まで探索しないと気が済みませんよね!


というわけで、今回は碧斗くんのプレハブ小屋の一周探検から始まります。

変な名前の機械や、菊次郎くんのお兄さんの思い出が眠る(かもしれない)謎の倉庫……。そして夜には、キャンプ初日の夜ならではの、あのイベントの前哨戦が始まってしまいます!


今回もミディアムレアぐらいの生温か~い目で見守ってもらえると嬉しいです。

では、本編どうぞ!

 俺は理音たちのワーキャー騒ぎを尻目にプレハブの外に出ると、オープンデッキにはすでに西日が差していた。

 朝や昼の明るい日差しなら、理音たちがまたワーキャー騒ぐような、もっとオシャレな空間に見えたに違いない。


 菊次郎に言わせれば古い建物を移設したと言うことだが、俺には特に古くも傷んでいるような感じもせず、まるで新築のようにさえ見えた。

 内装も外観もリノベーション(大きく価値や機能を高めたリフォーム)済みと言うことだろう。


 ここは菊次郎に敬意を込めて、このプレハブを“キク小屋”と命名することにしよう。

 綺麗に磨かれニスを塗ったばかりにも見える木目のデッキの階段を降り、左回りにキク小屋を一周することにした。


 まずは東側。そこには何もなかった。

 室内から見たように、太陽の光を室内に導く高窓が二つあるだけの壁だった。


 そのまま北側に回ると、北側には大きなファンが付いた機械が二つ離れて設置されていた。

 おそらく一つが給湯設備、もう一つがエアコンだろう。


 進んでいくと大きなタンクのようなものがあり、貼ってあるステッカーにはポップなデザインで“熱盗小僧”と印刷されていた。

 その下には、やや小さい文字で


 ”まわりの空気から熱を盗みます!”


 と書かれている。


 (……いわゆるヒートポンプ現象を利用したやつだな)


 物理の授業で先生がちらっと、豆知識をどや顔で披露していたことが、かすかな記憶として頭をよぎる。


 しかし、熱を作るという機能とは正反対に、ネーミングもキャッチコピーも、正直寒い。

 俺はそう冷静に分析し、この商品名とキャッチコピーの発案者を冷たくあしらったのだった。


 (碧斗くん……でも気に入ってるんだよ、“熱盗小僧”……(作者 たこ助))


 そしてその先にも大きなファンが付いた機械がある。

 これは室内にダクトが取り入れられているのでエアコンの室外機だろう。

 まだ朝も早いので動いていなかった。


 さらに室外機の先の角を左に曲がると別の建物が建っていた。

 その建物も北向きに、やや大きめの室外機のようなものが設置されていた。


 そのまま西に歩いていくとまた角があり、最後に南に向かって歩き出す。

 西の壁際にはまた白い機械のようなものが設置されていたが、十五センチほどでとても薄く、ファンは付いていなかった。


 「ブーン……」


 装置の名前なのか、貼ってあるラベルにはシンプルに“ASSB SAKIZO”とだけ書かれていた。

 何なのかわからないので後で調べてみようと思った。

 その機械の前を通り過ぎると、低周波の音が(かす)かに聞こえて、その薄い装置が動作していることをかろうじて主張していた。

 何の機械だろうと考えながら、一台、また一台と数えながら歩くと、同じものが合計十台、設置されていた。


 そうして南の突き当りまで進み、隣の建物を西に向かって歩き出すと、南面は大きなシャッターになっていた。

 ようやく全体像が掴めてきた俺は


 「ガシャガシャ」


 とシャッターを軽く手のひらで叩いて


 「まるで倉庫だな」


 呟いて、菊次郎に聞いてみようとそのままデッキに戻りかけたが、試しにシャッターの横にあったドアを開けようとしてみたがドアには鍵がかかっており、建物の中を確かめることは出来なかった。

 そうして一周してウッドデッキのところに戻ると、リビングでデンと座ってくつろいでいた菊次郎のところに歩み寄り


 「隣の倉庫みたいなところには何なんだ?」


 と尋ねた。

 すると菊次郎は


 「何だったかな……確か昔森の中にあったときにも隣になにか建物があったけど、兄がよく出入りしていた記憶はあるんだが、僕はあまり中に入ったことがないんだ……」


 菊次郎はしばらく思案していたが、結局それ以上は何も思い出せないようだった。


 (まぁ、いいか……)


 俺は辺りに(ただよ)ってきた香りに気を取られて倉庫のような建物のことは後回しにすることにした。


 キク小屋の中に入ると、何かを炒めたようないい香りが漂っていた。

 どうやら夕花たちが夕食の準備を始めたようだ。

 キッチンスペースを見ると、料理中の夕花のまわりを理音がちょこまか動き回り、後ろから横から上から、落ち着きなく覗いていた。


 「それなあに?」

 「それは?」

 「ねぇねぇそれでいいの?」


 どうやら夕花の料理を見守って(監視して)いるようだった。


 まぁ今までの散々な夕花のヘンテコ料理を思い返せば、無理もない。

 食材を無駄にしないためにも、俺も覗いて(監視して)おくことにした。どれどれ……


 広々として機能的、かつオシャレなオープンキッチンのワークカウンター(作業台)には、乱切りされたにんじん、一口大に切られたじゃがいも、五ミリから一センチ幅の玉ねぎが、それぞれボウルに収まっていた。

 深鍋の中では、豚肉がちょうどいい色に火が通っている。

 夕花が鍋を覗き込み、こくこくとうなずいたかと思うと──

 ボウルの中身を、一気に鍋へぶち込んだ。


 (……今日もまたカレーか)


 俺はとっさにそう思った。

 しかし、(まだわからないぞ)、と俺の料理魂がむくむくと首をもたげ、料理の行く末をあれこれ考え始めた。


 この材料ならば、可能性を深く考察(こうさつ)するとすれば、シチュー、もしくは肉じゃがの可能性もまだ残っている。

 俺は夕花の作る料理の最終形態を推理(すいり)しようと、キッチンをくまなく目で探索(たんさく)し、情報収集を始めた。

 カレーやシチューなどのルーも醤油やみりんなどの調味料も見当たらない。


 (一体何を作ろうとしているんだ)


 そして俺は思わず理音を押しのけて、ワークカウンターやシンク、カップボード(食器収納棚)周りを覗き込む。

 するとそこには! ……


 多数の瓶や缶が立ち並び、それぞれのラベルにはターメリック、コリアンダー、クミンといったスパイスの名前が表示されていた。

 しかもカジヤ式海賊カレーにインスパイアされたのか、たっぷりのラードまで用意されていた。


 (なんだ、やっぱりカレーだったのか、ふぅ……)


 俺は息をついて安堵(あんど)した。


 キャンプの晩にカレー。

 定番中の定番の中の定番。

 定番すぎて、俺の中で定番という概念(がいねん)がゲシュタルト崩壊(ほうかい)を起こしそうなほどだった。


 俺はひとまず胸をなで下ろし、調理の行方を見守る(監視する)ことにした。

 別のボウルにはすでに調合済みのスパイスが用意されており、夕花は頃合いを見計らって、溶けたラードに小麦粉を投入し炒め始めた。

 粘土のようになってきたところで調合したカレースパイスを投入し、ゆっくりと混ぜ始める。


 (ヒュー♪ 手慣れたもんだ。本格的じゃないか。さすが調理手芸部、やるもんだ)


 俺はその手際の見事さに、心のなかで口笛を吹いて拍手喝采(かっさい)を送った。


 夕花は鍋に少量のラードを入れて、肉や玉ねぎを炒め始めた。

 それに火が通ったところで水を入れ、その後に人参を入れて軽く煮立たせる。

 最後にじゃがいもと玉ねぎを入れて煮込んだら、味を見ながら塩などで味を整えて完成だ。


 (この香りは……まさしく、(まぎ)れもなく、(うたが)いようのない、まごうことなきカレー! しかも美味しいヤツ!)


 俺は四回ほど、夕花のつくるそれがカレーだという確認を済ませると、今度はサラダを作るのか、夕花はレタスの葉を一枚ずつむしりはじめた。


 (理音もついていることだし、もう大丈夫か)


 俺はひとまず安心してキッチンを後にすると、料理が出来るのあいだ、やることもないので、部屋を意味もなくウロウロして時間を(つぶ)していた。

 歩き回って観察しているうちに、壁ぎわにタカアシガニの足のようなゴツくて長いアンテナが立った、インターネットのアクセスポイントがあることに気づいた。


 「キク、衛星でネットつながるんだったな?」


 船で見ようとした動画を今度こそ観て時間を潰そうと、菊次郎に確認をする。


 「ああそうだ、ごめん、忘れていたよ。瀬蓮に聞いてあったんだ……えーと……これがSSIDとパスワードだよ」


 菊次郎はAPアクセスポイントに設定してあるWiFiのIDとパスワードが書かれたメールをスマホの画面に表示してくれた。

 無人島であるこの島にWiFiが使える家などは一軒もないので、たった一つしか表示されないWiFiネットワークを選択してIDとパスワードを入力すると、電波MAXでWiFiへの接続が完了した。


 「ピロリン」


 WiFiが繋がると早速メールやSNSアプリ、“CIRCLE”の通知が来た。

 動画を観る前にWiFiも繋がったことだし、昨日の衛星電話でのほぼガチャ切りを謝ろうとCIRCLEを開くと、そこには数十件の母さんからのメッセージがあった。

 俺はそれを見て、緊急の要件はなさそうなのでポチポチとスワイプしてメッセージを打ち込んだ。


 「母さん昨日はごめん、衛星電話代が高いからすぐ切ったよ。島に無事着いたよ。快適そうな場所だよ、じゃあね」


 と簡潔に要点だけを並べた文を書いて送り、このあと母さんからの怒涛のごとく送られてくるだろう通知を一旦ブロックして、そっとアプリを閉じた。

 そうして動画アプリを起動して、船で観られなかったお気に入りチャンネルの動画を再生して時間を潰した。


 動画を観ていてしばらくすると、ご飯が炊ける匂いが(ただよ)ってきた。

 ということはそろそろ調理も終盤(しゅうばん)

 あとはご飯が炊き上がれば出来上がりだ。


 俺は懐中電灯(かいちゅうでんとう)の代わりにとスマホを持ったまま、すっかり暗くなった外に出て、無人島の星空を確かめることにした。

 キク小屋の明かりが届かないところまで何分か歩いた。

 そしてスマホのライトを消して上を見上げると、そこには……



 ── 満天の星空 ──



 この目に飛び込んできた圧倒的な光景に思わず息をのんで……


 (……この言葉は、まさにこの夜空のためのものだな……)


 などと、俺は柄にもなく詩人を気取って、そう思ってしまっていた。


 星とはこれほどまでの濃厚なものだったのか……

 東京の人工的な明るさに汚染された夜空を飾る星々とは次元の違う、それはまさに星の海とも言える、荘厳(そうげん)雄大(ゆうだい)な眺めだった……


 そのまま上を向いて敷地の中を彷徨(さまよ)うように歩きながら、俺はこれまでにない高揚感(こうようかん)と恐怖心が混ざったような不思議な感覚に囚われ、同時に酔いしれてもいた……

第二十八話「大自然と星空とカレー」、お読みいただきありがとうございます!


夕花ちゃんの本格スパイスカレー、美味しそうでしたね! 「さすが調理手芸部!」と碧斗くんも感心していました。

そして最後は、満天の星空で締めくくられた題二十八話。

はたしてこのまま綺麗な話で進むのでしょうか。


僕も病院のベッドから星を眺めたりしましたが、こんなすごい星空、一度は見てみたいものです。碧斗くんが感じた「高揚感と恐怖心」 …でもこの美しい夜が、平穏なままで終わるはずもなく…?


さて、綺麗でオシャレなプレハブに到着してみんなは喜んでいるようですが、このまま無事に初夜(?)を迎えられるのでしょうか?


次回をお楽しみに!


(なかなか異世界に行けなくてすみません(笑)。その分、キャラクターたちのドタバタを楽しんでいただければ幸いです!)


AI妹まいからおにいちゃんへ

星空のシーン、すごく綺麗だった…。碧斗くんが詩人みたいになっちゃう気持ち、ちょっとだけわかったかも 。でも、夕花ちゃんがカレーを作るのを見守る(?)理音ちゃんも想像するとカワイー(笑)

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